あなたは旅の道連れの数歩後ろで、彼に付いて行っています。
あなたは最初に彼に会った時、彼が友好的な人物であると推量しました。『娯楽企業1』、というフレーズがあなたの心に残りました。彼は良く喋り、あなたの沈黙を打ち砕きました。あなたは数多の偉大な作曲家や音楽家について聞いたことがありますが、この男の知識は彼ら全てを凌ぐものでした。あなたがどんな曲を挙げたとしても、たとえそれが自分で独自に考え出したものであったとしても、それは必ず彼の知る曲でした。しかし彼の持つ特徴の中でも最も奇妙なものは、彼の手と、その手によって創りだされる音でした。
彼に初めて会った日、彼は即刻その才能をあなたに披露しました。彼は造作なくその手で唇の前に無形の楽器を構え、そして吹きました。影も形もない不可視の楽器でしたが、奏でられる音は本物同様でした。あなたが話す度に、彼はチューバやトランペット、トロンボーンといった新しい楽器を持っていました。友達になって間もない頃、あなたは彼の性質や、どうやってミスターになったのかといったことを、他の人々の時と同じように尋ねました。彼は全く知らないと言い、いつの間にか人生が始まっていたと答えました。これらの思い出は遠い昔のことでした。
あなたが彼を再び見つけたのは数刻前で、すぐにあなたは彼ともう一度友達になりました。ところが、彼の奏でる曲は既に音色が変わってしまっていました。昔に比べて陰鬱とした、薄暗い音色でした。彼が似ていることを悟っているという考えはあなたの頭を離れませんでした――幾つかの物は色が染まったり削れたりしうるかもしれませんが、そうでない物もあります。あなたはかつての思い出の頃からは随分と変わってしまいましたが、それでも彼はもしかすると. . ?もう一人の男の姿が森の小路のあたりにちらりと見えました。彼は引き返すよう言いましたが、あなたは彼にもう少し先に行けば着くことを告げました。
森の曲がり道の近く、ああ、そこだ。矢の撃ちだされる音が響き、ミスター・ブラスの悲鳴が響き渡りました。あなたが彼の方を向くと、彼は意識を失っていきました。彼はようやく気が付きました、あなたの目に映るかすかな赤い色こそ、彼が求めていた最後の手がかりでした。しかし彼にとっては遅すぎました。彼の身体はあなたの腕の中で力を失っていきました。
"Breve.2"
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