Why did you come to D class?
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機動部隊に-9("モータルオフィサー")には暗黙の了解がある。
何をして財団に来たのかを聞かれれば必ず答えなければならない

Dクラス以外の職員であれば調べればすぐわかることではあるが、自分がした行いを尋ねられれば面と向かって、一から十まで説明することは、この部隊の中では不文律として確かに存在していた。
他人の恥部や暗部は触れない方が良いなどと遠慮するには、Dクラス職員はあまりにも罪深すぎる。
ましてやそれを率先して実践しているのが、この部隊の中心である3人の死刑囚なのだから、後輩たちも追随するしかなかった。

 

 

D-91573、コードネームでは"ドッグ"と呼ばれることが多い彼の罪状は器物破損、強盗。
「俺は故郷のアメリカで、昔からの仲間とつるんでバカやっててな。
 最初に捕まったのはガキの頃、飲酒運転だったか危険運転だったか、正直覚えてない。
 二回目ン時は酒場の喧嘩でカッとなって相手を殴り殺しちまった。
 そんなん続けているうちにまぁ、ワルい道に走っちまったわけだが……」

 

「よくある話だが、親父がどうしようもねぇクソやろうでな。
 借金作って蒸発した後、お袋もすぐ倒れちまって、馬鹿な俺にはどうすればいいかわからなくなったわけだ。
 んで、仲間に相談して、強盗を始めた。
 手先だけは器用だったから俺が金庫とかぶっ壊して、声がいかつい奴が脅し、運転が上手い奴、下見とか担当、道具の調達、金の洗濯。
 そういうの仲間でやって借金返せた段階で、ふと正気に戻ったっつーのかね」

 

「俺が自首するっつったとき、仲間がみんな引き留めた。
 それでも俺の意志が変わらないとわかると、今度は全員で自首するって言いだした。
 俺は仲間の事は一言も漏らす気はなかった。
 警察には適当に仲間割れとかそれっぽいこと言って納得させて、俺は一人で引き受けるつもりだった」

 

「けど仲間は、みんな、最後まで付き合うって、な
 ただ最後に、もう一回だけ仕事しようってなったんだ。
 銀行を襲って、かっぱらった金は適当なところに寄付でもしてやろうって。
 けどちょっとくらいは飲みに使おうぜなんて言いながら、いつも通りの準備をした」

 

「そうして最後の仕事の日、警察に仲間が撃たれた。
 逃げ切れずに車が包囲されて、俺たちは大人しく投降するつもりだった。
 けど連中は、俺たちが車を止めて最後のジョークを言ってる間に撃ちやがった。
 そっからはよく覚えてねぇけど、あれから仲間には会えてねぇ。
 撃たれて死んだ奴、財団的にも死んだ方が良い奴がいたってのは聞いてる。
 俺だけは、お袋のため以外に動機もねぇし、ただの屑野郎だったからな」

 

 

D-376436、コードネーム"ミーナ"は二十代にして窃盗、殺人、死体遺棄の罪で刑を下された。
「まぁ窃盗は余罪って感じなんだけどね。
 死体を処分するのに、早く道具を調達したかったから盗んだ。
 割と焦ってたけど、捕まることも頭のどこかで覚悟しながら殺したからさ。
 まさか秘密組織にスカウトされるとは思わなかったけど。
 んあ、いや、あの時はその辺も、頭のどこかで想像はしてたかもなぁ」

 

「高校の時に知り合った男がいてさ。
 大学生だったんだけどまぁかっこよくて、好きなもの買ってくれるし、いろいろ相性いいし。
 でまぁ、付き合ってて、高校出たくらいで結婚まで行っちゃったんだよね。
 早すぎッて感じだけど、その男はもう働くっていうか、大学の研究室でお給料ももらってたから、遅かれ早かれって感じだった。
 結構幸せだったよ、あの時は掛け値なしに」

 

「けどワタシが二十歳すぎて、そろそろ子どものこととかをね、仄めかしてたんだよ。
 あ、欲しいなぁってことね、まだ妊娠してない頃。
 けどその男は、まぁ忙しそうにしててさ。
 仕方ないけど、ちょっと仕事に嫉妬しちゃってね。
 仕事とワタシ、なんてベタなことは言ってないけど、なにをそんなに忙しそうにしてるのさって聞いてみたの」

 

「そしたらその男、高卒のワタシに向かって████関数だとか、████████の定理なんて説明しだしてさ。
 わかるわけない、と思うでしょ?
 わかったの、全部。
 女の勘なんて言う気は無いけど、ビビっときたの。
 この男、おかしいって」

 

「けどその時のワタシは、なんていうか、特別な人に愛されたんだって嬉しかったんだよね。
 能天気に喜んじゃってさ、馬鹿だなって今なら思うんだけど。
 いやでも、普通伴侶がチョット特別って、スゴイ嬉しいことじゃない?
 少なくとも、二十歳そこらのワタシは旦那が天才だったって夢心地だった。
 それが今までの生活を一変するくらい致命的なことだって、気づくまでは、の話だけど」

 

「あの男がそのなんたら関数とかで表彰されて、ひとしきり騒がれた後、妊娠したの。
 その時も嬉しかったし、あの男も喜んでたわ。
 でもどんどんお腹が大きくなっていくにつれて、疑問に思ったのよね。
 ワタシ、あの男に抱かれたっけ、って。
 それどころか、誰にも抱かれた記憶はないのに、いつの間にか妊娠してるなんて。
 馬鹿げてるって思った、けど、あの男は普通じゃないの」

 

「いよいよお腹で足元が見えなくなってくると、ついに怖くなってきてね。
 お腹の中で赤ん坊が蹴ってくるとか、あるでしょ?
 それがある度に怖くなって、毎日泣きたかった。
 でも必死に我慢した。
 ありえないことが起きてるけど、それも全部ありえないんだから、これは全部、ワタシの気のせいって言い聞かせて。
 でも、ついに我慢できなくて、あの男に相談したのよ。
 大きくなるお腹が不安だってことだけ伝えて、普通の夫婦みたいに、支え合えるのを期待して」

 

「次の日の朝、生まれてたの、赤ん坊。
 寝てる間に産んでたなんて面白い話じゃないの。
 起きたらお腹が凹んでて、あの男が赤ん坊を抱いてた。
 訳が分からなかったけど、昨日までなかった赤ちゃん用品が増えてて。
 ついでに、赤ん坊を産んだ記憶と、あの男に抱かれた記憶もあったの」

 

「あの男が出かけた時に、赤ん坊を殺して、山で焼いて埋めた。
 あの男の血が流れる子どもが存在するのは、たぶん、すごく、良くないことだと思ったから。
 ワタシも死のうかと思ったけど、家に帰ったら、あの男が赤ん坊抱いてたから、今度は二人を殺して、また処分して、警察に電話したの。
 このおぞましいナニカは、ワタシの手には負えないと思って、ね。
 それから警察に捕まって、裁判受ける前にスカウトされて、財団に来て、で今に至る。
 その後あの二人とは会ってないけど、多分収容されてるか、PoIに指定されてるんじゃないかな。
 Dクラスのワタシは知らないけどさ」

 

 

D-2930、コードネーム"ニック"は殺人の罪で死刑囚となった。
「そりゃ半分正解だが、半分不正解だ」

 

「Dクラスに分類する人間の大半は確かに死刑囚だ。
 だが俺は違う。
 確かに殺人を犯し、警察に捕まって、罪に問われた。
 もう一回、俺の管理ファイルを見て来い。
 殺人の罪とは書かれてるが、死刑判決はどこにも記載がないはずだ。
 財団に来る前の俺が殺したのは、たった一人だ。
 それも、必要だったから、だ」

 

「ジジイの昔話は長い?
 あー、お前あれだろ、ミーナの後に俺のとこ来たな?
 あいつはお喋り好きだからな。
 いいだろう、俺は短く話してやる。
 俺もだらだら喋りたくはない。
 シンプルな話だしな」

 

「俺が殺したのはまだ小さい子どもだった。
 だがあの子は遠い未来で、お前ら財団の手に負えない存在になってた。
 そうなる運命を持ってたんだ」

 

「おい、お前から聞いてきたんだろ!
 短く話してるって言ってんだから、座れって!
 いいか、とにかくその子は、そういう運命を持ってた。
 いくつかのアノーマラスを使い、PoIどもを束ね、滅びゆく世界からの脱却を唱えて、並行世界に戦争を起こした。
 それがどういう意味を持つのかまでは、俺にはわからない。
 だが、それだけの運命の奔流を泳ぎ切るだけの才覚は、あの小さい子どものころからも垣間見えてたんだ」

 

「俺が適当なこと言ってると思ってるだろ。
 悪いけど、俺は本気だぞ。
 だから、殺すときは徹底的にやった」

 

「視界の悪い狭い道で、見通しが悪くなる雨の日を狙って、トラックで撥ねた。
 倒れたところを何度も、何度も何度も、何度も往復した。
 あの時の感覚は、まだ両手に、両目に残ってる。
 それでも俺はやった。
 必要な事だったから、やった」

 

「なんでってお前」

 

「犀賀先生と約束したからだ。
 あの子は俺が止めるって」

 

「何を驚いてる、Dクラスは死刑囚だけじゃないって、財団職員なら常識だろ」

 

 

「驚いたな、あの爺さん犀賀派だったのかよ」
「ん?」
「あぁ、例のDクラスだよ」
「D-2930?」
「そうそう、モータルオフィサーの連中はDクラスになった経緯を全部話すって聞いて、試しにさ」
「え、あの爺さんは負号だろ?」
「は?」
「いや、だから、第二次大戦時の」
「いやいや、何の話だよ」
「京都でB29の迎撃任務に就いてて、最多撃墜記録を持ってたけどあまりにやりすぎて、米国の情報操作で歴史の闇に」
「……お前それ、からかわれてるんじゃないのか」

 

 

 

機動部隊に-9("モータルオフィサー")には暗黙の了解がある。
何をして財団に来たのかを聞かれれば必ず答えなければならない。
ただし、彼らが正直に話すかどうかはまた、別問題だ。

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