天下り品
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「それで、橋の下のジジイからこの店を聞いたって言ったな」
「……」
「……フン。まぁ金があるならいいさ。なんでもあるぞ、ドラッグ、銃、人、情報」
「銃は、なにがある」
「なんでもっつったろ。グロッグ、シグ、ベレッタ、ベネリ、ヘッケラー&コッホにカーター&ダーク」
「……9mmは」
「あんよ」

薄いカウンターのどこから取り出したのか、薄汚い上着の男は側面に「せんべい」と書かれたアルミ缶を取り出して蓋を開け、中身を突き出してきた。
暗く狭い店内で銃を突き付けられ、心底緊張するはずの場面。
だというのに俺は、自分の顔が少しも動揺や怯えを表に出していないことを他人事のように気づいていた。

「ほれ、シグの9mmだ。ウチじゃ弾は完全に別売りだぞ。弾は要んのか」
「要る。……とりあえず5ケース。それと小銃も欲しい」
「なんだ」
「……M4か、ハチキュウ」
「あ?」

男が怪訝な顔をした。
口を滑らした。

「てんめぇ、自衛隊帰りかよ」
「……」
「ケッ、しけた面しやがって。その情けねぇザマじゃおおかたつまらねぇ仇討だろうが、税金で鍛えられた兵士が闇市で武器あさりとは泣けることですなぁ」
「……」
「……チッ、ほら89式だ。弾も5ケース。金出してさっさと辛気臭ぇ面持って帰んな!」

カウンターの向こうから押し付けられた小銃と弾のケースをカバンに収め、代わりに金を出す。
男はしけた面と言ったが、確かに俺は終始酷い顔をしていたのだろう。

「……金だ。釣りは要らない。迷惑かけた」

俺は札束をカウンターに置き、店を出ようとした。
あとはやることが一つ残っているだけだったからだ。早く動きたかった。

「……チッ、おいてめぇ。こちとらリピーターでもってる商売だ。紹介したっていうクソジジイはなんだって、てめぇみたいな自殺志願者をここに寄こしやがった」
「……河川敷で、チンピラとケンカして、リンチにされたんだ。爺さんが介抱してくれて、ヤケになって死ぬ前に行動しろって言われて、ここを紹介してくれた」
「んで!」
「……そうだ。これを見せろって言われてたんだった」

ポケットの中から小石程度のソレをつまみ出し、薄暗い店内の淡い照明にかざした。
白地に銀の文様が刻まれたピンバッジ。三つの矢印が円を貫いている、何の変哲もないシンボル。

「これだけだ。なにか、特別なものなのか?」
「お、おま、おまえっ、おまえそれっ、早く見せろ馬鹿野郎!」

男がカウンターを飛び越えてきた。
見ればいつのまにか薄汚い上着を脱ぎ捨てていて、下に着ていた上等なスーツが見えている。

「おまえそんな自衛隊のおさがりみたいな装備で満足してんじゃねぇよ! つーか財団に紹介を受けるってことはつまり、そういう連中を相手に仇討ってことだよなぁ!? こんなもん持たせて特攻行かせてたら俺の信用問題になんじゃねーか!」
「んん? おいなんの話を」
「いいから戻れ馬鹿野郎! 今から本物の銃を見せてやるからよ!」

「いいか、まずは天下の財団様からの天下り品、アサルトカービンM4SC6。信頼と実績あるM4をベースに改良された超スタンダード規格ものだ。扱いやすさじゃ現代じゃナンバーワンだろう。これで持て余すなら銃は持つべきじゃねーな。それに並みのフリークスなら普通に殺せる。特攻ミームだかなんだかの効果でな。     それかよ! スペインのウィザード・スミスが造った拳銃ハリッサ。こいつはマジですげえ。14.5口径で対物ライフル弾が撃てるなんつー馬鹿みたいな代物だってのにリコイルがほとんどないおかげで自在に扱える。壁の2枚や3枚は軽々ってもんだし、爬虫類人間やら恐竜人間の表皮も貫けるぜ。     怪物を大勢ぶっ殺すならこいつがおススメだ。カーター&ダークの7.62mmユニーク機関銃ハイドラ。ターミネーター2はわかるよな? ミニガン背負ってワンマンアーミーなんてのはフィクションだけだが、この銃の反動は女でも耐えられる。それかだな、もし呪術師連中を相手に妖怪とか天狗を相手にすんなら京都の下鴨にある……」

「ちょ、ちょっと待て。さっきから怪物って、なんの話だ?」
「あ? アノマリー相手に普通の鉛玉で太刀打ちできるかって話だよ。……あぁそうだ弾丸も専用弾を出さねーとな。水銀やらクリプトナイトやらいろいろ種別はあるが」
「いや、その、暴力団の事務所に怪物はいないと思うんだが」
「あ? 暴力団?」
「……」
「……まぁ、防弾チョッキくらいはサービスしてやる」
「……ありがたくもらっておく」


   會傘下、有村組の渋谷事務所を襲撃。当時その場にいた組長以下36名を射殺し、その後警察へ自首。動機は、自身が自衛官として連絡が取れなくなっている間に、唯一の家族であった妹が組員に拉致されたため」

調書を読み上げる声で目が覚めた。
あれから俺は死刑まっしぐらの裁判を通り越して、財団という組織にスカウトされ、Dクラスという消耗品として扱われることになっていた。
調書の読み上げが終わり、身柄の移送に伴う手続きが終わって控えの部屋から出ると、周囲には俺と同じオレンジのつなぎ姿の連中ばかりだった。

「なお、事件後、妹の身柄は財団で保護したため、当人材は機動部隊に-9での1か月の責務完了後、本人の希望に応じて記憶処理の後解放されることとなっている」

……は?

「そういうわけだ」

オレンジの群衆をかき分けて、見覚えのある顔が二つやってきた。
河川敷で介抱してくれた老人が、妹を伴って立っていた。

「ようこそ、モータルオフィサーへ。丁度自衛官上がりが欲しかったところだ」

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