混乱がその場を支配していた。司令部では人々が明らかに有事の対応に追われている。何人もの白衣やスーツ、武装スーツに身を包んだ人々が入り乱れる。
「サイト-45の被害甚大!救援要請です!」
「敵は」
「確認されただけで飛行型11体、地潜型70体、精鋭型31体です」
「……よく持ち堪えた。戦闘機の使用を認める。周辺サイトから救助隊を編成、出来る限りの人員を回収し、サイト-45の破棄を進めろ。今後サイト-45の再利用は不可能なものと判断する」
「民間人の収容率10%弱、飽和状態のサイト多数」
「これ以上の保護は各サイトの継続許容能力に影響する。これ以上の収容活動は行わない」
「O5-9との通信途絶、位置情報から恐らくO5-9の居た保護区は消失したものと」
「"海"に飲まれたか」
「波の速度演算!第6波が43分後に到達!」
「地表侵食率推定8%!沿岸部の殆どはもうダメです!」
「波に……渦を巻いてる未確認型が!?」
「周辺被害状況と推定を基に第6波の被害を再演算!」
「邪魔だ!動け!本当に人類を滅ぼしたいのか!?」
忙しなく動く人々の中、何人かは止めどなく齎される負の情報に頭を抱え、項垂れ、絶望の淵にいる。
「あぁクソが、文明の破滅は確定的だ」
「黙れ!文句垂れてないで手を動かせ!文明が滅びた程度で諦めようって言うのか!?このままだと文明だけでなく俺たちも絶滅するんだぞ!俺たちの理念を!信念を思い出せ!それに役に立ってから死ね馬鹿野郎!」
その言葉で絶望の淵から引き上げられ、気力がなくなった身体には一転して大きな力が入る。立ち上がり、頬を強く叩く、そして項垂れていた者達は自身がやるべき事を探し始めていた。
「資源プラントの最終調整はまだか!あれが命綱だぞ!」
「あと30、いや20分くれ!仕上げる!」
その目は情熱に燃えていた。全てを無駄に終わらせないために。
「波の再演算結果!次の波では区画Aが丸ごと!」
「区画AからBを封鎖後に破棄!少しでも持ち堪えられる様に固定膨張剤の散布を行え!」
「機動部隊、総勢21部隊。評議会の要請を受け現時刻を以てサイト-01へ到着!判断を」
「"海"が隔壁を突破した万が一に備え、β-7を除く全部隊は防衛陣地を区画E-32からR-47にまで引け、β-7は区画A,Bの封鎖を支援、それぞれの現場監督は 」
不要な書類がゴミ箱に捨てられる暇もなく散らばる。現場で指揮を取る男は指示を各所へ適切に言い渡し、しばしの休息を得てオペレーターから次の判断材料となる情報を待つ。そうしていると突如オペレーターから血の気が引く。
「……っぁ」
「何があった!」
「っ!他サイトへの通信途絶……サイト-01孤立状態です。地下ケーブルも……」
男に聞かれ、オペレーターは意識を戻し更なる絶望を伝達する。男は初めて顔を歪め次に行うべき事を即座に導き出す。
「各サイトへ自己封鎖命令は」
「O5-7の指示で既に通達済みです」
「分かった」
最低限の命令を残し男は司令部を離れる。
「評議会メンバーは分断状態、2000は……拙いな」
舌打ちと歯軋りと共に何重にも張り巡らされたセキュリティーを素通りして行き、一つの扉へ辿り着く。
扉を開けると広々とした空間を大きく占有する円形の机と13の席がある。空席が目立ち数少ない席の主の1人は部屋に人が入った事も気付かない程錯乱している様だ。直近まで指示を出していたであろう男は呆然と円形の机の真ん中に投影されている地球を見ていた。地球儀は警告色の赤に染まって"LOST喪 失"の文字が幾つも浮かんでおり、いかにそれが追い詰められているかを物語っていた。
「クソッ!こんな事なら最初から収容なんかせず殺しておけばッ!」
バコンと机を殴り項垂れ、怒り嘆く白衣の男を横目に、女は射る様に入って来た者を……いやその後ろの入り口を睨む。何かを察した様に入室した男は扉から大袈裟に離れる。ゆっくりと振動が強くなる。それは施設を、大地全体をも震わす様な振動であり、例え一般人ならば恐怖に泣き崩れ失神する事さえあり得るだろう。しかしその部屋にいた者達は最後まで立ち向かう様に力強く立ち、扉を睨み付ける。
「来るぞ……
サメだ!!!」
以上が新人職員オリエンテーションで公開予定の映像作品となります。熟練のエージェントとして、いかがでしたか?」
涙が溢れる。そして 何と怒りが抑えられないのだろう。素晴らしい、その一言に尽きる。そして何より、30億ドルを費やし、センターが作り出したこの映像には確かにサメが居て、そのサメが実際そこに居るかの様で、何と憎たらしい事か……!
今一度思い返す。最後まで希望を持ち命を投げ打って殴りかかる生き様。
武装サイトの残骸での反抗作戦。
集結し、抵抗する力を燻らせる人々!
再建される超次元武装サイト!!
襲来するタイフーンザメ率いる精鋭三つ首サメ軍団の恐怖の進軍……
全ての元凶たるアシュラザメが人類の最終兵器、超テレキル合金拳ロケットで爆炎を巻き上げ粉砕された姿……!
生き残った人々が拳を掲げサメの撲殺を掲げた瞬間の高揚感……ッ!!
「あぁサメ殴りセンター、その名に相応しい新人を幾人も掘り出す事が出来るだろう。実に、実に素晴らしいものだ」
熟練の私でさえ我慢するのがやっとだったんだ。向上心ある若者ならば、きっとサメに殴りかかるだろうから。