それでは椅子に座ってください。お茶菓子を用意してありますのでご自由に。あはは、食べる人はいませんね。良いことです。財団はこれまでのあなた達に意地悪過ぎたのかもしれません。ただ、私はそこまで意地悪ではありません。必要ないことですから。
初めまして、八家です。今回の皆さんへの説明を担当します。
あ、硬くならないで。リラックスが重要なんですよ、この課は。あなた達がどんな研修を受けてきたか知りませんが、私は尋問が趣味のサイコ野郎ではありませんし、あなた達を虐げる趣味もありません。尋問は多大な精神的負担を伴う業務であり、戦闘です より落ち着いた方が勝ちます。
落ち着きましたか? では最初に、二つだけ覚えておいてください。
一つ目。暴力による肉体的苦痛を与える尋問、つまり拷問は、尋問において忌み嫌われるべきものです。暴力に晒された対象は、「真実」ではなく「自分が暴力から開放されるための情報」を吐き出すに留まります。そんなものが財団において塵ほどの重みも持たないことは、ここまで研修を受けてきたあなた達なら理解できるでしょう。また暴力は手っ取り早いですが、誰にでもできることです。ええ、本当に、誰にでも……できます。二歳の幼児でさえ暴力を知っていて、それを振るう相手を選びます。誰にでもできることに対して、我々の相手は無防備でいてくれるでしょうか? ちょっとアングラな趣味に傾倒した中学生でも思いつくような手段で、常識から外れた連中が秘密を吐き出すでしょうか? 考えてみればわかるはずです。
二つ目。我々は話術を駆使して情報を引き出しますが、その際の問いはできるだけシンプルでなければなりません。尋問対象が嘘偽りなく我々の質問に答えるために、難しく複雑な質問をしてはなりません。簡単に、気持ち良く、即答できる質問を心がけています。
皆さんのイメージと実際の尋問課が大きく異なることが理解していただけましたか?
では、真面目な話、尋問課って何でしょう? あなた達は既に財団がどういった情報災害を収容しているか大まかに知っていますし、それに伴って財団がどういう記憶抽出、改変技術を持っているのかも知っています。この点に関して、財団は数多くの要注意団体の先を行っていると言っていいでしょう。そんな財団は、なぜ尋問などというアナログな手法を使い、未だに尋問官などという役職を私に割り振っていると思いますか?
財団が保有する記憶抽出技術は、実はそこまで便利なものではありません。
例えば、貴方は尋問官です。貴方の元にはガチガチに拘束された要注意団体の構成員が送られてきましたが、貴方は情報災害部門の力を借りてその構成員の頭の中を覗くことにしました。機材を頭にセットして、ケーブルを繋いで、後はスイッチを押せばモニターにありとあらゆる情報が映しだされ、情報災害部門がそれを解析し、翻訳します。あなたは共同オフィスでコーヒーを淹れて待っています……。
残念ながら、こんな光景はあまり見られるものではないのです。財団の技術は未完成であり、あなたは尋問官としての仕事をしなくてはなりません。
財団の理念から考えても、尋問は非常に有用です。我々は情報的にも保護すべきものを数多く抱えています――抽出技術はオブジェクトに良い影響を与えません。しかし、我々がオブジェクトから聞き出さねばならないことは山程あります。
では要注意団体構成員はどうでしょう? 抽出技術は、ここでもまた中々登場しません。多くの場合彼らの脳は情報的防護を仕掛けられています。結局の所、彼らが自分から情報を話すように仕向けることが我々、そしてあなたの仕事になります。