直径9mmの風景
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SIG SAUER 9mm拳銃の引き金が引かれる。
シアーの外れたハンマーがスプリングのテンションに従い順当に角運動する。
撃鉄が撃針を叩き、雷管に火を入れる。
ばねの弾性は、文字通り爆発的な化学エネルギーに変わる。
雷管の炸裂は発射薬を急速に気化させ、発射ガスと共に銃口から9mm口径の弾頭をひり出す。
トリガーの数kgの荷重は、500ジュール弱の破壊力となり、300km/hで飛翔を始めた。


 
 

教官「ジョセフ・フォーリー」軍曹 オレゴン州 某所 

「キャンプも二か月目、諸君もそろそろ慣れてきた頃合いだろう。」

バリスティック・グラスの奥、窪んだ眼窩のさらに奥、ぬるぬるとした目をぎらつかせながらニィ、と教官が笑い、機動部隊基礎戦闘訓練課程の生徒たちの間に緊張が走った。
ああ、きっと「ろくでもない」科目が始まるぞ、という空気の中、グラスをかけた教官はヒップホルスタから拳銃を取り出す。

「リック、これは何だ?」

「拳銃であります! サー!」

名を呼ばれた生徒の一人が叫ぶ。

「半分正解だ。こいつは『世界一の拳銃』。財団でも正式採用しているP226自動拳銃だ。」

教官は弾倉を抜いてスライドを引き、チャンバを空にした。

「こいつが『世界一』である理由は二つある。一点目は世界で一番高価な銃だからだ。高いモンってのはだいたい良いものだ。ウインナーと銃は特にそうだ。二点目。こいつは世界一『正確な』拳銃でもある。キッチリ使えば、キッチリ狙った場所に9mmの穴が開く。――さて、今日の訓練に当たり君達にはプレート・キャリアを身に着けてくるよう達してあるな。」

場に満ちた嫌な予感が最高潮に達した。

「いまから君らにはこの9mmで一発ずつ撃たれてもらう。この拳銃の正確さと、諸君らの防弾装備の性能を同時に証明する為に。心配いらん。財団で支給してる防弾プレートはNIJ規格でレベルⅢの防弾性能を持っている。9mmじゃ傷も付かない。後はまあ、俺の手元が狂わないよう祈ってくれ。」

呼吸音も聞こえぬ静寂。

「目が合ったな、パット、お前からだ。そこに立て。目を閉じて手は後ろに組め。防弾グラスをしっかり付けろ。……何か言い残すことはあるか? 」

「あー……、こういうジョークがあるんです、教官。」

「動くなよ。」

パットと呼ばれる生徒は天を仰ぎ、腹に力を入れ衝撃に備える。薄眼で見た満点の青空にカラスが群れていた。

 
 

SIG SAUER 9mm拳銃の引き金が引かれる。
シアーの外れたハンマーがスプリングのテンションに従い順当に角運動する。
撃鉄が撃針を叩き、雷管に火を入れる。
ばねの弾性は、文字通り爆発的な化学エネルギーに変わる。
雷管の炸裂は発射薬を急速に気化させ、発射ガスと共に銃口から9mm口径の弾頭をひり出す。
トリガーの数kgの荷重は、500ジュール弱の破壊力となり、300km/hで飛翔を始めた。


 
 

エージェント・ドゥ シカゴ市内 

落雷のような轟音と共にドアが吹き飛ぶ。
小柄なシールドと拳銃を持ったポイントマンが間を置かず突入し、後ろから続々と黒ずくめの武装した人員が部屋に入って行く。

アサルトライフルと短機関銃の短い連射音が数組聴こえ、沈黙した。

スーツの男がコツコツと木製の床を革靴で叩きつつ、複数の死体が転がる部屋に姿を現す。頭を抱え震えるグレーの服の男を黒ずくめの戦闘員が囲んでいた。

「パッケージ確保。」

「見りゃァ分かるよ。……旦那、商品はどこかね。」

戦闘員の報告を聞き流し、黒スーツが問う。

「あんたら何だ!? 警察じゃないだろ! こんなの犯罪だ! 」

グレーのスーツががなるのを黒スーツの男は片手をあげて制し、戦闘員――機動部隊隊員に目配せをする。傍らに転がっていた椅子へ、瞬く間にグレーの男が縛り付けられた。

「ああ、俺たちは警察じゃねェし、あんたも犯罪なんて犯してない。確かに州法にも、合衆国憲法にも反しちゃいないだろうよ。」

グレーが発言するより先に、黒が続ける。

「俺たちは、礎だ。ガキどもがママの作った飯を食い、温かいベッドで寝る。その為に地面の下から死者が這い出てこないようにジっと寝そべってる、デカくて冷たい石くれなんだよ。……もう一度聞くぞ。商品はどこだ、灰色の旦那。」

グレーの男は何も言わない。黒い男は懐から拳銃を取り出し、スライドを引く。排莢された弾薬をキャッチし、グレーの男の眼前に突き出す。

「RIP弾。この弾は体内で8つに分裂し、概ね放射状に進行する。通常の9mmパラベラムの比じゃない破壊をもたらす弾薬だ。」

先端が王冠のようにジグザグと先割れしている実弾を、そのまま半開きのグレーの男に咥えさせる。拳銃弾を挟んだ歯がかちかちと音を鳴らす。

「自分の膝がミートソースに変わっていく景色に耐えられる人間はそう多くない。……商品は、どこだ。」

黒い男はグレーの男の太ももに止血帯で間接止血を施しつつ、問うた。

「……言えねぇ。」

グレーの男は振り絞るように、黙秘を宣言した。

「問題ない。膝は二つもある。」

9mmの暗い銃口が、グレースーツの左膝に指向された。

 
 

SIG SAUER 9mm拳銃の引き金が引かれる。
シアーの外れたハンマーがスプリングのテンションに従い順当に角運動する。
撃鉄が撃針を叩き、雷管に火を入れる。
ばねの弾性は、文字通り爆発的な化学エネルギーに変わる。
雷管の炸裂は発射薬を急速に気化させ、発射ガスと共に銃口から9mm口径の弾頭をひり出す。
トリガーの数kgの荷重は、500ジュール弱の破壊力となり、300km/hで飛翔を始めた。


 
 

エージェント・ラミレズ メキシコ ユカタン州

「読んじまった、読んじまった! クソ! 」

エージェント・マコーリーの悲鳴のような怒声が地下室に響いた。新規登録された要注意団体のカルト、そのセーフハウスの隠し部屋。物置のような、照明の少ないレンガ造りの閉鎖空間は焦げた砂糖のようなにおいが立ち込めていた。

「マコーリー、マコーリー。落ち着け。スティムするぞ。」

指揮者であるエージェント・ラミレズはファーストエイド・バッグからピンクのペンインジェクターを取り出し、座り込んでいるマコーリーの首筋に刺す。
炭酸ガス圧で内部の液体がエージェントの体内へ流れ込む。認識災害と肉体改変を「高確率で」防ぐことができるという触れ込みの万能薬。

「ハハ、ハ、下手踏みましたね。認識災害トラップくらい仕込んであるって、分かってたはずなのに。」

「マコーリー。」

「駄目です。花が、視え始めた。フェーズⅡです。『開花』しちまう前に、終わらせてください。隊長、『肉の花』のベクターはラテン語です。床だけ見るようにして、ここから出てください。」

「……全員退室しろ。壁の、いや、あらゆる文字の視認を禁止。自分のつま先だけを見ろ。」

他のエージェントがぞろぞろと退出して行く。ラミレズはブラックホークのホルスタからSIGを取り出し、薬室を確認する。

「済まない、マイク。」

照星をマコーリーに合わせつつ、ラミレズは悔恨する。

「ハハ、懐かしいですね、その呼び方。フォネティックコードそのままなんて、ひねりが、無いですよ、隊長。」

 
 

SIG SAUER 9mm拳銃の引き金が引かれる。
シアーの外れたハンマーがスプリングのテンションに従い順当に角運動する。
撃鉄が撃針を叩き、雷管に火を入れる。
ばねの弾性は、文字通り爆発的な化学エネルギーに変わる。
雷管の炸裂は発射薬を急速に気化させ、発射ガスと共に銃口から9mm口径の弾頭をひり出す。
トリガーの数kgの荷重は、500ジュール弱の破壊力となり、300km/hで飛翔を始めた。


 
 

あるガンスミス 某所 某サイト 整備課

「ねえ課長、こいつら一体何人殺してきたんでしょうね。」

山積みの整備待ち拳銃の横で延々と不快な鼻歌交じりに作業をしていた若年整備員の軽口に、残業に忙殺されていた老人は更に顔をしかめる。

「余計な事考えてる暇があったらさっさと仕事やっつけて寮に帰れよ青年。まさか泊まる気じゃねェだろうな。」

「おっと、もうこんな時間か。ススで地層でもできてるんじゃないかってくらいバレルが小汚い個体ばっかりなもんで。つい時間が経っちまいました。」

こいつをやっつけたら仕舞いにします、と言いつつ若者は手早く9mmを組み上げた。腕は確かなのだ。口数が減ってくれればもっといいのだが、と老人は思う。

「……さっきの続きじゃないですがね、これだけ多くのシグをレストアしてると思っちまうんです。合衆国中の財団職員が散々撃ってきた銃です。必ずしも怪物だけを殺してきたわけじゃない。どんな奴を何人殺して、いったいどんな景色を見てきたんだろう、って、そう思うんですよね。」

若者は試射の為シューティングレンジに入り、イヤーマフを装着しつつ、聞いてきた。

「知らんよ。9mmの穴から見える景色なんぞ、楽しいモンじゃないのは確かだろうさ。」

若者は珍しく返事をしない。きっとイヤーマフを付けているからだろうと思いつつ、老人は視線を落として自身のデスクワークに戻り、若者は拳銃の引き金を絞った。

 
 

SIG SAUER 9mm拳銃の引き金が引かれる。
シアーの外れたハンマーがスプリングのテンションに従い順当に角運動する。
撃鉄が撃針を叩き、雷管に火を入れる。
ばねの弾性は、文字通り爆発的な化学エネルギーに変わる。
雷管の炸裂は発射薬を急速に気化させ、発射ガスと共に銃口から9mm口径の弾頭をひり出す。
トリガーの数kgの荷重は、500ジュール弱の破壊力となり、300km/hで飛翔を始めた。

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