SCP-6439
評価: +21+x
アイテム番号: 6439
レベル5
収容クラス:
keter
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
ekhi
リスククラス:
danger

特別収容プロトコル: SCP-6439は、一般的な情報災害用のセキュリティプロトコルに則って処理されます。 その存在を示す証拠品は捜索および隔離され、必要に応じて記憶処理が行われるべきです。

加えて、SCP-6439-1の効果的な収容を継続するために、財団の資産はハロウィンに関係する伝統行事の普及および風化防止に使用されるべきです。


説明: SCP-6439は、1年の中に追加の24時間が生まれるという時空間異常です。SCP-6439は記憶阻害効果を伴います。SCP-6439によって起こる異常を知覚および記憶しておくには、特定の環境で特定の手順を踏む必要があります。SCP-6439の担当研究員は、この記憶阻害効果がSCP-6439-1(補遺参照)によって引き起こされていると推測しています。前述の性質上、この存在を知る人間は、SCP-6439発生の痕跡を見たことのある極めて少数の存在に限られます。痕跡の数自体は非常に少ないので、痕跡となる証拠品は全て財団の管理下にあると現在は考えられています。しかし、SCP-6439の存在を示しうる追加の証拠品がないか、現在も懸命に捜索が続けられています。

SCP-6439の発生を示す証拠は、3つの情報源からなります。1つ目は、財団が秘密裏に傍受した、米国の高軌道スパイ衛星の録音です。これは、ケンタッキー州に位置する地方ラジオ局「WAEK ‘The Wake’」の番組「DJアビーの From真夜中 To夜明け」を録音したものです。録音によればこの番組は、10月31日と11月1日の狭間で、存在しないはずの時間に放送されていることになります。

2つ目の証拠は、CIAの技術分析官であるゲヴィン・マクリーが、中国の人工衛星に関する異常な情報についてSSCI(米国情報コミュニティ監査委員会)に伝えたものです。

3つ目の証拠は、9世紀に中世アイルランドで執筆された「レンスター地方での出来事」(The Book of the Days of Leinster)という手稿の欄外にあった書き込みです。


補遺 6439.1: ‘DJアビーの From真夜中 To夜明け’の録音

[録音開始]


DJアビー: ただいまお届けしたのは、ジョージ・マイケルの「ケアレス・ウィスパー」。超セクシーなサックスの音色が、私たちに10月32日の訪れを知らせてくれたわね。私はアビー。夜勤の人たちも真夜中にラジオを聴き耽っているみんなも、日付が変わるこの瞬間から夜明けまで、寝かせないわよ。流してほしいイカした名曲があるか、何か思いついて私に言いたいことがあるなら、電話を頂戴。仮装パーティーは解散し始めたし、お菓子をもらってた奴らの甘ったるい騒ぎ声も落ち着いてきたわね。こんな日はWAEKの’The Wake’で、ゆったりと素敵な夜を過ごしていこう。

プロデューサーのウェンデルが、天気予報担当のところからメモを持ってきたわ。ケンタッキー州全体に特別気象警報だって。竜巻が来るんだかカエルの雨が降るんだか知らないけど、とにかく「ヤバい天気」らしいわよ。昨日がハロウィンだったからってわけじゃないけど、何やら奇妙な夜になりそうね。

ウェンデルが、今度は私に電話が来てるって言ってるわ。もしもし、こちらDJアビー。どうしたのかしら?

カルビン: もしもしアビー。僕はカルビン。割と古参だけど、電話をかけるのは始めてだ。聞いてくれ、僕の周りじゃ何かおかしなことが起こってる。リスナーのみんなも、ここで起こってることに何か心当たりはないか知りたくて電話したんだ。

DJアビー: オーケー、カルビン、喋ってみて。

カルビン: 僕は今、ボウリング場”Primo Pins”にいる。ウェストクリークのあたりか?その、アレだ、遊びに来てて。ヒトが何人かいる。いや、ヒトとは言ったけど…影、みたいな。

DJアビー: 影ですって?

カルビン: そう。最初はハロウィンの仮装だと思ってたんだ。ただの真っ黒な着ぐるみなんて、やる気のない仮装だなって思ってたんだけど、あいつらが近づいてくるにつれて…なんというか、あいつらが、透き通って見えたんだ。駐車場の灯りの奥にある暗がりから、現れてきて。僕は友達と二人でいて、タバコを吸ってたんだ。そしたら友達が、「オイオイなんだアイツらは、ちょっとからかってやるか」って言った。もう彼の姿は見えないし、僕が今乗ってる車の周りは影人間に囲まれてる。

DJアビー: とんでもないことになっているようね。車なら突破できないの?

カルビン: その友達が車のキーを持ってるんだ。あっ、ちょっと、あれは、見つけた! おーい、カイル! カイル、逃げよう! くっ、駄目だ、聞こえてない。あいつ、影人間に連れて行かれてるみたいだ。

[遠くで悲鳴が響く。]

カルビン: おい、カイル、そこから離れるんだ! あぁ、なんてこった、あいつも影人間になってしまった。大量の影人間たちが目を光らせてこっちを見てる。近づいてきてる。なあ、カイル、助手席脇の小物入れってピストルが入ってたよね? ごめんアビー、そろそろ切らなきゃ。

DJアビー: どうやらカルビンは大忙しみたいね。このラジオを聴いてる皆、Primo Pinsとかいうボウリング場には近づかないほうが良さそうよ。ここで、そんなゴタゴタを少し忘れる一曲をお送りするわ。私は朝までここにいるから、チャンネルはそのままでね。


[録音終了]

[録音開始]


DJアビー: ただいまお届けしたのは、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの「カモン・アイリーン」よ。今夜ばかりはアイリーンも流石に避難したほうがいいでしょうね、外は大分おかしな様子だわ。放送網から出てる警報によれば、ケンタッキー州全体で停電、突風、グレープフルーツくらいの大きさの雹、そして手が付けられないレベルの森林火災が起こってるそうよ。あと、ルイビル市とレキシントン市では暴動が起こってるらしいわ。こんな夜は、私と一緒に素敵な名曲を聴きながら、家にこもって騒ぎが収まるのを待つに限るわね。

ここで電話がかかってきたとプロデューサーのウェンデルから言われたわ。もしもしティナ、どうしたの?

ティナ: こんばんはアビー! 今オーエンズボロ市から電話をかけてるの。私は病院で働いてるんだけど、今は避難して地元の高校の体育館にいるわ。

DJアビー: 何やら大変なことが起こってるようね、ティナ。

ティナ: あなたには想像もつかないでしょうよ。日付が変わってすぐの頃だわ、警備員が地下室で何か騒ぎが起こっていると言ったのは。その後間髪入れずに、裸の人間たちが歩き回っていたのよ! 霊安室から出てきた、裸の人間が! 死人の群れが、解剖台の上やら死体保存用のロッカーの中から起き上がってきたの! 今まで見た中で最悪の光景だったわ。体には解剖の時の切開痕が残っていたし、なんなら交通事故とかの死体は体の一部が無かった。奴らは呻きながらそこら中を走り回っていたわ。

勿論私たちはすぐにそこから逃げ出したわ。遅れて逃げてきた人が言ってた。逃げ遅れた人間に、死人たちが手術をおっぱじめていたとか。頭のおかしくなるような話をたくさんされたわ、終末の日がやって来ただの、宇宙からやってきたウィルスがどうだの、エイリアンだの。アビー、私はもう、何をどう考えたらいいのか分からない。

DJアビー: ティナ、こんな言葉があるわ。「もしお前が今地獄の中を歩いているなら、とにかく進み続けろ」。とりあえず安全な所に隠れて、乗り越えるのよ。

ティナ: あぁ、ここが安全なのかどうかすら分からないわ。男の人が叫び声を上げたかと思えば、その人、「化け物が俺の脳みそを食い散らかしてる」とか言い始めて、そしたら、ホラー映画に出てくる大蜘蛛みたいに突然壁とか天井を這い上り始めたのよ! 外の駐車場にはビッグフットみたいな生物がいるし、しかもそのビッグフットの大群がメインストリートをふらついてたわ。分かってるわ、今はハロウィン。だけどこれよりイカれた光景なんてない。

DJアビー: 自分を強く持って、ティナ。あなたは一人じゃないことを忘れないで。何が起ころうと、皆で切り抜けるのよ。

ティナ: ちょっと言わせてもらうけど、こんな狂った事が起きてるのに、そっちは随分冷静なのね。

DJアビー: 私の考え方はね、何が起こっても、何が起こっても、そのことについて苛立っているだけじゃ、悩みの種は無くなってくれないっていうこと。私が心がけているのは、その悩みの種に一人で立ち向かおうとしないってことだけ。一人でどうにかする義理も無いしね。ここにいれば、電話をかけてくれる人が、リスナーの皆が、プロデューサーのウェンデルが、そして一緒に夜明けまで過ごしてくれる人たちがいる。そのことさえ忘れなければ、ここで素敵な仲間と素敵な音楽を奏でていることが、この騒ぎを乗り切る一番の方法だって言えるわ。

ティナ: まるで悟りでも開いたような物言いね。でもねアビー、天井で人間が這い回っていて、どデカいコウモリが飛び回っている中でそんな風に落ち着くっていうのは難しいものよ。というかコウモリの話ってしたっけ? 多分コウモリだと思うんだけど、ここから見上げると大型の旅客機くらいの大きさに見えるわ。あぁ、ちょっと待って… [間が空く。] 行かなきゃ。警察の人が、みんなで協力してドアにバリケードを作ろうって言ってる。

DJアビー: どうかご無事で、ティナ。ティナの周りの人もね。

ところで、こっちじゃ血の雨が降ってるわ。スレイヤーの「レイニング・ブラッド」を今から流すってことじゃなくて、本物の血が、スタジオの窓の外で激しく降ってる。あと空には何かラテン語っぽい光る記号が出現してる。町の一部じゃ既に停電してるようね。ここからは可能な限り放送を続けるわ。

とりあえず、今は電話が来てるわ。話していいわよ、ケビン。

ケビン: 良かった、アビーに繋がったぞ。携帯電話はもう大分やられちまってるもんでね。それで、えーっと、いつか曲をリクエストしたいと思ってたんだ、それで、今を逃したらもう二度とチャンスが無いような気がしてね。それでその、問題は…俺のおふくろは、3年前に死んでるってとこだ。

DJアビー: それはご愁傷様ね、ケビン。

ケビン: そのおふくろが今、キッチンの窓の外にいるんだ。全身シミだらけで、なんか長い爪が生えてるけど、絶対におふくろなんだ。喚きながら、家に押し入ろうとしてる。地元のブリッジクラブのプレイヤーも何人かいる。 俺は…俺は今夜死ぬってことだろう。アビーに電話をかけるなら、もう今しかないって思ったんだ。

DJアビー: そんなあなたと話すことができてうれしいわ。お母さんがただあなたに逢いたいだけならいいんだけれど。流してほしい曲は?

ケビン: まぁ、この状況に合った曲といえば、アレだけだろうな。

DJアビー: アレのことね、分かってるわ。ケビンと亡くなったお母さんに送る、R.E.M.の曲よ。


[録音終了]

[録音開始]


DJアビー: こちらDJアビー。皆で朝まで生き残るわよ。どうやらこれが本当に最後になりそうだわ。色んな電話があったわ。歩き回る死体を見ただの、怪物が出ただの、海が沸騰してるだの、地面が燃えてるだの。ここケンタッキー州では、血の雨の向こうに、波打つ地面と溶岩の川が見えているわ。もうほとんどの電話は断線しているけど… [間が空く。] プロデューサーのウェンデルによれば、誰かが電話を繋げることに成功したらしいわ。

電話の向こうの方。もう放送されてるわよ。

ドン: アビー! アンタがまだいてくれて良かったよ。俺の名前はドン、大分昔からのリスナーだ。今ルイビルにいるんだが、町の西側区画の半分がここにあるデカい穴の中に消えていったんだ。

DJアビー: その状況、私の知り合いなら「改修工事が始まったみたいだぞ」って言うでしょうね。

ドン: 何ともいえないジョークだな。とにかく、燃え盛ってる穴があって、周りにあるものを全部吸い込んでいく炎の湖みたいになってる。わざわざ整列して、人間がその中に飛び込んでいってるんだぞ! しかも、見たところ半数くらいの人間は体が赤い腫れ物で覆われてる。その上デカくて太ったバッタみたいなのがそこら中にいるんだ。マジで大量にな。

DJアビー: その虫はイナゴってことかしら?

ドン: うーむ、縁起の良い虫じゃないことは確かだ。会社でハロウィンパーティーをやってたら突然こうなって、俺は今経理部の所から出られない状態だ。世界の終末を眺めてる気分だぜ、チューバッカの仮装しながらな。俺の言ってることがヤバいのは謝る、だがとにかくここは狂ってる。あぁなんてこった、ホテルが崩落したぞ。

DJアビー: お電話ありがとう、ドン。 申し訳ないんだけど、電話を切らなきゃ。こっちじゃ空から何かが降りてきてるの。何というか…人間の死体でできた、逆さまの山みたいなものが。腕も足も、絡まりあって、芋虫みたいにもがいてる。その周りじゃ空が排水溝みたいに開いてるし、地面が歪んでるわ。アレの思念が、伝わってくる…私の頭蓋に、ぶつかってくる。

どうやらここまでのようね、みんな。世界が終わる音が、聞こえる。最後の一曲はもう流した。誰が聞いているか分からないけど、最期の瞬間を、放送中に一緒に迎えられて良かったわ。

アレがこっちに来てる。顔は…何もない。虚空そのもの。 [間が空く。] ウェンデルはアレの顔が自分の父親と同じだと言ってるけど、私には何も見えない。ただ終わりのない無が見える。

通信状況が悪化してきているわ。でも可能な限り、放送は続ける。みんな、気を強く持って。どうか…声を…絶やさないで……

[電波障害により放送が断絶する。]

[今までのどの声とも違う声が入る。]

謎の声: 今年の捧げ物、しかと見届けた。祝福の唄はこの耳に届いた。恐怖による歓待を、堪能した。素晴らしい。

謎の声: 交わされた契約は果たされた。また一年、お前たちは赦される。我が目覚めによる破滅も、恐怖による支配も、じきに消え去るであろう。

謎の声: 再びこの日が訪れた時、恐怖への没入が、声を上げるであろう。我は契約の内容を忘れることはない。 我はじきに再び飢える、そしてお前たちと違い、我はこのことを忘れることはないのだから。


[録音終了]


補遺 6439.2: 米国情報コミュニティ監査委員会へのヒアリングの転写記録

以下の文書は、米国情報コミュニティ監査委員会で秘密裏に行われた事情聴取の一部を転写したものです。CIAの技術分析官ゲヴィン・マクリーからの証言を得るため、監査委員であるダーレン・サンチェスが行ったものです。議事録は機密扱いとなっていますが、財団法務部門の手によって議事録の転写が入手されました。

[記録開始]


ダーレン・サンチェス委員: それではマクリー分析官、本日に至る経緯をお聞かせ下さい。

ガヴィン・マクリー分析官: とりあえず全編オフレコだ。これはCIAのポリシーやら何やらとは一切関係の無い事だからな。

サンチェス: あなたは少々規範から外れた行為をしていますが、まぁ面倒なことにはならないとは言っておきましょう。密告はしません。我々はただ、真実が知りたいだけなので。

マクリー: 問題が起こった時、お互いが話し合いの場を設ければ解決できたはずなのに、そうしなかったせいで結果的に大量の金銭的損失と国際問題にまで事が及ぶ場合があるだろう。それが今回のケースだ。中華人民共和国科学技術部に、俺と同じような仕事をしてる人間がいる。劉克農(Liu Kenong)という男だ。そいつらのフロント企業が3年前に打ち上げた通信衛星について、俺のところでは色々議論を交わしていた。それが克農にバレていたんだ。

サンチェス: その克農とかいう男はCIAの会話内容をどうやって?

マクリー: 俺たちがスパイを送るように、あちらさんもスパイ行為をしてたってことだ。内部にエージェントが侵入してたのかもな、下らん会話までモニタリングされていた。俺の担当部門じゃないとはいえ、俺たちも同じようなことをしているがね。

サンチェス: なるほど。続けて下さい。

マクリー: そいつはクアラルンプールの空港で会おうと提案してきた。俺のための旅程表まで持っていやがった。だがまぁ、場所は一般大衆がいるようなところだし、安全だと思ったんだ。喫茶店で交わされるような、非公式のお話をしに行ったわけだ。そして、克農と会った。良い奴だったとは思う。英語がそこまで上手いわけじゃなかったが、少なくとも俺の中国語よりはマシだった。その後、仕事に関係する資料を見せ合わなきゃいけなくなったから、人目のつかない所に移動した。

CIA内部では、ある中国の衛星がスパイ行為に使われてるって懸念されてた。地球の軌道上には存在しない、少なくとも俺達には確認できないどこかにいるやつだ。だが、そこからデータが取られてるってことだけは分かってた。それが何なのか気になってな。俺たちは神経過敏になっていたんだな。密かに行われている宇宙開発競争で、中国に先を越されたって。克農が言うには、それは間違いらしい。

サンチェス: 克農氏は信用に値するのですか?

マクリー: 俺も向こうも同じさ。ただ必要に応じて、相手を信用するだけだ。サンチェス委員、これは相互的なものなんだ。とにかく、何かしらのコミュニケーションを取らないと、俺たちは何もできない。確かに、俺たちは二人とも相手を出し抜こうとはしていたさ。だが、金や命が無意味に使われるような争いを起こしたいわけじゃなかった。あんたの質問への答えは単純さ、克農は信用になんて値しないかもしれない。正直言って、彼の発言内容を俺が勝手に信じているだけだ。俺は、彼が言ったことを、ただあんたに伝えているだけだよ。

サンチェス: 紳士協定的なものですね。続きを教えて下さい。

マクリー: 克農いわく、確かに人工衛星はあるが、何もスパイなどはしていないとさ。とある実験だったらしい。太陽の向こう側に、地球のちょうど反対側を回るようにして、宇宙ステーションみたいなものを隠せないかってな。地球からは絶対に観測できない位置だから、なんでも隠せるだろうってことだ。

それが可能かどうか、確かめるために作られた人工衛星らしい。彼らは衛星を太陽の向こうまで飛ばして、そこで静止させて、試験用の信号を発信する予定だった。試験用の信号を地球で受信できてしまったら、そのアイデアは破棄されるはずだった。

問題は、それから半年後に、中国側がその衛星を検知できてしまったってことだ。俺たちCIAもな。試験は失敗だった。いや、見方によっては、上手くいったとも言えるのかも知れん。

サンチェス: CIAは何を検知したと?

マクリー: さっきも言ったが、うちの組織じゃアレがスパイ衛星だと思ってた。あんな辺鄙なところから一体何を傍受するのかは分からなかったが、とにかくその衛星が気に入らなかった。緊張は高まる一方で、俺たちはハッキングしたり、中国側に潜入捜査官を送り込んだりして、衛星の正体を確かめようとした。

そしたら今度は中国側が対抗して、潜入捜査官の摘発やら、セキュリティの強化やらを始めた。もう皆疑心暗鬼で、何かとてつもないことが起こるんじゃないかってことだけを漠然と感じてた。いつ、誰がやばい行動に出るかも分からない状態だった。克農はそれを防ぎたかったんだ。

サンチェス: なるほど。それで、太陽の向こう側に何かを隠すっていう中国側の企みは、その衛星が検知できてしまったから失敗だったと?

マクリー: その時点では何とも言えなかった。衛星は軌道を逸れて、進み続けた。どうしてそうなったのか、克農は分からなかったと言ってたな。最初はただの動作不良かと思っていたらしい。だが、衛星内蔵の原子時計が、地球の時間に合わせたものと比べてきっかり一日分遅れていたことが分かった。勿論、その年が閏年だったかどうか確かめたらしい。もう一度衛星の動作をプログラミングし直して、バグを探して、結局一つもバグは見つからず、また衛星を打ち上げた。

一年経って、また同じことが起こった。例の人工衛星がまたコースを逸れて、その様子は中国側も俺たちも確認した。CIA長官が、中国の新しい兵器だとか言ってまた指示を下されてた。中国側はどうにか直そうとして、何がおかしいのか分からず、三度目の挑戦をした。そして一年後にどうなったかって? 同じことさ。きっかり24時間、ズレていた。だから最終的には彼らは諦めて、人工衛星を地球に呼び戻した。克農によれば、地球突入時に衛星は燃え尽きたそうだ、本来のプラン通りにな。

サンチェス: 克農氏はそれを衛星の動作不良であると?

マクリー: 勿論だ。俺だってそう思う。それ以外に説明する方法が無いんだからな。プログラムに問題があるか、さもなくば、地球上の誰も認識できない24時間が、一年に一回存在することになるぞ。[笑い]

サンチェス: もしその一日が存在するとしたら?

マクリー: なんだって?

サンチェス: もし我々が地球にいたのでは経験できない一日があるとして、地球以外の宇宙空間ではそれが観測できることになりますね。だから、本来366日分のプログラムをされるべき衛星に、365日分のプログラムしか入力されていなかったと。もしそれが起こっているとしたら?

マクリー: 言っていることがよく分からんな。時間は時間さ、変えられるものではない。

サンチェス: 高校レベルの知識で申し訳ないのですが、十分に巨大な重力を持つ何かがあれば、時間の流れは変えられるはずですよね? 例えば、ブラックホールみたいな。

マクリー: 確かにそうだ、だが、俺たちの近くにあるもので一番巨大な物といえば太陽だが、それすらも大して時空間を捻じ曲げたりはしていない。そしてもし近くにブラックホールがあったとしたら、気づくはずだ。あるいは、俺たちはもうそのブラックホールに吸い込まれているさ。

サンチェス: では一体何故?

マクリー: サンチェス委員、無礼なことを聞くが、あんたは本当に一年の長さについての人類の認識が間違ってるって言うのか?

サンチェス: 私は、あなたのようなCIA分析官でさえもアクセスできないような情報を知っています。あなたにとっては馬鹿らしいことでも、我々にとっては非常に価値あるものなのです。どうか私に話を合わせて下さい。そのような現象が起こるとして、原因は何が考えられますか?

マクリー: 知らん。宇宙人か? 魔法か?

サンチェス: なるほど。ありがとうございました、マクリー分析官。あなたの証言は非常にためになるものでした。


[記録終了]


補遺 6439.3: 「レンスター地方での出来事」(The Book of the Days of Leinster) についての分析

以下に示すのは、ダブリン大学図書館に所蔵されていた手稿「レンスター地方での出来事」の欄外に見つかった文章の翻訳および注釈です。この手稿には10世紀に書かれたことを示す年号が記されており、9世紀中頃からアイルランドで起こった代表的な出来事や、当時の王たちを示す年代記となっています。翻訳および注釈は、シーン・デュラン教授によるものです。「レンスター地方での出来事」は、歴史上に存在した異常存在を示す証拠である可能性があるとして、財団の注意を惹きました。その後、時空間異常および終末論についての情報収集の過程で、手稿は回収されました。

文書は3つの節からなり、手稿内の2ページに渡って、本来文章を書くべきスペースの外に書かれています。手稿内の他の文章と比べて、これら3節の文章は明らかに筆跡が覚束ないものになっています。文書中に使われている中期アイルランド語は非常に口語的な書かれ方をしており、また多数の略語や音節の省略を含むため、翻訳は困難を極めました。それを除けば、文書に目立った欠落部分はありませんでした。

文書は、氏名不詳の執筆者による説明から始まります。説明はこの文書の原本が既に失われていることについてで、その内容を思い出しながら書き留めておくことで、内容が忘れ去られないようにするためとのことです。「レンスター地方での出来事」 という名は便宜上用いられたものだと推測されています。高価で大仰な本なのでしっかりと保存してもらいたいと筆者は考えていたようです。

話は9世紀初頭、レンスター地方の王であるBran mac Donnchadaという人物についての部分から始まります。この人物名はこの手稿以外には登場しませんが、当時の王の異名や敬称のうちの1つと思われます。Branは国境を防衛するためにアイルランド人とヴァイキングの軍勢を引き連れてレンスター地方の北部へ遠征をしていました。この軍勢の人数や、Branの敵対勢力が何なのかは記されていません。

この出来事が起こったのは、筆者によれば、現在の暦で10月32日にあたる日付です。これは筆者の間違いだと考えられています。その日、Branは国境を越えて軍勢を率いていましたが、「悪魔」と呼ばれる何者かが立ち塞がります。それはとてつもない大きさで、夥しい数の死体を纏っていました。これが何を意味するのかは不明です。筆者によれば、その存在は「おりてきていた(Descending)」とのことです。これが、文字通り空から舞い降りて1きたということなのか、それとも捕食者が獲物を襲う2という意味での比喩なのかは不明です。

Branの軍勢はそれを見て蜘蛛の子を散らすように四散したということです。何人かの兵士は「打ち倒された」という記述があります。これが殺されたということなのか、気絶させられたということなのかは分かりません。その他の者は気が狂うか、逃走したそうです。筆者によれば、その悪魔の顔は見る者によって姿を変え、ある者にはおぞましい怪物のように、またある者には自分の家族や何らかの動物、果ては宗教的な存在のように見えていたとのことです。

王であるBranは逃げたり、戦闘不能になったりはしませんでした。彼が悪魔の顔を見た時、そこには縄で縛られ、弱り切った自分自身の姿が映っていました。しかしBranはそれを恐れませんでした。ここで筆者はBranの武勇伝や戦での功績についてほのめかしますが、それが具体的に何なのかは示されていません。

Branは悪魔との話し合いに臨みます。その悪魔によって世界が滅ぼされるべきかどうか、二者は議論したと筆者は記しています。Branは、世界には美しい場所が沢山あり、勇敢な男と優美な女が沢山いて、自然の素晴らしさに満ちていると説きました。しかし悪魔は納得せず、世界と、そこに住まう人々を滅ぼすことにしました。

Branはとても勇敢でありましたが、それと同じくらい狡猾で頭の切れる男でした。彼は、悪魔に取引を持ち掛けたのです。彼は、悪魔を讃える祭りを開いて、自分たちを見逃してもらい、そして既に始まっている世界の破滅を元に戻してもらうよう懇願しました。悪魔はその提案について考え、一年ごとにその祭りを開くように言いました。悪魔はまた、その祭りが自らの眼鏡にかなったならば、世界の破壊をやめ、全ての破壊を元に戻し、目撃者の記憶も残らないようにするとしました。

以上の経緯から契約は結ばれ、Bran王は帰還しました。彼は各地の同盟国と自国民全員に、悪魔を讃える祭りを開くよう命じました。悪魔が恐怖の象徴である以上、その祭りは恐怖を祝うものになりました。奇怪で恐ろしいものが歌われ、パレードの題材となり、まるでその日だけは美しさと醜さという概念が入れ替わったかのようでした。

その翌年、狂気と破壊を伴ってあの悪魔が現れました。悪魔は祭りを見て満足し、契約通り自らの破壊したものを元に戻し、世界に危害を加えないことにしました。Bran王は自らが取り付けさせた契約の結果を見られないことを嘆きました。悪魔が訪れた日に世界が元通りになったのかどうかは、Bran王自身にすら確かめることはできなかったのです。彼を安心させてくれるのは、11月1日の朝日だけでした。なぜなら、万が一恐怖の祭りが行われなかった場合、世界に再び朝日が昇ることはないからです。

Branは、悪魔に遭遇した日のことと、そこで交わされた契約について記録するよう学者に命じました。しかし、全ての文書およびそのコピーは失われ、結果的にこの文書の筆者が、自分の頭の中にあった物語をページの欄外に書き留めることになりました。現存している他の書物にこの物語が載っていない理由は、そのコピーの消失によるものと考えられます。同様に、話に登場した悪魔のような神話的存在も、他のどこにも記録されていないものです。これは、この物語がレンスター地方でのみ伝わっているか、あるいはそもそも物語がこの筆者による創作であるという可能性を示唆します。

毎年10月32日に現れると推測されている、Bran王が遭遇した実体をSCP-6439-1と呼称します。SCP-6439-1の確保は財団の収容能力を大幅に超過するものであり、代替案としてハロウィンという行事を人類に続けさせることが財団の目的となっています。

Bran王の物語の舞台となっている時代は、サウィン祭が初めて行われた時期と概ね一致します。サウィン祭は、非キリスト教徒によって10月31日から11月1日にかけて開かれる祭りです。サウィン祭は後にキリスト教の伝統行事と混ざり合って「All Hallows' Eve (諸聖人の日の前夜祭)」となり、やがて現代のハロウィンになりました。

SCP-6439の調査、および欠落している時間帯の観測を行うための試みは続けられます。欠落している時間帯の観測方法を確立するため、財団は協力関係にある各地の宇宙機構と連絡を取り合います。SCP-6439による現実改変の効果は、宇宙全体にまで影響を与えているわけではありません。即ち、失われた24時間は、地球から十分に距離をとった状態であれば、検知することができます。

SCP-6439-1の詳しい性質は未だ不明のままです。SCP-6439-1を研究するためには、10月32日に実体に対して調査を行い、その結果を現実改変による巻き戻し効果を受けないような方法で保管する必要があります。財団所属の形而上学研究員は、前述の調査手順および情報保管方法について研究しています。その手順が確立されるまでは、SCP-6439の存在に関する知識は情報災害として機密扱いになります。また、SCP-6439-1を祭りによって鎮めることが、当面の主な収容手順となります。


補遺 6439.4: ‘DJアビーの From真夜中 To夜明け’の録音

[録音開始]


DJアビー: ただいまお届けしたのは、ジョージ・マイケルの「ケアレス・ウィスパー」。超セクシーなサックスの音色が、私たちに11月1日の訪れを知らせてくれたわね。ハロウィンのパーティも終わって、皆台所まわりで片付けに大忙しだし、仮装用のコスチュームも続々と解体されていってるわ。私はDJアビー。カボチャをゴミ箱に捨てて、庭に飾ってるガイコツ人形を家の中にしまう時間が来るまでは、私のラジオを聴いていてもらうわよ。

いつもみたいに、イカした名曲なら何をリクエストしてもらってもいいからね。さて、そうね、ハロウィンを迎えたとき、私は自分が本当に怖いものが何なのかについて考えていたの。もし暗がりからガイコツやらミイラやら吸血鬼が現れたからといって、多分私は逃げ出さないと思うわ。じゃあ私が一番恐れることって? それは、あなたたちが、プロデューサーウェンデルが、とにかく誰かが、いなくなってしまうこと。たった一人で、横に誰もいない状態で、世界に立ち向かわなければいけないような状態。だからこそ、私は好き好んであなたたちみたいな夜型人間や音楽バカを毎晩ラジオの前に引き留めてるの。そうすれば、誰も一人じゃないから。私たちには、仲間がいるから。たとえ私の存在が、車のラジオから聞こえてくるただの声だったとしても、そこには繋がりがある。その繋がりさえあれば、安心できるってこと。

まるで悟りを開いたみたいな物言いだったけど、ご心配なく、そんなノリもここまでよ。いつも通り音楽をかけていく予定だからね。何故だか分からないけど、今日はこれを流すべきって曲があるの。さぁ、夜型人間のみんな、集まって。まずはR.E.M.の「It's the End of the World as We Know It.」3を流すわよ。


[録音終了]

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