皆さん、席に着きましたね? では始めますか。今回のテーマは「基本時制の改変について」です。おや、「改変」と聞いて、何人か渋い顔をされていますね。ですがご安心を。今回は皆さんがよく耳にする「現実改変」の小難しい理論や各作用を一度無視した上で、端的に「過去・現在・未来を改変するとは一体どういうことか?」を、簡単な例えを交えて説明するだけですので。
まず「現在改変」についてお話ししましょう。ああ、一応ですが「現実」ではなく「現在」の「改変」ですよ? コホン、では最初にこちらをご覧ください。リンゴが1個、テーブルの上にありますね? 私が先ほど購買で買ってきました。
「現在改変」とは、例えるならこの1個のリンゴを「誰にも違和感を抱かせず5個に変える」というもの。もしくは「最初からリンゴが5個あったことにする」といったが正しいでしょうか。この改変でリンゴの数が変わったことに大半の者は気付けず、ただ「最初からリンゴは5個置かれていた」とだけ証言します。更に過去のいくつかの事柄も「現在のリンゴの数が5個になる」よう、上手く帳尻合わせされる形に改変されてしまいます。例えば「間違えてリンゴを5個買った」とか、「ここに来る途中で誰かからリンゴを4つ貰った」という都合の良い形に。
はい、何でしょう? ふむふむ、「現在改変」なのに「過去の事柄も改変している」のでは、と。確かにその通りですね。実を言うと「現在改変」として定義付ける上で重要なのは「現在のリンゴの数を5個に再設定する」という部分です。「現在のリンゴの数を1個から5個に再設定した」ことで、過去に対して「現在のリンゴの数が5個になる」ために必要な何らかの外力が影響として生じる、これが「現在改変による影響」というわけですね。どこか釈然としない表情の方々もいますが、一先ず次に進みましょう。
続いて「過去改変」ですが、これは先の考え方の応用編、「過去の状態を再設定する」わけです。つまり、「最初から購買部でリンゴを5個買っていた」という形に改変、再設定してしまうわけですね。皆さん、おそらく「さっきと何が違うんだ?」と思われるかもしれませんが、ここで重要なのが「過去に再設定された状態は、現在まで完全保存されるわけではない」というところ。例えば、「私が過去にリンゴを5個買った」からといって、「現在、このテーブルにリンゴが5個置かれている」のかは不確定です。もしかして、1個腐ってここに来る途中で捨ててしまったり、あるいは誰かにあげたり、食べたり、盗られたりする可能性だってあります。
この経緯もあり、「過去改変」により生じる「現在への影響」の規模は不確定な範囲で増減します。そして、今回は「リンゴ1個を5個に変える」といった単純な例だったために「現在への影響」も「リンゴが0~5個」になるという狭い範囲の増減で済みました。しかし、これが「リンゴ1個を100万個に変える」という「過去改変」の場合は? ほぼ確実に、現在のリンゴの数が1個を大幅に上回る、明らかに異常な影響と結果が現在へと齎されます。まあ、一先ずは「過去の状態を再設定し、現在へ不確定な影響を与える改変」が「過去改変」と覚えていただければ良いでしょう。危険性についてはまたの機会に。
そして最後、「未来改変」ですね。前2つと少し違い、「未来のあるタイミングにおいて、何らかの事象・事柄が特定の状態であることを固定化する」のが「未来改変」の特徴です。再びリンゴで例えまして、「この講座の終わりに、リンゴの数が1個から100個になっていることが固定化された」、つまり「確定された」としましょう。この後、「誰かがリンゴを99個持ってくる」「天井を破り、空からリンゴが99個降ってくる」「床からリンゴの木が生え、99個の実が生る」等々、如何に奇妙な筋道を辿ったとしても「最終的にリンゴの数が100個になる」、これこそが「未来改変」です。
また、「未来改変」の影響は他と違い、「現在」へと直接的に及ぼされます。先の例のように「リンゴの数を100個にする」ための何らかの外力が「現在」に影響として生じるわけですね。部分的に「現在改変」と性質が似ているようですが、実は「未来改変」の影響は軽減が可能です。方法は簡単、「リンゴ99個を最初から用意する」だけ。その通り、最初に100個あれば、何らかの異常な外力で99個が生じることもありません。まあ、最終的な結果は変わりませんが、影響被害は最小限に抑制されます。
おや、気付けば時間ですね。では講座を終えましょう。ああ、皆さん、よければ今回使ったリンゴを持って行ってください。1人2個ずつはあるはずです。
どうしました皆さん、不思議そうな顔をして。リンゴならちゃんと"100個"ありますよ?
ふふふ、さあ、どうぞ遠慮せず。
次回のテーマは「現実改変」についてです。ではごきげんよう。