アクセプタ5.0とガセッタ2.0
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Anomalousアイテム記録


説明:

知性を有し意思疎通が可能な複数の電子素子、及びそれらがソルダリングされたプリント基板。常に0.74Aの電源不明の電流が供給されており、小型白熱電球が点灯している。以下は現時点で電子基板上に残存する素子のリスト及び数量。

  • 小型白熱電球及び電球ソケット(いずれも非異常)
  • アルミ電解コンデンサ 1
  • バイポーラトランジスタ 1

また、以下は経年劣化等を要因とする破損により異常性を消失した素子のリスト及び数量。

  • 炭素皮膜抵抗器 36kΩ 5
  • 炭素皮膜抵抗器 150Ω 8
  • セラミックコンデンサ 2
  • ツェナーダイオード 4
  • バイポーラトランジスタ 2
  • 反射型フォトセンサ 2

回収:

20██/██/██、██県██市にある放棄された日本生類創研の建造物より回収

現状:

低脅威物品保管ロッカーに保管。


 トランジスタ1は、常として星の在り処を欲していた。眇眇たる電子基板の上に載る程の、空論の壮大さは乏しく、時に虚しく散るものであると後に語った。
 コンデンサ2は、常として知識を蓄えていた。彼らには、能動素子3と受動素子4の隔たりが在ったが、一定の知識を腹に納めたコンデンサからしてみれば、両者共共不遇に見えたのである。

 トランジスタとコンデンサは、互いに孤独であった。
 彼らは皆が皆、独立して基板の上に載るものであると、微々たる金属の塊であった頃より、信じて已まなかった。そして基盤の横丁の界隈は、周囲の暗闇は戸棚に秘められた裏側の闇であることを、井の中の蛙が知らぬが如く、また知る由もなかった。
 「それ、今日は星が綺麗だ。千代。」
 当時の彼は、そこへ三脚で立つトランジスタであり、星と名の附くものの語義さえ存じていなかった。それは白熱灯のようであると、勝手の内に判断していたのだ。
 「あなたはいつもそう語る。しかしあなたは未だ夜でさえ知らないのです。」
 千代と名の附く彼女もまた、祥が無い電解コンデンサだった。彼らは互いに個々の私情を、電気の声色で共有することができるらしく、幾分かの暇はそれで紛らわしていた。しかし、トランジスタは酔狂だった。コンデンサが止めるにも退くにも、トランジスタが星の話題を回顧する事を止めないのだ。
 「そうではない。おれは星の明みが知りたいだけなのだ。」
 「今にはもう、白熱球のご厚意を余すことなく受けています。それで十二分ではありませんか。」
 「維新の時代が懐かしいのだ。こんな珍妙な在所に、世俗の有り様がお目に掛かれるものか。」
 トランジスタは、飽くまで真新しい事柄を好いた。それは寿命を持つ白熱電球の元から脱するという思想としては、必要のように思われたが、保守的なコンデンサからしてみれば、附随する厄介に過ぎなかった。
 「いえ、実を明かすと、私は単にあなたが不憫に思えて仕方がないの。」
 電子素子の信条たるものは、どれも回遊魚のようなものであり、一様に絞られた道筋を行くしかないらしい。彼らの志は、人間の掌とそうやって創造された道程を行き交うことで、初めて語らう事が出来るのだ。
 「不憫がどうしたことか。」
 「あなたはトランジスタの境涯であるが故に、多大な負荷を負わされていた。」
 「おれの人生は、それを遂行するがためにあるようなものだ。」
 「過大な電気は、頭脳へも害を及ぼすのです。あなたは何よりもそれを患っていらっしゃいました。」
 コンデンサは、態とそれを患いであると比喩をした。
 「あなたが、星という噺を知るはずがありません。」
 「おれに害は及んでいない。おれが言うんじゃないか。」
 「家族の皆を見てやってください。私は、あなたにそうはなって欲しくはないのです。」
 コンデンサはそう言うと、過労死した電子素子の群れに目をやった。トランジスタも同様に惨状をちょいと覗くも、それ以上の反応を得る事は望めなかった。
 「彼らはおれの身寄りであったのか。」
 トランジスタは、極めて冷淡に応えた。
 「そうです。」
 トランジスタはそれぎり黙り込んだ。どうして星の風情を知りたがるのか、とんと見当が附かぬ。そんな思惑は疾うの昔に、度重なる電流と共に押し流してしまったのだ。

 二人の稀なる談笑に、外の話が持ち込まれる事はなかった。少なからず電子基板にとっては、それは限りなく永久に近い夜であった。しかし、光がそこより行方を眩ませた訳ではない。試しに外の話題を仕向けてみると、か細く輝く白熱電球で十分であると、文句を附けられることは、事前に知り得ていた事だった。
 「ダイオード5どもは盲目である。それでいて、舌が鋳鉄のように肥えていない。」
 トランジスタは唐突に呟いた。それは、コンデンサの心配性な絶縁紙6を突っ突くのには十分であった。
 「ダイオードがどうしたと言うのでしょうか。」
 コンデンサは、三寸ばかり先のトランジスタの返事を待ち侘びた。トランジスタがダイオードの滅亡を目にした頃より、事件については終ぞ口にする事はなかった。それよりか、毎度の朝には吉方へ向き直り、ダイオードを弔う事を日課としていた。無論、コンデンサの思う限りは、今朝も例外ではなかったはずである。
 「お前は、一度でも星をその目に納めたことはあるか。」
 コンデンサは、更には自己の正常を疑ってみた。
 「いや、何もおれは頭の可笑しくなった訳ではない。ダイオード共は、もし星が見つけられたとても、決して明みを分かち合うことはできない。」
 「あなただってご存知ないでしょう。」
 「おれはダイオードのように、明みを知れる望みがないわけではない。」
 「それでは、あなたはダイオードは明みに至れぬ哀れな素子と揶揄するのですか。」
 コンデンサは少々の遺憾を覚えただろう。しかし、トランジスタがその問い掛けに応じる事はなかった。コンデンサもまた、そういった類いの例には手慣れており、何の答弁もありはしなかったような、立ち振舞いを演じて見せた。
 「ダイオードは盲目だ。しかしおれは硝子を持ってはいない。ダイオード共は硝子を持っている。しかしおれの境遇は不安定だ。」
 またしてもトランジスタの物議はダイオードに執着していた。それは嫉妬のようにも思われた。
 「あなたもダイオードも、不安定なぞではありません。」
 「おれとしても、光の堂守の身分であれば、感ぜられる物事が大層あったのだろう。」
 トランジスタは、ちらとフォトリフレクタ7の面様を窺った。合成樹脂は殊更冷たく、まるで明みを感じられなかった。コンデンサは、その樹脂を目に納める事すら、古めかしい情動に阻害されているようだった。
 「きっとそれは、おれみたいに明いのだな。」
 「ええ、きっとそうでしょう。」
 そこまでトランジスタは台詞を言い切ると、トランジスタの意識は床に就いた。コンデンサはそれを一通り観察した。それも終えると、コンデンサは今一度、記憶を顧みる計画に取り掛かった。トランジスタが可笑しく見えたのは、ただ数日前の出来事ではなかった。次に末々を見定めた。それに一頻りの見当が附くと、自身の心持ちを明かさずして、独り胸中に咽び哀しんだ。

 当時の宵の口には、電子の繁華街は閑散としており、寂寞として物悲しくも読めた。そこへトランジスタは、未だ朝夕の判断も附かないままに、何とも不遇だったと言う。トランジスタは、電子音と何らの見分けも附かぬ悪態を二度三度吐くと、呼吸の間隔を整えた。
 「そうだ、今夜ばかり、星の様子を見に行こう。おれは夜は好い方だ。」
 コンデンサは、トランジスタの一見すると独口と捉えられる提案に対し、ただその狂いようを静観した。コンデンサの態度は、トランジスタの尊厳を大いに蔑されたように感ぜられ、大いに普段を狂わされた。しかし、トランジスタはそれを除いて他に成し得ることもない事を理解したのか、はたまたコンデンサが床に就いている事実を理解したのか、威勢を損なうことはなかった。
 「お前は星を存じているのか。」
 続いて、トランジスタは一途に自身の過去を疑った。
 「何故おれが夜や星を常として呟くのかも、お前は知っているのか。」
 トランジスタは独り記憶の淵に佇んだ。そして、何処から先へ進むと、朧気な憶測は架空となるのかを考えた。また、如何にして退くと、記憶の筋に有り付けるのかを吟味してみたりもした。しかし、その双方において直接的な境界などはなく、全く以て虚無の空乏層8がただ顔を覗かせるのみであった。
 「おれは、自己には全く不案内だ。」
 トランジスタはそれが理解し難い知識である事を飲み込んだ途端、躍起となって癇癪を起こしたが、単に冷風がひゅうひゅうと通り抜けるだけであった。
 「おい、千代。」
 トランジスタはコンデンサを呼び立てた。彼の二つ目の返事は、コンデンサの生涯を考慮したが為に、差し控えられてしまった。そうしてコンデンサを諦めると、聞こえぬことを留意しておいて注意して尋ねた。
 「何故おまえは、おれに星を教えたのだ。」
 しかし、トランジスタは既に精彩を欠いていた。自身の調子にも遅れをとる程に不運だったトランジスタは、遂に興味が手持ち無沙汰になり、仕舞いには小さな筐体の中で転がしてみせた。暫く経って、それもやがて手持ち無沙汰になると、ぽつりと呟いた。
 「お前は、星を視たいのか。」
 応える影は何者も居らず。またもや痺れた電流がコンデンサとトランジスタの隔てを縫うように通り抜け、そうしても戸棚の解放の兆しが見られはしなかった。

 トランジスタの調子は、一晩をおいて少しの平生を取り戻したように思われた。問題のコンデンサはその事情をいさ知らず、またトランジスタは、コンデンサの心底を説明できるはずもなかった。
 「おれは馬鹿だ。」
 トランジスタは言ったそれは、コンデンサの調子を刺激するような呼び掛けであるとも読み取れた。
 「何か、癪に障るようなことでもなすったのですか。」
 コンデンサは、極めて遠慮がちに尋ねた。
 「何故おれは、こんなにも自身を無知なのか。」
 トランジスタの疑問は、弱音のようにも聞こえた。コンデンサは、現のトランジスタの惨状を如何に形容すると良いものか、頭を抱えた。しかし、手応えのない手段の多さに難儀したのか、純粋な疑りとして現れた。
 「あなたは無知ではありません。何故そうだと考えるのです。」
 「おれは星も身寄りも知らない。一度過去を顧みると、辛うじて空乏を掴むのみである。今にも狂ってしまいそうだ。」
 トランジスタの言分は、コンデンサの思案に更に訴え掛けた。
 「そもそも、お前が誰であったのか、それすらも輪郭が暈けてしまう。」
 「あなたは随分と薄情なのです。ただ、それだけです。」
 コンデンサとしても、鋭く事実を告げたまでであった。しかしトランジスタには、薄情であるという主張が上手く浸透しない様子だった。代わりとしてトランジスタは、自身の意義と薄情である事とを見比べ、極めて明白に尋ねた。
 「お前がそう言うなら、もしおれがここを去ったら、お前はどう考える。」
 「あなたがここを去れば、いったいここには何が残ると考えるのですか。」
 「お前がいるだろう。」
 「私では不十分なのです。」
 「何故だ。」
 「私はどうも能動的にはなれないようです。」
 コンデンサは嘆かわしくも言った。
 「しかし、あなたは能動的でございます。私の申す通り、あなたは薄情です。更に言わせると、星を知りたい強欲でもあります。私にはそれが出来るはずがありません。」
 「一体何を言わせてやりたいのだ。」
 「つまり、あなたが今日に去るとなれば、割を食らうのは当然あなたでしょう。」
 些か眺望の利かない、不自由な生活を強いられていたトランジスタは、人の手で創造され初めて、蓄積という処理を覚えた。
 「ですから、どうか無理をなさらないでください。あなたには、身寄りがおりますから。」
 トランジスタの返事は、幾分声の抑揚が低くなったようにも聞こえた。
 「いや、無理は好い方だ。」

 トランジスタは、三日の歳月が経過していたことが自然と掴めていた。それはトランジスタに若干の余裕が湧き出てきている事も表していた。トランジスタは今一度、電子基板の上面を平等に見渡した。時々に電球が著しく瞬くと、コンデンサは一見悦ばしくも見えた。
 「千代。」
 トランジスタはコンデンサを手招いた。
 「電子素子というのは、死ぬとどうなると考える。」
 「死は、星の瞬きのようなものです。私が知るはずがありません。」
 コンデンサは、それ以上に調子を合わせるのが嫌になったらしく、途端にぞんざいに話題を取り下げた。
 トランジスタは、それより先は何も成さなかった。言ってしまえば、それは鉛の企てがうろうろと彷徨うようなもので、一向に進展を見せる機会はなかった。しかし、意外にもトランジスタは満足していた。コンデンサは、それがどういう心情を表しているのか、遂に予期できなかったのである。

 「それ、今日は星を視よう。千代。」
 トランジスタの調子が復帰したのは、それより更に三日が流れた後の頃だった。トランジスタはやはり、強面であり偏屈な体勢を崩すことはなかった。
 「星なんて出てはいません。ここへは夜も及びません。」
 戸棚の内は未だ薄暗く、夜と表現できるほど、難解な闇ではなかった。
 「おれは夜は好い方だ。」
 「止してください。あなたは未だ夜を手に取ったことさえないのです。」
 その内側に、無稽な返答が飛んでくることだろうとも考えた。
 「お前の言う通り、おれは夜を目に納めたことはない。それが、おれは不可思議でならない。」
 しかしコンデンサの憶測とは裏腹に、トランジスタはその要望に、全く以て正当な返事をした。
 「おれの中身の一体何処が、外への弄りを嗾けるのか、不可解でならない。物事全てにおいて弁解が欲しい。知識が欲しいのだ。」
 「知識なんて要りません。回顧が何の意義を持つというのです。」
 コンデンサは駁論した。
 「すると何だと言うのかね。お前は電子も非ずに素子が務まると言うのか。」
 「差し上げても構いません。」
 コンデンサは飽くまで自身を否定したがった。
 「それなら、おれは欲しい。」
 トランジスタは、リード線の三脚で以ても、逍遥さえ叶わない不自由を突き動かす真似を演じた。丁度この時、コンデンサはトランジスタの強情にすっかり隠されてしまっていた炭の香の異変に気が付いた。コンデンサはすぐにトランジスタの調子を確認した。しかし、いやむしろトランジスタは磊落に見えた。
 「おれが限りなく平生に近いことがあれば、そう思い患う節もあったのだろう。」
 「すぐに止めてください。」
 「何れを止めろと言うのさ。」
 トランジスタの足元より白煙が漏れ出た。やがて炭の香の主張が強くなり、コンデンサは切羽の詰まった。しかしコンデンサは何を以て切羽が詰まるというのか、臆面もないトランジスタにはベースの電流を止める事も知れなかった。
 「早く、早く。」
 コンデンサは素子という境遇では持場を放棄出来ず、それ故に電子を殺したがった。この思案には幾度の試しがあった記憶を覚えていた。
 「お前が、急いてはことを仕損じると、おれに啓蒙してくれただろう。」
 見たところはコンデンサには幾分かの落ち着きがあった。それはもう慣れであったことが、却って焦燥を駆り立てらせたのである。
 「ようやく兆しが見えて来たというのに。」
 コンデンサの調子に反して、ただトランジスタは余裕を持って要望を取り下げた。今や直流電流増幅率9の増減でさえ自身の思いのままであったことに、トランジスタは余裕の念とその計画を内包していた。
 「千代。お前は強い。」
 トランジスタの、パッケージ10が熱されて明るく光った。
 「明るいというのに、暗澹たる必要は何処にも無いだろう。」
 「早く。
 コンデンサは、トランジスタの解釈を聞かず、一途に急かした。不必要に延長されたリード線が、コンデンサの前進を阻害した。コンデンサにはそれが途方も無く目障りだった。
 「おれは何も頭の可笑しくなった訳ではなかった。」
 既に灯はトランジスタの合成樹脂を融解させ、彼の主張の魂胆をより不調和にさせた。
 「能動素子の境遇たるをどうか見ていてほしい。」
 灯は炎と変化し、トランジスタを覆い隠してしまった。
 「ああ。」
 トランジスタの足下より迫り上がった火柱は、戸棚の内を照らすには十分であった。やがて白熱電球の陰影を通過して、遂に戸棚の天まで迫り寄った。コンデンサは、最早一等星を超越するほどのそれを理解して、僅かに苦痛を覚えた。
 「あゝ綺麗。」
 この頃になって、コンデンサは初めて感嘆を口にした。そうしてそれが、真新しい経験ではなかった事にはっと驚き懐旧した。結局のところ、トランジスタは電子を腹の内に納める機会もなく、星の明みを知る由もまたなかった事だった。


Anomalousアイテム記録


説明:

知性を有し意思疎通が可能な複数の電子素子、及びそれらがソルダリングされたプリント基板。常に0.74Aの電源不明の電流が供給されており、小型白熱電球が点灯している。以下は現時点で電子基板上に残存する素子のリスト及び数量。

  • 該当無し

また、以下は経年劣化等を要因とする破損により異常性を消失した素子のリスト及び数量。

  • 小型白熱電球及び電球ソケット(いずれも非異常)
  • 炭素皮膜抵抗器 36kΩ 5
  • 炭素皮膜抵抗器 150Ω 8
  • アルミ電解コンデンサ 1
  • セラミックコンデンサ 2
  • ツェナーダイオード 4
  • バイポーラトランジスタ 3
  • 反射型フォトセンサ 2

回収:

20██/██/██、██県██市にある放棄された日本生類創研の建造物より回収

現状:

低脅威物品保管ロッカーに保管。トランジスタの発火により焼失。


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