里親募集ポスター: マイロ!

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ハロー!!ぼくの名前はマイロ!!

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爆音の鳴き声と共に、暗闇から突然飛び出してきたマイロ!

僕のご主人様になって!

住み心地の良い愛情たっぷりの家を、スリー・ポートランド-ボーリングの辺りに探しています。え?姿が見えないって?いやいや、ここに居るよ。というのも、僕は死んじゃってて"幽霊"なんだよね。よかったら、そこにあるビデオやカメラを通して見てみて!元気いっぱいに走り回る僕の姿が見えるはず。もしかしたら、恐怖映像になってビックリさせちゃう事もあるかもだけど、悪気はないから笑って許してほしいかな!

僕は"幽霊"だけど、憑りついて呪ったりなんてしないから安心して!僕にとっての一番の喜びは、ご主人様と一緒に過ごす事。楽しい時は一緒に遊んで、悲しい時はただ側に居てあげたいんだ。自慢じゃないけど僕は賢いから、細やかな気配りにも自信があるつもり。

僕は知らず知らずの内に、色んな心霊現象を起こしちゃう事がある。寝ている間にポルターガイストを起こして部屋の中をめちゃくちゃにしちゃったり、家中の窓や天井に真っ赤な足跡を残しちゃったり。時には、"何か"を呼んでしまう事もある。家のドアが乱暴に叩かれたのに誰も居ない時、暗闇で何か動いている時、目が合っちゃった時、僕の名前を呼んで!そして、僕と一緒に皆で遊ぼう!友達を増やせる大チャンスだよ、ご主人様!

僕は一人っきりが苦手なんだ。だから、外に繋いだり犬小屋に住まわせたりしないでほしい。まぁ、そうなっても、僕は壁やドアでもなんでもすり抜けられるから、勝手に家の中に入っちゃうんだけどね。あと、本当はご飯は必要ないんだけど、毎日決まった時間にオヤツが欲しいかな。その方が愛情を感じられる気がするからね。

僕についての重要事項!

  • 毎日、散歩に連れていって!ふわふわ飛んで何処でもついていくよ!
  • 僕はご主人様の役に立ちたいんだ。何か仕事をくれたら張り切っちゃう!
  • 例えば、何かを持ってきてほしい時は僕の名前を呼んで!
  • でも、番犬のお仕事だけは苦手かも……。誰が来ても、お友達になっちゃうからね。
  • 僕は寂しがりだから、一緒に居る時は出来るだけ構って!
  • イタズラしちゃダメな物は先に教えてね。壊さないよう気を付けるよ。
  • いい子にしてたら、オヤツを頂戴!
  • リラックスできる寝床があると嬉しいかも。中に居ると安心だから、ケージとかも全然嫌いじゃないよ!

昔の里親さんたちからのメモ!

マイロはそこに居るだけで生きる活力を貰えるような、元気ハツラツなワンちゃんだったね!でも少し元気すぎる所があったのかもしれない。私の愛する息子・リーバイと一緒に遊んでいるうちに、マイロはリーバイに憑依してしまった!部屋中の電気が点滅する中、大声で笑いながらブリッジの姿勢で走り回る息子を見た時は心臓が止まりそうになったよ!というか実際に、一緒に見ていたおばあちゃんがビックリしすぎて倒れてしまったんだよね。

リーバイは何回でも憑依ごっこをしたいみたいだけど、それ以来おばあちゃんは大反対。そういう訳なんだ。本当にごめんね。マイロ……。

~スーザン・ロップ

夢を見たんです。私は、酷い悪臭がする薄暗いトンネルの中を歩いていました。途方に暮れながらも、少し奥にライトの光があって、私はそれを頼りに前に進んでいました。悪臭は花の様な良い香りになっていき、ボロボロだったアスファルトは徐々に舗装された立派なものになっていったので、私はそれが正しい方向だと思って疑いませんでした。

でも、もう少しで光に辿り着くという所で、後ろからマイロの鳴き声が聞こえたんです。それは私を呼んでいるような気がして、私は戻ったんです。後ろに進むと、アンモニアみたいな刺激臭がして、上からベタベタな汁が降ってきて、先に見えるのは赤い光、そして不吉な轟音が響いていました。でも、マイロの鳴き声は聞こえ続けていたせいか、不思議と不安はありませんでした。

そうして気が付くと私は病院のベッドの上で目覚めました。そうです。仕事中の事故で生死を彷徨っていた私を、マイロは導いてくれたんです。本当に感謝しています。……ただ、私は脊髄を損傷したせいで胸から下が動かなくなってしまいました。マイロは元気な犬です。私の元では、きっと窮屈な思いをさせてしまう。離れたくない気持ちはありますが、でもやっぱり、私より良い人に巡り合ってもらえればと思っています。どうか、どうかお願いします。

~キーオン・ゲレッティ

わたしゃ里親っていうより、キーオンの代わりに一時的に面倒を見てただけなんだがね。まぁ、事故の事は残念だけど、死なずに済んだのなら上等さね。

そんな事よりマイロだけど、本当に「いいこちゃん」だね。静かにしてほしい時はじっと我慢し続けて、遊んでやろうってなれば、色んな心霊現象を起こしながら、壁や天井をすり抜けて走り回る。本当にとことん遊ぶ。まぁ、確かに心の臓が弱いと少しビックリする事もあるだろうけど、わたしゃ毎日鍛えてるから全然平気だったよ。

でも、少し聞き分けが良すぎる気もしたね。遊ぶのをやめるよう言った瞬間、ピタッとやめるのさ。そこだけは逆に少し可愛げが無いかもね。もう少しワガママでもいいと思うけど。……生前、何があったのか知らないけどさ。

~ニーナ・ゲレッティ

マイロは2012年に保護された迷い犬です。
縁組についての更なる情報は:
住所: スリー・ポートランド、ノース・ディアウェイ通り31番地
電話: (503)-555-0187
Eメール: etis.snoitulosefildliwsnosliw|ofni#etis.snoitulosefildliwsnosliw|ofni
Void: Wilson's Wildlife Solutions! ⁂wilsons-wildlife

送信者: イヴ・ホイットフィールド
受信者: アンダース・ウィルソン
受信者: 2023/5/03

ウィルソンズ・ワイルドライフ
ご担当者 様

初めてご連絡いたします。
スリー・ポートランド在住のイヴ・ホイットフィールドと申します。

標記の件につきまして、以前よりマイロの里親募集ポスターを拝見しておりました。もし、現在相談中の里親希望者様が居ないようでしたら、是非里親になりたいと思いご連絡いたしました。

飼いたいと思った理由としては、率直に子供の頃から抱いていた、犬を飼いたかったという想いがあったことが一番の大きな理由です。ただ、憧れや夢という感情ではないかもしれません。


私は、一匹の犬を殺してしまったんです。


それを償いたいという想いも強いのです。大変恐縮ですが、ご都合の良い日にそちらにお伺いし、その辺りの事情や譲渡条件など、縁組についてのご相談をさせて頂ければと思っております。

こうした里親希望のお問合せをするのは初めてで、いきなりメールで自分の考えを一方的にお送りするのは不適切かもしれないと思いました。しかし、本気で里親になりたいという気持ちを伝えたいと思ったのと、なんとなく隠し事をしたくないという気持ちから、こうした形となってしまいました。申し訳ありません。

改めて、里親についてご検討いただければ幸いです。

イヴ・ホイットフィールド

送信者: イヴ・ホイットフィールド
受信者: アンダース・ウィルソン
受信者: 2023/7/12

アンダースさん

いつも、ありがとうございます。おかげさまで、マイロとの生活もすっかり慣れました。本当に聞き分けが良くて、とても助かっています。色々あったけれど、"ほとんど首だけの人"や、言葉の通じない"中身を引き摺ってる女の人"も今ではすっかりマイロのお友達です。最近は皆でフカフカの洗濯物に潜り込む遊びがブームみたいです。

それで、本題になりますが、この間行ったんです。あの場所に。結論から言うと、やっぱり私の思った通りでした。


マイロは私が見殺しにした、あの時の犬でした。


アンダースさんには一度話しましたが、実際に行ってみて新しく分かった事もあったので、少しまとめ直そうと思います。


子供の頃に住んでいた家の近所に、犬を飼っていたお宅があったんです。そこに飼われていたのが生前のマイロでした。(その時はタッカーという名前だったらしいです)マイロを飼っていたギルフォイルというおじいさんは、少し変わった人で、母には『あまり近づいてはいけない』と言われていました。

でも、私は幼かったのもあり、その時のマイロに興味津々だったんです。家の前を通りがかる度に、挨拶をしていました。マイロは人懐っこく私に近づこうとしてくれました。鎖が届かなくて、触る事は出来なかったけれど。

今思い返せば、明らかにおかしかったんです。その時のマイロは酷く痩せていて、手足は真っ黒に汚れていて少し嫌な臭いもしていました。マイロは飼育放棄をされていたんです。

しかも話を聞けば、ギルフォイルさんに蹴られたり石を投げつけられたりするのを見た人も居るそうです。そんな状態で、満足に餌を貰っていなかったのだと思います。雨ざらしの屋外で、泥だらけの状態で排泄物の世話もされていなかったんでしょう。短い鎖で自由も無く、運動も出来なければ爪を削る機会も無い。既に何かの病気だったのかもしれません。

ある日、いつものようにマイロに会いに行くと、マイロは居ませんでした。私は本当に小さい声で、(当時、何て読んでいたのかは覚えていませんが)マイロを呼びました。でも、返事は無くて。

代わりに出てきたのは、怒った顔のギルフォイルさんでした。私は萎縮して本当に動けなくなりました。でも勇気を振り絞って聞いたんです。「あそこに居たワンちゃんはどうなったんですか?」って。

その瞬間、何かが爆発したかのように、物凄い剣幕で叫ぶように、怒鳴り始めたんです。それから、私は怖くて泣いてしまって、それからその場からどうやって離れたのかは覚えてないんですが、かなり長い時間一方的に怒鳴られていた気がします。

それから少し経って、その事を思い出した時、私は自分のした事に気付きました。

私は、「近づいてはいけない」という言いつけを破っていた事を怒られたくなくて、マイロの様子が明らかにおかしいのに気付いていたのに、自分の中に全てを留めていました。

自分がその時に勇気を出して何かをしていれば。警察や保健所、それこそWWSの皆さんの様な団体に連絡したりだとかが出来ていれば、マイロは死なずに済んだかもしれない。アンダースさんは私が幼かったのもあるし、それこそ誰も悪くないと励ましてくださいましたけど、そんな事は無いと思うんです。

今になっては、ギルフォイルさんも亡くなってしまって、マイロが実際にどうなったのかは分かりません。でも、どうなっていたとしても私のした事は変わらない。

私は、マイロを見殺しにしたんです。


この写真を見てください。マイロは忘れていたのかもしれない。でも、この場所に来て生前を思い出したのかもしれません。いつもなら明るくハッキリ見えるはずのマイロが、こんな風にドロドロに崩れるなんて初めてです。

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正直、これからのマイロとの生活がどうなるかは分かりません。今のマイロは写真の時よりも更に崩れ続けて、赤白い空中を漂う塊になって、原形を留めない状態になっています。

でも、私はこれからもマイロと一緒に暮らそうと思っています。それが私にできる唯一の償いですから。

イヴ・ホイットフィールド

送信者: イヴ・ホイットフィールド
受信者: アンダース・ウィルソン
受信者: 2023/7/18

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それはキッチンに現れた気がして、私は写真を撮りました。
居ませんでした。
でも、居ないわけが無いと思って、何度も写真を撮りましたが、居ませんでした。

私もアンダースさんと一緒で、マイロは番犬に向いていないと思っていました。でも、それは間違いでした。幽霊だから、怖いんじゃないんです。相手が敵意を持っているから、自分に害があるから怖いんです。マイロはきちんと守ってくれていたんです。そういうものからも。

最初に出た時、また"ほとんど首だけ"君かなと思ったんです。気配がして、私はキッチンの方を見ました。でも違ったんです。それを繰り返していると、窓の向こう、普通にちゃんと全身がそろっているおじいさんが、こちらを見ながらゆっくりスタスタと歩いてくるのに気付きました。

私は何故かその様子が怖く感じて、逃げようかと思ったんです。でも何故か動けなくて。

ふと気づいた瞬間、窓の向こうには何も居なくて、同時に家のドアがドンドン、ドンドンと乱暴に何度も叩かれました。そして、ドアノブをガチャガチャ回しながら「開けろ!」って叫んでいて。脅え切っていたのか、自分自身ワケが分からず、私はその命令に従わないといけない気がしていました。ドアを開けると、恐ろしく怖い顔をしたおじいさんが立っていて、見た瞬間分かりました。


ギルフォイルさんでした。


頬がぴくぴく動いた後、何かを怒鳴り始めたんです。私はあの時みたいにすっかり萎縮して、耳を塞いで目を瞑ってしゃがみこんだんです。それから、どのくらいの時間が経ったのか分かりません。ある時、急に静かになったんです。

ゆっくりと目を開けて、周囲を見渡して何も居ない事を確認しました。どこにも、居ない。気分を落ち着けようと、またキッチンに戻ったんです。窓の向こうにも何も居ない。水を一杯飲んで、テレビをつけて。そうすると、後ろからマイロの鳴き声が聞こえてきて。

私が安心して振り向くと、「目」がありました。視界の全部がギルフォイルさんの目で埋まる位、顔が近くにあって。その目は、ゆっくりと顔の大きさを無視して大きくなっているように見えました。ぐにゃぐにゃ歪みながら、鼻や口を押しのけながら膨らんでいて。でも、泣いていて。その目は何かを訴えかけてくるようでした。つかみどころが無い悲しみというか、全ての物が疑わしく見えるような不安とか、ぶつけようのない怒りとか、嫌われた悔しさというか。とにかく不安にさせるその目に、私は言い知れない恐ろしさでおかしくなりそうでした。


でも、私は何とか声に出したんです。「助けて。マイロ、助けて。」って。


本当に小さい、か細い声だったと思います。でも、マイロは来てくれました。私とギルフォイルさんの間にいきなり飛び込んできたんです。カメラ越しじゃなくてもその姿はハッキリと見えました。私はその隙にあの「目」から逃れる事が出来ました。私をかばうように前に出てくれたマイロの脚はガクガクと震え怯えているようにも見えましたが、マイロの目はしっかりと前を向いていました。

次の瞬間、ギルフォイルさんは何かを命令するかのように怒鳴り、マイロは一瞬びくっと身を屈めました。でも、マイロは自分を奮い立たせるように爆音で鳴いたと同時に、ギルフォイルさんの顔前に瞬間的に移動して押し倒しました。

ギルフォイルさんは、いつの間にか消えていました。床に倒れこむ前の一瞬の内に消えたんだと思います。申し訳なさそうに近づいてくるマイロを私は抱きしめながら、私は泣くのを我慢する事が出来ませんでした。私の頬を舐めてくるマイロの体温は無いはずなのに、私は不思議と温かいように感じました。


メールを書いている今現在、マイロはまたカメラ越しで無いと見えなくなってしまいました。でも、マイロは少し元気になったみたいです。

深夜に、いきなりメールを送ってしまってすみません。また明日、お電話します。そして、できれば一緒に来てもらえませんか。あの場所に。

イヴ・ホイットフィールド

送信者: イヴ・ホイットフィールド
受信者: アンダース・ウィルソン
日付: 2023/7/21

アンダースさん

先日は本当にありがとうございました。あの場所で、あの瞬間に立ち会ってくださった事、本当に感謝しています。とても、心強かったです。

1日経ったので、改めてあの日の事を少し整理してみました。個人的なお願いも兼ねて、メールします。


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あの後すぐ、マイロは昔のギルフォイルさんの家に行きたがっているように私には思えたんです。それは間違いではありませんでした。現地に着くと、マイロは玄関の辺りの土を掘りながら、鳴き始めたんです。ウィルソンズの皆さんに協力してもらって掘り返していくと、それほど浅くない所にそれはありましたね。


マイロの肉体は、そこに眠っていました。


当然だけどマイロの肉体は既に骨だけになっていました。そして、首には短い鎖が巻き付いたままでした。

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それから、ウィルソンズの皆さんが色んな専門家の方を呼んで下さって、骨を集める作業は結局1日がかりになってしまいましたね。そうしている間のマイロの体はボロボロになっているのが分かりました。改めて自分が死んだ事を理解したからなのか、マイロの元気がみるみる無くなっているのは誰の目にも明らかでした。

汚れ痩せ細っていき、次第にバッタリと倒れマイロは瞬きをしなくなりました。微かに動いていて、呼吸をしているようでしたが、体はボロボロになり続けました。ガスで膨らんでしぼんで、そうしてから腐り、朽ちていく様子は目を背けたくなるようなものでしたが、私はこの様子を見届けなければならないと思いました。


私が見殺しにしたせいで、マイロはこうなったのだから。


マイロの体の骨が見え始めた頃、いつの間にかマイロの横にギルフォイルさんが立っていました。あの日に見たような恐ろしさは無くて、マイロの様子を見てすごく小さい声で何かを喋っていました。

ギルフォイルさんが手を伸ばすとマイロは突然起き上がり、噛みつくような仕草を見せました。でも、直前で止まってスッと懐に入り、ギルフォイルさんも目を瞑り優しく抱きしめていました。

そして、次の瞬間、同時に首を急にガクっと曲げて、マイロとギルフォイルさんは私を正面から見ました。目の部分は真っ暗な空洞という端から見ると恐ろしい状態でしたが、怖くはありませんでした。敵意とか悪意とか、そういう物は全く感じなかったので。


その目を見た瞬間、私は不思議な追体験の様な物をしたんです。


その時、私はギルフォイルさんの当時の想いを追体験したんです。ギルフォイルさんは、思っていた通り偏屈な所がある人でしたが、理解者が居たんです。それは、ギルフォイルさんの奥さんでした。奥さんは優しい人で、子犬だったマイロを保護してお世話し、マイロの心優しい気質の根源になった人でもありました。

ただ、仕事中の事故で先立たれてしまってから、全てが変わってしまったんです。周囲に理解者が居なくなってしまったギルフォイルさんは、そのストレスを知らず知らずの内に、抵抗しないマイロに向けてしまいました。もちろん、ギルフォイルさんも自分のやっている事は酷い事だと、情けない事だと思いながらも、もう止める事が出来なかったんです。

「虐待している情けない自分」を直視したくなくて、自分の弱さと罪に向き合いたくなくて、虐待をし続けた。でも、それは長続きしません。最終的に「虐待をしている自分」自体がストレスになっていき、虐待されても抵抗せずに優しいままのマイロを見ると、奥さんの事を思い出して見る事も嫌になり、飼育放棄気味になってしまったんです。


そこまで見た所で、私は戻ってきていました。


時間にすれば、1秒も経っていない短い時間でしたが、私は確かにそんな体験をしたんです。ギルフォイルさんの想いは痛い程分かりました。自分の罪と向き合うのは本当に苦しい。だからこそ、私は逃げたくなかったんです。

私はマイロに改めて謝ろうと思いました。でも、それを見透かすようにマイロは白くてフワフワの状態に戻って、私に向かって、ワン!!って吠えたんです。

私は言葉を飲み込んで、笑顔で「おやすみ、マイロ!」と言いました。マイロはそれを聞くと安心したように笑顔になって、くるりと背を向けました。

マイロの傍らにはギルフォイルさんと、いつの間にか奥さんも居て、マイロは奥さんに抱かれて、そしていつの間のか消えていました。


以上、振り返り終わりです!すみません、長々と。それで、もし良ければお願いがあったのですが。むしろ、こっちが本題です。

ウィルソンズさんの所って、動物保護のボランティアなんて募集していたりしていないですか?





















送信者: イヴ・ホイットフィールド
受信者: アンダース・ウィルソン
日付: 2023/8/27

アンダースさんへ

お久しぶりです。近況報告でメールしました。
マイロが、戻ってきた時は本当に驚きましたね。しばらく経ちましたが、昨日のことのように鮮明に思い出せます。暗闇から突然現れるなんて、いつもの事だったのに、あの時はすっかり腰を抜かしてしまいました。いや、流石にあの状況だと、成仏したんだと思っちゃいますよね。

今も、私はマイロと一緒に楽しく暮らしています。相変わらずいい子だけど、最近は少し「もう少し遊んでいたい~!」ってワガママをする時もあるんですよ。"ほとんど首だけ"君や、"引き摺り"さんとも相変わらず遊んでいるみたいです。

あと、少し前にご紹介頂いた昔の里親さんの所にも、マイロと一緒に遊びに行ったりもしました。事故に遭ったキーオンさんは、これでリハビリも頑張れるって張り切っていました。一緒に居たニーナさんもマイロを見て「一皮剥けたね、良い顔だ」なんて言いながら本当に嬉しそうにしていました。

スーザンさんのお宅は厳しいかもと思ったんですが、反対しているというおばあさんとニーナさんが古いお友達だった事が分かって、上手く話してくれました。リーバイ君はブリッジしながら凄くはしゃいでいたけど、私にはスーザンの方が泣いて喜んでいたのが印象的でした。これからも、ちょくちょく遊びに行きたいと思っています。


ギルフォイルさんの件、私は今でも考え続けています。凄く辛い状況で、仕方ない所もあったと思います。でも、私は彼を許しません。マイロが許しても、私は死んでも許しません。

マイロは死んでしまったんです。美談にする気はありません。

そして、私も見て見ぬふりをした私を許さない。自分を責め続けるとか、追い込むとかじゃないですよ。でも、自分がした事を絶対に忘れないようにしたいんです。一生かけて向き合いたい。

ご存じの通り、私はウィルソンズさんの所でボランティアとしてお世話になっています。色んな動物保護活動のお手伝いを通して、何か見えてくるものがあればと思っています。

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そうだ、この写真を見てください。

私の手が少し消えるとかは普段通りの心霊写真ですけど、いつもならハッキリ見えるはずのマイロが半透明に映ったんです。どこに居るか、分かりますかね?

やっぱりマイロが成仏する日はそう遠くないかもしれません。ずっと私達と一緒に居てくれるなら嬉しいけれど、マイロが満足して眠る事を選んでも私は嬉しい。自分の人生を楽しんで、ワガママに欲張りに。どっちかを選ばなきゃいけないなんて無いですから。


マイロはもう自由なんです。


もう、あの短い鎖で繋がれていないのですから。

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