鏡の窓
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鏡の窓

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ああ、ありがとうね。お酒なんて久しぶりだ。ええ、こんなに良いやつ、貰って良いのかい。いや本当、大した話じゃないと思うから、申し訳なくってね。……飲みながら話しても良いかい? いや悪いねえ。
 
で、兄さんが聞きたいのは駅前にあったのぞき部屋の話なんだよな。うん、有名なところではあったと思うよ。何が有名ってあの立地だ。仙台駅前の陸橋……歩道ってのかな、何というのか……ああペデストリアンデッキ、そうそう、そんな感じの名前だ。仙台駅を出てデッキを渡ってほとんど直接たどり着くところに風俗店まがいの店があったんだぜ? 時代だよなあ。今は映画館やらデパートやらの混じった立派なビルになってるけれど。まあその、昔そこにあった雑居ビルの4Fに、のぞき部屋があったんだ。
 
そもそも最近はのぞき部屋って稼業自体がほとんど絶滅してるらしいんだなあ。兄さんは知ってるんだよな、俺にこの話を聞いてきたぐらいだし。ただ多分兄さんが想像してるのとはちょっと違う店だったんだ。普通ののぞき部屋ってのは、個室が並んでて、椅子の対面がマジックミラーになってて、後はそれぞれよろしくやってくれ、って感じで、マジックミラーの向こうの大部屋で女の子が踊ったりするもんだ。要は個室とマジックミラーでプライバシーを守られたストリップ劇場みたいなもんなわけ。その店はね、マジックミラーで出来た窓の向こうもこっち側も大部屋なの。取調室を想像してくれれば良いかな。
 
お客さんのいる部屋は暗くしてあって、椅子が二列くらいに並んでる。で、みんなで背筋を伸ばしてミラーの窓越しに女の子たちのいる部屋を見るんだ。じいっとね。で、女の子たちの部屋はカーペット敷いてて、みんなそれぞれ時間を潰してる。お客さんは好みの子がいたら窓の反対側の電話機を使ってバックヤードに電話して、女の子に電話を取り次ぐんだ。女の子には番号の札を付けてもらっててさ、指名の時は何番の子に変わってくれ、って言えばいいの。そのあとは本人たちで料金やら何やらの交渉さ。まあ要するに売春の為の交渉の場としてののぞき部屋だったんだ。
 
今と違ってネットもないからさ、夜の街での出会いの場ってやつを提供する店だったんだ。だから店の収入は男の人から取る入店料くらいなもんだった。女の子からマージンなんかも取らなかったな。それやっちゃうと女の子と雇用関係が生じちゃうんだよ。そうなるとまずいわけ。明らかに家出少女っぽい子もいたからねえ。床に横になって夜を明かす女の子もたまに居たな。女の子はどれだけ居ても無料なんだ。冷蔵庫の飲み物も自由に飲んでいいってことにして、女の子の出入りを良くしたりもしたな。
 
閉店する2年くらい前からかな、バックヤードの従業員が変なこと言うようになったんだよ。「店長、番号札のない眼鏡の子に変わってくれってお客さんがいるんすよ」って。変わってやりゃいいじゃねえか、って返事するとね、「バックヤードから探すんですけどそんな子いないし、番号札のないままの女の子を部屋に入れることは無い」って言うんです。そりゃそうだ。で、従業員がどの子ですか? って客に聞くと、あれ? みたいなリアクションが返ってきて、妙な様子だってんです。男の人の部屋の電話機はミラーの反対側にあるから、お客さんは電話する時は窓に背中を向けてることになる。その居もしない眼鏡の子を再び探そうと振り返ると、女の子の部屋にはそんな子いないわけだ。
 
で、指名というか、取次ぎの為の電話を受け続けるとその「眼鏡の子」の特徴が掴めて来るんだ。「眼鏡の子」「黒い髪でボブカットの子」「どこどこの制服の子」……まあそんな店に制服で来る子がいるわけないんだけれど。で、さらに気持ち悪いことに、そのころから指名をせずに居座る客がぽつぽつと出始める。
 
まあ商売としては望むところさ。客からは10分でン千円ってやり方で金を取ってる。居たいってならいくら居てくれても良い。ただ女の子の入れ替わりを望むなら店内で張り付いている必要なんてない筈なんだ。上玉の子を品定めしたいなら1時間くらいどっかで飲んでくるなりパチンコ打ってくるなりして、また入店するのが効率的だ。でも彼奴等はずうっと椅子に座ってるんだ。
 
そのうち店員の間でも変な噂が立つ。「眼鏡の子」を見るために彼らは来店してるんだって。指名もせずに。電話をするため目を背けたら彼女は見えなくなってしまうから。
 
指名の電話で一番印象的なのは「窓際に座ってずっとこっちを見ている子」って呼び方だ。窓際は隙間風が吹くからいつも女の子は座っていなかったし、女の子の部屋側からマジックミラー越しにお客さんのことを見る事なんてできないはずなんだから。
 
しばらくすると都市浄化、というのか、風俗業の一掃が始まった。国分町ですらほとんどの店が廃業したくらいだ。駅前なんぞに立地しているウチの店は一発で吹き飛んだね。で、廃業の張り紙をしてるのにまだ客が来る。女の子はいないっていくら説明しても「良いから中に入れろ」なんて言う。さすがに気味悪くて全員追い出したがね。
 
知ってるのはそれくらいかな。物件の引き払いは上が勝手にやったし、後のことは分からないよ。その頃からなんだよね、僕がルンペンやり始めたの。外で暮らせば窓とも鏡とも無縁だからね。

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