以下の記録は、GoI-004C”マクスウェリズム教会”カリフォルニア教区のアイク・C・マスター司教から、GoI-093”PAMWAC”構成員であるPoI-2995、通称”ボルベックス◆BOLVE2995”へと送信された映像ファイルの転写です。
映像記録は2021年5月にカリフォルニア州で発生した、GoI-004Cの内部抗争に起因する壊滅的インシデントの発生原因を示唆するものと考えられています。インシデントにより同GoIのカリフォルニア教区は事実上崩壊したと考えられ、離反したメンバーの残党は米国各地に逃散したものと推定されています。
本インシデントを受けて、GoI-093の警戒レベルは2から8へと特例的な引上げが実施されました。PoI-2995の居宅への強襲作戦は、同人が既に逃走済であったこと、GoI-093が同人を「重大なガイドライン違反」を理由に団体から除名処分していたことにより失敗に終わっています。日本支部理事会決定により、来週から財団日本支部はGOC要注意団体対策チームと合同でGoI-093の大規模調査を実施する予定です。
Record INCIDENT-GoI-004C-11-01
マスター司教の送付した映像
[再生開始]
[マスター司教と思しき人物のバストアップ映像が映し出される。司教はデスクに肘をつくポーズを取り、恐らくはコンピュータに直接接続されたカメラに相対している。司教の下顎部は組まれた両手により隠されている。部屋には照明が点いておらず、背景画像に加工痕が見つかったことから、撮影場所を隠蔽する意図があると見られる。]
[マスター司教の顔は標準的なGoI-004C構成員と同様のサイバネティクス改造を受けているのが確認できるが、その顔は何らかの苦痛に歪んでいるようにも見える]
司教: 実に嘆かわしいことだ。彼女がここまで愚かだとは思わなかった―恩師である私よりも先に、異教徒に相談するとはな。尤も、私を出し抜くことが意図であったなら当然の成り行きかな。
司教: いいかね、ヘンタイジャップ君[原語:HENTAI JAP]。我らがWANは、決して君や彼女が想定していたものではないし、ましてや現在、私の教会で暴れ回っているそれとは全然違う……違う違う違う違う。君を逃がさないし、我々のAIは渡せない。アレは私の見解では、どう考えても邪神の類いだよ。それとも、ヤオヨロズの神とやらを崇めている君の国では、アレも立派な神格のひとつなのかな?
司教: 前置きが長くなったな。私の要求は一つだ。アレを異次元から呼び出した方法と、我々のネットワークから完全に削除する方法を教えろ。我々の神が邪神に敗北するはずもないが、彼女は自殺する前に全ての証拠を消し去ってしまったようだ。アレは私が教会の地下に閉じ込めている。殺す方法をいろいろ試したが、いかんせんリソースに限りがあるのでね。
[司教はカメラに体を近づける。緑色の明滅が、機械化された瞳の奥に見える]
司教: 言っておくが、これは最後のチャンスだぞ。極東の島国に住んでいる異常ロリコン独身男性[原語:ABNORMAL PEDOPHILE SINGLE MAN]ならば安全だと思っているのなら大きな間違いだ。既に我々の仲間へ君の情報は伝えてある。情報を脳ミソから吸い出される激痛の中で死ぬか、大人しく情報を教えて逃げ失せるか、今なら選ぶことが出来る。我々も暇ではない。君ごときを地獄の果てまで追い詰める気はない、素直に情報を吐くならね。良い返事に期待している。
[再生終了]
註記: 動画には再生後に自動消去されるプログラムが施されていた形跡がありますが、何らかの方法で解除されていました。PoI-2995が財団をはじめとする第三者へGoI-004Cの情報を残すために動画を保存していた可能性が示唆されています。現時点でPoI-2995がGoI-004Cへ何らかの情報提供を行ったかは現在調査中です。
動画の内容を受けて、GoI-004Cカリフォルニア教会がピスティファージ級神格実体を隠匿している可能性が示唆されましたが、崩壊した同地区の各支部については既に初期調査が終了しており、マスター司教とともに現時点の所在は不明となっています。
Record INCIDENT-GoI-004C-11-02
PoI-0630とPoI-2995のチャットログ
註記: GoI-093に対する追加調査によって、元カリフォルニア教区上級司祭であり、マスター司教の腹心でもあったPoI-0630”エリザベス・ボンド”が本インシデントに深く関わっていることが明らかになりました。彼女はインシデントの1年以上前からPoI-2995と非異常のオンラインゲームを通じて個人的な交友関係があったと見られています。
以下は復元されたDiscordサーバーからサルベージされた、PoI-0630とPoI-2995と見られる会話ログの復元です。注意すべき点として、PoI-0630は本名を改変したと思しき「DEEPBOND」という偽名を名乗っています。
Record INCIDENT-GoI-004C-11-03
教会跡地より発見された映像
註記: 米国本部GoI対策部隊の追加調査により、GoI-004Cカリフォルニア中央教会跡地にて、同団体構成員と思われる複数の遺体が回収されました。比較的損壊の少ない遺体に埋め込まれた電子チップから、インシデント発生時のものと思しき映像を回収・一部復元することに成功しました。同遺体はインシデント鎮圧を目的にマスター司教から送りこまれた特殊部隊員、コードネーム:ホワイトであったと見られます。
[再生開始]
ホワイト: ムーン、こちらは問題ないようだ。やはり連中は地下だろう。
ムーン: 裏切り者ども、時代遅れの黒ミサでもやっているのかしら?
フラッシュ: 無駄口を叩くな、ムーン。地上に全く奴らの影が無いとなると、百匹以上のネズミが地下に集結している計算だ。
ムーン: ゾッとしない話ね。ジャパンのスーパーラットにはワルファリンも禄に効かないらしいけど。
フラッシュ: 合図で侵入する。くどいようだが、絶対に連中と接続するな。ケツで邪教の呪文を詠唱する羽目になるぞ。
ホワイト: せめて銃口を飲み込む暇は欲しいですね。
[フラッシュの合図により、ムーン、ホワイトは足下のハッチを開け、地下への階段へ侵入する。ムーンが先頭を進み、ホワイトは彼女の背後を進んでいる。部隊は全員で10名程度と見られ、フラッシュは殿を務めているようである]
[階段を降りきると、広く開けたホールに出る。足下に幾つかの真新しい血痕と、機械化された肉体の一部と思しき部品が散らばっている。ホワイトはクリアリングをしつつ仲間へハンドサインを送っている]
[ホールを奥へ進むと狭い廊下があり、曲がり角からピンク色の薄ぼんやりとした明かりが漏れている。ホワイトはムーンとともに廊下の入り口へ接近する]
[ホワイトは銃砲化された右腕を構えながら、角の照明へ向けじりじりと近づく。不意に、目印にしていたピンクの光が消える]
ホワイト: 後退!
教徒: クソがあ[原語:FUCK YOU]!
[突然廊下の奥から数名の教徒が飛び出してくる。教徒達はお互いに腕を組み、奇妙なダンスを踊っている。踊りながら教徒達はサブマシンガンと思われる火器を連射する。ホワイトとムーンは素早くホールまで後退し、廊下入り口手前から銃火器で反撃する。教徒の絶叫と、地面に倒れる音が響く]
フラッシュ: 何事だ!?
ホワイト: すまん、いきなり廊下の奥から飛び出してきたんだ。反撃により対象は沈黙、機能停止したものと思われる。しかし、あのピンク色の光は何だ? ……まさか!
ムーン: 連中は音楽や書籍を好む、歯車仕掛正教ティッカーばりのアナログ主義者どもでしょ? 私たちの仲間にはなれそうにないと思うけど。しっかし、最悪の状況ね。位置がバレてしまった。こっちはオフライン状態で戦ってるってのに。
フラッシュ: いや、状況からいって仕方あるまい。奴らが斥候だけだったのは幸運だ。プランαを実行。ここに爆薬を仕掛け、全員で地上に戻ったあと、奴らが追ってくるタイミングを見計らって爆破する。行け!
[フラッシュの指示で、数名の部隊員が赤く明滅する小型爆弾を次々と取り出す。爆弾は地面に置かれれると、予めプログラムされた動きでホールの支柱付近に移動した。ホワイトは数名の部隊員とともに、足早に先ほどの階段へと戻っていく]
ホワイト: こんなゴキブリの巣からはさっさと脱出だ。
[ホワイトの先を行っていた部隊員が、悲鳴を上げて階段を転げ落ちる。数名の武装した教徒が、互いに手を繋いで激しく腰を振りながら「クソが、クソが、トビキリヒバヒ[原語:FUCK YOU,FUCK YOU,TOBIKIRIHIBAHI]」と叫び、銃火器を乱射する]
ホワイト: クソッ、どこに隠れてやがった!?
[ホワイトは右腕の火砲で応戦するも、左肩辺りに被弾したと見られる。画像が乱れ、呻きよろめく様が見て取れる。ムーンがレーザー銃を後方から発射し、教徒を殺害する]
ムーン: まだまだ来るわ、一度後退するしかなさそうね。隊長を呼んでこないと。いつまでもよろけてる場合じゃないわよ。
ホワイト: そう言うがムーン、お前もその額。
ムーン: 掠り傷よ。あんたと違ってヤワじゃないし。
[ホワイトはムーンを追い、生き残った部隊員とともにホールへ戻る。ホールでは廊下から現れた教徒によって数名の部隊員が殺傷された様子であり、フラッシュが懸命に応戦している]
フラッシュ: 裏切り者どもが!
教徒: [ダンスしながら掛け声のように叫ぶ]ヒィヤダ、ヒィヤダ、ノナノフー[原語:HYADA,HYADA,NONANOFU]! ボンダー、ボンダー[原語:BONDER,BONDER]!
[激しい戦闘の後、その場の教徒達は鎮圧されるも、各廊下から再びピンク色のライトが見え始めている]
ホワイト: 畜生、奴ら最初から挟み撃ちが狙いか。大体何だ、ボンダーってのは? ボンド様万歳という意味か?
フラッシュ: 議論は後だ。生き残った全員は俺に続け! 階段を突破し、地上に脱出する。
[フラッシュは部隊員の先頭に立ち、前方へバリアのような領域を展開する。階段から教徒が迫るも、銃火器は領域に当たり無効化されているように見える。殿にはムーンがおり、ホワイトはムーンの姿を確認しつつ階段を登っている]
ホワイト: 地上へのルートが狭い一本道で助かったぜ。奴らを皆殺しにしたらLoLでもやらないか、なあムーン?
[ムーンは返答しない]
ホワイト: ムーン?
[突如、ムーンが「AI!AI!AI!AI!」と絶叫しながら踊り出す。ムーンは叫びつつレーザー銃を乱射し、一発が前方のフラッシュの頭部を破壊する。ホワイトはムーンの名前を呼びながらレーザーを避けようとするも、左足に被弾し、その場に倒れる。映像に激しいノイズが入る]
[他の部隊員がムーンを射殺するも、階段を降りてきたと思しき教徒に殺害される。ホワイトは悲鳴を上げてのたうち回り、教徒の一人に担がれ、階段を降りていく。抵抗を試みるも、右腕を切断される。絶叫とともに映像が途切れる]
[6分30秒間、映像信号が途絶する]
[映像が回復するも、強いノイズが走っている。ホワイトの眼前では数百名の教徒が大ホールに集結しており、「チュメット、チュメット」と絶叫しつつ、大型モニターに向けてピンクの光を激しく振っている。ホールにはテクノミュージック風の音楽が大音量で鳴り響いており、全ての教徒はリズムに合わせて奇妙なダンスを踊っているようである]
[ホワイトは自身の体へ目を向け、両腕両足が無いことを確認する。「自己終了プログラムを起動します」とアナウンスが流れ、映像が終了する]
[再生終了]