女三人寄れば・・・
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PM1:28、私は食堂で少し遅めの食事を取ろうとしていた。
午前の実験が少々長引いたおかげかピークは過ぎ、食堂は人もまばら。

日替わり洋風ランチセット(大盛り)とかつ丼(小)をお盆を載せ、適当な机を探してあたりを見回していると
珍しい人物が居た。
「こんにちは、結城博士。相席よろしいですか?」
「こんにちは長夜博士。かまいませんよ、もうお一人居ますが」
快諾してくれた彼女は結城博士、ここサイト-8181勤務ではない職員で
私が新人時代にお世話になった一人でもある。
「ありがとうございます。もうお一人ですか?」
「こんにちは、長夜博士」
席に付きながら問い返した時、後ろからよく知る声が聞こえた。
「こんにちは、諸知博士。今日の占いはもう終了ですか?」
「はい、今日も財団のお役に立てて嬉しい限りです。長夜博士もたまにはいらしてください、心が軽くなりますよ」
「機会があればお願いします」
占いとは諸知博士が時折食堂行っている簡単なカウンセリングで、そこそこ人気…とのこと
私は行ったことがありません。
実験やその他業務を楽しいと思った事はありますが、それが何らかの負担になったこともありませんし…

「「「いただきます」」」
三人は揃って食に対する感謝を述べ
私は手早く日替わり洋風ランチセット大盛り+かつ丼(小)を
結城博士は丁寧かつ優美に日替わり和風ランチセットを
諸知博士は味わうようにわかめうどんセットを
それぞれ食べ始めた。
・・・食事の仕方一つでもやはり性格って出るものですね・・・
「ああ、そういえば。結城博士」
「なんでしょう?」
「サンプル、使わせてもらいました。正式な報告書は後程メールで送らせてもらいます」
箸をサラダに進めながら、私は告げた。
「どうでしたか?」
「使い心地はどうでした!?」
結城博士の問と同時に、隣でおにぎりを食べていた諸知博士が少し興奮した様子で身を乗り出す。
ああ、そういえば提案は結城博士でしたけど、諸知博士が処理担当でしたね…
「そうですね…」
私は周囲を見渡す、一応周りに新米や低レベル職員らしき姿はないが…それでも一応言葉を選ぶ
「おおよそ提案書通りの内容になっていたと思います」
その言葉に諸知博士は頷き、結城博士は卵焼きを口に運んだ。
「ですが、期間中何度か混乱が見られました」
「そうですか…」
続く言葉で少し諸知博士の顔が曇るが、私は続ける。
「私の見立てですが、混乱に関してはサンプル側に原因がある可能性が高い様に感じました」
「サンプル側ですか…」
「はい、あのサンプルはすでに6周期目でしたので」
ああ…と諸知博士がため息をつく
「つまり、耐性が付いていたと?」
「どうでしょう? 混乱前に何らかの違和感を感じ、その後パニックを起こしたような状態でしたので、耐性というレベルのものではないとは思います。
…もちろん、他のサンプルについてのデータがないので憶測にすぎません」
「なるほど…貴重なご意見ありがとうございます」
結城博士の言葉を聞きながら、私はかつ丼の最後の一切れを頬張った。
「ちゃんと処理出来たと思ったんですが…」
「失敗は成功の母ですよ」
「もう少し突き詰めれば提案通りのものが出来ると思いましたよ。後で映像記録送っておきます」
落ち込んでしまった諸知博士に二人で可能性の検討や今後の処理について
時間と周囲の環境から話せる範囲で詰めながら私たちの昼食時間は終わった。


To: 結城博士
From: 長夜博士
件名: Dクラス改良計画「模範化サンプルDC-8114」について
添付ファイル: DC-8114.docx DC-8114.xlsx
本文: お疲れ様です。昼食時にお話していた報告書になります。

若干の補足をさせていただくならば、資質的には被暗示性が高ければ成功しやすいとは思います。しかしながら、元の性格と乖離させ過ぎると疑似記憶と心理的な反応において齟齬が生じ、失敗する可能性が上昇すると考えられます。

また必要があれば言ってください。いつでも協力させてもらいます。

それから、映像記録は諸知博士にお渡ししておきました。

長夜 空

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