ずっと
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財団軌道研究複合施設5 会議室A
1973年7月12日 GMT23:15

「マルコ博士、SCP-3203の実験は当分の間凍結する」上座に座る男は、スライド上に投影された名簿を指差した。「我々は昨年3人のDクラスを失った。これは予定の損失を超過しており、許容できる数ではない」

マルコ博士、禿げ上がった茶髪を持つ40代半ばの男が声をあげた。「クーパー管理官、年間3名の死亡など無きに等しいものです。いくら死傷率が跳ね上がっていると言っても、追加の検体無しで5年は実験を続けられるだけの余裕があります」

クーパー管理官は首を横に振った。「私が言いたいのは生命の損失は許容できないという事だ。我々が収容する人間は検体ではない。もちろん我々の行う実験において彼らが高確率な死の危険に直面するのは常だとも。だが君の仕事は生命の損失を最小限に抑える事だ。君が自らの仕事を全うできていないが故に、私は3203プロジェクトにおける全ての実験を中止すると言うのだ」

マルコ博士は不満げに座った。

「そして」クーパー博士は続ける。「君を倫理委員会による調査の対象とする。D-1034やD-3402の死は、不行き届き、怠慢、故意の安全プロトコル無視を除いて説明できない」

「待ってください」マルコ博士は再び妨げた。「私は自分の仕事をしただけです」

「真実ではないな。そしてそれは論点でもない。我々が君の撒いた種を片付けるまで謹慎しておけ」クーパー管理官は会議室の後ろに立つ武装した男達の1人に合図を送った。「エージェント・ポラスキー、構わないかね?」

たくましく、厚い胸板の男が進み出て、マルコ博士の肩に手を回した。数瞬前までどっかりと席に座っていたマルコ博士は跳ね上がるように立ち上がり、大男に従って退出した。

「新参者めが」テーブルを囲む別の男が呟いた。


財団軌道研究複合施設5 D-1153収容セル
1973年7月12日 GMT23:56

「どこかに繋がる道があるはずなんだ」ジェイコブ・マクスウェルは換気ダクトに向かって言った。

「ほら見たことか」隣の部屋からくぐもった声が返った。「俺はそこで2年近くも詰まって何の進展も無いんだぜ。せいぜい旅を楽しみな」

「旅を楽しむ?トミー、元からイカれてんのに狂っちまったのか?」

トミーの声が隣のセルから聞こえる。「お前はお国に奉仕するのさ。1日3食と最高の景色をもらってな」

「俺はコンピューターサイエンスの専攻で、クソテストから抜け出すために爆破予告をして捕まった。1日3食と寝るための場所で残りの人生を過ごすことになるとは思っちゃいなかったんだ」

「お前は盗んだ車で家から100万マイルのとこまでいけると思うか?文句を言ったって何も変わりゃしないんだ。さっき言ったみたいに座って宇宙飛行士としての新しい人生を楽しみなって」

「生きるって事の何を知ってるってんだ?」ジェイコブはそう思ったが、訊きはしなかった。彼はベッドに腰を下ろし、窓の外を見た。トーマスの言う通り、ここから見える地球の眺めは壮観だった。

彼には東南アジアの海岸線がかすかに見えた。そして海岸線の輪郭を上の方に辿っていった。彼はそこに万里の長城を見ることができなかった。いつだって彼はそれを見ることができると思っていた。けれどそこには特筆すべきものは何も無かった。もっと近くまで行かなくてはならないのだろうか?

それが起こった時、ジェイコブは窓の方に身を乗り出した。瞬きするのに一瞬時間がかかったが、再び目を開けた時には全く別の、見知らぬ世界が彼の目の前に現れていた。

「なんだよこれ!」ジェイコブは叫んだ。「トミー、地球に何か起こったぞ」

「なあ」くぐもった声が返ってきた。「今はふざけなくていいよ、もうクソ遅いし疲れてるんだ」

「トミー、俺は冗談なんか言っちゃいねえ」


財団軌道研究複合施設5 クーパー博士のオフィス
1973年7月13日 GMT00:04

大きなビープ音が目の前の報告書からクーパーを動かした。彼が机の上のボタンを押すと、向こう側から混乱した声が聞こえた。「管理官!何か変です」

クーパーの生存本能が作動した。彼は心のチェックリストを確認した。生命維持装置、人工重力、船体の破損……立ち上がり、窓の外の、彼のステーションが今周回している見知らぬ世界を見て、彼の頭は真っ白になった。

「ちくしょうが」彼は大声で言った。「ケイトリン、冷静になれ。そして全てのアクティブな乗組員とエージェントに指令を伝えてくれ。通信司令室で私と会うようにと。これは訓練ではない」

「イエス、サー」彼の助手は命令を伝える前に一瞬動揺しただけで短い返事を返した。


財団軌道研究複合施設5 CCAC通信司令室
1973年7月13日 GMT00:05

「3065と3132は完全に収容できています。どのみちこのレベルの現実変位はできないでしょう」エージェント・フォレスターが後列から言った。

クーパー管理官は眼鏡を鼻の上で押し上げた。「だが何かがこれを為した。惑星はまだ沈黙しているのか?」

「我々の知る限りでは」通信士官のジェシカ・マキーが声を上げた。「何かが下にいて、話す方法を見つけるのに何分かかかるのか、あるいは話したいと思ってさえいるという可能性はあります」

「最も近いFSF船はどれだ?」クーパーは尋ねた。

鄭和ていわです」マキー士官は計器を見ながら言った。「12光秒離れた地点で空間異常を調査していました。これが起こる前に帰途に就いており、既に減速のために方向転換しています」

「では少なくとも何かはあるという訳だ」クーパーは安堵の表情で言った。「ETAは?」

「2時間32分です」

「よし。彼らがここに辿り着く頃にはFORC3から11までの返答があるはずだ。私は主席管理官であり、我々は現在危機的状況にある。彼ら全員に彼らが保有する物資の完全な目録を送ってもらいたい。FORC-10が最優先だ。彼らは3450の収容を維持しなくてはならない。さもなくば全員が深刻な問題を抱えることになる」

「イエス、サー」マキー士官は通信盤を操作し始めた。「待ってください。サー」

「何だ?」彼は話をやめ、彼女の席まで歩いた。「ああ、ちくしょうめ」


FORC-5から10光秒 惑星間の宇宙空間
1973年7月13日 GMT00:19

GRU宇宙軍の記章を冠した2隻の巨大な暗い色の船が何も無い空間を駆け抜けて行った。彼らは短時間で到着したが、それは肉体を持たないオペレーターが急激な加速による悪影響に耐性を持つからに他ならなかった。

乗っていたのは何種類かのウラジーミル・ヴェルナツキーだった。ある者たちは兵器システムの操作方法しか知らない歪んだ幽霊であり、ある者たちはオリジナルの洗練されたコピーで、独立した思考が可能だった。彼ら全員の目的は財団が地球を消滅させるために何を行ったのかを正確に知ることだった。

船を操っていた半人間たちは、サイキックエネルギーと原始的な推進力の奇妙な組み合わせによって動作するエンジンの出力を2倍にするように指示した。彼らは財団宇宙軍の中心であろう場所を既に検知していた。FORC-5だ。それは宙域の他の全ての基地と信号を送受信していた。

誰が地球を奪ったのか知る者がいるとするなら、それはFORC-5の人間だ。ブリッジコンソールの通信ランプが光ったが、船を指揮する幽霊には無視された。ブリッジは沈黙したままで、そして目的地に着くまで沈黙し続けるだろう。

GRUのアストラル船には生命維持装置も空気も無い。けれどこの旅の中で暗闇の廊下を探検したなら、ゆっくりとした低い轟きを感じただろう。幽霊の大部分は人を説得できるような思考する人物だった。けれど、ウラジーミル・ヴェルナツキーの完全なコピーはこのような船の高度な兵器システムの操作は壊滅的に苦手だっただろう。故に恐ろしい黒船の奥の奥では、何人かの気の狂った幽霊が小さなそれぞれの武器の制御アルコーブに閉じ込められていた。

彼らは他の同胞たちと同じようにゲシュタルト意識に接続されており、この旅の目的を知っていた。彼らは自分たちの素晴らしい破壊兵器を発射するチャンスがすぐにやってくると知っていた。あらゆるロジックと感覚を置き去りにして彼らは吠えた。


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