「All Things Considered」1、WOSU 89.72、2013年1月28日16時05分 の書き起こしからの抜粋
アリシャ・クラーク、司会: 大統領が中東における不安を食い止めるために奔走している間、NASAはまったく別の世界の人々との対話を行っています。昨年11月にゲートウェイ計画が公開されて以来、ハートル特異点を通じた交流に注目が集まっています。今日の午後は、NPRのスティーブン・フライシャー解説員とこれを詳しく見ていきたいと思います。
スティーブン・フライシャー、解説員: NASAのゲートウェイ・コンタクト・センターへ通じるこの控え室の雰囲気は驚くほどに普段と変わらず、この奥で文字通りの「外の世界」との交流が行われようとしているとは思えません。長いテーブルの上に分析機器が並べられていますが、センターの主たる面々のほとんどは後ろの壁に向かって置かれたノートパソコンの周りに集まっています。アンドレア・タン博士は端末の基本プログラムにいくつかの単語を打ち込み、その反応にうなずいたり笑ったりしています。
タン: シルティはいつでもいいと言ってるわ。デイビッド、封入は終わった?
フライシャー: 彼女の助手の一人は小さな金属のチューブを持っています。
タン: よろしい。それは殺菌装置に送って、私たちはおめかしするとしましょう。
フライシャー: タン氏はゲートウェイ・コンタクト・センターのハートル直接交流チームの主任であり、ハートル特異点を通じた物品の送付および受け取りの任務に当たっています。彼女とそのチームは専用の通信ラインによってあちら側の担当者と定期的なコンタクトを取っていますが、昨年11月にこの計画が公開されて以来、数千に及ぶ物品を交換しあってもいるのです。
タン: 初めてこの特異点が開いたとき、私たちのすべてのコミュニケーションは紙で行われていました、紙を手で渡していたんですよ。コンピュータのおかげで様々なことが早くできるようになりましたし、今ではあちらは英語を学びこちらはストーラを話せるようになりました、けれどそんな今でももっとも価値があると言えるのは、物理的な物品の交換でしょう。
フライシャー: 普通のサイズの本は特異点に入れられませんが、タン氏のチームは数十万のページを小さく巻いたものを送受してきました。写真、地図、生体標本、美術品、そしてたくさんの不思議なものを交換してきたのです。リチャード・ゴールドスタイン氏はタン氏のチームの社会学者です。
ゴールドスタイン: あるとき、メッセージ・チューブを開いてみるとタキート3みたいなものが入っていたことがありました。出来たてで熱い、スパイスのきいた野菜の具がいっぱいのやつですよ。(笑い)おいしそうでしたね。食べてみたかったですよ。
フライシャー: ハートルの研究者は地球の文化に非常に興味を持っており、それはこちら側の研究者も同様です。チームは数学理論からポップ・カルチャーまで、あらゆる分野の書籍を交換しています。
タン: 我々は非常に、非常に多くのことを互いから学びとることができます。ハートルの物理学者は我々に宇宙旅行について教え、ジョンソンにいる私の同僚は2020年までには火星に行けるだろうと話していました。その見返りに、我々は彼らにワクチンのことについて教え、彼らは世界的な流行病の進行を食い止めることができました。最近の音楽チャートのトップ40を見れば、文化的交流が我々の双方にもたらしているものを知ることができるでしょう。
(挿入音声: 「EISH MEKA EISH(今日を愛して)」、リアーナによるカバー)
フライシャー: しかし、誰もがこの交流チームのように興奮しているわけではありません。木曜の記者会見で、インディアナ州上院議員のアダム・ライト氏は注意を促しました。
ライト: 私が言いたいのは、我々はもう少し慎重になるべきだろうということです。彼らに何もかもを与えてしまう前に、彼らが我々に求めているもの、本当に求めているものを知っておかなければならないだろうと思うのです。彼らに細菌について教えるとき、彼らはガンを治そうとしているのでしょうか、それとも生物兵器を作ろうとしているのでしょうか?
フライシャー: また、ハートル人の行動の意図よりもこの特異点自体の方が危険であるとする意見もあります。カリフォルニア大学の物理学教授であるターナー・ベラスケス博士は、こう警告しています。
ベラスケス: 我々の知っている限りの物理的知識によるならば、ハートル特異点は不可能な存在であるはずなのです。あの大きさのワームホールというのは、それがブラックホールの底にあるのでない限り、維持し続けるためにまことに膨大なエネルギーが必要なはずであり、またそれはあらゆる種類のエキゾチック放射線の放出を促すことになるでしょう。我々はハートル人がいかにしてこうした事態を起こさずにこの特異点を作り出したのか、あるいはそれを維持しているのか、まったく想像もできていないのです。これは局地的な時空をゆっくりと不安定化させうるもので、我々の宇宙の熱的死を早めることにさえなるかもしれません。何よりもまず我々が学ぶべき最優先事項は、このワームホールを恒久的に閉鎖する方法なのです。
フライシャー: タン氏はこうした懸念を否定しないとしつつも、チームでは多くの対策を取っていると主張します。
タン: 我々の物理学者はこの特異点について継続的かつ徹底的に研究を行っています。すべての交換業務はここで働くNSA4の職員の同伴のもとで実行されています。ここでは厳格な汚染除去手順が実施されています。我々は外見が武器のように見えるというだけのものすら送ったことはありません。それに、ここまで小さな開口部を通して互いをひどく傷つけるのはとても難しいことでしょう。
フライシャー: センターに戻りましょう、チームはバニースーツを洗浄して着用し、特異点を囲んでいるクリーンルームへと入ります。それは中空に浮かぶほんの1インチほどの幅の穴のようにしか見えず、ケーブルが引き込まれその先は見えなくなっています。反対側は緑色の壁のようなものがわずかに見えるだけです。タン氏は殺菌されたメッセージ・チューブを取り出し、慎重に穴へと押し入れます。
タン: [ストーラを話す]
フライシャー: 彼女が手を離し、チューブは穴に引き込まれます。少しして、彼女に向かって別のチューブが押し出されてきます。これで交換は終了です。
クリーンルームを出る前に、タン氏は膝をついて特異点の向こうをまっすぐに見据えます。反対側では、向こう側の担当者が同じことをしています。その無菌服の中に見えるのは、とても一般的な外見の男性です。
タン[通訳を介し、ストーラを話す]: ハロー、シルティ。レーはどうしてる?
フライシャー: 天文学者のシルティ・コル氏は、地球交流研究グループの主任研究員です。
コル: だいぶ良くなったよ。明日には学校に戻れるだろう。
タン[通訳を介し、ストーラを話す]: 彼のためにちょっとしたおまけを入れておいたわ。彼はコミック好きだって有名だからね。
フライシャー: 短い会話を終えると、タン氏は特異点に向かって人差し指を上げ、世界の間にあるこの穴を通じて、二人の科学者が手を触れ合わせたのでした。
テレホートのゲートウェイ・コンタクト・センターより、こちらはスティーブン・フライシャーでした。NPRがお送りしています。