孤独な人間は生きているとは言えない。
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「動くな!」

近づこうとした博士にグロック17自動拳銃を向け、研究員は叫んだ。博士はそれ以上近づけず、下がる。ここにいる人間は全員、同じような光景を何度も見ていた。

10分。それが、この膠着が続いている時間だった。きっかけは一人の研究員の謀反。彼が敵対組織へと連絡をしていたのを他の研究員が目撃、その場で問い詰めようとしたところ逃走。そして今、複数のオブジェクトを持って収容室に立て籠もっている。

SCP-4465のナンバーが割り振られたその銃は、倫理委員会の実験が差し止めにより異常性の詳細が判明していないオブジェクト。だが、発見当初の資料を見れば殆どの人間にその異常性が分かる。

その異常性が、この膠着を生んでいた。財団職員は自分が撃たれて死ぬことを厭わない。だが  




  自らが守る対象を死なせることは、できない。




彼がこの膠着を維持しているのは、敵対組織が応援に来るまでの時間稼ぎだろう。このままでは複数のオブジェクトが彼らの手に渡ってしまう、避けるためには動くしかない。なのに、足は動かない。脳裏に浮かぶ愛する人の笑顔が、枷になっていた。誰も彼もが、自分以外の誰かが踏み出してくれるのを祈っている。


そしてその祈りは、呆気ないほど簡単に届いた。

「俺が行く」

そんな呟きの後、コツ、コツと。リノリウムの床を二回叩く足音が響く。

「動くな!」

研究員は叫び、銃を向けた。止まらない。三歩、四歩、五歩目から、駆け足になる。

銃声。

ソレが鳴り止んですぐに、彼は研究員から拳銃を取り上げ、手を捻っていた。

「な、なんで」

震える男に答えることなく、銃弾を受けた彼が、無傷のまま茫然としていた職員たちに言う。

「確保しろ」

そこからはあっという間だった。謀反を企んだ研究員は拘束され、応援に来た敵対組織も纏めて一網打尽。結果的に被害0で財団はこの事件を解決した。

全て終わった後、あそこで一歩踏み出した男は、月明かり差す自室で呟いた。




「愛する人なんて、とっくに全員死んだよ」

首飾りのルビーは相も変わらず、嫌になる程綺麗に煌めいていた。

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