おやすみ、邪魔者
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「おやすみなさい」と呟いて布団に横たわる。疲れた、しんどいなんて言いたくなるけど、他の人に比べたら私の疲れや悲しみ何てちっぽけなもんだから言えない。仕事も何もかも捨てて、死んで楽になりたいな。ここ最近夜になるとこの考えが頭をよぎる。本当に追い込まれてる人たちに比べたら、些細な悩みのくせに。

窓に当たる雨の音が大きくなり始めた。雨の日の夜は嫌いだ。今まで嫌な事があったときは決まって雨が降っていた。嫌な気分になるのは低気圧も関係しているかもしれない――いつだか読んだ低気圧の影響に関する記事をぼんやり思い出しながら、眠りについた。


久しぶりに夢の中だと自覚できる。だけども、思い通りにいかない。何度別の景色を見ようとしても自分の前に広がっているのは自分が通っていた学校だった。足が勝手に動く。校門を抜けて、下駄箱を通り過ぎ、階段を上る。近くの教室から声が聞こえてきた。ドアの隙間から中を覗く。

教室の中を飛び回る筆箱が見える。
幾人ものクラスメイトに押しつぶされている私が見える。
叩かれている。蹴られている。突き飛ばされている。罵声が飛ぶ。

忘れたかった事が一気に押し寄せてきた。吐き気がする、寒気がする。錆び付いたように足が動かない。
ふと、気配を感じて周囲を見る。私の周りには、かつてのクラスメイト達が立っていた。皆薄ら笑いを浮かべ、私に指を指しながら。

なんとかその場から離れたいのに、体はどんどん動かなくなっていく。薄ら笑いしていたクラスメイトが突然、一斉に口を動かし始めた。何を言っているのかはわからないが、不快感がある。

「やめて」
「消えろ」
結局、学校生活でこの言葉を私は一度も言えなかった。逆らったら何をされるのかわからないのがたまらなく怖かったから。
「なんで生きてるの」
私を取り囲む人が増えていく。クラスメイト、先生、他のクラスの生徒達、家族、果てには全く知らない人。
「死ね」
周りの声が、だんだんと聞こえるようになってくる。体は完全に動かなくなって、耳も塞げず、目も閉じれないまま。
「正直、存在自体が迷惑だ」
気づけば私は屋上の縁に立っていた。
「皆お前の事なんて大嫌いだよ」
見えていないのに、手が伸びてくるのがわかる。数多の手が、私の背にあるのがわかる。

知ってるよ

私も、私が大嫌いだ

体が宙に放り出された。真っ逆さまに、

誰かの迷惑になるなら

地面に叩きつけられた衝撃で目が覚め

これで

部屋に金属音が響いた。

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