色褪せぬ事件
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管理者は決して儀式を行う者ではなかった。100年以上前に全ての礎を築いた時も、彼女は揺らめく蝋燭の火の下で血書きの契約書を求めたり、雷雨の中で聖書に手をかざして神聖な宣誓をしたりはしなかった。彼女はただ仕事にとりかかっていた。
そしてそれが、イーストロンドンのわびしく小さな公園で全てが終わった理由だった。そこは2人のどちらにとっても何の意味も持たない場所で、誰にとっても特別重要ではなかった。無意味であることが、彼女がここを選んだ理由であった。

彼女はブランコに乗り、過去一時期の自分は卑劣な人間であったのではないかと思いながら、穏やかな夜風に吹かれてそっと揺れていた。全ての始まりであるサイト-001の一室ではなく、この場所で終わりを迎えることを、統治者は良く思っていなかった。

「お久しぶりです」

管理者は振り返らなかった。自分にはそれができないと知っていたから。「数えてみたけれど、103年ぶりね」

統治者は管理者の隣のブランコに腰を下ろした。「交渉は終わりました。今や財団の資産とアノマリーの全ては、カオス・インサージェンシーの管理下にあります。O5評議会もじきに解体されるでしょう。貴女の職員ですか? 大半は今までと変わりない仕事を続けさせますよ。もしかすると、私たちは彼らが今もなお財団のために働いているとさえ言うかもしれません。財団崩壊の影響を受けたのは、多くても100人ほどです」

管理者は感傷的に地面を踏み、ほんの僅かに揺れた。2人の前の芝生を、キツネの一家が走って横切っていった。「これから何をするの?」

統治者は肩をすくめた。「私がイメージする貴女と同じことを」

「つまりこれに意味なんて無かったと」

「これは私たちのためでした。私たち2人の間にあったもののため。なので、そうですね。これに意味なんてありません」

管理者は手を伸ばし、その手で統治者の顔を撫でた。半分は老いて疲れた、寂しそうな顔つきをしていた。しかしもう半分は、彼女が撃たれたあの日のままだった。

「何故撃った?」

管理者はその質問に答えるまでに長く沈黙した。「愛は毒と変わりないの。私はあなたを救うためなら、世界を何度でも焼き尽くしかねなかった。だから私は、過ちを犯す前に正しい選択をした。私が為すべきことは、あの日からどれも随分と楽になった」

統治者はその柔らかく温かい両手で拳銃を握った。「同じ銃です。覚えているでしょう」

管理者はただ溜め息をついた。「謝りはしないわ、決して」

統治者は銃を撃った。その一発は静かで、哀れで、キツネの一家を脅かすのがせいぜいであった。

管理者は前のめりになって倒れた。額の大穴さえ無ければ、眠っているように見えたかもしれない。

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