[断続的なノイズ]
…
[断続的なノイズ]
………
[ノイズ、不明瞭な音声]
…k…曜ア…ラ………
………ントのナイトレディオタイムス、今夜も████からお送りしております。
時刻は午後11時34分。お風呂には入りましたか?歯磨きは?お休み前の一杯は堪能済みでしょうか。
一週間の最後、金曜日のこの時間。是非ともあと少しだけお付き合いください。
さて、台風も過ぎ去って段々と涼しくなってきた昨今、季節の変わり目はどうしても気分が沈みがちなものです。
そんな秋の始まりを表すかのように哀愁漂うこのナンバー、お聞き頂いております。
作詞・作曲は、いま話題沸騰中のアイドルユニット「Are We Cute Yet?」の茅野きさらと後醍醐勾。
世界的な総合商社「Science & Capital People社」による衝撃の音楽業界参入から早█年、
彼らが芸能プロダクション「Star Crap Project」より送り出した第二のアイドル───
今年の7月に発売されたデビューシングルに続き、記念すべきセカンドシングルとなるこの一曲。
サブリーダー・御先稲荷さんのコメントによると、今回のコンセプトはずばり、「乙女の迷い」。
前作「恋の確保・収容・保護戦線」とは打って変わって、世の中の理不尽さに突き当たり、
理想と現実の狭間で葛藤する少女の心の叫びが、5人の奏でるハーモニーに乗って胸に迫ります。
…いやぁ、そうですねぇ。この、一風変わった独特の世界観に彩られてはいるものの、
ある意味では誰にでも共感できるような、大きなテーマを感じさせるフレーズの数々。
茅野きさらさんの素晴らしい作詞センスが光っています。今後も注目のアイドルグループですね。
さて、お聞きくださいました曲は「Are We Cute Yet?」で「永遠の000-W」でした。
この後は、視聴者の皆さんから頂いたお便り[不明瞭な音声]から[ノイズ]…を…ませt…[一際耳障りなノイズ]
………って、ご紹介いたします。みんな、夜はまだまだこれからだよ。楽しもうね!
「───それで?」
「放送直後、首都圏で発生した異常事件は21件。うち8件が例の『博士』の作品絡みで、
他にも東弊重工の商品が6種、日本生類創研の実験体が3匹見つかった。残りは出所不明だ。
ラジオ放送をジャックした『博士』らしき奴のことも調査中だが、状況は芳しくない」
「要注意団体のバーゲンセールかよ」
「大抵はAnomalousアイテム止まりのオモチャだったけど…と言っても傍迷惑なのは同じか。
実を言うと、今朝方くらいから、本国の方でもAWCYに動きがあったって噂が流れてる」
せっかくの休日を丸ごと潰されたエージェントは、働かない頭を無理やりに駆動させながら、
こちらも諸々の事務仕事に忙殺されていた同期に最前線での顛末を語って聞かせていた。
本来は仮眠の一つでも取っておくべきタイミングであり、悠長に世間話などしている場合ではないのだが、
色々と早過ぎる展開に呆れ果てた彼らの脳は、束の間の休息を有効活用する方法を忘却してしまっていた。
「ボブルも唐突に放送を再開したっていうし…本当、何が起きてるんだ」
「さぁ…じきに研究者の先生方が発表するんじゃないの」
「研究者…研究者ね。あ、そうだ。そういや一つ奇妙なことがあったな。聞いておくか?」
「聞こう。今なら地球が爆発しても驚かない自信がある」
「今回一斉に出現したクソッタレどもは、回収できた証拠…特に商品の類ならネームタグや刻印だ。
そういうのを見る限り、かなり最近になってから製作されたと思しきオブジェクトが多かったんだと。
あと、何故か"音"に関係する異常性を発揮する奴も多かったな。火達磨になりつつ歌って踊るサルの人形とか」
「ふーん………あぁ、そっか」
「なんで納得してんだよ」
「いや別に」
とっくの昔に空になっていたコーヒーの缶をゴミ箱に叩き込みながら、事務員はぼそりと呟いた。
「連中も意外と負けず嫌いなトコあるんだな、と思って」
「は?」
空が白み始めている。夜はいつの間にか明けていた。