燃える家(タロット・塔): お前たちは知っているか? あらゆる言語が統一された、人類のかの故郷のパンゲアの都言葉を。誰でも言葉を交わせた。誰でも言葉を意思疎通が可能だった。しかし、人間がバベルから離れるにつれ、方言は生まれ、始祖の共用語は失われた。今現在多くの人間が使っている共通語たる英語のなんと〝訛り〟の強いことか!
3オクターブ半のカストラート: パンゲアの言語を発する、彼の魅力的な歌声は数多の淑女を気絶へ誘わせた。3の歌声は21の狂気となり、歌声に魅せられていた人々はやがて気付く。ああ、あの歌声以外のあらゆる言語の発音が恥ずかしく感じる! 私たちはなんて拙い郷里の喋り方しか出来ないのだろうか……。
小野小町(九相図): からたちの棘指切りあをあを両手でげんまん きれいなお花が咲くころお迎えにいくぞずっとまってる 鳴り止まぬ耳鳴りの中花びら五枚ゆびきりげんまん 腐った笑みを浮かべながら ひとりぼっちでくたばって
弥子: 私の歌声を聴き魅入った人々は、私としか言葉を交わさなくなった。私は燃える家にいる頃から、この喋り慣れた話し方に慣れており、観客が段々と染まっていく様はさながら初めて他者と交流しているようだ。しかし……シレネの花叢に埋もれていた、青い血筋を持つであろう彼女の素晴らしさと美しさには敵わない。
酒吞童子: 恋の手紙をよくもらう。方言まみれの、如何にして私の歌声が美しいか讃えられたものが。だがしかし、青い月光がよく当たり、密かに壁に納めた彼女には敵わない。しかも、踊るために腰に手を添えるとよく似ているなと追憶していた。今夜も私は、天蓋の臥所でディオニューソスのワインに酔い痴れる。受け取った手紙は暖炉に焼べられながら、煙を上げていた。私の影は悪鬼のようだと使用人は云う。或いは、ミルクを沸かす人間失格か。
褒姒: 外灯に群がる霧雨は無始礦劫 水面に乗せてひとひらふたひら わたしあなたわたしあなた 流れていく散花 あの人が好きだったぼんぼりに赤い灯をともしつづけお化粧をする 笑いかたも忘れた 待てども待てども帰るはずのない貴方を待つ私はひとりひとり
侯爵: 葡萄酒の作り方を知っているだろうか? その様子がタランチュラに噛まれた狂気なる人々のようにしか思えない。若しくは、アラクノフォビア。狂人の地団駄で作られた酒は意外にも美酒だ。酒は、正常な判断を狂わせる。チェスのように、今日も私の領土が奪われた。簒奪者曰く、SCP(異常物)を保管すると。ああ、こちらもまた……葡萄酒を作っているのか、酔いどれているのか……。
好色敗毒散: 彼女は生きていた!それじゃあ、大きな花束から見つけ、寝室の壁にいるあの人はだあれ?
舞姫: 背後にあったはずの影(ひかり)に追い越され、あろうことか今は佳人の背中を見てる。後光が真正面を照らしている。
アフタヌーンティー: 私の淹れる紅茶には、幻覚幻聴作用が伴う。葉擦れのさんざめく音。小波の漣の音。一種の麻薬ではあるが、中毒性はないよ。だから、幻覚なんて見えないはずなんだ。そう、女の亡霊なんて……硝子戸を引っ掻く音なんて……!
※上記の記載内容には女性が三人出ています。どういうことなのか考えてみると楽しいかも。