真宵薔の置き手紙

 
 君がこれを読んでいるということは、君が君自身のことを忘れてしまったということでしょう。おおかた見覚えのない真っ白な部屋で目覚めて、聞き慣れない名を呼ばれて、あぁ初めて封を開かれるヒューマノイドってこんな気持ちなんだろうかなんて考えながら、親切な白衣の誰かに連れられて、この部屋まで辿り着いたのでしょう。私もそうでした。
 私は君自身です。凄惨な任務より命からがら生還し、涙も乾かぬうちに記憶処理を受け、自室の爪切りの場所すら思い出せなくなった過去の君です。いえ、いかに記憶処理を受けたとはいえ、あれが私の全部が全部をとって行ったわけではありません。けれどやっぱり、ピースのかけたパズルのような私の記憶は、心地よい日常生活を維持するためには、てんで役に立ちませんでした。
 記憶の欠けた日々は不便でした。
 なので、此度の私は此度の私が覚えたことを、どうせ忘れてしまうであろういくつかのことを、ここにまとめておくことにしました。これが書かれた以降の君はラッキーです。どうぞ多大なる感謝を以て、自分の身体を労ってください。
 
 


 
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