正式名称: 因幡式兎用狭隘空間等下収容活動スーツ試作型 Ver0.9.2
略称: O-92
取扱方: 2017年現在、全てのO-92は基礎開発サイト-8178地下の動物工学実験施設に保管されています。O-92を使用する際は実験施設主任の因幡博士へ申請書を提出してください。O-92を実際に着用するのは、当該施設内の実験用カイウサギ(各個体が「R-[個体識別番号]」と呼称されます)に限定されます。同じウサギで3時間以上の実験を行うことは推奨されません。現時点ではサイト外へのO-92およびO-92装着中のウサギの持ち出しは認められていません。
説明: O-92とは、2013年以降に基礎開発サイト-8178動物実験施設で因幡博士率いる研究チームによる開発が進められている、兎用狭隘空間等下収容活動スーツ(Suits to Contain in Petit places etc. for rabbits、略称:SCiPper)の試作品の現行のバージョン(0.9.2)です。当該バージョンは2017/05/18に完成し、現在18着のO-92が存在しています。
O-92は全長48cm・全重量2kgで、アルミニウムを主成分とする合金で製作されています。着用時の外見は「金属光沢を放つ二足歩行するウサギの着ぐるみ」と形容できますが、「かわいくない」という意見が多数寄せられているため、デザイン面の再考が今後の改良計画の重点に位置づけられています。
O-92はカイウサギ(特に、日本白色種)に対する強化外骨格としての機能を第一に有しています。O-92を着用中のカイウサギは姿勢保持機能が強化され、二足歩行および頭頸部の直立保持、簡単な道具の把持および使用が可能となります。ただし、二足歩行では移動速度が出ないため、急速な行動が必要な場合は通常のウサギが取る姿勢に変化することが多いです。
第二に、O-92は内部のウサギに対して実行する可逆性ミームエージェント挿入スロットを持っています。あらかじめ媒介ミームエージェント内に任意の対象を埋め込むことで、ウサギが対象に取る行動を選択させることができます。この機能を利用し、人間では進入が難しい狭隘空間におけるオブジェクトの確保、何らかの理由で収容スペースを広く取れないオブジェクトの監視、あるいは要注意人物や財団内の危険因子の尾行といった任務をウサギに行わせることが、O-92開発の主要な目的です。
O-92の内部にいるウサギに対する長期の生命維持機構は未完成であり、今後の開発の課題となっています。現状でも体温調節・食餌機能・排泄機能の大枠は完成していますが、3時間以上継続してO-92が使用された場合、スーツから「おれはパセリ…」という声が発せられる、目視した人間に「ウサギのシチューを食べたい」という漠然とした欲求を抱かせる、O-92に対する認識歪曲が発生する(球状の体から蹄のついた3本の足と1対の渦巻き状をした角が生えているように見えます)などと言った原因不明の軽度の異常性が発現することがあります。なお、いずれの場合も下記の1例を除き内部のウサギ自体に影響が及んだことはありません。
補遺: 2017/07/15に行われたO-92の実験中に事故が発生しました。当時O-92を着用させられていたR-178はO-92から一切脱出しようとしなくなり、外部からのアプローチも効果をなしませんでした。R-178はウサギが本来持つはずの生命活動の一切を停止していることが明らかとなりましたが、それにもかかわらずR-178はO-92を用いて現在まで活動を継続しています。研究チームはO-92に内部のウサギを自らと同化させる異常性を発現する不具合があると推測し、当該事案を再現しようと様々なウサギで実験を繰り返していますが、今のところ再現された例はなく、詳細な検証は行えていません。これに伴い、当面のSCiPperのさらなるバージョンアップは保留されています。
人名: 因幡 伯耆 (Inaba Houki)
セキュリティクリアランス: 2 / B
職務: 財団で用いられる汎用的な器具の開発 / サイト管理者
所在: 基礎開発サイト-8178
来歴: 2008/09/18、変異角-7°の平行次元で発生した不明なオブジェクト(後にSCP-3022と同質のオブジェクトだと判明)の収容違反によって因幡博士は基底次元に出現しました。基底次元の財団にオブジェクト所持者として拘束された際、因幡博士はもともと当該平行次元に存在する財団に勤務していた旨を伝え、改めて基底次元の財団に就職する意思を表明しました。1ヶ月にわたる心理鑑定の結果、因幡博士に対して正式に財団職員として雇用されることを認める決定が下されました。
基底次元に来るまでは-7°の平行次元で生活していました。「手振県指宿市」なる街で少年時代を過ごし、国立指宿大学の工学部を卒業。実験用器具開発の類稀なる手腕を見込まれて財団フロント企業にスカウトされ、そこから財団職員となったと話っています。財団職員同士で結婚し、息子2人をもうけたとのことですが、彼らはいずれも平行次元に残された状態となっています。因幡博士は再び家族に会いたいという意思を表明していますが、今のところ当該平行次元と連絡を取る簡便な手段がなく、実現は難しいと見られています。
人物: 身長172cm、体重56kg。誕生日:1960/05/18(自称)。常にややくたびれた姿を見せている初老の男性で、ごま塩色のセイウチ髭を生やしています。自分から積極的に他人に話しかけることは少ないですが、相手から話しかけられた場合は比較的長話に発展しやすい傾向があります。
因幡博士は汎用的な収容器具の開発を担当する基礎開発サイト-8178にて普段の業務を行なっています。当該サイトには危険度が低く、研究成果を収容技術の開発に活用できる可能性があるAnomalousアイテムやSafeオブジェクトが少数ながら保管されているため、因幡博士はこれらのオブジェクトに対する管理業務も並行して担当しています。
因幡博士は多種類の手動工具の使用技術に長けていますが、金槌は一切使用せず、木槌を使うことに関する強い拘りを見せています。博士が用いる木槌は異常な高圧環境で圧縮された超密度の合板で製作されており、並の金属であれば全く加工に不自由しないほどの強度を持っています。なお、過去に並行次元で因幡博士が勤務していたサイトにおいて要注意団体のエージェントによる襲撃が発生した際、機動部隊の到着より前に因幡博士が木槌でエージェントを殴打して追い返したことがあると本人は自慢げに語っていますが、真偽は不明です。
ウサギをこよなく愛する人物であり、基底次元への転移時に一緒に連れていた日本白色種のカイウサギである「八尋」を基礎開発サイト-8178の管理者室で愛でていました。「八尋」は2013年に天寿を全うし、現在はその子・孫世代に当たる8匹のウサギが管理者室で引き続き飼育されています。子供の一部が動物実験施設に移され、O-92の試験に使用されているとの噂もありますが、因幡博士は「着せてやりたいのは山々だが、実験用のウサギと我が子たちをごっちゃにするわけにはいかない」と否定しています。
人名: ンガョペ・ギレ (Ngajope Guire)
セキュリティクリアランス: 2 / C
職務: 財団で用いられる汎用的な器具の開発 / インシデント発生時の現場周辺封鎖
所在: 基礎開発サイト-8178
来歴: 兵庫県淡路市に存在する未解明領域 UE-178092の探査実験が2012/02/23に実施された際、領域内から回収された唯一の人間が後のギレ技能士です。P-D/U-漂着イベント対処・収容プロトコルに基づく確保が行われた時点では言語による意思疎通が不可能でしたが、初期の解析によってコサ語に近似した基底世界に存在しない言語を用いていることが判明し、通訳を用いてある程度の会話が可能となりました。当人に異常性が確認されず、また当人が財団内に留まることを強く要望したことから、財団職員として雇用されることが決定されました。
財団に発見される前のギレ技能士は「大アフリカ合衆国」に居住していましたが、「北アメリカ大陸連合共和国」との間で2010年から継続している国家間戦争による国土の荒廃が激しく、彼の故郷である「ラトルパセ(Latollpase)」がICBMの直撃を受けて地図から抹消されたことにより彼は放浪の身となりました。戦闘被害が少ない国北部へ進行中に未解明領域 UE-178092に繋がる一方向性の時空間異常に踏み込んだものと見られます。ギレ技能士が主張している上記の国家および戦闘行為は+35°の平行次元に実在していることが、後の2015年に行われた平行次元検索プロジェクト“虹桟”において確認されました。当該平行次元とは定点ポータルを用いた交流が2018年に確立していますが、現時点ではギレ技能士は自分が元いた次元へと帰郷する予定は無いとのことです。
人物: 身長182cm、体重80kg。誕生日:1986/04/05。ネグロイド系の身体特徴を備えた男性です。青い布1枚で全身を覆う服装を好んでいるほか、就寝時と食事の際を除き常にライオンを象った仮面を着用しています。これは彼の自作であり、上述の発見時から現在まで愛用し続けているようです。
ギレ技能士は原料を鈍的に加工する技術に長けており、破壊を伴う工作を得意としています。木版や樹脂玉、鉄塊と言った未加工の材料からでも、さながら粘土を削り出すかのような手際の良さで、容器や机、簡単なオブジェや工具などの器材をスムーズに一体成型することが可能です。この特技を活用し、基礎開発サイト-8178における開発用具の基礎設計とその模型の製作を主な業務としています。
また、大型の物品であっても高速で加工が可能であることから、場合によっては市街地における中規模以上の収容違反時に召集されることがあります。その際は現場周辺の街路樹や瓦礫を用いて即席のバリケードを構築し、一般市民の現場への侵入およびアノマリーの現場からの移動を妨害する任務に就きます。ただし収容違反の性質によってはギレ技能士自身にも危害が及ぶ可能性が存在するため、実際に召集が行われる頻度は高くありません。
ギレ技能士は打楽器の演奏を趣味としており、特にボンゴ奏者としての腕前は確かなものです。休暇中には普段は訪れないサイト-8181に姿を見せ、様々な楽器でセッションするための相手を募集していることがあります。楽器の演奏が可能な職員は相談に乗ってやると良いでしょう。またギレ技能士は語学研究にも興味を示しており、日本に来て数年しか経っていないにもかかわらず一般的な日本人を上回る日本語語彙力を有しています。そのため、その外見に反して彼の発言は日本人職員にも非常に理解しやすいものです。
人名: 喚楽 契 (Yobiraki Tsigiru)
セキュリティクリアランス: 2 / C
職務: 財団で用いられる汎用的な器具の開発 / 有機生体材料加工技術の開発・改良
所在: 基礎開発サイト-8178
談話室のベンチに座り込む喚楽研究員。前後10時間に亘って同一の姿勢を維持していました。
来歴: 2013/04/01より北海道██市の██████大学医学部に在籍していた喚楽研究員は、長期臨床実習のため滞在していた███市において、2018/02/08に大型車両の多重衝突事故に巻き込まれました。この事故で出た3名の死傷者の中に喚楽研究員も含まれていました。彼女は近隣の█████病院で救命処置が行われましたが、治療の甲斐なく13時間後に死亡が確認されました。ところが、死亡確認から5時間25分後、医師・医療関係者および遺族の前で喚楽研究員の遺体が意識を取り戻し、脳機能・心肺機能が引き続き廃絶しているにも関わらず彼女は生前と同様の活動を開始しました。急行した財団エージェントにより喚楽研究員の身柄は確保され、関係者に対してはクラスB記憶処理および遺体の標準的代替物が提供されました。
身柄回収後の追加検証の結果、死亡後の喚楽研究員は何らかの異常な手段で精神体を自身の遺体に再定着させていると判断されました。回収からおよそ30時間後には喚楽研究員の身体から不完全な生体反応が検出されるようになり、彼女は自身の生体活動の模倣の精度が向上していることを述べました。この手段について彼女は「自分が死後に転生した先の世界で学んだ技術を使って、現在の世界に戻ってくることに成功した」と回答しました。これは大型車両による非異常性の交通事故から生還した被害者にしばしば観察される回答パターンですが、死亡後に同様の発言が確認される例は希少であり、喚楽研究員から追加の情報が得られることが期待されました。約1ヶ月間に亘る実験の結果、喚楽研究員が持ち帰ったと主張する「技術」は、彼女自身の肉体を被験体とした時にのみ有効であることが判明しました。しかしながら、彼女の実験に対する厳粛な姿勢は一定の評価を受け、喚楽研究員の肉体は財団職員として雇用されることになりました。
喚楽研究員の死亡の原因となった事故に関与した人物と車両には明らかな異常性の発露は認められず、事故は非異常性として処理されました。過失運転致死傷罪で逮捕された男性のうち1人が事故から23日後に明らかな内因・外因なく急死した事案に関し、喚楽研究員の関与は確認されていません。
追記: 喚楽研究員の精神体が訪れていたと推定される平行次元は基底次元より変異角-176.0°に存在していることが確認されました。しかし当該平行次元は時間流が非常に速い不安定な次元であり、次元内部の調査の予定は立っていません。仮に調査可能な設備が整ったとしても、喚楽研究員が語った世界は既に大きく変化していることが予想されます。
人物: 身長156cm、体重39kg。誕生日:1994/11/26、命日:2018/02/09、享年23歳。本質的には成人女性の肉体であり、顔面を含む全身の皮膚に交通事故で受傷した多数の挫創や裂創の痕が認められます。受傷時の右大腿骨の骨幹部骨折は収容後の手術により整復されています。その全身を構成する細胞が死滅しており、一切のターンオーバーが認められないにも関わらず、彼女は自律した運動を行い、正常の成人女性が行う生命活動の大半(生殖機能を除く)を模倣することが可能です。しかし、これらの生体反応の模倣は自身の活動に必須の要素ではないことが確認されています。これらの特徴は不死者・憑依体・霊魂縛鎖など既知の異常存在の定義からは外れるものです。新規の細胞分裂が行われないことに関し、彼女は自身の毛髪の維持を最も重要な課題と考えているようです。
生前に十分な医学教育を受けていたこともあり、喚楽研究員は基底次元のヒトの身体について深い造詣を有します。加えて彼女は再定着前の精神体の状態でも医療技術を学んでいたと主張しており、基底次元のヒトには直接的に適用不可能な外科的処置の方法を多数記憶しています。これらの知識が役に立つ機会は、概して喚楽研究員自身を治療対象とする場合に限られます。
基礎開発サイト-8178における喚楽研究員の主な業務は、異常・非異常問わず数多く存在する生体素材の応用方法の模索です。彼女は一般社会の通俗的な知見を集積し、それらを異常存在へ適応可能であるか確認する手法を取っており、これは研究費用の削減に役立っています。コンクリート製の建築物を腐敗させることで知られる8種のクラスⅡ微視的霊体群衆に対するワサビ(Eutrema japonicum)を原料としたアリルイソチオシアネート製剤の噴霧の有効性を証明したことは、彼女が挙げた最初の功績として数えられています。なお、本人はヒトに適用可能な生体義装の開発業務に高い関心を示していますが、基礎開発サイト-8178に設置されている該当部門への参加には彼女の異常曝露歴を原因とする制約が生じています。
喚楽研究員は環境による性格の変化が激しく、研究室の内外で言動に著明な差異が認められます。実験に対する彼女の姿勢は極めて厳格であり、非異常科学をベースに組み上げた異常仮説の実証に向けて綿密な計画の用意を徹底しています。自身の生命活動の維持が必須でないことから、必要であれば彼女は120時間以上の連続した実験を躊躇なく行います(他の人員は適宜交替します)。一方で研究室から出た後の喚楽研究員は極めて無気力であり、サイトのロビーや談話室にしばしば無言無動で座っている姿が目撃されています。業務の性質上、基礎開発サイト-8178で死傷者を伴うインシデントが発生する可能性は他のサイトと比較して低いことから、サイト内に倒れている状態の彼女が遺体と誤認されることは然程多くありません。彼女の趣味の一つはサイトの従業員達と一緒に写真を撮影することですが、これは決して心霊写真を作成することを意図したものではありません。