ネタバレ注意!
自著で登場したかあるいは言及されたオブジェクトが関連する事象の年表です。自身のヘッドカノンを多分に含みます。近々、かつて載せていた他著の年表についても兼ねて載せたいと思っています。
冥王代
種族IIの恒星が超新星爆発を起こした後、残骸である膨大な水素ガスはやがて重力に引かれて収縮を開始し、原始太陽を形成した。太陽の形成に参加しなかった物質は原始太陽系円盤を構成し、原始太陽の周辺で回転運動を行っていた。原始太陽円盤を形成するガスや塵はやがて微惑星として纏まり、その微惑星同士が次々に衝突を繰り返して地球の形成に至った。これが約46億年前の出来事である。なお、ハワイ島マウナ・ロア山の溶岩からはこの年代に等しい絶対年代を示すSCP-2624-JPの灰に類似する物質が検出されているが、新生代に形成されたホットスポット火山でそのような年代を示す物質が得られることは考えにくく、その起源は不明である。
衝突の力学的エネルギーが熱エネルギーに変換されたため、形成後の地球は灼熱の状態であった。地表の岩石は熔融してマグマとなり、全球がマグマに被覆されるマグマオーシャンの時代であった。このため、この時代の地球には液体の水が存在せず、また生命や固体の岩石も存在しなかったとされる。しかし約44億3000万年前の地球に接続するSCP-3849は、この時代について異なる示唆をもたらしている。実験で回収されたタイムカプセルには多細胞生物に由来する生物起源物質と原核生物からなるストロマトライトが付着しており、深刻な歴史改変が発生したおそれがある。
太古代
やがて地球が冷却されて海洋が誕生すると、水という溶媒に恵まれて化学進化が進行した。こうした化学進化は物質を構成する元素の性質に束縛されるわけであるが、現生の生物はいずれも炭素をベースとする炭素型生物である。これは炭素原子の結合の手の数が4本であり、また化学的な安定性が高い(直ちに酸化されない)ことから、様々な物質を形成可能であるためである。SCP-5814がラニアケア超銀河団で活性化エネルギーの低下を引き起こすまでは、珪素もまた炭素と並んで化学的に安定な元素であった。グリーンランドのイスア地方に分布する堆積岩には、約38億年前に地球に逃げ延びた珪素型生物の痕跡が認められる。彼らは肉体の崩壊により死滅し、生物史の主役を炭素型生物へ明け渡した。
地球で知られる炭素型生物は、主にタンパク質・炭水化物・脂質という形で炭素骨格を含む物質から構成されている。脂質で構成された膜は内部と外部を隔離する特性を有し、化学反応が進行する系を構築した。こうした化学反応は徐々に複雑性を増し、生命活動という形で代謝を行うようになり、やがて分裂を経て子孫を残すようになった。この時点における生命の設計図たる遺伝子は、DNAではなく酵素活性を持つRNAやタンパク質が担っていた可能性もある。こうした理論の構築は日進月歩であるが、初期生命に関する視座を与えるアノマリーとして、リアルタイムの進化を進行するSCP-1341-JPは好材料であろう。
また地球生命との生存競争に敗れた影の系統として、SCP-643-JP-bが居る。当該生物は炭素型生物ではあるもののDNAワールドおよびRNAワールドに属さない生物である。他の原始的生命体との比較にも基づいて、現生の地球生命と最近接共通祖先を共有しないと思われる。約34億年前に堆積した彼らの遺骸は分解を免れ、かつ続成作用を経て原油に変化しているが、含有される未確認の窒素化合物が吸熱反応を示す。このためこれらを燃焼して熱エネルギーを得ることは不可能である。こうした現生の生物系統に繋がらない生物の体系というものは未発見であるだけで、この世界に多く存在するのかもしれない。
この他にもこの時代にはいくつかの異常存在が知られている。SCP-1812は長径約8kmの地球の衛星であり、約32億年前に地球の重力圏にトラップされ、以後衛星軌道上を公転していると見られる。地球やその他の岩石惑星と比較して高密度の組成ではあるものの、その大きさのため重力は小さく、球形をなすには至っていない。知的生命体に作用するミーム的作用があるとのことであるが、過去に発生した地球上の知的生命体には異常性・力学的特性ともに特段顕著な影響を与えなかったようである。オーストリアにはU-Pb法により約25億年前のものと推定される洞窟壁画SCP-2180が存在するが、当然既知の地球史とは整合しない年代である。グリプトドンやスミロドンといった更新世の動物の描画をはじめ不審な点が多く、研究が求められる。
原生代
シデリア紀
N/A
リィアキア紀
N/A
オロシリア紀
N/A
スタテリア紀
地理学的にはコロンビア超大陸が存在した時代である。古生物学においては、この時代に真核生物が登場している。インド中央部の苦灰岩から2017年に記載され、SCP-3057の最古の対象生物でもあるRafatazmia chitrakootensisは、真核生物として最古のものである可能性がある。本種は糸状のシアノバクテリアに類似しており、おそらくは約16億年前に生息した多細胞性の紅藻類と見られている。やがて藻類は渦鞭毛藻・珪藻・ハプト藻・クリプト藻といった多様な単細胞真核生物との細胞内共生を遂げていく。
カリミア紀
N/A
エクタシア紀
南極点の地下約7.4km地点には巨大地下施設SCP-2100が存在する。本機構は高密度のニュートリノ流の放出によりエネルギーを取り出すものであり、過去に地球に来訪した高度な地球外文明により建造されている。過去地球に到来した地球外生命体種族はいくつか例があるが、本オブジェクトが示唆するものはその2例目であるかもしれない。建設された地層の年代から、彼らの到来は約12億5300万年前であったとされる。当時の地球にはまだロディニア超大陸が存在せず、生物は最初期の有性生殖を開始した頃合いであった。
ステニア紀
SCP-5253に準拠すれば、この時代には未知の動物の系統が存在していた。この分類群は当時存在したロディニア超大陸の沿岸部の浅瀬に生息し、約3億年に亘って繁栄したとされる。当時のロディニア超大陸の周辺にはミロヴィア海と呼称される超大洋が存在していた。この海洋はトニア紀を跨ぎ、クライオジェニア紀の中旬まで存在していた。
トニア紀
SCP-5253に示唆される海洋生物は依然として繁栄を続けていた。
クライオジェニア紀
約7億1700万年前、大規模な氷河時代であるスターティアン氷期が訪れた。この原因としては光合成生物の急増によるメタン生成菌の減少、あるいは太陽と地球の公転関係などが挙げられている。結果として地球全域の水圏表層が凍結してスノーボールアースの状態に突入し、その寒冷な環境、および氷に太陽光線が阻害されることによる生物生産の停止により、ほぼ全ての生物相がリセットされた。当時出現していた大型生物であるSCP-1227-JP-2も絶滅し、その痕跡はいまだ発見されていない。
SCP-5253に準拠すれば、かつてロディニア超大陸沿岸に生息した動物系統は地下へ潜伏し、全球凍結による冷却を免れた可能性が指摘されている。実際、全球凍結状態にあっても火成活動はアイスアルベドフィードバックとは無関係に継続するため、この時代に用いることのできた有力な熱源と考えられる。ただし、その熱エネルギーを利用できる深度まで多細胞生物が進入できたかについては疑問が残る。
エディアカラ紀
火山活動による温室効果ガスの放出を受け、地球はアイスアルベドフィードバックからの脱出を果たした。氷期を脱した地球は強烈な温室効果に晒され、営力の卓越する世界が顕現した。氷床により削剥された地上、また莫大な低気圧により攪拌された海中から、膨大な栄養塩が当時の植物プランクトンに供給されたのである。活発な光合成を経て、好気性生物はやがてコラーゲンをはじめとする有機化合物を開始した。多細胞生物の始まりである。こうして出現した多細胞生物の代表がエディアカラ生物群である。
エディアカラ生物群は硬組織を持たない生物の一群であり、その生痕化石はバクテリオマットにより保存されている。彼らは後のカンブリア紀以降に生息する生物のような発達した筋肉や運動能力を持たなかったとみられ、生存競争も現在ほど活発ではなかったと見られる。SCP-1050の示唆するところによれば、彼らは約5億4200万年前、カンブリア紀との境界で絶滅を迎えている。この原因となる究極的な"災厄"は不明であるが、海水中の溶存酸素が減少し、鰓や肺をはじめとする特殊な器官ではなく皮膚で酸素呼吸を行っていた生物が大打撃を受けたとする意見が提唱されている。これは顕生代の五大大量絶滅に先行したもう1つの大量絶滅事変であった。
なお興味深いことに、節足動物に分類されるSCP-169が遅くともこの時代に出現していたとされている。奇知の範囲内において節足動物の最古の化石記録はカンブリア紀の最初期であるため、複雑な外骨格を持つ当該オブジェクトがエディアカラ紀に出現していたとする記述は非常に奇異である。もしかすると、オブジェクトは節足動物とは異なる未知の分類の生命体であり、生命力で以てエディアカラ生物群を絶滅に追い込んだか、あるいはその巨体で酸素を消費して大量絶滅をもたらした……と思索できるかもしれない。
カンブリア紀
カンブリア紀の基底は生痕化石、すなわちある程度の運動能力を持つ生物による生物擾乱で定義される。さらにこの時代の動物には硬組織を持つ化石記録が爆発的に増加する特徴があり、約5億4200万年前~約5億3000万年前に発生したこの多様化はカンブリア爆発と呼称されている。ただし、この爆発的多様化は硬組織を持つことによる保存バイアスの向上に起因する可能性も考慮すべきである。SCP-5253においてはかつて地熱を求めて地下へ向かった動物系統が地殻変動に伴って海中に放出され、適応放散を遂げたとされている。
カンブリア爆発から約1000万年後の約5億2000万年前には、海洋生物の化石群集であるSCP-477が出現している。その年代は澄江動物群のものに近く、また中国と同じく東アジア地域を構成するモンゴルから産出していることから、当該動物群と他の動物群の類縁関係の示唆が期待される。なお、本オブジェクトは生態系の構成要素として振る舞う化石であるが、生きた生物自体もこれ以降の時代ではSCP-5745の効果で現代へ侵入可能である。
澄江動物群の時代の直後、約5億1300万年前には前期カンブリア紀の大量絶滅が発生している。SCP-1050の"災厄"として記載されているこの絶滅事変はカンブリア紀第四期に発生したものであり、当時の炭素循環や海水準および海洋無酸素事変の発生が指摘されている。微小硬骨格化石群・古盃類・三葉虫・腕足類・軟体動物をはじめとする動物群が大打撃を受け、海洋生物のうち属レベルで50~80%が絶滅を迎えたとされる。この事変は顕生代の五大大量絶滅に含まれてこそいないものの、時代区分の境界として十分なものであった。
大量絶滅を乗り越え、約5億500万年前のバージェス動物群は熾烈な生存競争の最中にあった。頭索動物のピカイアとして知られるSCP-1767-JPは捕食者から逃れる手段として歴史改変能力を獲得した。かつて脊椎動物直系の祖先とされていた彼らの系統関係がいつしか変わってしまったのは、その能力の蓄積によるところもあるのかもしれない。対してバージェス動物群における頂点捕食者として挙げられるのは節足動物のアノマロカリスである。アノマロカリス類はカンブリア紀に多様な種を輩出し、またデボン紀まで命脈を繋ぐことになるが、関連アノマリーも多く出現している(SCP-3057、SCP-4131、SCP-2397-JP)。
その後、約5億年前にも大量絶滅事変が発生しており、海洋生物属の約40%が絶滅している。これは国際年代層序で言うガズハンジアン期に発生したものであるが、その機序や影響については未知の部分が大きい。SCP-1050の示す"災厄"が訪れたと推測される。
オルドビス紀
オルドビス紀を特徴づける動物相と言えば、まず1つにはウミサソリである。ウミサソリは鋏角類に属する節足動物であり、現代の生物では系統の分岐についてカブトガニとどちらが先であったかが議論されている。約4億6700万年前から化石証拠が知られるウミサソリは、この後2億年以上に亘って繁栄し、水圏における主要な節足動物の地位を占めた。SCP-1326に収録された図書にはウミサソリの飼育方法が詳細に綴られている。
頭足類はカンブリア紀から進化を続け、チョッカクガイが出現した。チョッカクガイは多様な体サイズを持つ系統であるが、そのうちカメロケラス属やエンドセラス属に分類される最大のものは殻長が9mに達したとも推定されている。SCP-1237-JPである彼らは約4億6000万年前の海洋生態系において頂点捕食者として繁栄し、電波による意思疎通を人類よりも幾億年早く始めていたのかもしれない。
しかし、彼らの天下も永遠ではなかった。SCP-1050に示される"災厄"の到来である。約4億4380万年前にあたるオルドビス紀の末には五大大量絶滅の最初の絶滅事変が発生しており、無酸素水塊の拡大やその他の環境変動が報告されている。この原因の仮説として、地球から約6,000光年以内に位置したSCP-1667-JPがガンマ線バーストを発し、それが地球表層を数秒間照射した可能性が指摘されている。チョッカクガイは完全な絶滅を免れたものの、この絶滅事変で大打撃を受け、後の時代で絶滅を迎えた。
シルル紀
シルル紀には3回の小規模な絶滅事変と、デボン紀との境界をなす1回の絶滅事変の、計4回の大量絶滅が起きている。これらはいずれもSCP-1050において"災厄"として位置付けられている。最初に発生した絶滅事変は、約4億3340万年前のIreviken eventである。この寒冷化事変においては三葉虫の種の約50%が絶滅し、その他にはコノドントやフデイシといった半遠洋性生物が打撃を受けている。約4億2700万年前に発生したMulde eventは海洋無酸素事変であり、ここでもコノドントが打撃を受けている。
約4億2400万年前のLau eventでは炭酸塩の大規模な風化が発生し、氷床の発達や熱塩循環の変化といった環境変動が誘発されている。この絶滅事変においても影響を受けたのはコノドントであり、その直後の同位体エクスカーションによりフデイシも打撃を受けている。シルル紀末の絶滅事変については原因が明確ではないが、約4億2000万年前のこの時期にはロレンシア大陸とバルチカ大陸およびアバロニア大陸が衝突し、その間隙に存在したイアペトゥス海が消失している。浅海域に土砂が堆積し、やがて陸と化して山脈が形成される中、SCP-1050の"災厄"が始まったのかもしれない。しかし、こうして形成されたカレドニア山脈は河川を提供し、絶滅を乗り越えた生
この時期の水圏にはかつての無顎類から派生し、有顎類の魚類が出現していたと見られる。しかし、陸上両生類の進化史を追走するSCP-1072-JPは、シルル紀以前の脊椎動物の進化史を追跡できていない。というのも、既存の知見からは推定することのできない全長10m超の六足歩行性の爬虫類様生物が4億年以上前の脊椎動物として出力されたためである。既知の魚類と当該生物の間のミッシング・リンクを埋める試みは進んでいない。
デボン紀
カンブリア紀に出現した脊椎動物すなわち魚類にはまだ顎が存在していなかったが、口蓋方形軟骨とメッケル軟骨で構成された初期の顎を経て、顎で以て物体を保持・処理可能な顎口類が出現した。現存する顎口類には硬骨魚類と硬骨魚類が居るが、魚の時代とも呼ばれるデボン紀には棘魚類および板皮類と呼称される別系統の魚類も存在した。彼らの子孫を見ることは叶わないが、SCP-1665-JPに関連して板皮類のボスリオレピスと収斂進化を遂げたと推測される文明種SoI-1665-JPがおり、これは今亡き板皮類の将来的なあり得た姿を示唆するものかもしれない。また、 デボン紀から白亜紀にかけての海洋生物はSCP-2622の主張するテラ・インテリア帝国に生息しているとされる。テラ・インテリア帝国は地球内部に開いた広大な地下空間であり、それぞれの時代において地球表層から生物が流入したと考えられる。
約3億8000万年前のヨーロッパに生息していたパンデリクチスは、硬骨魚類のうち、肢帯の発達を示す肉鰭類の1つである。体重支持器官を獲得した肉鰭類は陸上進出を開始した。しかし、この時代にも五大大量絶滅は発生している。デボン紀の大量絶滅は3つの段階に分けることができ、特に約3億7220万年前のケルワッサー事変が最も深刻であった。この要因として火成活動が考えられているが、ある異説によればSCP-294が当該の肉鰭類を大量殺戮し、これ以降の陸上生態系を大きく上書きしたという(Tale「銀と黒のモノリスは、ケルワッサーに立つ」)。
それから1000万年の後には、イクチオステガをはじめとする四肢動物が出現している。彼らは鰭が前肢に変化することで、従来の肉鰭類よりも物体を掻き分ける能力が向上し、捕食者か食糧か あるいは別の要因によって水際へ進出したとする考え方もある。祖先種の形態形質を遡るSCP-1072-JPは、これ以降の陸上脊椎動物の進化史に関する定説を概ね肯定するようである。なお、SCP-1050は3億5900万年前のハンゲンベルグ事変を"災厄"として扱ったようである。属レベルで45%の絶滅率を海洋・陸上で計上しながら、生物は進化を続けていく。
石炭紀
この時代に関連するオブジェクトにSCP-1179があるが、これは約3億5920万年前から3億1810万年前の火山岩を利用した彫像として報告されていた。現在は報告書が改訂されていること、ならびにオブジェクト本体の不定性のため、参考にすることは難しい。
石炭紀はカルー氷河期と呼ばれる氷河時代があったことでも知られるが、この氷河時代の原因には陸上に進出した植物が寄与していると考えられる。陸上植物の根や地衣類の菌根は地面に食い込み、生物風化を促進する作用がある。こうして形成された初期の土壌は植生の遷移を許し、正のフィードバック的に岩石を土壌へ変化させていった。風化したケイ酸塩は水圏に流入し、二酸化炭素の固定、すなわち温室効果ガスの削減に寄与した。これと同時に、光合成によって固定された二酸化炭素はリグニンを分解可能な生物が不在であったため大気中に放出されることがなく、枯死した植物体にトラップされた。こうして引き起こされた大規模な地球の寒冷化は、氷床の発生に繋がったとされる。3億6000万年前から2億6000万年前にかけて、約1億年に亘って大陸氷床が存在する時代が幕を開けた。SCP-1050はこの氷河時代の到来による地球環境の激変を"災厄"と捉えている。
また、この時代に腹足類が陸上に進出し、有羊膜類に対して吸血を行うSCP-1243-JPが出現した。具体的な年代は定かではないものの、約3億1500万年前のカナダからは最初期の有羊膜類であるヒロノムスが出現している。一般にカタツムリと呼ばれる軟体動物が現在のオブジェクトとしての生態を手に入れたのは、おそらく有羊膜類の出現の前後ではないだろうか。軟体動物である彼らは水辺から離れにくい性質を有していたものの、肉を穿孔してカルシウムを吸収するという生態を活かし、彼らは陸に適応した有羊膜類を利用して当時のパンゲア大陸中に定着した。
陸上に進出した有羊膜類は双弓類と単弓類に大別される。このうち単弓類のある種はSCP-2600-JPの影響を受け、パンゲア超大陸の北方に文明を築いていた。当時生態系を共有した生物としてはある種の古代昆虫や木本シダ植物が挙げられることだろう。SCP-3057でも実体化しているメガネウラは、高酸素環境に適応して大型化を遂げた昆虫の一つである。当時存在した豊富な陸上植生は、呼吸器官を必要以上に大きくせずとも酸素を賄えるという点で、昆虫の大型化に寄与したとされる。こうした動植物からなる生態系は日本生類創研がSCP-1822-JPとして再現を行っている。
ペルム紀
ペルム紀では哺乳類に繋がる系統である単弓類が繁栄を遂げていたが、この時代でも2回の絶滅事変が発生している。1回は約2億7000万年前のオルソン絶滅事変と呼称される絶滅事変である。この原因は明らかにされていないものの、高温期や酸性化といった傾向が見られている。爬虫形類や基盤的単弓類から獣弓類メインの陸上生態系へシフトし、両生類・魚類の絶滅率が上昇、植物相も大きく変貌するだけの、大規模な変化があったことが示唆される。無論、SCP-1050の"災厄"に数えられている。
獣弓類の代表例であるディキノドン類の一部は知性を発達させて文明を獲得したが、やがて迫る天変地異を知り二派に分裂した。一方はSCP-1684-JPを用いて地下へ逃れ、約2億6000万年前には巨大な地下遺跡を形成した。もう一方は地球外へ脱出したが、未知の地球外文明と接触、SCP-1439-JP-Aに成り下がった。ディキノドン類を制圧した地球外生命体は彼らの母星である地球の存在を認識した。生命体はSCP-1439-JP-Bを設置し、ディキノドン類を奴隷として使役し、ペルム紀末以降の遍く時代における地球表層の様子の観察を開始した。彼らが眺める後継の一つには、顕生代で最大の絶滅事変もあったはずである。
P-T境界とも呼ばれるペルム紀と三畳紀の境界では、海洋生物種の95%が絶滅を迎えている。これまでに紹介したコノドント・三葉虫・ウミサソリといった有力な分類群がここで完全に絶滅したのである。陸上においても、今後の大量絶滅事変で大きく被害を受けなかった昆虫のうち8目が滅亡するなど、桁違いの絶滅が発生している。SCP-1050の"災厄"のほか、SCP-2600-JPも突発的に発生したようである。後者の影響を受けて発生した奇形爬虫類の天下は短期間で終結した。
ただし、当然これで地球生物史が終焉を迎えたわけではない。子孫を残して中生代以降に繋げた系統が居るほか、SCP-1266では大量絶滅直前の陸上生態系が維持・保存されている。また、この時代に頭足類による海底文明が登場したことがSCP-4246から示唆されている。彼らは大量絶滅を生き延び、古テチス海にて2億年以上に及ぶ栄華を極めた。彼らが絶滅を迎えるのは遥か遠い白亜紀末の出来事である。
中生代全体に広く関連するオブジェクトとしては、SCP-563・SCP-1265・SCP-5745などがある。
三畳紀
遅くとも約2億3700万年前頃からSCP-1437-JPが出現していた。異常な熱耐性を活かした繁殖戦略により、彼らは地殻を貫通してマントルに突入し、大規模火成活動を誘発した。放出された二酸化炭素やその他の火山ガスはカーニアン多雨事象をもたらし、地球の表層環境を大きく変貌させ、恐竜や哺乳類の進化史を左右した。
この時代に関連する他のオブジェクト:
ジュラ紀
非鳥類型恐竜から派生した鳥類であるが、その起源はジュラ紀にあったとされている。中国・遼寧省および河北省に分布する、後期ジュラ紀オックスフォーディアン期にあたる約1億6000万年前の地層からは、アウロルニスやアンキオルニスといった初期のアヴィアラエ ドロマエオサウルス科よりも現生の鳥に近い獣脚類が産出している。続くキンメリッジアン期にあたる約1億5500万年前のアーケオプテリクスもまた特筆性の高い属であろう。こうした非鳥類型獣脚類から鳥類への系統発生は、SCP-682も個体発生的に示唆している(Tale「緋い蜥蜴、硬い鳥」)。
この時代に関連する他のオブジェクト: SCP-250は当該骨格をAllosaurusではなくMonolophosaurusと解釈した。
白亜紀
前期白亜紀アルビアン期の中国・甘粛省より産出したハドロサウルス上科の恐竜の歯の化石から、アジアでイネ科草本すなわちSCP-1150-JPが出現していたことが確認されている。彼らは約1億1000万年後の標的に合わせ、この頃から全生物の抹殺の準備を開始した。なお、この要因として同時代あるいは異なる時代に起源を持つ他の異常存在が関与した可能性がある(Tale「爆音ではなく静寂の中で」)。
時代を跨ぐと後期白亜紀セノマニアン期に入るが、約9700万年前のミャンマー北部カチン州では木本植物の樹液が鉱物置換を受けた琥珀が多く形成された。琥珀中にトラップされた昆虫をはじめとする小動物の化石は状態が極めて良好なものであり、高解像度の情報を保存している。量子ゼノン効果により水没等による窒息死を回避可能な特性を持っていたSCP-1879-JPは、琥珀に閉じ込められて長きにわたり状態を固定されることとなった。彼らの特性は後の時代の生物に恩恵をもたらすこととなる。
セノマニアン期の動物として著名なものには、映画『ジュラシック・パークIII』で知られるスピノサウルスが居る。スピノサウルスの最初の化石は1912年にエジプト西部に分布するバハリヤ層から産出しているが、命名の基準となったホロタイプ標本は1944年にミュンヘンを襲ったイギリス軍の空襲により失われている。命名者であるエルンスト・シュトローマーは表向きには標本の避難に向けて動きを見せていたが、その裏ではセノマニアンに到達したSCP-1639-JPの隠蔽工作に着手していた。
時代は下って白亜紀最末期であるマーストリヒチアン期の海洋では、西部内陸海路や北太平洋域をはじめとする地域ではモササウルス科爬虫類が繁栄していた。しかし、かつての魚竜の生態的地位を埋めた彼らは頂点捕食者ではなく、当時北太平洋に生息していた小型肉食動物にその座を譲っていた可能性がある。SCP-1438-JPがそれを示唆している。
この時代に関連する他のオブジェクト: SCP-2902-JPの年代の判断は保留する。またSCP-317・SCP-124-PTも白亜紀の生物である。
暁新世
恐竜絶滅後に生態系が回復しつつあった古第三紀暁新世において、その末期には暁新世-始新世温暖化極大と呼称される劇的な温暖化事変が発生した。これは数千年スケールという極めて短期間のうちに進行した地球環境の激変であり、その原因はSCP-743-JP-EXによるテチス海の海底堆積物の燃焼であったとされる。燃焼した有機物は二酸化炭素分圧の急激な増大、それに伴う温暖化を引き起こした。この温暖環境に乗じて繁栄した生物には熱帯・温帯性の植物や霊長類がおり、またSCP-1243-JPはこの時代にボーンベッドを形成している。
始新世
SCP-1184-JPは始新世前期にはアジアで出現したと見られている。当該オブジェクトは扁形動物の一種あるいはそれに関連する生物であり、動物(主に脊椎動物)との相利共生関係を構築している。彼らは現在もなお多数の動物種の存続に寄与しており、かつては前期始新世以降に出現した多くの有胎盤類の哺乳類にも影響したことであろう。なお彼らの異常性のため、生態系保全を目指すヒトの取り組みは残念ながら裏目に出ているようである。
ドイツ北部・バルト海は世界有数の琥珀産地である。バルティック・アンバーが名産として知られ、美術品・工芸品として扱われるのみならず、ドイツ琥珀博物館をはじめ研究機関による学術研究も進められている。SCP-2606はこのバルティック・アンバーを研磨削剥して製造された飲料グラスである。オブジェクトを構成する琥珀には双翅目・膜翅目・甲虫目に属する昆虫が多く保存されている。年代は約4800万年前から約3800万年前、始新世中期にあたる。
長鼻目は有胎盤類のうち最古の目の一つであり、遅くとも暁新世の頃には海牛目や岩狸目との共通祖先から分岐したようであるが、SCP-2683が2009年時点で最古とされるエリテリウムまで遡っているか否かは不明である。現状確かな対象生物は約3600万年前のモエリテリウムが最古とされる。モエリテリウムは肩高約60cmとブタ程度の体格であるが、胴部が有意に長く、生態は現生のコビトカバに類似する。長い鼻を持たないものの、上下の第二切歯が牙状に伸びており、ゾウらしい形質状態を獲得した属である。これ以降の長鼻目は大型化して鼻も伸ばし、やがてアフリカ大陸から外へ進出していくことになる。
始新世には南極氷床の形成が開始した。氷床が成立するためには十分な気温低下と降雪量が必要である。ヒマラヤ山脈の形成に伴う大気中の二酸化炭素の固定は長期的な二酸化炭素の減少を導き、氷床発達を促したと考えられる。南極氷床の形成は地球を氷河時代へ突入させ、その後の全球の気候を大きく左右するファクターとなる。本格的に氷床が形成されるまでの間(約3390万年前の始新世-漸新世大量絶滅事変まで)、南極大陸に存在するSCP-4246関連遺跡の大部分は海中に存在していた。これらは寒冷化に伴う海水準の低下により、現代では地上・南極氷床下に存在している。
漸新世
約3300万年前、鯨骨群集に特異的な環形動物であるホネクイハナムシ属の系統群から能動的捕食者であるSCP-1251-JPが出現した。彼らはヨーロッパ地中海において繁栄し、多数の海洋生物や水辺の付近に生息する陸上生物に対して多大な捕食圧をもたらした。彼らを進化のドライビングフォースとする動物系統には後にアフリカで誕生するヒト上科も含まれており、彼らは水圏を脱出して解剖学的構造を変化させ、森林へ適応していった。
中新世
また南極大陸の独立に伴う南極周極流の発達により、地球の気候は寒冷気候に転じた。後期白亜紀に出現していたSCP-1150-JPは寒冷化に伴って分布域を拡大し、新第三紀中新世の頃には広大な草原を形成した。北アメリカ大陸とヨーロッパではステップ、アジアとアフリカ大陸ではサバンナとして拡大した彼らは、全生物抹殺の準備を整えつつあった。
このような新たな環境に適応した動物には奇蹄目ウマ亜目が居るが、彼らが進化した歯でケイ酸を含むイネ科草本を摂食したことにより、河川水および海洋には多くのケイ酸塩が含有されるようになった。このケイ酸塩を用いて繁栄を遂げたのが珪藻類であり、SCP-798-JPも約2000万年前にアクチノキクルス属内で種分化を起こした。当時既に氷床が存在した南極大陸以外の地球全域に生息した彼らは火山活動を介して活性化することもあったが、本格的な活動の開始はヒトの文明の登場を待つこととなる。
約1450万年前の南極大陸には地球外生命体種族が移入を試みた痕跡があり、氷床下約2.4km地点にSCP-1980に指定された建造物が存在する。彼らは南極に生息する何らかの地球生物を捕獲して肉体的融合を目指したようであるが、地球生物の生命機序との間に互換性が無く、試みは失敗に終わった。Dクラス職員を用いた記録からは、彼らがSCP-1050に示唆される"災厄"を「スクリーマー」と呼称し、自種族の遺骸が全て消費されることを予想している。"災厄"は銀河系内の惑星に影響を及ぼし、地球においては中新世以降の動物相を決定づけたようである。中新世には現代の陸上哺乳類のほぼ全ての科が出揃い、これ以降目立った変化は起きていない。
なおこの時代、南北アメリカ大陸の間にパナマ地峡はまだ存在していなかった。このため孤立した島大陸であった南アメリカ大陸には有袋類や大型爬虫類に代表される独自の生態系が構築されていた。上部中新統にあたるヴェネズエラのウルマコ層からは、多数のワニやカメの化石が産出しており、濾過摂食性の大型ワニであるモウラスクス、中生代を思わせる巨大カイマンのプルスサウルス、甲長で2メートルを超える曲頸亜目の巨大ガメであるストゥペンデミスが居た。哺乳類としては体重約700kgの巨大齧歯類フォベロミスが知られており、財団はSCP-294を介してその脳脊髄液の回収に成功している。いずれにせよ、800万年前の南米熱帯域には他地域で見られない特異的メガファウナが発達していたようである。
ヒマラヤ山脈の形成はヒト科霊長類の進化にも作用した可能性がある。高峻な山脈に起因するジェット気流がアジアからアフリカ大陸へ流れ込み、北部での乾燥化をもたらしたとする仮説がある。因果関係の定量化には至っていないものの、約900万年前以降にアフリカ大陸は乾燥化し、雨季と乾季が発生した。当時のヒトの祖先は化石証拠から森林地帯に生息したことが示唆されているが、2017年の京都大学の発表によれば、彼らは乾季が発生して森林内微気象が変化したことにより地上生活を開始したとされる。地上での歩行にはSCP-2994-JPによる作用も味方したと考えられる。600万年前頃に直立二足歩行を開始した彼らは、自由に使用できる前肢を用いて数多の石器を持ち、そしてその後に続く文明へ手を伸ばしてゆく。
コラム: 中新世はウナギ目魚類の多様化が起きた時代でもあった。COI、CYB、RAG-1、RAG-2遺伝子を用いた分子系統推定と分子時計によれば、ウツボ科魚類は3000万年前以降で顕著に多様化しており、ドクウツボは約780万年前にGymnothorax flagimarginatusとの共通祖先から分岐した。それから730万年後に出現する、成長ホルモンの過剰分泌により極端に巨大化したSCP-3000は、ドクウツボの異常個体である。彼女から採取される化合物Y-909は記憶処理剤として後に人類が重宝することとなるが、その正体はドクウツボという種ではなく一個体に特有のものであることに留意すべきであった(Tale「ウツボは死んで、腐って朽ちて、朽ちさせて。」)。
鮮新世
SCP-1114-JPは最大で初期鮮新世以降の時代を対象にCK-クラス: 再構築シナリオを引き起こす懸念がある。当時の陸上哺乳類相は現代とよく共通する。SCP-561は現在の生物の繁殖に作用し、鮮新世の生物を次世代として出現させる異常現象とされている(ただし、報告書中に記述されている属種には明らかに更新世の種も含まれており、再検討が必要である)。
450万年前から300万年前までは鮮新世温暖期と呼ばれ、地球温暖化を経た未来の地球の参考例とされる。この時代には西南極氷床の大部分が著しく後退し、また東南極ではウィルクス海盆の氷床が後退しており、またシミュレーションモデルではグリーンランド氷床も現在より小規模であったとされる。とはいえ、後期中新世から鮮新世にかけては長期的な寒冷化の時期にあり、北半球氷床が発達を遂げていた。この時代の末頃にかけて、SCP-3057での出現例のある大型ザメのメガロドンが絶滅を迎えている。この原因には氷河期の寒冷化、ヒゲクジラの寒冷地適応や高速化、シャチをはじめとする中型・集団型ハクジラ類の台頭など、複数の仮説が提唱されている。
なお、南極氷床の再発達についてはSCP-703-JP-0の出現が関連する可能性が指摘されている。SCP-703-JP-0は南極点付近の南極氷床中から産出した直径5kmの巨大球体であり、因果関係は未特定であるものの、当該物体が破損した結果地球が寒冷化に向かった状況証拠が提示されている。南極氷床の発達からほどなくして、この強力な環境改変は動物史、そして人類史に大きく作用することとなる。
更新世
約260万年前、太平洋を横断してSCP-2945-JPがオーストラリア大陸へ進出した。他の大陸から隔離されていたオーストラリア大陸では有袋類が適応放散を遂げていたが、そのうち霊長類に匹敵する知性を獲得したものがキノボリカンガルー属から派生しており、SCP-317-JP-EXに指定されている。彼らの最古の化石記録は約250万年前のものである。当時降水量に恵まれた広大な森林地帯に生息していた彼らは文化の成熟に伴って多様化を遂げ、約180万年前までに10の亜種が出現したとされる。特にいくつかの亜種は小スンダ列島まで進出している。彼らが霊長類より先にグレートジャーニーを開始した世界線も存在したかもしれないが、この世界線においては永続的な定住に繋がらなかったようである。
ヒト上科の霊長目はアフリカ大陸で進化を続けていたが、特筆すべきは氷期・間氷期サイクルを生きたヒト科ホモ属に属する複数の種である。Homo habillisは前頭骨が前側に膨らみ、脳容積が祖先と比べて増大している。アウストラロピテクスの脳容積が450cm3であったのに対し、本種の脳容積は640cm3である。これ以降ホモ属の脳容積は劇的な速度で増大していくが、これ以降の知性の発達には円環状寄生生物SCP-199-FRによる寄与があったであろう(ただし、アウストラロピテクスまでの系譜を見ても以前の祖先と比べて脳の発達は早く、この時点で寄生を受けていても驚くべきことではない)。H. erectusは黒曜石で構成された打製石器を約70万年前の時点で用いていたことが確認されているが、この時点で既にSCP-798-JPによる小規模な干渉があったことも確認されている。ただし、この頃のオブジェクトの個体数は少なく、前述した寄生虫とは異なり後続の種の分化を促進する要因にはなりえなかったと思われる。
狭義のヒトの登場はまだ先であるが、日本の長野県茅野市蓼科湖からは約48万年前に製造された人工遺物が発見されており、SCP-2010-JPとの関連が示唆される。本オブジェクトは現生人類に直接繋がらない同属他種の人類に作用し、その文明の興亡を著しく加速したと思われる。本オブジェクトやその他の要因により、多くの人類は子孫を残さず一掃されている。ただし、オーストラリアの先住民族であるアボリジニに関してはその系統的起源に諸説ある。すなわち、我々との間にアフリカを出発した初期人類との関係を共有しているのか、あるいは全く異なる人類から派生したのか、ということである。この世界線においてアボリジニはSCP-317-JP-EXおよびその共生者であるSCP-2945-JPと約15万年前に遭遇しており、どうやら7万年前にアフリカを旅立った後述する人類種とは一線を画すようである。やや時代を下って約6万年前の洞窟壁画には、超大型の蛇型実体SCP-6004を描いた絵画が残されている。例え種が異なっても、同じ人類たる彼らが異常存在やその他の自然界の脅威に晒されていたことは疑いようがない。
H. erectusから派生した主要な種には、H. neanderthalensisやH. nocturnusおよびH. sapiensが居る。これら3種はいずれも他の大陸に分布を拡大した種であり、発達した脳と知性を持ち、また生存に必要な技術や生活を豊かにする芸術を生み出していた。この中で主眼を当てるのは我々H. sapiensである。亜種H. sapiens idaltuは約16万年前のアフリカ大陸東部に生息した本種の亜種であり、H. sapiens sapiensの直系の祖先とされている。本亜種にはSCP-2296-JPを介した毛沼研究員による過去干渉が示唆されているが、その顛末がどのようなものであったか、現代に残された我々に知る由は無い。
生物の地理的な分散を促進するSCP-2403-JPによる断続的な影響も手伝って、H. sapiensは分布域を拡大してゆくこととなる。化石証拠によれば、彼らは約5万年前までに南アジアへ到達し、そこからオセアニアやヨーロッパへ進出している。この時代にSCP-1050に関連した"災厄"が示唆されているが、祖先は"災厄"に打ち克ったようである。ヨーロッパに進出した彼らはH. sapiensは2種の人類と衝突している。当時支配種としての地位に就いていた種はH. nocturnusであり、SCP-2036-JPに対応する生物種(オミロポン)を愛玩動物として開発するなど、強い環境改変能力を有していた。3種の人類による種間競争の結果として、最終氷期の「花の日」にH. sapiensの猛撃を受けたH. nocturnusの個体群は崩壊。続けてH. neanderthalensisの台頭を危惧したH. sapiensは、彼らの抑圧を目的としてSCP-1000-JP-EXを創り上げた。
コラム: なおH. sapiensの系統について、彼らの起源をH. erectusではなく地球外に求める異説も存在する。この説の支持者によれば、H. nocturnusの文明は地球外から飛来した彼らによって消し去られており、同時に地球生物の完全絶滅が発生している。蓋然性は極めて低いが、「花の日」に関連しうる事象が根拠として挙げられている(Tale「天与と彫刻、芸術家と狂奔」)。
こうして地球の支配権を掌握する運びとなったH. sapiensは、地球全土へ分布域を拡大し、その過程で様々なアノマリーと遭遇している。H. nocturnusによって解放された大型肉食獣SCP-4715、天候操作能力を持つ巨大なSCP-703-JP関連蛇型実体、極東の島嶼に自生する異形裸子植物SCP-1838-JP、オーストラリアに生息する大型環形動物SCP-038-KO、中華人民共和国・青海省に封印された巨大人型実体SCP-4290などがそれにあたる。非生物型アノマリーでは、SCP-2100-JPもこの時代に神秘的な歌声の体験として受容されていたようである。加えて、氷期の最中に繁栄していたケナガマンモスの亜種SCP-2082も異常種族であり、周囲の気温の低下に寄与する異常性を有していた。最終氷期での寒冷化には彼らが影響した可能性があるが、言葉を変えれば、ヒトの狩猟行動は自然環境を、そして一部のアノマリーを抑え込んだと言えるだろう。
ヒトは更新世の終わり頃から農耕生活を開始している。約2万3000年前のコムギ、約1万年前のイネをはじめ、炭水化物を種子に蓄積したイネ科草本たるSCP-1150-JPと出会った彼らは、これらを主食とした農作物の栽培を開始した。間氷期に農耕社会の成立を経た人類は富を築き、やがてムラやクニといった社会集団を構築し、我々の知る文明社会を形成してゆく。
完新世
最終氷期が終わり全球の気温が徐々に上昇する中で特筆すべき気候イベントがある。8.2kaイベントと呼称される急激な寒冷化である。この原因としては、現在の北アメリカ大陸の五大湖周辺に存在したローレンタイド氷床が温暖化に伴って崩壊し、大量の氷山がラブラドル海に流出、熱塩循環を停滞させて寒冷化に繋がったことが考えられている(ただし異説もある)。この熱輸送の変動はオーストラリア大陸に生息したSCP-317-JPの絶滅と同時期にあたるが、因果関係は定かではない。またこの時代、SCP-2945-JPは完全に共生相手をH. sapiensに切り替えている。人類の発展が彼らの支持によることは疑いがない。
目まぐるしく変容する人類社会は数多くのアノマリーの出現と分布拡大を促進した。例えば、繊毛虫門貧膜口綱トリコディナ属の種であるSCP-1412-JPは電磁干渉能力を有する寄生生物であるが、人類が発達させた電信技術と電波通信を利用した適応が認められる。また微妙な均衡の上で成り立つ生物間相互作用もまた人類の活動によって破壊されることがある。オオカミの絶滅と人為的狩猟の低減以降日本国で増加するニホンジカは、生態系や農業へ負荷をかける点やSCP-1413-JPのベクターとなる点で問題視されている。地球規模の温暖化は、再び消費者たるSCP-1243-JPの個体数増加に寄与している。
こうした人類活動とその影響は枚挙に暇がないため各論として逐一取り上げることは避けるが、人類の影響が地球生命に大きな変化を及ぼしていることは事実である。核実験により地表の14C濃度が上昇していることを受け、1950年を基準として人新世という新たな地質時代区分を設ける提案もなされており、今後の生物史にある程度の爪痕を残すことが考えられる。
人類時代
H.sapiensの科学技術は絶頂を極め、かつての支配種にも比肩するものになったと想像される。SCP-1263-JPは、如何に彼らの日常生活とテクノロジーが切り離せないものであるかを教えてくれている。具体的な年代こそ不明であるものの、直角に折れた胸椎、前側に突出する頸椎、退化した筋肉、発達した瞬膜といった形態形質がある程度の未来の人類から読み取ることが可能である。彼らは電子端末に向き合うことに己の生涯を捧げる生態に適応したのであろう。
哺乳類時代
SCP-1796-JP-5の文献からは、完新世の末には大量絶滅事変が発生したことが示唆される。人類時代の終焉である。生態系の完全な回復には約500万年の年月を要し、その生態系シフトの結果として熱帯・亜熱帯地域で木本被子植物の生態的地位はタケ亜科の植物、絶滅したクジラ類の地位は海牛類と鰭脚類、沿岸生物の地位は陸棲偶蹄類が進出した。失われた氷期・間氷期サイクルも500万年をかけて復活した。
やがて南北アメリカ大陸はそれぞれ独自の哺乳類中心生態系、オーストラリア大陸では鳥類中心生態系が形成されるなど、各大陸で独立に生態系の変化が進行した。全球的な傾向としては、強化された氷期・間氷期サイクルに伴って、高緯度地域に分布する広葉樹および針葉樹が勢力を取り戻し、タケ亜科の分布域へ再進出したことが挙げられる。しかし、この時代の生物の繁栄にも終わりはある。2000万年後に噴火したイエローストーンは大規模な火成活動を起こし、表層環境と生物相を一変させた。
北アメリカでの火成活動で衰退した海牛目に取って代わるように繁栄したのは鰭脚類と海鳥だった。地上では翼手目が爆発的に放散し、またユーラシア大陸南東部では齧歯目が二足歩行を開始し、やがてヒマラヤ山脈の下流で文明を獲得した。当該文明は文字を残し、埋蔵する化石燃料をほぼ使い尽くす勢いで繁栄を遂げた。彼らの文明が全盛を迎えたのは、かつてH. sapiensと名乗った者たちの時代から約4000万年が過ぎた頃だった。
やがて齧歯目が衰退すると、最後の哺乳類系統として繁栄したのは翼手目だった。かつての恐竜が進出しなかった海へ鳥類が生息圏を拡大したのと同様に、翼手目も空から地上の各環境へ再度の放散を開始したのである。人類時代から約7600万年後、そこにはチスイコウモリモドキの子孫による多彩な感覚器官を持った翼手目の動物相が成立していた。彼らの一部はSCP-642-JPを介し、かつて滅び去った人類に脅かされることもあった。
鳥類時代
翼手目も衰退して哺乳類がほぼ完全に絶滅した後、汎世界的に覇権を握った恒温動物はハシボソガラスの子孫たる鳥類SCP-1867-JPであった。軽量ながら高い知性を発揮できる鳥類のアドバンテージを持った彼らであったが、間の悪いことに氷河時代が終焉を迎え、恒温動物には逆境の時代が訪れることとなった。また化石燃料を先駆者たちに使い潰されていた彼らは、ついに自らの連続性をも厭わない過去の時代への侵攻作戦を開始した。