インタビュアー: エージェント・伊鶴
インタビュー対象: ██代表取締役
前文: 当インタビューは第5回目であり、対象が凡そ協力的であると判断された後のインタビューです。対象は機械工学における特異な知識の所有と、それを他者に広める事が出来る技術を所有していると考えられた為、確保されました。特記すべき事項として、対象は東弊重工前身企業の代表取締役として勤務していました。
[ログ開始]
エージェント・伊鶴: こんにちは、██代表取締役。
██代表取締役: こんにちは。ええと、何回目だったっけ。
エージェント・伊鶴: 今回で5回目のインタビューになります。
██代表取締役: 5回目ともなれば、長い付き合いですね。
エージェント・伊鶴: ええ。ではまず、前回のインタビュー内容の確認から。あなたは██重工の製品全ての設計・開発をしていた。違いありませんね?
██代表取締役: 確認せずとも、違いありません。私にとってそれは生きる事と同義でしたから。
エージェント・伊鶴: ご確認ありがとうございます。今回はあなたが異常性を持つ物品を設計できる事に関してインタビューします。
██代表取締役: どうぞ。
エージェント・伊鶴: ██重工製の製品には必ず異常性が存在していました。世界の絶対座標で工作対象を固定し、ナノ単位で切削を行う工作機械。どんな環境でも20℃を保ち、温度による寸法変化を起こさない測定器具。その他諸々。それを、あなたはどのように設計・開発したのですか。
██代表取締役: どのように、と申されましても。そういう物が欲しいと思って図面を書いて頭を使って、実際に造って失敗して改善してみて。それの繰り返しです。
エージェント・伊鶴: なるほど。設計・開発に要した知識はどこで入手したのですか。
██代表取締役: ひたすら勉強です。それから、経験か。
エージェント・伊鶴: あなたの勉強に要した物や、経験などを語って頂いてもよろしいでしょうか。
██代表取締役: 長くなりますが、いいですか。
エージェント・伊鶴: どうぞ。
[約数時間に渡り、対象の経歴が語られる。長大な為、簡易ログでは省略。完全な記録は記録・情報管理保安局(RAISA)に要請して下さい]
██代表取締役: 以上になります。
エージェント・伊鶴: ありがとうございます、██代表取締役。ご参考になりました。
██代表取締役: いえ、役立てたのなら何よりです。
エージェント・伊鶴: それでは、以上でインタビューを終了としま……
[エージェント・伊鶴の言葉を遮るように、インタビュー対象を声を上げる]
██代表取締役: すみません。私がそちらに質問をするのは不躾だと分かっているのですが、どうしても、ひとつだけ確認したい事があって。
エージェント・伊鶴: 我々が答えられる範囲であれば。
██代表取締役: 私の部下たちは、無事ですか。
エージェント・伊鶴: 全員生存しています。
██代表取締役: [溜息] ああ、よかった。
[ログ終了]
後記: インタビュー対象が語った経歴内に異常存在の関与は見受けられませんでした。又、経歴内の設備・書籍・実務経験に虚偽はありませんでした。同時期に確保された東弊重工前身企業の従業員に対してもインタビューを行っていますが、有意な情報は得られなかった為クラスB記憶処理の後開放されています。
インタビュー対象が異常性を持つ物品を設計・開発出来るのは、対象自身の異常性による物と考えられます。
██代表取締役を財団職員として雇用し、”収容”する事を提案します。これは私的な──そして、私のエージェントの勘が語る──考えですが、対象の異常性は、機械の設計開発と製造における情熱が為した物です。経験上、この類の異常存在は記憶処理を行っても異常性の根幹だけは残る事が多いです。それを利用すれば、財団に忠実且つ優秀な設計開発担当者になると思われます。
- エージェント・伊鶴