何処からともなく納屋が来る

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teethbrush 2019/8/22 (木) 10:35:01 #82940341


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おかしな話だけど、納屋に関する奇妙な体験をした奴っているか?

車でアイオワ州を移動してる最中に、道路脇で何かが燃えているのを見た。納屋だった。トラスの骨組みと、煤けた板に付いてる赤ペンキの斑点でそうだと分かった。もうほとんど崩れかかってた。俺は車を停めて、どうしてこの納屋が燃えてるのか確かめるつもりだった。誰かの車が道を逸れて突っ込んだ可能性だってゼロじゃないしな。

その時、ローブを着た人影が燃える納屋を見ているのに気付いた。ただ凝視してた。俺はすぐさま停車すべきじゃないと決断した。

今は休憩してガソリンスタンドを探してる。隣にはまた別の納屋が建ってる(写真のやつ)。どう思う?

Carnibal 2019/8/22 (木) 11:01:33 #82944359


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多分それらしい話ができると思うよ。

まだ子供の頃、私はアイオワ州の趣ある小さな農場に住んでいた(写真がその農場だ)。当時は父と二人暮らしだった。母は少し前に亡くなり、父は農場生活が生活リズムに良い変化をもたらすと考えていた。1年ごとにトウモロコシと大豆を代わる代わる栽培する、やや小さめな300エーカーの畑。そして数頭の羊。仕事が無い時はかなり退屈で、その場にある物をありったけ活用しないと気晴らしにならない。あらゆる芝生を、岩を、ブラックベリーの茂みがある場所を記憶に焼き付ける。そこはある種の王国だ。

そんなある日、納屋が姿を現した。普段よりもかなり遅く、父が電話口で話す声で目を覚ましたのを覚えている。父はどうやら隣人を怒鳴り付けていたらしく、私たちの土地に勝手に何やらを建設したというので腹を立てていた。あの当時、父と隣人は雄牛のように角突き合わせてばかりだったから、私は大して気にも留めなかった。

私はいつものように外へ遊びに出た。そして、畑や豆や岩や木を一つ残らず記憶していた身として、そこに納屋があるとは思いもよらなかった。そいつは大豆畑の中に、私は作物でございますと言わんばかりに澄まして居座っていた。綺麗な見た目じゃなかった — つい最近建てられたにしてはかなり古びていた。朽ちた木材からペンキが剥げ落ち、隙間だらけの屋根には黒のこけら板がへばり付いている。中は見えなかった。光が入っていかなかったんだ。全く。それを調べようとは一度もしなかった。昔の好奇心旺盛な私にしては、かなり珍しいことだった。

父は隣人が納屋を取り壊すのを望んでいたので、自ら手を出そうとはしなかった。筋金入りの頑固親父でね、何事も誤解の余地無く自分の思い通りにやらせたがる人だったよ。父は私が納屋に近寄るのも良く思わなかった — “ガタガタすぎる”し、“学者先生が積み木で建てやがった”ような安普請だから、と言っていた。私は普段、納屋からは距離を置いていた。他にも幾つか気付いた事があった。

初めて見た時、そいつは作物の列に合わせて整然と並んでいたんだ。それが、ひょっこり姿を現した次の日になると、納屋は少しだけずれていた。私は自分が狂ってはいないと知っていたから、頭を使ってちょっとした科学実験をやった。泥溜まりに挿した棒切れを納屋の角の一つに配置して、納屋がまた動きを見せるかどうか待った。言うまでも無く、数日後に、私は自分が狂っていないことを確信した

そいつは羊の囲いに向き直ろうとしていた。

間もなく1頭の羊が消えたが、柵の一部が外向きに倒れていた — ただ逃げ出したようにも見える。父は全くそうとは思わず、また例の気の毒な隣人の仕業だと考えた。私は納屋の中を調べるべきだと何度も言ったが、父は拒否した。彼は入りたがっていなかったし、私にはそれを説得できなかった。

羊たちは失踪し続け、父は何度も繰り返し隣人を非難した。この悪循環を断ち切る手段は明々白々だ。さっさと納屋に入るべきだと私が頼み込むたびに、父は拒絶した。それまで見たことも無い目付きをしていた。奇妙な、微かだがすぐそれと分かる感情だった。群れの半分がいなくなった時、とうとう父は折れた。真夜中にライフルとランタンを掴んで飛び出した — 何を撃つ気で銃を持ち出したのかよく分からない。今にもうっかり引鉄を引きそうなほど震えながら、父は納屋へ向かった。父の目に浮かんでいたのが何なのか、ようやく分かった。

父は中へと踏み込み、納屋の暗闇が父を呑み込んだ。ランタンの灯りはすぐさま虚空に消えた。私には低い呟き声、何かがカタカタ鳴る音、時折の罵りが聞こえた。不安のあまり、時間の進みが酷く遅く感じられた。永遠にも思える時間が過ぎた後、汗だくになり、靴底と指先にべっとりと血がこびり付いた父が走り出てきた。父自身の血ではなかったと思う。父は納屋の中にランタンを投げ込んだが、ペンキの上に零れた火はすぐ衰えた。父は道理をわきまえていたから、どんな形であれ納屋に放火したら大豆畑にも延焼すると分かっていたはずだ。彼は馬鹿じゃなかった。それにも拘らず、父はガレージからガスバーナーを持ち出した。

なかなか火は点かなかった — だが燃え始めると速かった。元から廃屋同然だったから、跡形も無く崩すには炎があれば十分だ。火勢がいよいよ激しくなってくると、家に帰って自分の部屋にこもっていろと言われた。

やがて、叫び声が響いてきた。動物じゃない — それにしては発音が明瞭すぎる。かと言って人間の声にしてもどこかおかしい。あれはきっと納屋だった — そう分かるとしか言えない。叫び声は暫くして窒息するような呻きになり、喉を焼かれたような耳障りな声へと変わった。あの夜眠れたかどうかは覚えていないが、ガラガラ声が朝までに収まっていたのは確かだ。納屋の跡に残っていたのは、4頭の腐った羊の骨と、黒焦げになった肉の小山だった。

あれだけの肉がたった4頭の羊から出るわけが無い。

私たちは肉塊を土に埋め、それきり何も起きてはいない。だがこれだけは言わせてくれ。1980年代の農業金融危機で、中西部には数多くの納屋が放棄された。沢山の人々が仕事や家を失ったが、もっと重要なのは彼らの納屋なんだ。私は時々、そのうち幾つが本物なのか疑問に思う。納屋を焼くのが居た堪れなくなる日もある。大抵の場合、それらは何の変哲もない納屋に過ぎないからだ。

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しかし、奴らの叫びを聞いたら、君だって燃やしてしまいたいと思うだろう。

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