51番通り攻防戦 前編
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教会は近いが神は遠い

2001年 9月10日 ニューヨーク市警17分署 押収品倉庫 エドウィン・クローヴス警部補

定期的な掃除がされているにもかかわらず埃っぽく、暗い雰囲気の漂う押収品倉庫。そこに何人もの警察官によって大量の木箱やケースに収められた銃火器、酒瓶、装飾品、大量の押収品がこれでもかと運び込まれていく。倉庫に積まれていく木箱に本来刻まれていたと思われる刻印や印刷はかすれ、もしくは意図的に消され、押収時に改めて印刷されたシールだけが現代に残った禁酒法時代の遺産の中身を主張している。

発端は一件の殺人事件だった。買い取られた地下埋設型のバーで禁酒法時代の市長だったジミー・ウォーカー1の隠し倉庫が見つかり、その扱いで割れた所有者夫妻はひどく争う事になったらしい。口論の末に妻に発砲、通報の上で今に至る。押収品は一時的に17分署の押収品倉庫に保管され、しかるべき手続きの後に移送されるとの事だ。

「酒瓶は慎重に運べ!今は証拠だが最終的には市の資産として競売にかけられる品だぞ!ああそこ!その箱の中身は10ゲージのショットガンだ、酒の木箱とは分けて置いとけ!」

誰かが持ち込んだCDプレイヤーから再生される古臭いビリー・ジョエルのピアノマンを聞き流しながら作業の指示を続ける。せっかく禁酒法時代の酒があるならサイドカーかブロンクスでも作ってゆっくり一人で飲むか、McSorley's Old Ale House2で二杯引っ掛けたいところだ、もちろんダーティで。

「エド!箱はもう大体運び終えたがこれじゃウォーカーの品だけでぎちぎちだ、いつ市が持ってくんだ?」

H2Oをダーティで飲みながら灰色交じりの巡査部長のマーフィーが聞いてくる。続けて刑事のルーシーが結んだ髪を解きながら茶化すように乗ってくる。

「マーフィー、それは俺が知りたいよ。検事が言うには早めに保管場所を手配するって事だがFBIやATFが口をはさんできて手間取ってるってところだ、後あれだ、例のメンインブラック。なんでもシカゴ・スピリッツとかいう奴らの関連事件にかかわるんだとさ。」

「そりゃあ難儀な事だな。1875年のスコッチがすぐそこにあるのに誰も手が出せずと。」

「警部補、マーフィー、折角なら一本私たちで味見っていうのはどう?許可が貰えるならグラスを撮ってくるけど。」

「駄目だ、ルーシー、俺たちはこれを証拠として保全しなくちゃいけないからな。代わりにこれが片付いたら皆でMcSorley's Old Ale Houseで引っ掛けよう。俺のおごりで!」

作業している同僚たちが歓声を上げる。作業はつつがなく終わり、俺たちはビールとバーガーで一杯やってニューヨークが平和だった最後の夜を穏やかに過ごした。唯一のトラブルは調子に乗ってルーシーの腰に手をまわしたウェインが一発いい音のビンタを喰らって当分笑いのネタにされる事になったってくらいだ。そう、そうなるはずだった。


2001年 9月11日 ニューヨーク 3rdストリート エドウィン・クローヴス警部補

心地よい朝だった。露店で蒸し玉ねぎがたっぷりのホットドックを食べながらゆったりと出勤する。シャキシャキで甘い玉ねぎとケチャップ、マスタードの味が程よく混ざり合い出勤前の活力を程よく満たしてくれる。手についたケチャップを指で舐めとってから時計を見ると時計は8時半、まだ出勤には余裕がある。17分署まで徒歩で5分、やっかいな報告書もない、穏やかない一日を予感して空を仰ぎ見た、予感は瞬時に崩れ去った。空から現れたその不自然な飛行機はニューヨークの日常を悪夢で飲み込んだ。


発端は何だっただろうか?誰かが空を指さして叫んだのは覚えている。ともかく誰かが叫んで皆の視線が空に釘付けになった。飛行機雲とも天使の輪とも……いや、地獄の軌跡ともいえるそれが空を漂い、見たこともない幾何学的な文様が空に刻まれていった。

その瞬間、そう、誰も……誰もが動けなかった。世界が崩れ去るその瞬間、それを見ないで済んだ奴はきっと幸運だっただろう。あの”サウロンの炎の眼”が見開かれた瞬間、世界は、現実との境界線を失った。

それが”見開かれた”と同時に、世界は赤く、恐ろしい何かで覆われた。ロンドンよろしく怪しい霧が立ち込め世界が塗り替わったのを肌で感じた。そして皆時を思い出したかのように走り出した。あるものは公衆電話へ、あるものは地下鉄の駅へ、そして私は自分の職場たる17分署へと駆け込んだ。

誰もがそのとき何が起きたかを理解していなかったがただ一つ分かっている事があった。何か最悪な事が起きたのだ。


事件発生から2時間後


2001年 9月11日 ニューヨーク市警17分署 ストリート エドウィン・クローヴス警部補

今やニューヨークは地獄と化していた。世界が塗り替わってから2時間、夜勤で残っていたもの、各地から駆け付けたもの、17分署に所属する多くの警官たちが市民を引き連れて署へと集まってきた。彼らはニューヨークの各地で発生しつつある様々な事象について報告した。全身から霧を吐き出す人型の怪物の群れ、高架を駆ける”機関車”にゴースト、様々な化け物が湧き出て人を襲うというのだ。

「パトカーでも配送用のトラックでも護送車でもいい、道路を封鎖して陣地を構築しろ!急げ!こういう時、市民が頼るのが警察だ!」

「あの煙の怪物、9㎜が効かないぞ!囮になったジャンが奴らに飲み込まれた!」

「暴動鎮圧用のショットガン持ってこい!破壊力があれば少しは押しとどめられる!」

署の各地で下士官クラスの警官たちが声を張り上げている。無線は通じず、電話も早々にパンクした。辛うじて緊急用の有線通信で一部の署とは回線がつながっていたが、どこもかしこもが一様にパニックに陥っていた。”今のところ”17分署の近く1ブロックは交通規制の為の柵や車両がバリケードとなって怪物そのものが直接の侵入を果たすことはなかったが、各所のカメラには皆が言う”怪物”もしくは”悪魔”のそれが数を増やしながら分署のあるこのブロックに近づきつつあるのが確認できたらしい。

俺たちは次々と起こる異常な現象の雨あられに場当たりな対処を続けるしかなかった。少なくとも分署長の行方は未だ知れず、警部補や巡査部長を中心にその場に居合わせた中間管理職だけで対処するしかなかったのだ。唯一、偶然にも早く出勤していた異常犯罪課のグレッグ警部は市民の受け入れと署の防衛体制についての指示を出すと、必要な資料をかき集めてとどこかに消えてしまった。

「士官級の職員は会議室Aに集合してください!これより方針会議を行います!繰り返します。士官級の職員は会議室Aに集合してください。インシデントの緊急対策会議を行います。」


会議室に入ると部屋の中央で繋げられた長いテーブルに大量の地図や資料が積み重ねられており、ホワイトボードに件のグレッグ警部が何かを書き殴っている最中であった。机に並べられた資料は普段の捜査では目にしないようなゴシップやオカルトについてのあれこれが書かれており、本来の業務であればため息の一つは漏らしていたようにも思う。グレッグはひとしきり書き終えると警部補以上の皆が集まるのをしばらく待って話を切り出す。

「こんな時に呼び出して済まない。今起きている状況については皆既に知るところだと思う。誰だか知らないが空に飛行機で魔法陣を描いた馬鹿のせいでマンハッタンは異常空間として島の外と切り離され、隔離されている。そこかしこから異常な怪物が湧き出し、怪物から逃げ惑う市民は今もなお各所で助けを求めている状態だ。」

深刻そうに言うグレッグ警部に皆が頷いたのを見て彼は続ける。

「はっきり言おう、奴らの正体がわかった。あれはいわゆる悪魔だ。20分署に所属するエクソシストから裏がとれた。何がどうしてこうなっているのかは分からないが、あの悪魔どもは聖水や十字架や銀に弱いフィクションそのままの特徴を持っているそうだ。」

グレックはレーザーポインターでホワイトボードに書いた奴らの特徴を示す。デフォルメされたその”もや”の怪物やグレムリン、ゴースト、報告のあった個体について簡潔に書かれており、デヴィルと大きく矢印で示されている。

「警部、それでその悪魔とやらはどうすれば倒せるのですか?銀や十字架なんて俺たちの装備にはありませんよ?配備されてる12ゲージや9㎜は効かないわけじゃないが一体に20も30もぶち込まないと止まりやしない。」

「エクソシストの雇用だって最近始まったばかりだ、少なくとも俺たちの17分署には専門家なんていやしないですよ。」

あちこちから声が上がる。グレックはそれを少し悩んだそぶりを見せながらやんわりと遮り、そして言った。

「教会からそれを手に入れる。聖職者がいれば聖水が作れる。こっちに逃れてきた騎馬警官の報告によればバルトロメオ教会は今のところ無事のようだ、誰かがあそこから神父なり牧師なりを助け出してきて、ここで銃弾を聖別してもらうなり聖水を作ってもらうなりすればおそらく奴らを比較的容易に撃退できるだろう。少なくとも今よりはましになる。」

「誰かっていうのは?SWATの連中はありったけの火薬でバリケードを守るのに手いっぱいだぞ。とても人を割けるような状況じゃない。市民も増えて行くばかりだ、誰が行くっていうんだ?」

「志願者を募るしかあるまい、エドウィン警部補、昨日押収したジミー・ウォーカーの遺産があっただろ、あれの中にロックソルトの散弾と10ゲージのショットガンがあったはずだ、20分署の奴らによると岩塩は奴らを押しとどめるのに有効だって話だ、どれくらいある。」

俺は急な指名にしどろもどろになりながら頭の片隅に押し込めたリストを思い出す。大した量ではなかった。あんなアンティークがあいつらに通用するかも怪しかったが俺はなんとか数を絞り出す。

「2連式のショットガンが2ダース、それにレミントン製の信号弾拳銃が6丁、それっきりだ。弾の数自体は余裕があったし、シカゴスピリッツの関連物品なら探せば他にも使えるものはあるかもしれない。だが押収品だぞ、ありゃ俺たちの備品じゃなくて市の資産だ、勝手に使ってもいいのか?」

「構うもんか、文句が出たら俺が責任を取る。それと近くの質屋とコインショップだ、銀貨をありったけかき集めろ。この会議の直前から他の分署との回線も徐々に切断されて通じなくなってきている。俺たちは市民を救助するためにも有効な手段をかき集めて対処しなくてはならない。」

誰かが口笛を吹く。俺たちは短い時間の中でこれからの事を話し合った。幸いにも外の連中は方針が決するまでの時間を稼いでくれたし、少なくともこの段になって警部の意見に逆らうやつはいなかった。必死だったと言われればそれまでだが、奴はある意味俺たちの救世主ととっても良かっただろう。

「リー警部補は署内で銃弾のハンドロードが出来る技術者をかき集めて来てくれ、エドウィン警部補は刑事課の動ける奴とジミー・ウォーカーのあれこれや押収品倉庫の武器弾薬、そのほか使えそうなものを武器庫に、他はバルトロメオ教会に行く志願者を集めろ。」

そうグレッグ警部が会議を締めると、俺たちはすぐさま行動を始めた。事態は刻一刻と悪くなりつつあった。俺たちは対処の為の手札を手に入れつつあったが、今思えば、ある意味では手札を手に入れたからこその地獄だったのかもしれない。

俺たちはさっさと逃げ出すべきだった。少なくともまだあの時はそれだけの余裕があったのだ。


事件発生から5時間後


2001年 9月11日 ニューヨーク市警17分署 エドウィン・クローヴス警部補

時計は15時30分をまわりつつあった。警察署を目指して逃げてくる市民は徐々に数が減り、一方で煙の悪魔は数を増やしつつある。結局、俺は刑事課の面々と共に教会への道行きに志願する羽目になった。部下が名乗りを上げて自分がここに残って指揮をするなんて言う恥知らずなことは出来なかったのだ。俺は水平二連式のバカでかい散弾銃に岩塩が詰まった旧式の鉛のショットシェルを詰め込みながらため息をつく。結局のところ志願者によって3つのチームが結成され、それぞれが57番街の仏教寺院、レキシントン外の改革派街道、そしてパーク街のバーソロミュー教会に送られる事になった。俺たち刑事課はひとまとめにされたパーク街だ。

「エド、デヴィルが怖いんだったらお前は残ってここでふんぞり返っていてもいいんだぞ?」

茶化すように言うマーフィーに悪態をつきながら軽く小突いてやる。

「馬鹿言え、そんな腰抜けなところ見せられるかよ。あのルーシーすら志願したんだぞ、オフィスで震えていたらそれこそ終わった後に破産するまでお前たちに搾り取られるだろうが。」

「ええ、だから安心して破産してくれていいのよ?今度はビールじゃなくてワインの美味しいお店がいいわね。」

「そうだ、警部補、俺たちは殺人犯だってもろ手で逃げ出す刑事課だぞ。たかが悪魔、手錠で繋いで州刑務所行きだ。ミランダ付きでな……奴らに黙秘権って必要か?」

バカ騒ぎする奴らに両手で降参だとジェスチャーをしながら散弾銃に安全装置をかけるとゆっくりと立ち上がる。腰にはフレアガンを差し込み、いつも通りホルスターには.357の装填されたリボルバーが入っている事を確認する。

「野郎ども、ショットガンは持ったな?それじゃバルトロメオの教会に神様の加護をもらいに行くぞ。」


ギギギといびつな音を立てながら電動シャッターがほんの少しだけ開かれる。腰をかがめて通れるだけの隙間が開くと装備の重さに舌打ちをしながらなんとか通り抜ける。暴動鎮圧用のマスクをつけ、地下駐車場のゲートを抜けた先はフィクションそのものと言っても過言ではない赤い世界だった。

「ウィルソン、マーフィー、先導しろ。ルーシーとリーが最後尾だ。バリケードを超えた先は何が起こってもおかしくない地獄だぞ。全員覚悟しろ。教会で生き残ってるやつらを確保したら近隣のコインショップをさらって帰還だ。」

署の周辺に設置された防衛用のバリケードを超え、俺たちは何かがうっすらと積もりつつある霧の町へと足を踏み入れる。そこかしこから何かの唸り声や悲鳴、時折銃声や爆発音すら聞こえてくる。木製のライフルグリップを握る手に無駄に力が入るのを感じながらも冷静を装って部下たちと共に歩き出す。たかが数ブロックの道のりだ、大したことはない、そう思いたかった。

希望はすぐに打ち砕かれた。レキシントン街と51番通りをつなぐ交差点に入った時だ。カテドラル図書館の施設から黒い何かが噴き出すのが見えた。大量に噴出したそれはしばらく滞空したかと思うと大音量で曲を垂れ流し始めた。ストーンズの”悪魔を憐れむ歌”だ。

その黒い何かの塊は歌い、演奏しながら徐々に近づいてきた。何かは分からない、ただ、正しく視認できるほど近づかれたら俺たちは終わりだと直感した。

「走れ、火炎瓶を持ってきた奴は火の壁を作って足止めしとけ!俺たちの装備じゃ犠牲を出すだけだ。」

マーフィーを筆頭に何人かがシカゴスピリッツの密造酒を使った火炎瓶(曰く普通でない方法で造られたバスタブジンだそうだ、部長はこれなら炎で奴らの視界を防げるかもしれないと宣った)を放り投げるとそのまま教会の方向へと走り出した。後方から歌が奇妙な感覚で木霊する。

俺の名を言ってみろ、俺の名を言ってみろ。俺の名を言ってみろ。

後方のリーが走りながら悪態をつく。

「何が俺の名を言ってみろだ、サタンめ。このくそデヴィル、地獄のガキ大将め。地獄の底で惰眠でも貪っていやがれ。」

『そうあればよかったのだがな……定命のものよ』

何かが聞こえた。俺たち全員の耳元で、そう耳元で何かが囁いた。そして次の瞬間だ。リーに何かが起きた。最初に気が付いたのはルーシーだ。真横のリーを窘めようとしたのだろう。彼の方を向いて……そして悲鳴を上げた。

リーがいたその場所で、彼の服を着た何かがそこで奴の言葉を吐き出していた。それは煙を吹きだすスケルトンだった。赤と黒の混じった霧を吐き出し、発声器官がないのにリーの声で言葉を吐き出す。

「サタンめ、サタンめ、このクソデヴィル、デヴィル、デヴィル……」

”それ”はルーシーの方を向くと彼女に向ってショットガンを発砲した。ロックソルト、岩塩の弾は彼女の腹に命中し彼女はまるで人形のようにごろごろと道路を転がっていく。ストリートに銃声が続けて何発か響き渡る。リーとすり替わった何かは岩塩の弾幕に体のあちこちを霧散させ、頭蓋骨が砕けながらも人では通常あり得ないような四つん這いの体勢になって襲い掛かってくる。まるでローチのような動きの”首無しデヴィル・リー”は続けて都合8発の散弾を喰らって仰向けに手足をばたつかせながら動かなくなる。

「再装填して警戒しろ、マーフィー、ルーシーは無事か?」

「生きてるが気を失ってる。何処かで診察が必要だと思う。」

「教会まで彼女を頼む、誰か運ぶのを手伝ってやれ。他はマーフィーとルーシーを援護だ。」

マーフィーがぐったりとしたルーシーを担ぎあげるのを確認すると次が襲い掛かってくる前に移動を再開する。幸いにも道中それ以上の犠牲無く俺たちは教会へとたどり着くことが出来た。途中、ハラル料理の店で食事する悪魔の群れを見たことを除けば俺たちは奇妙な怪物たちの姿すら見なかった。


教会は未だその聖域を保っていた。周囲では車が燃え遠くで銃声が響こうとも、この教会だけはまるで死者の城ここにありとでもいうようにそのままの姿でそこにあった。入り口を叩く俺たちを神父のジェフリーは何の警戒をすることもなく迎え入れてくれた。教会には無料配布目当のホームレスに周囲のビジネスマン、教会のスタッフに至るまで多くの人々が詰めていた。

俺たちはルーシーを長椅子に寝かせて奴らの正体と撃退に聖水や銀や十字架、聖なるものがありったけ必要な事を話すと、彼は聖水の供与と備蓄のワインを吐き出すことを了承した。だが十字架については頑として首を縦に振らなかった。”教会の象徴を武器にすることは出来ない”と彼は言った。しかし一方でジェフリーは悪魔の存在を認め、イニシアチブがどうこうだとかCIがどうとか言ったが、それについては俺には理解が及ばなかった。

奴は何が起きているかを認識しているらしい。らしいというのは俺には言ってる単語の半分以上が呪いか何かのようにしか聞こえなかったからだ。ただ、少なくとも対抗が可能な武器の供与には手を貸してくれるというだけでも十分に利益と言えるだろう。一方で当然のことだがジェフリー神父は教会で抱えている一般市民の保護を要請してきた。結果、ルーシーの搬送と含めて俺たちはあの地獄の2ブロックを3往復もして市民たちを分署まで避難させる羽目になった。

帰り道ではあの”悪魔を憐れむ歌”が再び流れる事はなく、俺たちは無事に17分署へと市民たちを護送し、少なくとも当面の対抗手段を確保した。順調だったのはおそらくこの時までだ、そう、俺たちが順調にやっていたのはここまでだったと思う。

事態が最悪になったのはそう、ルーシーを医務室に寝かせた時に聞かされたあの一報だ。

「刑事課以外の志願チームが失踪しました。他の分署とも連絡が取れません!」

というあの新人巡査の伝令が聞こえてきた時だ。この通りがエルム街に変わって俺たちがうなされる羽目になったのは11日の夜、他の志願チームが戻らず、分署との連絡が途絶えたあの時からだった。俺たちは最悪の環境の中でさらに悪い方向へと追い詰められていった。


『NYPDと次元崩落』
2016年10月2日 ニューヨーク市警 エドウィン・クローヴス警部 氏のインタビューより抜粋
著:karkaroff パラウォッチジャーナル専属ライター

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