エージェント・カナヘビはサイト管理者という役職の高さから、本来のエージェントとしてのフィールドワークと言った活動からは離れて久しく、基本は書類仕事と遊びに専念しています。併せて本人が使用している水槽も日頃の改良に次ぐ改良から、現在は水槽内で殆ど動かずとも書類仕事他の作業が可能となりました。
財団の技術力向上に基づいた変化と作業量の目覚ましい上昇が確認出来る一方、通常の財団職員と同じく各種サイトの食堂で提供される定食等やお偉方との会食といった人間用の食事を摂取しています。
たまに並みの職員より上等なもの食べてる本来のカナヘビの食事(1日置きに脱皮直後のコオロギ3匹分で換算)とは明らかに高カロリー・高脂質・高塩分である事を全くやめようとしない癖にカナヘビ本人も危惧している事から、サイト-81██のエリア-014はエージェント・カナヘビ専用の個人運動場として使用されています。獣医、スポーツインストラクター、試走用トカゲ等で構成されるスタッフによってカナヘビの愚痴要望に合わせた改良が日頃行われています。以下は個人運動場バージョン7.14の設備概要です。
<1.バーティカルネットジャンプ>:
傾斜角24度、-24度、45度の金網がそれぞれ10cm離されて配置されています。
Anomalousアイテムとして保管されている爬虫類飼育用の金網を用いている為、どんな時でも登りたい意欲が湧き上がって来るとはカナヘビ本人の言です。
バージョン3.08からの定番となっていた金網ゾーンに、更なる改良を施しました。ジャンプを入り混じった昇降運動はまさに今運動場の登竜門と言えるでしょう。
<2.カープサーフィン>:
登った後も暫く泳がなければなりません。
波を模した曲線を描くレールの上、身体を支えるのはたった二本の平行棒。荒波の様な揺れと重力を支えられる体幹が無ければ、バランスを崩して真っ逆さま。
産卵を終えたサケの様になりたくなければ、絶妙なバランス感覚が必要となります。
バージョン2.0からの改良版。以前の様ながたつきによる不幸な事故は有りませんでした。試走時には。
<3.ナローレインドロップ>:
今度はエージェントとしての活動を思い出させて貰います。
薄さ僅か数mmの摺りガラスが上下にスライドを繰り返し、その間を潜り抜けて下さい。中には流水(37℃)が絶えず流れており、動く様子はさながら雨の日の潜入活動。
自分がヤモリだったら良かったのに、そんな言葉が溢れてくれたら嬉しいと思う新エリアとなります。
試走により5℃以下の冷水や80℃以上の熱湯を用いる事は無くなりました、ご安心下さい。
<4.パピーネスト>:
濡れた身体を乾かす為のタオルも用意してあるので、心置きなくこの楕円形のドームにお入り下さい。
向こうに空いたトンネルを通り抜けるだけ。ドーム内に配備された小型犬数匹の刺激を掻い潜りながら。尻尾の自切はなるべく控えた方が良いとは助言です。不幸な事故が発生した場合は適切に状況を確認後臨機応変に対応致しますのでご安心下さい。
勿論エリア3含め探査記録-137において発生したインシデントの再現となっています。2連続の新エリアは至高の体験をもたらしてくれるでしょう。
<5.フューチャーキッドレイク>:
水面に浮かんだボートの上で走ると、ベルトの回転がスクリューに伝わる事で出発進行。
左右にはプリチャード学園に在籍中の幼等部・小等部の子供或いは子供役の暇そうな財団職員が配備されています。
その手には水鉄砲か指定された空気銃を持って。
一応のボディチェックは行う手筈となっていますが、万が一規格外の代物を持ち込んでいた場合はれっきとしたエージェントとしての才能ですので頑張って下さい。
電磁██████が用いられた事から長らく封印されていたバージョン2.50からどうにか復活したエリアです。
<6.ウェットマットブリッジ>:
此処に来て求められるのは繊細な動作。
針金2本の間にウェットティッシュを乗せただけの簡素な橋を渡って下さい。針金に触れるのは厳禁です。
定番のエリアですが今回はウェットティッシュ上に霧吹きで水分量を追加。
ここまでの進行でどれだけ体力が残っているかもカギになるでしょう。
<7.タワーオブザパワー>:
いよいよ最終エリアとなります。ガラス棒製のポールを登って、頂上にあるスイッチを押すだけ。
体力が残っているのか、ガラス棒を上手い具合に上る事が出来るのか。エリア6で時間を使い過ぎていないのかも気になる所。
スタートから今エリアまでのクリアを150秒以内に行う事を想定しています。
<8.>: 疲れ果てたカナヘビの身体を酒に沈める事で抵抗を奪い、腹側から包丁を入れて内臓を傷付けず取り除きます。
<9.>: 鍋の中に用意していた酒の中に内臓を取り除いたエージェント・カナヘビを加え、軽く下茹でします。
<10.>: しっかりと水気を切ったカナヘビの身体に小麦粉と片栗粉を混ぜ合わせた衣を塗し、180℃の油できつね色になるまで揚げます。
<11.>: 別鍋でたまり醤油、酒、刻み生姜等を合わせて煮詰めたタレの中にカナヘビを沈め絡めます。
<12.>: 酢飯とカナヘビを合わせて握り、海苔を巻き付けた後上からもみじおろしを乗せて完成です。
エージェント・立花: ここまでやった寿司なのに、何処に問題があるって言うんですか…!
鬼食料理長: まだ分からないのか、カナヘビの食生活の天衣無縫さを…
エージェント・立花: あ…!
鬼食料理長: 真夜中にカップ焼きそばにキュウリを抜いたポテトサラダを乗せて食べ、日本支部理事会との会食には懐石料理に舌鼓を打つ…ただ運動させた後酒に漬けるだけでは、相良研究員の様に雑味が完全に抜けなかった事を!
(エージェント・立花が膝から崩れ落ちる)
日本支部理事"寿獅子"審査員長: 成程…立花君の寿司を食べた時に感じた何とも言えない物足りなさは、カナヘビに残っていた雑味から来る不調和であったのか…
鬼食料理長: 私が食材に選んだのは史上最可愛とかげちゃん…ゆっくりと、純粋な愛情に、窒息していたものを選んだので雑味は一切ありません。
エージェント・立花: そんな…まるで腐ったバナナか何かと思っていたのに、ここまで料理長が考えていただなんて…
川獺丸審査員: 雑味の無さもさる事ながら、みずほらしい体格にしっかりとした素材の味…黄色い体つきを残したまま海苔でシャリの上に固定している…まるで玉子に似せた色合いだ。骨を取り払って食べる時の感覚も柔らかく、ぱらっと口の中でほどけるシャリを邪魔しない絶妙の調和ですよ。一方でカナヘビの雑味は抜けていない分、巻き付けた海苔と乗せたもみじおろしも合わさって新たな雑味を生んでいる…。き ゅ い き ゅ い
(宇喜田審査員が椅子の上で跳ねる)
エージェント・雛倉: どうしよう…立花ちゃんがこのままだと負けてしまいそう……
エージェント・許さん: 希望捨不、立花秘策審査員未気付。
エージェント・雛倉: でも、ネタの処理の仕方と握り方では完全に負けている…これ以上は何処に…あれ…?
エージェント・許さん: 雛倉正解。立花使用酢飯秘策有。
エージェント・雛倉: やっぱり…本気で用意していたのなら気が狂ったとしか思えないから必死で見ない振りをしていたあのさわやかなまでの緑色のシャリに秘密が隠されているのね!
観客: うわあっ…そういえば確かにあのシャリは緑色をしてるぞ!
観客: 何だか気持ち悪い…
鬼食料理長: 確かに…あの緑色のシャリに、どんな秘密が隠されているというのじゃ…!
(エージェント・立花が立ち上がる)