光に埋もれて消えゆくものへ、新たなる闇を
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非常に顔色の悪い男が、研究室で机に伏せている。胸元のIDカードには「紅屋 瓶蔵」の文字。研究助手が近づき、手に持つカップを男に勧めた。
「コーヒーです。どうせまた徹夜でしょう?」
受け取ったコーヒーにざらざらと砂糖を入れながら、男を口を開く。
「あたしは好きでやってるんだけどねえ、ああも嫌がられると流石にまいっちゃうよね。あ、神山博士はまだ?」
「えーと…えぇ、しばらくは来ないでしょう。最近、ちょっと事故があって…」
「そうか、死んじゃったか。じゃぁ後釜が来るまで計画は停止かな。」
「いえ、そのまま続けて下さいとの事です。近日中に来るそうで。」
ずず、とコーヒーを啜る。「あちっ」と男は呟くと、熱を冷まそうとカップに息を吹きかけた。一瞬の静寂。音を立てる物と言えば、目の前のモニターだけだ。
研究助手が呟く。
「集め始めましたね。」
収容室内には無数のボールがある。ボールは集まり、やがて形を取ると、人に似た何かに成ろうとしていた。

「…うーん。」
「どうかしましたか、教授?」
「いや。神山さんが死んでさぁ。泣かなくなったのっていつかなって。」
「はぁ。」
「あたしも、こんな見た目でさ。皆死んだだの死んでないの言うんだけど。誰も、あたしだって、実際に死ぬかもなんて考えてもないんだよ。」
画面の向こうでは今、ボールの集合体が腕を作っていた。不器用な、4本の腕。
「こいつは…この透明な誰かさんは、昔は形があった筈なんだよね。良かれ悪しかれ、あたしや他の職員みたいに。君にだってある様に。」
研究助手は、自分の髪に手を添える。
「何も残せずに死ぬって、どんな気分なんだろうね。」
人型が立ちあがり、そしてよろめいた。
「そうならない為にやるんですよ。」
「…そうだね。様々な個性の持ち主との接触を通して、彼自身がその個性を持ち直すんだ。」
男は呟く。別の画面では、第一弾としてアイスヴァインが蘇りそして暴れていた。

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