彼女は財団職員である
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彼女はブレア・アーバナである。

彼女はサイト-990に勤務しており、あるオブジェクトの研究及び収容を担当している。このオブジェクトは危険な存在だが、彼女の提案した収容プロトコルによってこれまで1度も収容違反を起こしたことがない─ただし、収容違反を「しかけた」ことは数回あった。

現在、彼女はこのオブジェクトの研究チームの主任として働いている。危険に晒されながらも、彼女は日々、このオブジェクトから同僚や一般社会を守る為に仕事に励んでいる。

彼女は、財団職員である。


彼女はオン・ザ・ガムボールである。

彼女はファウンデーション・コレクティブのメンバーであり、夢で明確に意識を保つ訓練を行っている。彼女は自身の持つ素質が評価され、つい最近メンバーとして採用された。その勤務している期間の短さに反して、彼女の上達は非常に速い。

彼女は夢の中で殆ど休むことなく学び、訓練し続けている。彼女は徐々に夢の改変能力を発現し始めており、最近はその能力の行使の練習も行っている。全ては、財団による夢の収容を実現する為である。

彼女は、財団職員である。


彼女はブレア・アーバナである。

彼女には真面目な夫と可愛らしい息子がいる。彼らは財団関係者ではないが、彼女を愛し、彼女と共に暮らしている。彼女はそんな彼らをこの世で一番かけがえのないものとして考えており、何よりも大事に思っている。

最近、彼女は久々に家族3人で動物園に行った。檻やガラスの向こう側にいる色々な動物を見ながら、家族は笑い、その時間を楽しく過ごした。しかし、その途中で職場からの緊急の連絡があり、彼女は家族と離れて仕事に戻った。息子はもっと一緒にいたいとごねたが、最後には渋々彼女が仕事に行くことを許した。

彼女は、財団職員である。


彼女はオン・ザ・ガムボールである。

彼女の夢の中には「ジョシュア」という男の子がいた。彼は彼女が小さい頃からずっと夢の中に現れる存在であり、彼女のイマジナリーフレンドのようなものだった。彼女はよくジョシュアに人生の悩みについて相談し、彼は彼女が最も受け入れられる答えを提示した。

しかし、最近ジョシュアは現れていない。彼女があまり悩まなくなり、悩んだとしても自分で解決できるようになったからである。彼女は時折ジョシュアに助けてもらいたく思いながらも、必ず自分で問題に立ち向かっていた。そうして、彼女は優秀な人材として評価されるようになったのである。

彼女は、財団職員である。


彼女はブレア・アーバナである。

彼女は今警察署におり、目の前に横たわっている2つのボロボロになった遺体を見下ろしている。彼女はどこかで、それがまるで夢であるかのように思いながらも、少しずつ自分の家族に起こった出来事を理解していった。彼女は、やがて、涙を流し始めた。

葬式が済んだ後、彼女はその足でサイト-990に向かう。葬式の為に休暇を取った分を取り戻さなければならないからである。彼女に泣いている暇はない。彼女が守るものは家族だけではなく、一般社会全体なのだから。

彼女は、財団職員である。


彼女はオン・ザ・ガムボールである。

彼女の夢にジョシュアが現れた。彼は何も言わず両手を広げ、彼女は耐えきれず彼に抱きついた。彼はそのまま彼女を抱きしめ、彼女はただただ泣き続けた。彼は、自分の息子の顔をしていた。

彼女はしばらく夢の中で仕事をすることができなかった。彼女は夢に閉じ籠り、ジョシュア─己の息子と話し続けた。やがて彼女は少しずつ気力を取り戻し、少しずつ仕事に戻り始めた。長い休暇を取ることは、その分一般社会の保護が危うくなることを意味する。それを、彼女は十分理解していた。

彼女は、財団職員である。


彼女はブレア・アーバナである。

彼女はサイト-990の瓦礫の中に倒れていた。彼女の担当していたオブジェクトがついに収容違反を起こし、施設を破壊したからである。彼女は崩れ落ちた天井のコンクリート片に押し潰されており、肺に折れた肋骨が刺さっていた。彼女は、間もなく自分が死ぬことを理解した。

彼女はそれに対し悲しむことはなかった。夫や息子と同じところに行くことができると考えたのだ。しかし、せめて何かを他の職員たちに残して死ぬべきだと考え、レコーダーを胸ポケットからゆっくりと取り出した。そして、スイッチを入れると同時に、そのまま力尽きた。

彼女は、財団職員であった。


彼女はオン・ザ・ガムボールである。

彼女は別のファウンデーション・コレクティブのメンバーの夢の中に移動していた。彼女は、自身が夢の中での訓練を積んだことによって肉体から離脱したと理解した。彼女は自分が家族と同じところへは行けないと知り、その場にうずくまった。同僚は彼女を慰めたが、彼女の絶望は多少和らぐだけだった。

彼女の生存を知った上司は、再び彼女に仕事を与えた。それは冷酷な命令だったが、同時に優秀な職員に当然課せられる職務でもあった。彼女は暫く何もできなかったが、同僚たちが働くその背中を見続けて、自分もこうしてはいられないと思うようになっていった。

やがて、彼女は仕事に復帰した。その心には絶望と、覚悟があった。彼女は最早死ぬこともできない。ならば、彼女の使命は一般社会を守る為に永遠に働き続けることである。そう自分に言い聞かせ、彼女は再び仕事に戻った。彼女は、かつての彼女と同じように、優秀に仕事をこなすようになった。

彼女は、財団職員である。

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