黒の娘の幸福なる生涯
斯くして私は幸福に生きた。
母に寄り添い、愛する人と共に歩み、時に遠く父の面影を思いながら、幸福に生きた。
77年の生涯を、82年の生涯を、65年の生涯を、94年の生涯を、学者として、パイロットとして、冒険家として、役者として、恋人として、母として、友として、一人の人間として、幸福に生きた。
母に寄り添い、愛する人と共に歩み、時に遠く父の面影を思いながら、幸福に生きた。
77年の生涯を、82年の生涯を、65年の生涯を、94年の生涯を、学者として、パイロットとして、冒険家として、役者として、恋人として、母として、友として、一人の人間として、幸福に生きた。
ときおり父を思いながら。
他人の姉妹を羨みながら。
私は幸福に生きた。
傍らに寄り添うのは混沌ではなく秩序だった。
叶えた願いは多くなかった。
連なる宇宙を知らずに生きた。
それでも私は幸福だった。
幸福に、幸福に生きていた。
不思議な力と出会わずとも。図書館へは至れなくとも。姉妹たちに導かれずとも。女王の名は冠さずとも。父と再会出来ずとも。
泣き、笑い、憤り、嘆き、驚き、喜び、生きた。
凡ゆる物語が、私を黙殺しようとも。
超常に触れず過ごした私の人生は、さぞや退屈だったでしょう。
父を追わない私の姿は、さぞや薄情に見えたでしょう。
それでも私は幸福だった。
幸福に、幸福に生き抜いた。
どうか、私を否定しないで。
あなたにとっては不要でも。
どうか、私を消さないで。
物語の理からは外れていようとも。
ページリビジョン: 11, 最終更新: 31 Jul 2022 02:24