ブライト・プライド
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男は、なだらかな丘陵地帯を歩いていた。

どこか見覚えのあるような景色が伸びやかに広がっている。それは故郷だった。確かその地の名は、ネブラスカ。

今はもう帰ることのできない地に何故自分は居るのか、如何にしてここまでやってきたのか、男は考えた。しかし考えるとその側から思考が抜け落ちていく。先程まで考えていたことすら、歩いた軌跡とともにそこへ置いていってしまう。地面を踏みしめ前進する度に男の背丈は段々と低くなっていく。

青年は歩く。段々低くなる視界とその頭でいま来た道を戻ろうかと考える。しかしそういえば自分はどこへ向かって歩いていた? さっきまでは何をしていた? 家に帰る途中だった気がするような、それとももっと何か大切なことをしていたような。ああ、思い出せないな。なんだか、何かを探していたような気がするのだけど  

まあ、いいか。きっと歩いていけば答えは見つかる。

少年は歩く。それ以上少年の背が低くなることはなかった。ネブラスカの地は少年がここへ戻るのを待っていたかのように、見せる景色を少しずつ変化させていった。
美しい丘陵地帯の隙間に、なにかを出現させたのはその変化のうちの一つだったのか、それとも予期せぬ来訪者だったのか。少年はそれを見つけると、興味を惹かれて自然と足がそちらへと向いた。

それはピエロのような姿をした人物だった。自然色に囲まれた視界に、その人工色は一際目立って少年の瞳に映った。

「ねえピエロさん、なにをしているの?」

ピエロは涙のメイクをした顔で少年に微笑んでみせた。

「ここで本を売っているのさ」

少年は本が相当に好きだったのだろう。ピエロのその言葉に目を輝かせ、少しばかり興奮した口ぶりでピエロに続けて話しかける。

「そうなんだ! ちょっと、その本見てもいいかな……」

勿論どうぞ。そう言ってピエロは数冊の本を差し出す。
題は『輝き』『知』『術』などとよくわからないものばかり。そんな本が並ぶ中で少年の目を惹いたのは、『ふるい生き物』という題の本だった。少年はその本を手に取りぱらぱらと捲ると、ある頁に目を留めた。
挿絵として描かれたその生物は、頭がやたらと大きい癖に矮小な体を持ち、そこに長い尾がついていた。どこか、胎児を思わせるような体つきのそれは、その頁に堂々と居座っていた。

「ねえ、これは何?」

古代生物でも有り得ないような形をしたそれが載った頁をピエロに見せ、少年は問うた。ピエロはその頁をじいっと見て、少年の質問に答えた。

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