ヒユーイソン効果に関する異常事例報告群
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「大連にて新型飛行艇の実験飛行に成功」金鴉新聞 大正八〇年一一月一〇日号掲載

大連にて新型飛行艇の実験飛行に成功

 新型飛行船美星號が実験飛行に成功した。関東州大連市の周水子飛行場にて四十八分間に亙つて飛行した

 全長六十メートルに及ぶ此の新型飛行舩は、従来の飛行船とも航空機とも全く違う原理で動いてゐる。搭載してゐる発動機帚星そうせい二号は、ヒユーイソン博士の発見した理論を用ひて、大連科学技術公司と東弊舎の開発した新型発動機である

 新型飛行船は巨大な電気包を複数必要とはするが、多量の貨物を積載して三次元方向へ自在に航行できるから、その運送能率は従来の飛行船・航空機とは比較にならない。硬式飛行船のやうな不安定性もなく、世界の空模様を一変させうる大発明である。将来小型化が達成されれば、日常生活の輸送も新型発動機を用いた小飛行船によつて為されるやうになるだらう。さうなれば、一庶民でも気軽に遠方へ旅行できるやうになり、また輸送費用が大きく下つて産業界も大好景気を迎へるに違ひない

 ヒユーイソン効果を発見して此の新発明に多大な貢献を果した故J・ヒユーイソン博士の甥であるG・ヒユーイソン博士は記者に対し次のように発言した

「伯父は10年前米国に居た時分に此の現象を発見したが、欧米の学会はこれを認めない許りかペテン師のやうに言つて憚らなかつた。我が父を頼つて香港へ移つても猶悪評激しく耐へ難かつた比に、関東州より招聘を受け、私を連れ大連に移つた。当地に於て伯父は篤志を得て研究に専念でき、その為に今日の成果が結実したと言えよう。日本といふ国家は科学の真理と有用性を正しく理解し、心篤い名士の多ひ素晴らしき国家である」

 ライト兄弟の初飛行以来、航空技術に於いて日本は長らく遅れをとつてきたが、新たな空の新時代は東洋から幕を空けるだらう

(筆 大連支局 谷崎進)


蒐集異常事例報吿 第2605-0215-0318號「テスラ効果」 大正三四年二月一五日作成

蒐集異常事例報吿


番號: 第2605-0215-0318號

種別: 物性二類 乙種二等

主管: 国際隠秘学連盟

發見時刻: 大正三四年一月九日(總院の認知日)

發見地點: アメリカ合衆国連邦調査局異常事例課テスラ調査委員会

經歷: ニコラ・テスラ博士によつて発見。連邦調査局異常事例課テスラ調査委員会による、死後押収されたテスラ文書に関する報告書によつて明らかになつた

對應指針: 本事例は合衆国通知194501090301号及び帷協定合意19450213-01号によつて国際隠秘対象となつてゐる

槪說: 本事例は、テスラ効果と総称される電磁気学的現象である。詳細は合衆国当局による情報統制の為不詳であるが、公開された情報によれば、此の効果を用ゐることによつて、テスラ・コイル等を用いて作成した電磁機械を用ゐて、遠隔に存在する互いに独立な電力網間に於ける電力等の移動等が可能になるとのことである。博士は生前その存在を預言し、その最晩年に実際に発生を確認してゐたとみられる

連邦調査局は、本現象の公表は「既存の物理学的見地を著しく覆して社会常識に破綻を生じるものであつて帷協定の原則に反するものである」として隠秘対象への認定を通知・要請し、帷合意19450213-01号によつて国際隠秘対象となつた。帝国その他の機関による請求に反して連邦調査局は「反帷協定的使用の懸念がある」として詳細資料を共有してせず、一部組織で独占してゐる

補足 (第2636-0623-0089號): 大正六四年八月、米テスラ研究所のジヤツク・ヒユーイソン博士は、テスラ・コイルなど複数の機械を用ひることによつて、従来物理学に反する現象が発生することを報告した。彼は故ニコラ・テスラ博士の追試実験を行つており、テスラ博士の友人であつたリチヤード・トマスソン氏が密かに保有していたテスラ文書の写しを元に、「テスラ効果」の再現に成功したのである

帷協定に基ひて直ちに研究資料は回収され、ヒユーイソン博士達関係者への記憶処理措置が実行された。報告は一部置換され、その後実験の再現性がなかつたとして錯誤ないし虚偽の報告であると発表され、批判が加えられた

しかしながらヒユーイソン博士は生得的に記憶処理に対する部分的耐性を有しており、措置の効果は不十分であつた。その為博士はその後もテスラ効果の実在を主張した。しかしながら効果の再現部分については記憶処理の影響によつて錯誤があつたために成功せず、自ら再現性を示せなかつた為に研究所での職を失つた

ヒユーイソン博士は出身であるカナダへ移つたがそこでも職を失ひ、各地等を転々とした後親類を頼つて香港へ移つてゐる

槻山博士によるヒユーイソン博士招聘の提言 大正六九年十月七日提出

提言


テスラ効果のやうな隠秘された電磁気学的物理現象に関する研究に於いて、我が帝国圏はアメリカ合衆国や大英連邦に対して大きく劣等してゐる

ヒユーイソン博士は民間にありながら自らテスラ効果の再現に成功した俊才であるが、帷協定の為に米・加両国で業績を否定され、北米大陸を追われる許りか生命も危機に瀕してゐる。彼を帝国領内で保護して恩を作り、電磁気学に関する研究を行うべきである

彼のやうな学者を密かに帝国へ招聘して厚遇すれば、帝国も電磁気学分野に関する高度な知見を得られるものと確信してゐる。ブロツク間の対立を抑制する為、招聘先は外地の孰れかの地が適切であらう

謹んで此を提言する

帝国理外研究所 槻山潤司

蒐集異常事例報吿 第2644-0819-0047號「ヒユーイソン効果」 大正七三年八月一九日作成

蒐集異常事例報吿


番號: 第2644-0819-0047號

種別: 物性二類 乙種二等

主管: 天皇機關局蒐集總院

發見時刻: 大正七三年八月一〇日

發見地點: 関東州大連市 蒐集總院大連特別硏究所

經歷: ヒユーイソン博士らの研究チームによつて発見

對應指針: 帷協定に基づき、秘匿を行ふ

槪說: 本事例は、ヒユーイソン効果と総称される電磁気学的現象である。テスラ・コイル、バン・デ・グラーフ起電機、屋井電気包、ケイバー半導膜等の電気機械類を適切に配置し電流を発生することによつて、条件次第ではあるが、任意方向へ変化する力場の発生、空間への光学・熱力学的観測の歪曲、物質の融合・変質などが観察される。原理の詳細については添付の論文を参照せよ

ヒユーイソン博士はテスラ効果の再発見に起因して職を失い、香港で電気工として日銭を稼ぎつつ研究を続けてゐた。槻山博士は博士を招聘して帝国の隠秘電磁気学上の遅れを取り戻すべきであると提言した。總院は此れを聖上へ奏上奉り、御承認の勅を頂いて実行に移した。当面の国際的対立を回避する為、租借地たる関東州大連市に設置した特別硏究所に地位を用意し、当地の代理企業、大連科学技術公司を介して博士達を支援した。体面上は此の招聘は大連側の権限内の独断であるとし、それを概ね黙認する形を取つた

合衆国の情報統制とヒユーイソン博士の被つた部分的記憶損傷の為、テスラ効果の再現には成功しなかつた。博士は自ら開発の計測機械などを用いて試行錯誤を繰返し、偶然別個の現象であるヒユーイソン効果を発見するに至つた

金井君による豊雲計画の提言 大正七三年八月一九日提出

提言


「ヒユーイソン効果」は大連特別硏究所に於いて最大の発見である。此れを用ひて密かに技術開発を進め、科学の新知識として公開すべきである。大連科学技術公司は運輸機構・攻撃兵器等への利用が期待されるとの企画資料を提出してをり、本支局の試算でも成功の公算は高いと見込まれる

本効果に関する知見が帝国によつて独占されてゐる間に、他のブロツクを出し抜いて実用化に向けた投資を行うべきである。成功すれば、軍事・技術的優位を確保でき、他の隠秘機関との交渉材料ともなろう

帷協定は人類の公益を保護するという大義を有するが故に、帝国や世界の科学技術的進歩と社会公益の増大を齎すものである運輸機械の発明を行へば、米国などの隠秘機関も帷協定違反であるとの批判を行ひにくいと想定される

謹んで此の「豊雲計画」の実行を提言する

大連支局究明課長 金井芳中

蒐集異常事例報吿 第2651-1123-012號「ヒユーイソン効果 追加報告」 大正八〇年一一月二三日作成

蒐集異常事例報吿


番號: 第2651-1123-012號

種別: 物性二類 丙種五等(旧: 乙種二等)

對應指針: 本事例は帷協定合意19911122-01号によつて国際非隠秘対象となり、普遍化してゐる

槪說: 本報告は第2644-0819-0047號「ヒユーイソン効果」に関する追加報告書である。詳細は当該文書を参照せよ

蒐集總院は豊雲計画を実行し、ヒユーイソン効果の実用化に向けた発展的実験及び技術開発を行つた。実験中に金属片が飛散する事故が発生しヒユーイソン博士が不運にも負傷、まもなく死去した為、その甥で助手のジヨージ・ヒユーイソン氏が計画主任を引き継いでゐる

最大の成果として、大連科学技術公司と東弊舎の協同によつて、ヒユーイソン効果を用いた新型発動機が開発された。此の発動機は、運転に巨大な電気包を必要とするが、巨大な質量物体を三次元方向へ移動させる動力を有してゐる。大連科学技術公司は此れを用いて飛行艇を製作し、飛行実験に成功した

報道によつて、ヒユーイソン効果とその有用性は公知となつた。利害折衝の上、諸ブロツクの隠秘機関はなし崩し的にヒユーイソン効果を非隠秘対象とすることに同意し、同現象は国際非隠秘対象となつて普遍科学化された。また、ヒユーイソン博士の名誉回復と情報改竄もなされた。連邦調査局との妥協案によつて、故・ヒユーイソン博士がテスラ研究所に於いて発見した現象は「テスラ効果」ではなく「ヒユーイソン効果」であつたと修正され、また諸異常事例に関する情報の相互交換が行われてゐる

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