公費旅行: 多忙職員達の百年祭
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4月1日、祝祭の日。

「今日が前夜祭だったら良かったのになぁ」

そう呟いたエージェント・時任は、独り長野県山中のログハウスに居た。

古い別荘地のハズレにあるこのログハウスは、財団が日本各地に持つ拠点の1つだ。国土の70%が山岳地帯である日本において、この手の拠点は無数に存在する。

この国で何か後ろめたい物を隠したり捨てるとなれば山は有力候補となる。それは異常社会の住人であっても例外ではなく、要注意団体の拠点、廃棄された異常オブジェクト、要注意人物の隠れ家、これらが見つかる場所は大抵が山なのだ。今回、時任が長野県山中に訪れた理由もこの手合いであり、例によって日本生類創研によって異常な実体が廃棄されたという情報を得たため、その情報の確認に来た次第である。こちらも例によってだが、時任の任務は情報の収集であり、ログハウスに宿泊しながら異常実体の出現を監視していれば良い。異常実体が現れれば情報だけ回収し逃走して問題ない。楽な任務だ。

「はぁ~~~、祝祭なぁ。今頃うまい食い物でも食ってんのかなぁ」

時任が先ほどから想いを馳せている"祝祭"とは、エリア-81JH再建10周年を記念したイベントだ。スマイリーデグレートと呼ばれるインシデントで多くの犠牲者を出したのが10年前、犠牲者への弔いと日々奮励する職員たちへの労いを兼ねて毎年行っている恒例行事であり、今回がその10回目という訳だ。題して「エリア-81JH 100周年記念祝祭」、祝祭の実行委員会は完全に舞い上がっており、10周年と言わず景気よく10倍で100周年、だから予算も10倍と…..、まぁとにかく、若干暴走気味ではあるが、盛大な祝祭をあげようという訳だ。

しかし、時任は前述の通り任務であり、祝祭には参加できず、独り寂しくこのログハウスという訳だ。

「畜生、くそさみぃな。ストーブ付けて飯でも作るか」

雪こそ解けてはいたが、4月の初めはまだまだ寒い。寒さが空き腹を刺激……した訳ではないが、時任は調理台に向かった。公費旅行家の時任にとって、こういう任務はラッキーな任務ではあるが、イベントに参加できないのは流石に寂しい。そんな祝祭に参加できない寂しい時任さんには計画があった。『とにかく美味いモノを作って食う』、寂しさを紛らわす究極の山御飯、それを作ろうというのだ。

「題して、ファイナルチーズバーガー……!」

時任はハンバーガーしか作れない……。公費で作る料理が一番うまい。時任は早速作業に取り掛かった。

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スーパーで買ったぜ! 

まずはパティーの準備だ。牛ひき肉、パン粉、卵、これを捏ねる。牛100%も良いが、やはりベーシックなハンバーグも悪くない。今回は段を高く重ねるため、平たく、平たーーくしてラップを掛けて冷凍庫にIN。これは一旦置いておきたいという意図以外にも、凍らせれば焼く際に肉汁が外に出にくく、旨味が逃げにくくなる効果があるのだ。

次に野菜を切る。レタス、アボガド、トメィトをザンザンザンとぶった切る。特筆点は無い。どうでもいい。

続いてパティーを焼くために七輪を火を入れる。ログハウスの入り口はテラスになっており、そこには誰が置いたか分からないが七輪が置いてあるのだ。七輪に着火剤を入れ、チャッカマンで火をつける。燃え盛る着火剤に木炭をくべれば後は待つだけだ。着火剤はロゴスの防火ファイアーライター、880円。カレールゥのような形で1つ1つ小分けにされているため、使う分だけ取り分けることが可能。水に濡れても着火が可能であり、火力も高い。880円で快適な着火が可能な優れモノだ。
https://www.logos.ne.jp/products/info/1058

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よく焼いた方が美味い

炭が出来上がったら炭火でバンズを焼く。今回は電子レンジもあるのでバンズを炭火で加熱する必要は無いのだが、それでは旅情が無い。炭火の良さはなんとも形容しがたい。炭火で焼けばどんなものでも美味に感じるのは不思議だ。さて、地元のパン屋で仕入れたバンズから、炭火とパンの焦げ目が混ざった良い匂いが漂ってきたらOKだ。

バンズを網から上げて、次にパティーを焼く。炭火でバンズをパティーを焼くのは時任の拘りのようなものだ。肉にしっかりと焼き目が付いたらひっくり返し、肉汁が浮き出るまで待つ。焼きあがったら皿にあげて次の工程だ。ここからの工程はパティー&バンズが冷める前に急いで進めなければならない。さてさて、肉を焼いた後だが、次がメインのイベントだ。

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マッシュルームは軸を取り除き、傘を半分に切る

さて最後にチーズソースを作る。ここからが"ファイナル"なんです。フライパンに牛乳を入れ火をかける。ここに小麦粉を入れよく混ぜ、更にチェダーチーズや何とかチーズを投入し混ぜる。こうすることで半液状のチーズが完成するのだ。ここに切ったマッシュルームを入れ、マッシュルームに火が通るまで焦げ付かないようかき混ぜ続けたら完成だ。

出来上がった材料群を連携合体。後は乗せるだけだ。 下から皿、バンズの下、パティーA、アボガド、パティーB、トメィト、パティーC、そこにチーズソースをどりゃあああああああああアアアアアアア!!?!!!!?!、その上にバンズの上、最後に、このままでは自立できないので串を差す! 完成だ!

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そびえたつ魔塔、コーラを冷蔵庫から取り出せば、長野県山中で祝祭が始まる。この山奥に食事の作法など存在しない、狼が獲物を喰らうようにド派手にかぶりつく。肉と野菜の味も良いが、なにより特筆すべきはやはりチーズソースだ。チーズソースにコーラは究極のニューヨーク。チーズソースのマッシュルームが味のクオリティを100段階ほど上昇させている。これぞファイナルチーズバーガー、まさに完璧なハンバーガーが完成していた。

食うのが早い時任だが、流石に今回は時間が掛かる。食い始めて10分後。

「も、もういらないな……」

チーズソースは想像を絶する重さだった。そんなに若くない時任にはキツすぎる。時任は大きく溜息をつくと空を見上げた。心地よ……くない満腹感、ひんやりとした空気に七輪の温かさ、そこには穏やかな時間が流れていた。

徐に諜報員用の情報端末を取り出す。複数件の新着メールには祝祭の豪華な料理が添付されていた。時任はそれを見るとへへっと笑い。両手を後頭部に回し、また空を見上げた。

「平和だなぁ」

時任は山の中の静寂に酔いしれていた。こんな平和がずっと続けば良い。時任は満腹で眠気の混じる脳内でそう思った。

あの百年祭が本当の百年祭だったら良いのに、時任はそんな思考に到達する。エリア-81JH再建100周年を祝えるということは、それは100年先も平和だったということなのだ。10周年記念に100周年記念を行うということには、100年先の平和を祈るような意味を感じる。実行委員会のソレには、粋な考えがあるような気がしていた。

「さてと、片付けは後にしてひと眠りするか」

ハンバーガーを食い終わり、七輪の火も落ちかけている。そこを流れる冷たい風が時任を屋内に誘う。平和の祝祭の仕上げは平和の象徴行為「昼寝」で締めくくるとしよう。

部屋に戻ろうと扉を開けた瞬間、外から大きな物音が聞こえた。

時任がテラスから外を眺めると、そこでは体長3 mを超える大きな熊が、口から稲妻を吐きながら暴れはじめていた。あれこそが時任の任務にあった日本生類創研の異常実体だ。あの異常実体の出現情報を持ち帰れば任務完了。今すぐテキパキとこなせば祝祭に参加できるかもしれない。

時任の任務は情報の収集であり、ログハウスに宿泊しながら異常実体の出現を監視していれば良い。異常実体が現れれば情報だけ回収し逃走して問題ない。楽な任務だ。

「舐めるなやァ!!!」

時任は今、平和を愛する使者だ。平和を乱す存在を目の当たりにし、黙っていれる訳がない。時任は制圧用スタン棒を取り出すとテラスから熊に向かって飛び掛かった。

激務に追われる財団職員には休息が必要だ。そして財団職員は休息というものを心から愛している。だけれども、彼らは愛する物を守るため、休息をソコソコにまた激務に戻っていく。それこそが正常な日常を守る彼らの悲しき性分なのかもしれない。

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