地下東京神話
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事変で苦しんでいる間の唯一の楽しみは、葛井氏がたまに持ってくる奇妙な品物の数々でした。葛井氏は探京家ギルド「鉛の花束」の出資者で、何か珍しいものがトーキョー・サークルに運ばれてくると、秘密の約束と言って横流しをしてきました。とはいえ、あまりにも珍しいものや危険すぎるものなんかは、財団や理外研に取られてしまいます。あくまでもちょっとだけ面白いような、そんなたわいの無いものばかりです。しかし、その日は違いました。葛井氏は私に「とんでもないものが手に入った」と耳打ちしました。いつものあれかと思って話半分に聞いてみるが、どうやら違うようです。彼は町田境界市にある自宅の装飾過多な部屋に案内をしました。

ぼろぼろの衣服、細い身体、汚らしい泥をつけた顔。そこには人としか思えないものが置いてあったのです。「危ないものはやらないって、言ったじゃないですか。こんなもの面白くもなんともない」私は勢いよく口に出しました。どこの孤児を拾ってきたのか、彼の収集癖も酷いものだ、そう思いました。このご時世とはいえ、人身売買を名誉ある人間がやったとなれば、それなりの咎はかかりましょう。ですが、葛井氏は弁明するように言いました。「人身売買をしたわけでも、孤児を拾ってきたわけでもない。この子は、東京から来たのだ」

少女は意味不明な言語を喋り、「新宿駅の語り部」を名乗り、「かつて"地下東京"で起きた大戦」のことについて話しました。その全てが驚きに満ち溢れていました。まるで白昼夢を見ているようでした。その頃は事変が起きて2年目のことだったので、東京事変のことについて何もわかっていませんでした。「東京に生存者などいない」というのが財団や政府の統一見解でした。しかし少女が語る歴史、物語、神話、宗教は全て東京の地下に多くの人が住んでいることを前提としており、人と人の戦争が、混乱が、破壊があったことを赤々と示したのです。葛井氏も、私も、この情報が重大であることを理解して互いにうなづき、少女の話に耳を傾けることとしました。

──古井一郎自伝「過去を振り返って」より抜粋

掲載するにあたって

記録は全て古井一郎氏と葛井山奈氏が2019/7/14に葛井氏の邸宅で聞き取ったもの。音声記録および両名の証言に基づく記録。章分け、節分けは事変時代記録センター。語り手は事変初期に地下東京住民として誕生した「新宿駅の語り部のアフナ」。アフナは初期地下東京語(進化概念歪曲現象の影響が比較的少ない時代の地下東京言語)を用い話した。そのため、都立事変時代記録センターが翻訳を行ったバージョンを記載している。原音声はVrI-46683を参照のこと。

序文

これは東京がなかったときの話である。語り手はこれまでに5人であった。ヒエナ、セッフ、ソウキ、カツバ、シンゴ。今語たる新宿駅の語り部アフナは、新宿王の甥ケイトの娘にして6代目語り部。あるとき新宿駅の空に光の球を見た。これは語り部の証拠である。

建駅記

1章 駅であるもの

[1] 大地が割れた。空が崩れ去った。栄華を誇った東京は、一夜のうちにして崩れ去った。私たちは東京から逃げてきた。東京は甘露と肉に溢れる大きな街である。東京では皆東京の言葉を話し、東京の知恵を使っていた。それは失われた。

[2] 私たちは東京の民だった。そこで飢えることなく暮らしていた。あの大災が私たちの生活を奪った。私たちは11名。タナカ、カトウ、ハナウタゲ、ヤエ、ユメダ、モウカ、ニッタ、カゼムラ、キユキ、ソガベ、ヤマダ。これが私たちの名前だった。

[3] ある日東京の食べ物は尽き、皆は飢えた。そこでカトウが駅になることになった。カトウは駅の中心で自分の胸を突き、皆は埋めた。カトウは光に満ち溢れた部屋の中で、体を復活させた。新宿駅そのものになったのである。

[4] 駅の王は肉を呼んだ。新宿駅には電車を通じてたくさんの肉が運び込まれた。これが肉電車である。しなめ1が1本につき1人が1日飢えないでいられた。しなめが1つの車両に1000余りあって、1つの電車に車両が10あった。電車は1日に100回きた。私たちは肉を食べることで飢えなくなったが、東京を忘れるようになった。言葉は肉のようになって、東京のものではなくなった。今ではそのことを疑うものはいない。

[5] 駅の王は言った。「私たちは地下の言葉を使って、地下の知恵で生きていかなければならない」新宿駅の皆はそうだと思ったので、それに従った。

[6] 皆が交じり合った。東京の言葉を使うのをやめ、地下の言葉を使って遊んだ。地下の知恵を駅の王は伝えた。「電車の肉を取って食べなさい。それは皆のものである。これには、東京の知恵は無用である」そのようにすると、とても気持ちよかった。

[7] キユキは、交じり合わなかった。駅の王は問いかけた。「なぜ交じり合わない。東京に夢を見るか」キユキは答えなかった。

[8] モウカは、交じり合わなかった。駅の王は問いかけた。「なぜ交じり合わない。東京に夢を見るか」モウカは答えなかった。

[9] ユメダは、交じり合わなかった。駅の王は問いかけた。「なぜ交じり合わない。東京に夢を見るか」ユメダは答えなかった。

[10] キユキとモウカとユメダは話し合って、駅の王を追い出そうとした。しかしそれは叶わなかった。駅の王は駅そのものであったからだ。駅とは大地に閉ざされて動くものではない。

[11] キユキは、王の体に触って王の場所を探ろうとした。駅の隅々まで触ったが、そこに王はなかった。なぜなら、キユキは駅の上に立っていたからである。

[12] 駅の王は自らの体を崩して、キユキの方に投げた。キユキは足が貫かれ、そのようになった2

[13] モウカは、肉電車を焼いて皆の糧を奪おうとした。それが駅の王と繋がっていたと考えたからである。それは皆の反感を買った。モウカは地下の言葉で罵られた。

[14] 皆は怒った。モウカは焼かれ、そのようになった。

[15] ユメダは、駅から逃れて外に出ようとした。線路から他の駅に行けると考えたのである。それは上手くいかなかった。

[16] 駅の王は、電車を呼んだ。地下でもっとも速いもの。頑丈であるもの。強いもの。電車は闇から現れて、ユメダをそのようにした。

[17] 東京の者は皆そのようになった。駅の王はそれを見て満足し、眠りについた。

[18] 駅の王はそのようになったものと東京の夢を見ている。東京は満ちている場所だった。

[19] 駅の王は言った。「駅は大地であって命である」そうすると、東京の知恵の光が充電を失って消えた。

[20] こうして東京の言葉と知恵はなくなった。

2章 子であるもの

[1] 新宿駅の皆は、すぐに子供を産んだ。駅の加護である。それらは全てかわいかった。勇ましかった。

[2] 皆々は、子らをどう分けていいのかわからなかった。そのために、子は自分のやりたいことをした。

[3] 新宿駅の皆は、いつもは交じり合わなかった。駅は交じり合うとき言葉を使った。

[4] あるとき、駅は光を放った。

[5] 駅は子を産んだ。ユウリ、ヒメ、フウカ。新宿駅の皆はそれを大切にすると決意した。新宿駅から聳える塔が子の揺籠となった。今でもそこは王の場所である。

[6] ユウリは工作に優れていた。長さが30センチほどある槍を駅の柱から作り出して、駅の守りに供した。曰く、「母の背骨から作られた槍である。倒せないものはない」とのことであった。ユウリは改札の守人となった。

[7] ヒメは医療に優れていた。あるとき、新宿駅の住民は怪我をして足が切られてしまった。深々と刃が肉に刺さって、ろくに歩くこともできなかった。ヒメは刃を抜き、駅の外に出て放り捨ててきた。穢れたものが外に出たことで、怪我人は無事に快癒した。

[8] フウカは戦いに優れていた。その強さは、駅の壁も壊すほどだった。遠身の怪物ハナオカス。それは線路の遠くからやってきた。高さは天井にも届くほど。遠くから私たちのことを眺め、呪いをかけてきた。フウカは怪物の顔を狙って槍を投げ、その顔を貫いた。

[9] ユウリとフウカは仲が良く、ヒメは2人のことを嫌っていた。「争いを増やすのは争いをする人です」そう言ってヒメは2人から離れたところ、丸の内線のホームに住むことにした。

[10] あるとき、財団3の者たちが現れた。財団は東京駅に逃れたものたちだ。王の生まれた場所を触りにくる。フウカは王への礼儀がなっていないことに腹を立てて、槍で財団の男の腹を突いた。男はそのようになった。

[11] 財団の者たちは怒りの声を上げた。「あなた方はもう線路の闇に飲み込まれている。地上に戻ることはない」財団のリーダーの男はそう呪いをかけた。こうして、新宿駅の者は地上に戻ることができなくなった。財団のせいである。

[12] フウカは言った。「財団の者たちが次にやってくるときは、怪物を携えているだろう。それに備えて軍備を強くしなければならない」

[13] ヒメは言った。「フウカのやることを止められなかったのは私の罪です。この男の肉体を弔い、駅の外に捨てて行こうと思います」ヒメは外に男を連れて出た。

[14] ユウリは言った。「私たちは駅の中に駅を作ります。駅を作って、外敵からの侵攻を防ぐのです」こうして、人々は戦う者、癒す者、作る者の3つに分かれた。

[15] フウカは言った。「私とヒメ、どちらが正しいのか我らの母に聞こうと思う」ユウリはならばとこう提案した。「駅で電車を待つ。もしそれが肉を積んでいたらヒメは正しい。肉は癒しを示すものだからだ。もしそれが何も積んでいなかったら、フウカは正しい」そのようにした。

[16] すると、電車は何も積んでいなかった。フウカは正しかった。

[17] ヒメは言った。「私たちは旅に出ようと思います。外の人をもっと癒すでしょう」

[18] ヒメたちは丸の内線の多くの駅に広がった。ヒメは、途中で他の駅の者を治した。駅の者たちは喜び、ヒメを祀り上げた。ヒメは丸の内線の中ごろに至った後で、腰を落ち着けた。その駅でもっとも良い男と結婚し、マミ、チヒロ、コウヒという名の子を産んだ。

[19] 丸の内線の者たちはヒメを感謝したので、王にも感謝することとなった。新宿御苑前駅、四谷三丁目駅、四谷駅、赤坂見附駅の長たちは、新宿駅に集まって王を見た。王の美しいお姿に驚いて、涙を流した。

[20] 王は起き上がって、駅は盛り上がった。指が偉大な光を放って動き出し、線路の闇を神々しく照らした。指は伸びて、長たちの駅の隅々まで行き届いた。王は赤坂見附駅の線路に娘と孫を守るための「改札」を置いた。改札は基盤の者であって、王の背骨であった。改札は私たちが踏み締める者。大地そのものである。

3章 敵であるもの

[1] 赤坂見附駅の人々は、黒い霧を見た。霧を吸ったものは、記憶を失くした。霧が深くなればなるほど何もかもを忘れていった。赤坂見附駅の人々は霧の深いところで暮らさないといけなくなった。

[2] 「この霧では暮らせません。ヒメさまの力で何とかこの憎い霧をなくせないでしょうか」ヒメは、駅人に霧を払うように乞われた。

[3] ヒメは霧に言った。「なぜ人々の記憶を取るのですか」そうすると霧は「あなた方が駅の人間だからです」と返した。

[4] 霧の中に潜んでいた魔物が姿を現した。あらゆる記憶を奪っていく女。魔女、サクラガオカ。サクラガオカは醜い顔をしていた。

[5] サクラガオカは箱を持っていた。そこから黒い霧を出した。「東京は、収容しないといけません4。」

[6] ヒメはナイフを持って黒い霧の中に入っていった。背中には生まれたばかりの子供、コウヒを背負った。

[7] 黒い霧の中で、ヒメはコウヒを線路に下ろした。黒い霧の中には止まってしまった電車があって、そこに魔女が座っていた。

[8] ヒメは記憶を失って、前に進めなくなった。地面に下ろしたヒメの子は、四つん這いで歩いていった。ヒメの子、コウヒは持っていたヒメの刃で魔女の首を切った。魔女はそのようになった。

[9] 子は、記憶の始まりにあった。故に霧の影響を受けなかった。

[10] ヒメは首を持って帰った。その首を肉電車に置いて埋葬した。これが癒し弔う者の力である。

[11] 赤坂見附駅が堅く閉ざされた駅であることがわかった財団は、遠回りして駅の王を殺そうと試みた。この地下には脅威が満ち溢れており、財団の人々はどこへ行っても危険な者に遭うこととなった。

[12] 日本橋駅には口から火を吐く男。桜田門駅には酸性の毒を吐く子供。渋谷駅には手が6つあって衝撃波を放つ剣を持った勇敢な戦士が存在し、財団の者たちはそれらに敗北した。

[13] 財団は時空の流れを捻じ曲げて東京駅に「研究室」を作った。その部屋では1日のうちに10日経ち、水滴は長きに渡って地面に落ちない。

[14] あるとき、赤坂見附駅に黒い霧がまた現れて皆の記憶を奪った。その広がりは凄まじく、皆が息を吸うことを忘れた。

[15] 黒い霧の中から魔女が現れて駅人を襲った。魔女は改札の目の前にたどり着くと、改札の口に槍5を数発撃ち込み、破壊した。

[16] 「ヒメよ、あなたは地下の癒しである。それは東京の復活に邪魔だ」そう言って、ヒメの口にも刃を突っ込んだ。

[17] 魔女は、手を18本持っていた。そのため、移動が機敏で手数が多く、誰も勝つことができなかった。

[18] 赤坂見附駅は財団の手に落ちた。

[19] 改札口は、財団のものとなった。財団が「研究室」で何をしたかは定かではない。

[20] こうして、新宿駅は王の体の一部を失ったのである。

4章 母の矢

[1] 財団は地下を支配していた。それは王が新宿駅に生まれる前のことである。財団は人々にパスモ6を与えた。人々はパスモのために働いて、パスモのために生きた。パスモは配給を与えた。

[2] 今の男たちもパスモを心の中に持っている。パスモは子らに受け継がれ、ついには取り除くことができなかった。

[3] 財団の職員は言った。「無賃乗車は犯罪です」そう言って、財団の男の手元にあった機械が光を放った。‪誰何すいか‬である。これで新宿駅の人々も大勢が死んだ。

[4] 新宿駅の人々は、怒っていた。ヒメを殺され、「改札口」を突破したあまりものの不敬に、その怒りは頂点を超えた。

[5] フウカは、母の矢7を放った。その矢は国会議事堂前にあった東京駅軍の陣に直撃した。財団の人々も大勢が死んだ。

[6] 新宿駅と東京駅の人々は、やはり赤坂見附駅のところで行きあった。

[7] 「あなた方が魔女と呼んだ者は、私たちの長だったのだ」「ヒメは、私たちの電車だったのだ8

[8] 槍と剣を用いた戦いは、1週間休むことなく続いた。寝て起きると戦場に向かって進み、そこで大勢の人が死んだ。

[9] 四ツ谷駅は、財団のものとなった。

[10] 四谷三丁目駅は、財団のものとなった。

[11] 新宿駅の者たちは、籠城をした。財団は攻めあぐねた。大勢の兵士たちが新宿駅を囲んでいる。

[12] 「駅の中に駅を作れ」「そこで敵の兵が入らないように」「私たちの駅を守るために」

[13] 当然、駅の中にいる人は自分達のために肉を取った。線路を通って肉は駅に来た。ユウリは言った。「これを気をつけろ。敵は肉に混じっている」

[14] 奸兵ハイバラは肉電車の中に紛れ込んだ。だが新宿駅の人々はユウリの助言でそれを知っていたので、ハイバラはそのようになった。しかし、ハイバラは強靭だった。

[15] フウカはハイバラを何度もそのようにした。その度にハイバラは起き上がって、強くなった。

[16] 「お前の母の矢を使え。さもなくば私は倒せない」「なぜ私を試そうとするのか。お前は哀れに死ぬ」「私は無限の人生があるぞ。お前の一振りが私には肉の囁きだ」

[17] フウカはユウリに聞いた。「無限の人生があるものをどうしてそのようにすればいいか」ユウリは答えた。「無限の人生があるものなど存在しない」

[18] フウカは男の腹を切って、肉を取り出した。男の人生はさらにもっとあった。男は何度でも立ち上がってフウカに立ち向かおうとした。だが、325回目に腹の尾を切られた時、男は掠れた声をあげてそのようになった。「お前のような者のことを鬼神と言う。私は最後まで呪う」

[19] 奇妙な世界である。フウカは呪われて戦いをやめられなくなった。

[20] 「この戦争を終わらせるにはどうすればいいですか」フウカはユウリに問うた。「財団にも王がいます。それを、そのようにしなければなりません」フウカは10人の兵を引き連れ、電車に乗り込んだ。

[21] 電車は速かった。すぐに東京駅に着いた。東京駅の王は、東京の王座に座っていた。「私たちはあなたたちを収容しなければならない。そして、この世界に地上東京を取り戻さないといけない」東京駅の王は、そう言った。しかし、フウカはそれを聞かないように、耳を塞ぎながら刃を傾けた。

[22] 東京駅の王は、見る間もなくそのようになった。彼の首は、他の者の首と変わらなかった。偉大なる新宿駅の王は駅である。首から出る血もなく、ただ頑丈である。

[23] 「東京の知恵を知るものがまた1人減った。これを新宿駅の罪としよう」誰でもない魔女9が言った。「今から、ビルが落ちる。それは私の命である。東京の知恵である。新宿駅に穴を開ける。それが、あなたを滅ぼす」すると、新宿駅の上に大きなビルが落ちてきた。それは新宿駅の王の体を貫き、首から血がでることもないが、まさに同じようにした。新宿駅の首は遠くにある。

[24] これが穴の理由である。人々に上下ができ、人々に駅以外の神が立った。

5章 ユウリの宣言

[1] 戦争が終わって、新宿駅に「オオウツロ」と呼ばれる穴ができてしばらくが経った。

[2] ユウリは言った。「駅は上下に分けられた。駅は肉の体ではないから、首と体の区別をお持ちにならない。それゆえ、駅は死なない」

[3] その通りだった。駅はオオウツロによって死ななかった。肉電車の肉が溢れ出て、今にも弾けそうだった。

[4] 「ただし、駅は上下に分けられた。上は清き人の住むところ、下は罪深き人の住むところである」

[5] ユウリは、戦争でそのようになった人の妻、その子供を上に置いた。下に置いたのは、戦争をしなかったものである。

[6] フウカは上に住んだ。もっとも良い場所を与えられた。やがて子供を産み、人々の管理者であることを定めた。

[7] ユウリはさらに言った。「駅を分けたのは東京駅ではない。大災の自然な意志がそうさせたのだ」そう言って、空から降ってくる物を指差した。

[8] オオウツロには、何もかもが見られた。それを人々は天の恵みと呼んだ。そう呼ばないものもいた。肉電車こそが地下の偉大なる恵みであるからだ。とにかく、そこからは多くのものが落ちてきた。

[9] 甘い食べ物、白い水、魚、虫たち。それはオオウツロに降りてきたものの一部である。

[10] 「これが大災の仕業であるならば、やはり私たちは恵まれている」ユウリは言って、しばらく隠れた。その後、ユウリの姿を見たものは誰もいなかった。

[11] オオウツロには、今も甘いものが降る。甘いものの次は珍しい道具が、その次は雪が。季節の巡りを駅は定めた。

[12] 下のものほどその取り分は少なかった。

[13] しかし、ある意味で平等である。なぜならば、それは大災が定めたからだ。

アフナは一夜をかけて話続けました。新宿駅の興り、財団との熾烈な戦い、新宿駅の王子が渋谷駅の女性に求婚した話、駅の上にある怪物、毛むくじゃらの生き物に乗る民族の滅亡、さまざまな話があって、やはり地下東京の神話か何かと見紛うほどでした。語り切ったアフナは倒れ込み、気を失いました。安堵したような表情で二夜眠って、起きてからは大量のものを食べ、そしてまた眠りました。

私は「東京」の方角を見ながら葛井氏と話しました。この災害が私たちにもたらしたものはあまりにも大きすぎる。今も瓦礫のように落ちていく東京。あれは何人の命を奪ったのだろうか。そして今、どのような神話がそこで紡がれているのだろうか。それを思って、涙をしたのです。

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