私は雪が大嫌いだ。この羽毛のような白い粉が私に何かをしてくれたことは一度も無い。合理的な人間にとってはそれは無害な物体だろう。もしその上にずっととどまるというのなら、寒さを感じ、あるいは軽い凍傷を負うだろう。なにもかもが最悪だ。ほとんどがこれのせいだ。雪は寒い。より科学的に言うなら、雪は摂氏0度以下の水だ。-2度という気温は一般的に快適とは表現されないだろう。そう、そしてそれが-40度だというのならそれはなおさらだ。
昨日の予報は雪だった。今日の予報は弱い雪だった。明日の予報は寒波だ。4度という凍傷のリスクのある気温の中では、家にこもっていたほうが懸命だそうだ。笑顔で予報を話すニュースキャスターに向かって私は大声で笑った。アメリカとアジアはまだいい。汚染の影響かは知らないが、積雪は3mしかなかったようだ。黒くて硬い層が、積み重なった骨を覆い隠している。私は歩みを速めた。
もはやその用を忘れ去られたWWB戦車は、彼の秘密だった。私はまるで馬鹿のようにシャベルを振るったが、報酬は、それだけの価値があった。ブリザードが、白い無限の層で外の世界を覆いつくす。この雪が、いつも完璧な粉末状なのは驚くべきことだ。このおかげで、この雪で家を作ることは不可能だったし、これを溶かして水にしようという試みは、黒い煙を上げるだけに終わった。しかし、財団のサーバーの冷却システムを循環している液体窒素のように、こいつはただ私を冷やすだけでは終わらなかった。私は寒いのが嫌いだ。私は決して夜には出歩かなかった。私は冷水のシャワーを浴びようと思ったこともない。私は地下にもぐることも嫌いだ。
ハッチは凍り付いていた。別段驚くべきことではなかった。この雪は一晩中吹き付けていたのだから。私はシャベルを数回たたきつけ、ハッチをこじ開けた。それは大変な作業だったが、120kgの機械がわたしに挑みかかってきた。それらのひとつが雪の中から起き上がり、私は金属の罠が作動する前にその中から飛び出した。しばらく我々は互いの様子を探るようににらみ合いを続けていた。彼は拡張マガジン付の鉄鋼弾を装填したFAMASを保持していた。私が持っているのは少しさび付いたシャベルだ。赤黒い受容体が、まるでそれに興味があるかのように点滅した。私は極めて落ち着いていようと、瞬きをした。私はコントロールモニターを一瞥した。カバレッジの欄だ。私は運が良かったようだ。アンドロイドは銃口をこちらからそむけた。私は自分から手は出さなかったが、そいつが外に出るように誘導した。地平線が点滅していた。ガラスパネルのきれいな反射だ。このロボットは脅威ではなかったが、その同僚は、受信アンテナが壊れているわけではなかったようだ。私は最初の100mを這って進んだ。雪は依然として舞っており、とても寒かった。正直なところどうだったって?俺は…ひたすら…寒いのが嫌いだ。
クソッタレな寒さは、ふわふわのガチョウの毛皮のジャケットをもてあそんだ。私はたくさんの雪が降る中を慎重に歩き、あたりを見回した。白い綿毛の山を除けば、その近辺は私の良く知った場所だった。40年の人生を無駄に過ごしてきた建造物を忘れろというのは難しいだろう。つや消しのガラスパネルの近くの雪が急速に溶け、いくつかの場所に凍りついたコンクリートが見えた。私は一息つくと、手をしっかりと握り締め、私を建造物と隔てる氷の塊に、最初の1発を叩き込んだ。
もう夕暮れ時だった。所謂夜行音の部類に属する、標準的な夕暮れ時の音がした。どこかで犬がほえるような音、乗り物が一定のルートを走行する音、誰かが森を歩いて枝を踏み折る音がした。これらの音は通常は不安を掻き立てるものだが、男はそんなものは気にしなかった。私は勇敢な彼らのおかげで、われわれが平穏に眠りに付けることを感謝していた。私たちにとってはすべてが正常だ。私たちは何も恐れることはない。しかし、雪の降り積もる都市に帳が落ちたとき、そこには絶対的な沈黙が広がっていた。私の足元の雪は、静けさを体現するかのように乱暴にスコップをたたきつけられても、崩れることは無かった。圧倒的な沈黙というのは、それを表すちょうどいい言葉だった。車はその静寂の中で、雪を蹴り上げた。彼は周囲の建築物の遺構に雪を吹きかけ、寒さに手をこすり合わせた。雪の中にはまた、誰かが黒い物質で「このすべての地獄の犯人」を描きあげた高層ビル群が立ち並んでいた。文明全体が、数十メートルの雪の下に埋もれてしまっているのと同じように、そのマークは、もはや無意味だった。
その雪は珍妙なものだった。雪だるまや雪だまを作るのには適していなかった。それは破壊された物体のように、鋭く荒いものだった。そしてやや暗い色をしていて、素人だって、純粋な白とは遠いと表現するほどだった。興味深いことに、融解させようとすると黒い煙を発生させた。濃く、黒い、硫黄のにおいのするものだった。できるだけ速く解決する必要があった。まるで、この雪はのろわれた地球を破壊しようとしているかのようだった。
私は強化窓のガラスをぬぐった。当然のことだが、古い建築物は、何年にもわたって冷たい粉末状の物質にさらされることに耐えられなかった。雪崩とともにわたしは5階建てほどの空間を落下した。まぁ、わたしはちょうど少し下に下りたいと思っていたところだ。最初の一歩を踏み出したとき、私は床に落ちているなにかやわらかいものに躓いた。ホットパットを身に着けたなにかやわらかい物体だった。もはやこいつには必要ないものだった。
しかし、月日がたつのははやい。昨日、6階の廊下には足音と怒号と、ARGUSのリサイクル可能なグレネードの爆発音が響いていた。白衣を着た人たちが飯盒で物を煮込みながら、あらゆる種類の下襟についての議論を交わしていた。光のエレベーターがめまぐるしく、上へ、下へと動いていた。
正直言って、私はこれらの廊下の状況になにも注意を払っていなかった。通り過ぎる人々の大部分のように、私はあまりにも忙しく、このひろいトンネルに注意を払うことができなかった。私は食堂に出向くことはほとんど無かった。そこはオゾンのにおいがして、腐った肉しか提供しなかったからだ。テーブルには何も提供されていなかったが、賞味期限の切れた食料や、無感情な殺戮は、永遠に葬り去ったほうがいいだろう。私は静かにリフトシャフトを通過した。もちろん、この装置にはあるうわさがあった。私はそれらをまったく信じていなかった。しかしこの機械に関する長年の経験は、この不愉快な話は一考の価値があると告げていた。なにも重大な話じゃない。私はどこかで、最初の段階のどこかで、セキュリティ違反があったのだと思う。しかし、私はシャフト室の扉を開けることはしなかった。
私は壊れた階段を慎重に3階まで降りた。濃い黒い扉には、斜めの文字でコントロールセンターと記載されていた。私はシャベルを持ち、大きな赤いボタンを押した。火災警報は長い間停止されているが、ENIACのときからずっと動いていなかったコントロールパネルの傾いた埃の積もったロボットが、期待通りに扉をこじ開けていた。私は霜のついた衣類の残骸に包まれた白骨死体を引き摺り下ろし、乾燥し黒ずんだ血痕をこすりおとし、情報リストを呼び出した。私は時代後れなコマンドとしばし格闘したが、古いシステムは最終的に基本情報を表示してくれた。わたしはダウンジャケットの襟を正してほくそえんだ。ブリザードがガラスパネルを勢い良くたたきつけていた。本当に寒い、冬だった。
財団RMT-AUTロボットネットワーク
クリーニングエディション17-22
最終コマンド: ガラスからの霜の除去。電子機器の加熱。地球からの人類の排除。