幕間1:断片
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1997年3月18日

コナー・ゲリー博士は歯車を数えていた。
午後3時34分、正午11分前に始めてから、彼は1719個を数え上げていた。最良の推測によれば、9時間から12時間で、総数8000個から10000個の歯車を数え終わるはずだった。

彼は数え続けた。

機械は規則正しく動いていた。ただし、時計のような単調なものではなかった。それはオーケストラのようだった――速度の切り替え、キーの変化、ハーモニー。歯車を数える男はその全てに注意を払い、記憶した。

部屋を覗きこんだ者は皆、彼が機械仕掛けに合わせて足を踏み鳴らしていることに気づいただろう。

1997年6月1日

「これでおしまい。もう私がやれることはありませんよ」
パットは椅子にもたれた。
「準備完了です」

「君がホストを務めてくれるなら」
クロウは満足気に頷いた。ゲリーは後ろに立って、じっと見守っていた。

パットは指を鳴らした。

「もしスカイネットみたいな事態になったらあなたがやらなくちゃいけない事は、こいつが予期せぬ動作をやめるまで何度もぶっ叩くことです。そして他のコンピュータサポートを見つける、まあこれから10年か30年で1人は見つかるでしょう」

そう言って少しのキー入力とクリックをすると、全てが一体となった。連日連夜ぜんまい仕掛けにコンポーネントを送り込み、それがどのように動くか計算し、全てを接続した、部屋を覆う巨大な何十もの現在利用できる物よりさらに進化したコンピュータ……パットはこれを愛していた。皆の問題を辛抱強く処理し、少なくとも誰かがキーボードにイルカの精液をかけようとしたことや、どうやってモニターを爆発させたかを聞き出す苦痛を軽減してくれた。

マザーボードの難解な技術に精通した者だけが読み解ける文字列が、ほとんど絶望的に速く画面に流れた。パットの目はそれをざっと捉えた。何を意味しているか、半分以上は彼自身も知らなかった。プロジェクトの全容は、闇の中に揺らめいていた。

スクリーンから文字が消え、一本の入力線が現れた。見せかけの古風な表示。

文字が自動的に、スクリーンに現れた。

Overseer O5-1 “Crom” online

「動いた?」

「はい」

Date: 6/8/97
To: サイト19 シニアスタッフ
From: Dr. アダム・パトス・クロウ
件名: 運営の変更

友人達へ

ここ数ヶ月の間、運営の問題は幾度となく論議に上っていました。また君たちの内数名は私に、アイテムの研究と財団の管理両方をこなすことの困難さを訴えました。最近のアイテムとスタッフの大量の流入、現在の世界オカルト連合との協力に関して、君たちの懸念を理解しています。

そのため、私は正式に財団管理者の役に就き、さらにゲリー博士の協力を得て、新しいO5監督官評議会のために身許を保証された人物を選びます。シニアスタッフからの推薦も考慮する予定です。

監督官評議会は財団全体を管理します。全てのプロジェクトについて直接関与はせずに監督し、研究スタッフにさらなる時間とより深い研究を行うための自由を与えられるでしょう。

セキュリティの観点から、O5評議会の任命と被任命者の個人情報は公表されません。

顧問委員会はA4へ改称されてそのまま存続します。また、次の月曜のミーティングはいつも通り行われます。

以上

管理者 クロウ

1997年9月23日

「ネモが参加することになった。ファッツも」

「驚くようなことではありません。頼んでおいたリストは?」

「ああ。408と953が挙がってる。ネモは特別なものを使わなくても奴を倒せると思ってるが」

「蝶は効果的でしょう。狐は駄目です。検索を続けて下さい」

1997年10月20日

潜在意識の奥底に生じた微かな感覚が、心に思い浮かぶ光景は記憶でなく夢なのだと、彼に確信させた。夢うつつにあって、それを伝えるのは難しかった。彼は何かしなければならないと感じた。彼が……何かを……話さなければならない人々がいた。だが、それらの出来事は現実ではなかった。
彼は気づいた。その場所には行ったことがなかった。その人々にも会ったことがなかった。もちろん死体に慣れていないわけではないが、その光景はあまりにも過剰だった。

彼は偽りの思考を振り払い、自分自身を目覚めさせた。それは、プディングの中を泳ぐのに等しい気分だった。

目を開く。耳も。病院のベッド。安全。傍らに当番兵がいて、表を読んでいる。

不明瞭な呟きが彼の口から漏れた。しばらく、口をちゃんと使っていなかった。
当番兵が顔を上げた。彼は彼女を認識していなかったが、潜在意識の底にある微かな感覚が、ここに恐れるべきものは何も無いのだと告げていた。

「おかえり生者の世界へ、エージェント・クレフ」

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