偉大なる雌馬の記録
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2003年6月21日

今日は夏至。つまり、私の計算が正しければ、今日は私の五千三百と二十七回目の誕生日だ。

誕生日おめでとう、私。

この記録を録り始めてからもう2ヶ月になろうとしているだなんて信じられない。彼らは私たちを酷使している。私たちが19に戻ってこられたのは2時間前くらい。また壊れた神の教会だった。私たちは彼らを潰すけれど、結局彼らはさらに反撃してくる。今日は4人のエージェントが死んだ。

私は彼らの名前を知らなかった。もはや気にしてもいない。番号制が機能している。遅かれ早かれ彼らは殺されるから。はあ……私は本当に参ってる。撃ち倒されて時計仕掛けと化す誰かをただの数字と切り捨てて、気にも留めないでいられるようになった。そんな自分を嫌悪したいのに、できない

私は疲れすぎてる。私たちみんながそうだ。私たちはまだ行動し続けているけれど、生きていると言えるとは思えない。アベルは物事すべてがうまく行くように努力して、文句を言わず、グループ全体を肩に背負っているけれど、そのせいで彼が参っていることを私たちはみんなわかっている。彼はもうかつての彼じゃないみたいだ。アイリスはもう人と話さず、大量の薬なしには彼らは彼女をベッドから出すこともできない。彼女はほとんど食べないし、ほとんど眠らないし、自分の部屋から出ることもほとんどない。数日前に廊下で彼女に会えたとき、私が大丈夫かと聞くと、彼女はただ泣き出した。彼女は現場でよくミスを犯す。2週間前、彼女は物資の写真を補充するのを忘れて、私たちは医療品も予備の弾薬もない状態で対尽くすことになった。どうすればよいのか、私にはわからない。彼女は近しい人の誰にも助けさせてくれない。

けれど、いちばんひどかったのはクレフだ。彼らは今、彼を閉じ込めている。彼らがいうには、自由にそこらを歩き回らせておくには彼は不安定すぎるのだと。私はまだ機会があるたびに彼と話そうとしてみているけれど……ほとんどの場合、彼はそこにいないように思える。彼の意識が話せるくらいにはっきりしている時は……彼は私を怯えさせる。例の声は悪化してきていて、ますます頻繁に起こるようになってきていて、彼が打ち勝てないことも時々ある。彼の理性がどこかに失われてしまって、ありとあらゆる不愉快な言葉を吐いてみたり、体を丸めて苦痛から解放してくれるよう懇願し始めたりする。

こんなふうな彼を見るのは本当につらい。まだそう感じられる。

……

ここに戻るまでの帰り道、ドードリッジ管理官と話した。彼は、思慮分別を持った判断のもとに私たちを解散させてくれるよう監督者たちにまた話してみると言っていたが、効果があるとは思えない。彼らは聞く耳を持たないのだ。

全体、何の意味があるというのだろう?この機動部隊は財団全体で最も死傷者の多い部隊だ。あの反乱インサージェンシーへの対応はそんなに見事なものだったか?地面から頭を出してくるもの全部に対して私たちをぶつけるに値するほどに?

そもそも私はどうしてこんなことを聞いているのだろうか?答えなんて返ってくるはずがないのに。彼らは今まで答えた試しがない。どうして今になって答えるなんてことがあるだろうか。

……

寝ることにする。全部が終わった後に誰かが起こしてくれるのならいいのに。

2003年6月22日

昨晩アイリスが自殺した。手首を切った。剃刀をこっそり持ち込んで、シーツを被ってやった。監視の目と鼻の先で。

虚しさを感じる。悲しくもなければ怒りもなくて、ただ空虚で、感覚がないみたい。

彼女がどこにいるにしろ、ここよりいい場所なのは確かだろうと思う。

2003年6月23日

彼がやった。ジェイソンがやってくれた。監督者たちは理解した、ようやく

6-1の賛成で、パンドラの箱は解散した。彼らが言うには、「許容し難い損失」だったと。

よろこびを感じるのはまだ難しいが、少しだけうれしい気がする。少しだけだけれど。

今日はアイリスの葬式。そんなに大層なものにはならないと思う。たださよならをいう機会なだけ。おそらく私とアベルと神父だけの式になるだろう。クレフは来ない。彼は発作を起こしているから。

2003年7月6日

彼らは、『母』の残りを使って実験体を作り出しているらしい。どうやら何年も前からやっていたらしく、今になってようやく私に知らせるべきだという決定が降りたようだ。

私は、やらせておけばよいと思う。もしも彼らが死した女神由来の肉塊とセックスをしたいのならば、よろしい、好きにすればいい。私にはどうでもいい。

2003年8月15日

今日は、ジャック・ブライト博士に出くわすという不幸に見舞われた。しばらくは彼をうまく避け切れていたが、遅かれ早かれ運は尽きるものだ。

以前に本当に怒った時からだいぶ時間が経っていた……いい気分だ。

あの男は完全に狂っていて、なぜ彼がまだここにいられるのかが私にはわからない。彼は生産的なことは全く行わず、セックスが何かを理解したばかりの少年のような振る舞いをみせ、ほぼ毎日の頭痛の種になり、監督者たちは彼をどうにかすることを完全に拒否している。彼らは彼のクリアランスを下げることすら許可しない。彼らはただ彼に我が道を行かせ、何も干渉しない。

彼の記憶を取り去って、コンクリートで固めてどこかに埋めて、それで終わりにしたい。私は喜んで彼の頭を蹴ってやりたいが、そうしたとしても彼は戻ってくるだろう。彼はいつだって戻ってくる。

違う、死は彼には勿体無いものだ。彼はそれを望んでいるのだから。ああ、あなたが不死なのは本当にかわいそうね笑、悲しい歌を歌ってあげるわ、タイトルは失せやがれ。太った馬のアソコでもしゃぶっているがいい。アベルや私がそんなふうに露骨に淫らで面白くもない嫌がらせをしてまわって注目を集めているところを見たことはないでしょう。私がそんなことに興味がないってことをいい加減に理解しなければ、漏らしてしまうくらいに酷くあなたのタマを蹴ってやるから。

はあ……

人的資源に関する訴えを提出してきた。彼らは、どうにかすると言っていた。

2003年8月17日

あの忌々しいリストの新しい項目は、「構ってやること」ではない。

2003年9月1日

今日はクレフと話せて、彼はちゃんとそこにいた。例の声や叫びのようなものは一切なくて、ただ対話することができた。まるで昔みたいだった。

私がどれだけ無情になったか、自分でも信じられない。昔の私の記録を聴くと、そんなふうにする理由が私にあったことは分かっているけれど……分からない。この場所のせいだ。人を苛立たせて、泥沼に引きずり込んで、意地悪くて冷酷で有害なこの場所で、ずっと同じ塹壕をとぼとぼと歩くだけ。ただ嫌悪と怒りと空虚な憤りでいっぱいになって、それらしか感じられなくなるまで満たされて、自分で振り返って少し考えてみるまではそうなったことにすら気づけない。

私だけじゃない。みんながそうだ。エージェントたちも研究者たちも、みんな。私たちはみんな、完全に狂っている。

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