最初の献体
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超常現象記録 EE-23141-JP

超常現象記録

撹乱クラス: Vlam
発生日時: ████/██/██


概要紹介: 鹿児島県███村の集落が金色の霧によって覆われました。霧の発生源は当該集落に居住していた玄杉斎と名乗る異常芸術家(PoI-1774と指定)が使用していた陶器製作用の窯であると見られています。PoI-1774を含む52名の村民が霧の影響下に入り、そのうち8名が大質量の物体の崩落とみられる原因により異常領域内で圧死しました。霧が完全に晴れるまでに234分が必要とされ、現象の前後を比較して村内に新たな物品の出現は認められませんでした。霧の中にいた民衆は、自身が日本における先史時代のものとされる風景の中に転移しており、その中で規模不明の土砂災害に巻き込まれたと主張しました。

追跡調査措置: 村落全体にクラスC記憶処理材が散布され、模造災害プロシジャ“土砂災害”が適用されました。PoI-1774は財団によって拘留され、当該超常現象の発生経緯、並びに氏がそれまでに製作していた異常作品の詳細について尋問を受けました。


PoI-1774(“玄杉斎”)による証言

焼き物を手掛けて30年目になる俺だが、今回の作品も陶器になる予定だった。それも、とびきり原始的な縄文土器の形をした陶器だ。遥か昔の列島の佇まいが色濃く残る古い地層の土と砂を捏ねて形を作り上げ、その上から大地の生命の奔流の体現たる火山活動の残滓、灰から作った釉薬をかける。そうして焼き上げれば、窯から出る器には失われた太古の世界への郷愁が宿る。そうなるはずだったんだ。

作品のエッセンスとして、釉薬の原料にこだわった。普通は草木を焼いて出る灰を使うところを一切排して、地面から直接取れたガラス質の粉だけで作るって決めてたんだ。この辺りの地面の深くには、5000年以上前、かつての九州の縄文文化を一夜のうちに滅ぼしたという、大量の火山灰があるんだ。俺はそれを釉薬のベースに選んだ。それに加えて、全国の津々浦々を巡った時に手に入れた色々な砂や灰、これも少しずつ混ぜて加えた、日本列島全体の息吹を表現するためにな。そうこうしながら材料庫を探し回っていたら、どういうわけか何にも書かれてない砂袋を見つけたんだ。あり得ない、俺はどんな材料でも原産地はきっちりと記録してる。でもな、今回は思い切ってその仕入れ先不明の砂も使ってやろうって決めたんだ。素晴らしい発色を見せてくれるって確信があった。それに、俺にすら忘れ去られた謎の地の砂だぜ、テーマにはうってつけじゃないか。

底を尖らせて成形した土器に縄で模様をつけて、釉薬を塗り付ける。それを窯に入れるところまでは万事うまくいった。後は火の加減と4時間くらい格闘すれば完成する…はずだった。その時だよ、俺の窯から金色の雲がモクモクと湧き起こったのは。ああ、断じてあれはただの煙じゃねえし、霧でもねえ。雲だ。それも屏風とか古い絵に描かれるような黄金色のな。雲は俺の家を一杯にしただけじゃ飽き足らず、村全体を飲み込むまでに膨らんでいった。近所の人たちが次々と俺の視界に入ってきた。どでかい真紅の鳥居が現れてから暫くしてだったけどな。

俺たちが迷い込んだのは本物の古代日本らしかった。古事記とか日本書紀とか、ああいうのの初っ端に描かれてるような世界だ。近所の村人よりも遥かにたくさんの古代人があたふたと逃げ回っていた。そして鳥居反対側に目をやると、山が歩いてくるのが見えた。少なくともそれは山のような大きさだった。歩いてくるって言い方でいいのか分からないが許してくれ、俺にはの片方の足までしか見えなかったからだ。奴は古代人と俺たちを区別なく踏み潰そうと歩を進めてきた。俺は家を放棄して死に物狂いで走って逃げた。見えない壁に何度も当たりながら逃げたんだ。村の何人かは奴にペシャンコにされて、それっきりだった。

期待外れだった。俺が作りたかったのは太古の世界への郷愁であって、断じて太古の世界そのものを再現したかったわけじゃない。遺族たちになんて謝ればいいのかも分からない。ああ、俺の家がまだ残ってるんだったら、窯でも皿でも何でも持っていってくれていい。今の俺にはそのくらいの贖罪しかできないだろう。ただ、これだけは頼む。呪われた釉薬を焼き上げたことで、残された窯の中の土器がどんな色になってたか、教えてくれないか。


補遺: EE-23141-JP終了後の███村の初期調査の際、PoI-1774が所有していた窯の中には素焼きの土器が収められていました。それらは縄文土器の再現品として概ね完成しているように見受けられましたが、PoI-1774が語ったような釉薬による処理の跡は確認できませんでした。この事実はPoI-1774へ伝達されていません。一方で、PoI-1774が使用していた蔵からは、8点の異常作品を含む154点の陶芸品のほか、PoI-1774が使用したと主張する全ての原材料が発見され、それらは一つを除いて原産地のメモと共に保管されていました。


全米確保収容イニシアチブ1所属エージェント、エドワード・モースの手記より抜粋

1877/10/██

ニッポンの地で考古学資料の発掘を始めてから1ヶ月が経った。貝殻の山の中からは石や骨、あるいは土で作られた古代遺物が次々と見つかっている。幾つかはアメリカへと持ち帰ることが許されるだろう。

目下の問題となっているのは、発掘品のうちどれだけの範囲を公衆に見せることができるかを判断することである。これらの遺物が示している文化が、現在の民衆が有する科学技術によって説明し得ないものであってはならないからだ。そのために、私は遺物がどのようにして文化を記録しているのかを調査しなければならない。単なる文字による記録に留まっていればどれほど楽なことか!つい2日前にも、掘り出された器の中に乾いたコメが注がれた途端に、土器が助手の日本人の誰にも理解できないであろう言語で喋り出した現場を見た。こういった異常な記録媒体が衆目に触れる可能性はなるべく排除しなければ。

幸いにして、貝塚の発掘に際しては、ニッポンの超常機関を名乗っている蒐集院からも協力を得ることができている。何でも、彼等は太古のニッポンにおける異常文化の痕跡を収集しているとのことだ。異国の文化の究明のために、当地の超常機関による助言を受けられるのは極めて重要なことだ。彼等の助力が有れば、出土品における正常・異常の分別は必要なだけの正確性を維持することができるだろう。


蒐集院から引き継がれた文書より抜粋

注記: 以下の文書が添付されていた大元の目録は財団の知る限りでは現存しておらず、どのような異常存在を念頭に置いてこの文書が執筆されたのかは定かではありません。表記は適宜現代語訳しています。

添付文書 享和二年2██月


昨年の出羽富士の噴火によって生じた灰に興味深い性質が確認されたので報告する。これは器の釉薬として用いられる時に、窯から立ち昇る煙に仄かな金色を生じさせ、一方で焼き上がった器にはその釉薬は全く残らない。今のところ変色した煙には特段の異常形質が認められないものの、今後の更なる釉薬の研究によっては、当該文献にある“横一文字”の資料の復元に役立つ情報が得られる可能性がある。

院の成立より遥か以前、この国に紙と墨汁が伝来する前の人間は、骨・石板・木板を主な記録媒体としていたようであるが、重要な機密の記録には土が用いられていたという。実用に適さない小さな器は、単純な祭祀に用いるというよりは、何らかの情報の記録装置として製作され、残されたのではないかと考えられており、そしてそれは散逸した“横一文字”をはじめとする院の成立初期の蒐集物品の記録にも用いられていたのではないかと、私の先人の多くは考えていた。しかし、実態は些か異なるのではないか?器を作る過程における焼成の段階で必要な情報が取り出されており、その結果として土器が残されるのではないか?そうなると、残された土器の紋様の解読よりも、土器に用いられた灰釉の欠片の成分を調査することの方が、記録の復元においてはより重要視される可能性がないだろうか。

古い土器の多くは釉薬を用いない素焼きであったと信じられてきた。しかし、土器に残らない釉薬というものが存在するので有れば話は変わってくる。検証のためには、紙による記録が残るよりも以前の器を国中から探し求め、究明のための標本を可能な限り多く蒐集することが必要ではないかと考える。その中に問題の釉薬、あるいはそれに類似する物品の痕跡が僅かにでも認められれば、院における過去の記録の復元に向けて小さくない前進となることだろう。

(記: 武見)

補遺: PoI-1774が使用していた釉薬の原料の一つとして、鳥海山(出羽富士)を由来とする火山灰が用いられていたことが判明しています。


映像記録/23141-JP

実験記録 - EE-23141-JP-██

内容: PoI-1774の家に残されていた原材料を配合することによってEE-23141-JP発生時に用いられた釉薬の組成を再現し、南九州における縄文前期の土器の製法に則って成形した器に釉薬を塗布した上で焼成する。実験はサイト-81██の気密性を備えた実験室で実施し、室内には記録用自律ドローンを用意する。ドローンは床面に鋼製のワイヤーで固定されており、気密室の壁面に衝突することなしに異常空間内部における移動方向を入力することが可能となっている。これと別に、気密室外部に備えた固定カメラが異常空間の範囲外から室内を撮影している。


[再生開始]

[00h00m] ドローンが起動する。気密実験室は金色の霧によって満たされている。ドローンは飛行を試みる。ワイヤーによる抵抗でドローンの上昇が停止したことを計器が示しているのに反し、映像記録の視点は上昇を続けている。有限の実存空間の体積を超えた範囲でドローンによる異常空間の記録を撮影するための試みは成功したと見做される。

[00h03m] ドローンは金色の霧の中に立ち並ぶ朱に塗られた多数の鳥居を映す。高さは20〜30m程度。その下には逃げ惑う多数の人間が見える。それらの人間は一般に縄文〜弥生時代の服装として知られる白色〜緑色の装束を身につけている。

[00h04m] 遠方の鳥居が不明な実体との接触により倒壊する。実体は巨大な岩石構造体の脚部であると見られ、その全高は不明である。実体はドローンの方向へ接近してくる。

[00h05m] 群衆は接近してくる実体に向けて石や手槍を投擲して抵抗するが、実体に有効打を与えているようには見受けられない。実体の歩行に併せ、周辺の霧が少しずつ晴れ、実体のより高い部位が視認可能になる。カメラは実体の腰部までを映している。

[00h07m] 岩石構造体が群衆の位置へ到達する。ドローンは構造体から距離を取って高度を上げる。群衆は逃散し、構造体の脚部は群衆がいた地点を踏み砕く。構造体の胸部までが確認可能となる。それは大まかに成人女性を象っているように見える。

[00h08m] 地表面から異音が発生し、ドローンが下方を向く。一部の人間が、群衆の外周を囲うように手を繋いで輪を作り、右方向へ回転している。群衆は不明な引力によって輪の中心部へと集められているように見える。

[00h10m] 引力が最大となり、輪の中心から大まかに成人男性の姿を模した巨大生物が出現する。生物は更に拡大を続け、その全高は岩石構造体に迫るものになっていく。ドローンは生物実体の拡大に併せて大きく高度を上昇させる。

[00h12m] 生物実体は岩石構造体と徒手による格闘を行なっている。動きは両者共に鈍重であり、それぞれのアクションが数十秒のスパンを開けて実行されている。生物実体側が素手に見えるのに対し、岩石構造体の側はその両腕に赤銅色に輝く籠手と見られる装甲板を有している。それらに接着されている4枚2列の白色の幣帛は、実体が殴打を繰り出すたびに風に靡いている。

[00h15m] 数分間の格闘ののち、岩石構造体の側が生物実体を叩き伏せる。生物実体側は崩壊し、その構成要素となった多数の人間の死体へと分裂していく。

[00h16m] 生物実体の頭部から、1人の人間が飛び出す。当該人物はヒトの身体能力を遥かに超えた跳躍によって岩石構造体の頭部より高い位置へと到達する。岩石構造体の視線は、崩壊する生物実体から当該人物へと移動していく。人物を追跡するドローンは、人物が不明な祝詞と見られる文言を唱えているのを記録する。その中には「イサナギ」の句が認められる。

[00h17m] 突如として周囲を覆っていた金色の雲が薄くなり、一箇所に穴が開く。その穴を通じて視認可能になった太陽が、急速に光量を高めていく。観測機器の耐久性の限界を超えると判断されたため、ドローンは太陽の直視を打ち切ってカメラの視線を下げる。

[00h18m] 天空から岩石構造体の直上へと光線が放たれ、岩石構造体はその中へと飲み込まれる。ドローンはカメラの保護のために遮光板を展開する。光線を受けた岩石構造体は罅割れて、十数個の破片へと分解していくように観察される。

[00h19m] 地表面から強力な衝撃波が発生する。岩石構造体の足元で何らかの巨大な爆発が発生したものと思われる。岩石構造体の破片、並びにドローンは衝撃波によって打ち上げられ、不明な速度で急上昇していく。この時点で気密実験室内のワイヤーが断裂し、ドローンは実験室の天井へと叩きつけられる。ドローンは機動能力を喪失するが、暫くの間は天井に張り付いた状態を保っている。

[00h20m] ドローンが最高点へと到達する。高度は最低でも8000m以上と見られ、回転するカメラが時折地表面を映す。そこには南九州と見られる地形が広がっており、鬼界カルデラ上空を中心として同心円状に金色の雲が吹き払われていく様子が映っている。複数の破片に分割された岩石構造体は既に降下を開始しているが、その多くは北東方面へと分散していくように見える。ただし、実体の頭部を構成していた岩塊は鬼界カルデラの中心部へ向けて降下している。

[00h21m] 異常空間内のドローンが降下を開始して間もなく、気密実験室内のドローンが床へと落下する。この時点で岩石構造体の頭部は海面に落着している。

[00h22m] 異常空間内のドローンが地表へと落着するのを待つことなく、映像が途絶する。気密実験室内のカメラは、不明な位置から噴出した火砕流によって実験室内が満たされていく様子を撮影する。溶岩の熱量と圧力は気密室を破るものではないと見做される。実験は終了し、実験室は標準プロトコルに従って封鎖される。

[再生終了]


SCP-2847-3の作成した文章より抜粋

SCP-2847-3: 私が造られた頃3、西の大陸には様々な生命を操る猿たちの王国が広く存在していました。一方で、東の海は常に金色の雲によって覆われていたと伝えられています。少なくとも、夏の王朝がこの世から去る以前に、彼らが日の出ずる国について述べたことはありません。

500年の歳月が過ぎ、鯀卿が口を開くことがなくなってから暫くして、東海の果てで天地を揺るがす噴火が起こったと言います。それによって金色の雲は晴れ渡り、日の出ずる国は倭の国として人々の知るところとなったようです。当時の王朝の下に、倭の国から初めての使者が来るまでには、それから更に同じだけの時間を要しました4


補遺: SCP-2847-3の述懐によれば、鬼界カルデラの破局的噴火が発生したのは紀元前1400年頃だということになります。これは主流科学に基づくアカホヤ火山灰の年代測定結果が紀元前5300年頃の噴火を示していることと矛盾します。SCP-2847-3の有する知識に誤りが存在するのか、あるいはアカホヤ火山灰が特定条件下で帯びる異常性質が測定結果の不整合を生じさせているのか、そのいずれでもないのかは、この文章のみからでは判断できません。


未解明領域 UE-023141-JP

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鬼界カルデラ(破線内)

未解明領域記録

収容日時: ████/██/██
場所: 鹿児島県 大隅海峡 鬼界カルデラ海底


概要: 長径1240m、短径865m、高さ300m程度と計測される、ドーム状の単一の岩塊。財団が行使しうる物理的手法によるサンプルの採取にはいずれも失敗した。超音波による非破壊的検査は、ドーム内部に気体を含む広大な空間が存在することを示している。当該空間への進入手段は現在に至るまで発見されていない。岩塊の随所から金色の煙が噴出しているが、それらは海水に拡散せず、単に時間経過により消失しているように見え、成分の調査は不可能である。

セキュリティプロトコル: 民間団体による当該領域の海底探査計画の立案阻止を主軸とする。発生している煙は熱水噴出孔として偽装される。

補遺: 未解明領域に指定された範囲の周辺は、本来の鬼界カルデラを構成する火山から噴出した溶岩および火山灰により被覆されている。これらの堆積物が釉薬等の特定用途に使用された場合、異常性の発現を惹起する可能性が指摘されている。超常現象記録 EE-23141-JP関連文書を参照。


「剖検」プロジェクトの発足

Project Autopsy


プロジェクト概略

超常現象 EE-23141-JP、未解明領域 UE-023141-JP、およびそれらに関連する多種類の記録は、財団の種々の部門に分散しています。表出した一連の異常事象は、1億2000万人の一般人が生活する日本列島という土地の成立に際して発生した歴史的事象を、その一部に限定して再現したものである、という仮説が立てられています。加えて、財団が把握している既知のオブジェクトの中に、これらの現象に深い関連を有するものが存在するのではないかという指摘がなされています。それらは映像記録/23141-JP内に示された単一の超常存在を由来に持つと推測されています。

関連性を持つ複数のオブジェクトの管理を単一の部門に集約することを目的として、新規プロジェクトを立ち上げることを提案します。プロジェクトでは列島の各地に散逸した超常領域の調査と分析を行い、EE-23141-JPの発生に関与した領域群の正確なリストを作成します。また、古代日本の社会構造の確立に至るまでのタイムラインの確定作業が当該プロジェクトと並行して行われます。

プロジェクト構成の詳細は別紙に記載されます。

提案されたプロジェクトを承認します。正常な世界を守るために私たちが立ち上がる時、その足元には常に大地が必要です。私たちは人類の礎についての正確な知識を獲得する義務を有しています。プロジェクトが多くの成果をもたらすことを期待しています。

財団日本支部理事“若山”

プロジェクトは承認されました。プロジェクト全体のコードネームとして「剖検」(Autopsy)が割り当てられ、担当職員にはレベル4/Autopsyクリアランスが付与されます。最初のCODE指定オブジェクトとして、未解明領域 UE-023141-JPにCODE: Biggest-Watcherが発番されます。

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