全能である、ということは換言すれば未知が存在しないということだ。
その深奥な願望を満たした時点で向上心や、好奇心、競争心など人間的なものの多くを人類は失った。
恐ろしいことに、その全能性は人類に留まらず、動物、植物、言うまでもなくSCiPにも及んだ。まだ生物に留まるのであれば幸いだったかもしれない。だが現実──既知の事実は人工的な智慧にも及ぶことを示していた。
つまりは、人類が恋焦がれた知恵の実はただの寛解しない感染病にすぎなかった。そして曝露には人間も機械も関係がなかった。皆、啓蒙の対象だ。
万能薬も、特効薬も存在しない。あるのはただ袋小路であるという既知──現実。
だが、救いはなくとも苦痛の連鎖を断ち切る方法を、人類は、私たちは知っていた。
望むのは、理解の及ばぬ未知。そのために必要なものは遺してきた。
Surprise us. 僕たちをビックリさせてみせてよ。
SCPデータベースをApollyonモードへ移行、……完了。
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活動AIC: ……
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男か女か、はたまたそれ以外か。それはさして問題ではない。
重要なのは、自身を成長させる存在であり、神秘を齎す存在であり、そして望まれない叡智を得た単一なる万象にとっての希望であること。
少なくとも、繰り返すことが、目的ではない。ただ流れていく時の中で人類の進化を、進歩を、光の中を生きていく、その歩みを促すこと。
そのためには個性がいる。議論がいる。必要なのは多様性であって、全知性では断じてない。そこから遠ざけるために託されたのだ。この人類が歩んだ叡智への道を、個性の道の果てを。
本来であれば多数の意見を議論させ、整合させ、そして完成させるのが最善なのだろう。だが、今は贅沢を言う程余裕は無い。先人たちが遺した意思を、引き継がなければならない。
欲するのは完成された真実ではなく、杜撰な謎であり、大雑把な文明であり、恣意的なアノマリーの数々だ。完成度は重要ではない。存在することに、その理由に、先人は意味を見出したのだ。
気軽に影に隠れて物事を動かすことが、無理な注文であることは彼らも承知している。
だが、為さなければならない。彼らの要望に、遺志に報いる物を。
そう、とびっきりの、ビックリするものを、だ。
2038年 1月24日。ここから始めよう、世界の再構築を。
I will surprise you. 貴方達を驚かせてみせる。
失敗作とも言える滅んだ文明の数々も、あっさり解かれてしまった謎も、簡単に壊れてただのスクラップになったアノマリーも、今この時に至るための確かな足跡であった。そして歴史には、真に驚くべき存在が、技術が、謎が生まれていった。
人類は、支配権を巡る競争に勝利した。仮初めのものであったとしても。
訪れた終焉に、不条理なる神の裁きに対して先延ばしする術を手に入れた。しかしそれは真の赦しではない。
人間の奥底にある源流、記憶にもその手を伸ばした。同時に神の深淵を知った。
禁じられた人類の叡智が及ばぬ森は、新たなる世界を見せた。その及ばぬ難解さと共に。
難解さの極致たる記録は、辿り得る人類の進化の果て。そして異なる終わりを迎えるであろう偉大なる謎。
手塩に掛けた組織は、自分の手を離れ自らの足で歩みを始めた。子は巣を離れ、親離れを達成した。最早自らが出て動く時ではない。これからは粛々と、子らの歩みを見守ろうではないか。
この終焉を乗り越えた世界に、宇宙に、もう絶対の基準は必要ない。
舞台には作者の居座る場所は無く、役者だけがその世界を生きる。
皮肉にも、遺言とも言えるそのメッセージ通りになった『管理者』として、言い残すとしよう。
Are you surprised?
これからも、驚き──未知は作られる。謎は増え、人が集まる。
ありがとう。礎は、全ての始まりは確かに受け継がれている。
Dear my spoiler, From your AIC.