第二〇二〇番
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アマビヱ蒐集物覚書帳目録第二〇二〇番

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発見時巷間に流布した瓦版

一八四六年四月捕捉。肥後国(現熊本県)において村役人が発見。その後、郡奉行を経て按察司北条某氏により投網にて捕捉及び捕獲。北条氏の活躍により存在は噂程度に抑制されたが、瓦版等にその名称が確認できる。

長髪の人頭魚身の様態を持ち、脚は三本存在する。通常時は一部怪異が汎的に獲得している変化能力を行使し、主に若い女性の姿を取るが、臀部に鱗が発生する。また、変化していない状態で写真等の記録媒体に残すことが不可能であり、文章あるいは絵画による伝達に限られる。膂力は人間の幼児と同程度であり、走りはもちろん泳ぎも不得手である。人語を解し、食性は一般的な獺と同様のもので生存が可能であるが、人間と同様の食事を摂ることを好む。一般的な人間と同様の精神構造を持ち合わせており、自己顕示欲が強く楽観的な発言が目立つ一方、臆病で向上心が弱く定期的に現実逃避に陥るなど精神的に脆い一面が見られる。

未来の事象を予言する異常性を持つが発露記録は僅かである。予言の内容も一部を除いて軽微な事象に留まり、外れることも多かったとされる。発見時、村役人には「私は海中に住む、アマビヱと申す者なり。当年より六ヶ年の間諸国豊作なり。併し、病流行、早々私写し人々に見せくれ」と伝えたと証言。これにおいても肥後国において発生した事象との関連は薄いと推測され、二〇二〇番自身も不明瞭な証言を行う傾向にある。予言からの派生か弁舌に長ける部分もあり、異常性を伴わない範囲で高い交渉能力を持つ。怪異としての起源は不明であるが、発見時の規模としては低級霊と同様である。現在の状況は後述記録を参照。また、"アマビコ"との関連性が示唆される他、"海幸彦"との関連性も疑われており、自身も神格を自称している。

戦前は標準甲種怪異として蒐集院支所において蒐集状態に置かれていたことが確認される。蒐集状況はその性質から軽微なものであり支所からの移動禁止及び身体の一部拘束に留まっていたとされる。第二次世界大戦の勃発に伴った蒐集院内部の混乱を受け、怪異存在を軍事転用しようとする過激派から自身の異常性を利用し逃走。現在筆者が所属する穏健派に合流したと証言する。

一九四五年、財団による蒐集院の吸収時、財団の強権的行為を予言し蒐集院残党穏健派の遁走に協力。日奉一族への不信感から遠野妖怪保護区等への移住も拒絶したため、これ以降、慢性的な人員不足もあり蒐集対象でありながら暫定的に蒐集院残党穏健派の一員として行動。主に後述の潜入活動に加え、遠野妖怪保護区、TTT社等怪異及び神格存在との交渉、折衝に従事する。

二〇一〇年代後半より日本国内における甲種怪異群の忘却現象が加速したことと、芸能界において財団の後醍醐姉弟、恋昏崎の古井狩サキ等、隠秘学関連団体から調査員が送り込まれていることが考慮され、二〇二〇番自身の存在保持と芸能界における蒐集物の潜入調査を行う目的で天海 ヱイ子の名を用い女性アイドル及び女優として活動中。

二〇一六年、日本芸能界で発生した"絡新婦騒動"に関与し、一時期"アニメキャラクターと結婚するための研究計画局"に拉致されるも、構成員であった現研儀官日奉茜含め数名を[秘匿]の助言を受けつつ引き抜いたうえで帰還。当院の芸能界内における勢力拡大にも貢献した。

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天海ヱイ子としての様態

二〇二〇年三月追記。新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染爆発が発生。これを受け、日本国のインターネット、特にSNS上で疫病を抑える存在として"アマビエ"の存在が急速かつ世界規模の拡散を見せた。連動して二〇二〇番の異常性が未来予知から疫病等の治癒及び予防へ急速に変化し、怪異としての存在位の上昇が確認された。加えて女優としての知名度が異常に増加したことが確認される。ここから長野先生により、"アマビエ"という存在に対する信仰の変化及び急激な増加が二〇二〇番自体に影響を与えたとの提言が発表され、支持を受けている。また、二〇二〇番に聴取を行ったものの、自身も変化に困惑しており軽度の不定愁訴を発症。現在は当院内において療養中。

前例と類似する怪異存在の変化はかねてより数例確認されていたが、今回の二〇二〇番における事例は極端な例であり当院内においても興味深い事例として検証中。長野先生の推測では、旧来瓦版など限定されたメディアでしか共有されなかった信仰が、メディアの多様性により膨大かつ先鋭なものへ変化したのが原因と考えられる。また、この変化が財団を始めとする他隠秘学関連団体及び過激派に察知されることを危惧する声、消極的ながら他隠秘学関連団体に対抗する防衛措置として利用する声が穏健派内であがっているものの、現状二〇二〇番の処遇は保留中であり、研儀官平山藤拍及び北条団麗により観察中。

※療養中の状況は端的に言えば通常通りである。躁鬱の乱高下が激しいが、心療相談員の派遣等の必要性はないものと考える。現在段階においても我々に対し『見捨てられたら死んで活け造りになるって予言する。まぁ、未来とか見えなくなっちゃって代わりに病気治せちゃうんですけど~?』、『ほら見ろやっぱり神様じゃん、私の存在を讃えてよ! え、無理? ぴえん』、『鬱だよ!』など奇矯な発言を繰り返している。この奇矯な発言は前述の"絡新婦騒動"の際に引き抜いた人員より習得した卑語である。

※"アマビエ"という存在に対する信仰が、化けた状態にも適用されることは新たな発見である。これまでに当院が蒐集した巷説における英傑、奇人の記録において同様の存在があると推測されるため、再度調査することが求められるのではないだろうか。また、研儀官日奉茜よりかねてから提案されていたインターネット及び高度情報化社会への隠秘学的適応が求められる時代へと変化していることが感じられる。専門的人員の増員を進言する。

※二〇二〇番の存在は我々にとって必要な偶像である。そこにあるだけの、その絵姿を見るだけの、暢気な怪異に過ぎなくとも人はそれを神と崇め二〇二〇番はそれに意図せず答えた。時代が求める形に我々も変化せねばならないときが来ている。本質を見失い名と姿のみ残っていたアマビヱと当院に違いはない。これらを踏まえ改めて現状の当院において、二〇二〇番は重要な人材であると進言する。ネットスラングを使う必要はないと思うけどな。 - 研儀官日奉茜

(記・平山藤拍/北条団麗)

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