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「オブジェクト処理とSCP指定の後、我々はそれらをSafe、Euclid、Keterの3つの主要なクラスに分類します。Safeクラスオブジェクトは収容が最も簡単であり、多くの場合、最低限のプロトコルの修正、維持、観察しか必要としません。最も手間を要することは……」

トライト(Trighit)は欠伸をしながら、モノクロの廊下を眺めていた。彼は自身がグループの後方に追いやられたことを喜んでいた。これでグラント博士に退屈しているところを隠す理由が無くなったからだ。他の人たちは、いわゆる「科学者」の弁論を熱心に耳を傾けているようだった。

「未だに科学的なものを見たことがない」彼は呟く。

建物は一見整然としているように見えるが、廊下に面した部屋からは物音やざわめきが聞こえてくる。トライトは、右手の部屋から聞こえてくるハミング音に耳を傾けた。彼はポクム(Pokum)の注意を引き、ドアと、その横の壁に取り付けられた大箱に入っている書類の方向を頭で示した。助手は首を横に振り、唇に指を当てて前方を指差し、話し手に再び視線を戻す。

「そうか、それならいいよ。自分で読めばいいんだろう」彼は静かに腹を立てた。

トライトはドアに近付き、紙の束を一つ下げた。

アイテム番号: SCP-1517

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 全てのSCP-1517およびSCP-1517-A実例は、極低温──

「わからない、わからない」彼は心の中で呟きながら書類を戻し、ハンドルに手を伸ばす。「ただこれが何であるのかを知りたい……」

「トリギット(Triggit)さん、でしたか?」

ずんぐりとした研究員の声に、腕を引っ込めて振り向く。

「"Try-it"と、は、発音するんです、実際は」彼は慣れない言葉に舌打ちをし、ぎこちなくしながらも答える。

「なるほど、そうでしたか、申し訳ないトリート(Trite)さん。とにかく例のEuclidを見物したいのは分かりますが、収容は我々のスタッフに任せておきたいと思っています。下がっていただけませんか?」

トライトは大きく息を吐くと、ポクムの方に戻っていった。

「さて、先程も説明したように、Euclidクラスオブジェクトは、基本的には、適度な警戒とプロトコルを必要とするオブジェクトです。この部屋には、Euclidクラスの典型的な例がいくつかあります。ピーターズ博士、よろしいですか?」

女は頷き、大箱の隣にあるパネル(「なぜ気が付けなかった……?」)にカードキーをかざして、ドアを開ける。トライトは、準備していたノートを慌てて取り出し、興奮しながら部屋に先導するように入った。

その感動も束の間。驚くような新しい標本や環境を見せてくれるようなものではなく、部屋の中は外の廊下と同じように、灰色で、不毛で、つまらないものとなっていた。壁には白色のチューブがずらりと並び、それぞれにドアの外にあるものと同じモジュールが搭載されている。

「極低温懸濁液でこれらのEuclidクラスを、最もシンプルで効果的かつ安全な方法で保存することができると考えられています。これらの標本を見物してみましょう」男は、首から下げたストラップに付けられた自身のキーカードを持ち上げ、貯槽の一つに付いているアタッチメントに通す。装置の前部がシューシューと音を立てて開き、博士はそこからいくつかの物体を取り出した。

「さて、ここにあるのはSCP-1517-Aの実例、つまりSCP-1517の卵です。ゴブストッパーのように見えるかもしれませんが……」男が立ち止まる。トライトは腕を振り上げながら、もう片方の手でノートに猛烈な勢いで書き込んでいた。「はい?」

「ゴブストッパーとは何なのですか?」彼は質問を問い掛けると、空いた手でノートを支えるように体勢を整えた。

男が瞬きをする。「それは、あの、キャンディーの一種です」

その手は再び上を向いていた。

「"キャンディー"とはどのような生物なのですか?」トライトはポクモからの疑問の視線を感じていたが、それを無視していた。

「それは……うーむ.……んん……」グラントは言葉を失った。彼は同僚の方に顔を向けたが、ただ肩をすくめただけだった。男は球体を置くと、ポケットから財布を取り出した。彼はもう一人の同僚に1ドルを渡しながら指示を出す。「フレドリクス、カフェテリアの自動販売機でスキットルを買ってきなさい」

エージェントは僅かに顔色を変える。「博士、あの、私はこの棟にはあまり熟知していないので、ピーターズに頼んだ方がよろしいのでは?」

グラントは、トライトとポクムに「これはいつものことだよ」と伝えた後、2人の同僚と低い声で言い合いを始めた。研究員たちが議論に夢中になっている間に、南極人の科学者は3つの球体を素早く掴んでポケットに入れてしまった。

「あの、先生、きっと後で見せてくれますよね!」

3人の科学者は視線を交わし、すぐに落ち着きを取り戻す。

「むむむ、まぁ、どうせ些細なことです。それよりも、その種の生態に興味があるのでしょう?」

「はい、先生。続けてください」トライトは、顔に笑みを浮かべながら答えた。

グラントが昆虫の生態を説明している間、ポクムは友人を必死に肘打ちをしている。これは危険な行動ではないかと心配してのことだった。 それに対し、トライトは首を振りながら唇に指を当てた後、もう一方の手の指でグラントを指した。


「あなたの日々に宣誓を!」

見学終了後に部屋へと戻された2人の南極人(「あの人たち?同行する?許可されないだろう」)、そしてポクムはすぐに同国人を非難し始める。

トライトは笑みを浮かべる。「落ち着いてポクム、ただの研究だよ、大したことじゃない。学習して、メモを取って、バレる前に返すだけだよ」

「自分が何をやっているのか考えたことはあるのか?ここはお前がパックから沢山のトレキサンを出そうが、地面から沢山のハイレチを掘り出そうが気に止めなかった故郷とは違う!一週間も経たないうちに処刑されるかも知れないんだ、この愚か者が!」

彼は再び笑みを浮かべた。「君は心配しすぎだよ、友よ。僕たちはまだ危険に晒されていない。誰にも知られていない、だよね?」

ポクムは沈黙したまま、胸の前で腕を組んでいる。

「ふぅ、これが僕たちがここに居る理由だよね、違うかい?」

「違う」彼は吐き捨てるように言った。「これがお前がここにいる理由だ、トライト。俺がここに来たのは、お前が怪我をしたり殺されたりしないようにするため、それだけだ。言っただろう、そんなものはどうでもいい、お前が大切なんだと!さあ、それを返して謝罪すれば、俺たちを腐らせずにしてくれるかもな」


「博士、その……SCP-1517-A実例がいくつか足りないようです」

「15-17、15-17……?」

「キャンディーの虫です、博士」

「SCP-1483からやって来た研究員にEuclidの例として使ったものか?」

「はい」

「……クソッ。ピーターズはあの棟に向かい収容されている各スキップの総数を再確認だ、フレデリクスは彼らの部屋に向かい、そこで見付けられなかったら収容違反の宣言をしろ」

「了解」


トライトはショックのあまり座り込む。「ど、どうせ気にしていないだろ?いつもそうだったろ?」

助手は鬱憤した様子で額を拭う。「トライト、お前に何度伝えようとしたか分からない。俺がお前と一緒に来たのは、お前に頼りにされてたから、親友だとも思っていた。でも、お前はいつもその日に起こったことに集中していたり夢中になっていた。それが堪らなく嫌だった」

「でもポクム、僕はいつも……僕……ごめん」

「もう気にするな」彼はため息を付く。「ほら、元に戻してこよう。渡されたカードを使えば、誰にも知られずに中に戻ることができる。そして、見回りながら研究をして──彼らが見せてくれたものを観察して──探検が終わって故郷に帰れれば、どんな生物を捕まえても誰も気にしない」

「わかった」科学者は虚ろな様子で答える。「机の上のフラスコに入ってるよ」

ポクムは無言のままそれに近付き、中身を自身の手の上に出した。

「俺はこれを戻してくる。ここで待ってろ」

鋭いノック音に二人は凍り付く。

「おい、こちらはエージェント・フレドリクスだ。開けろ!」

二人は青ざめた顔を見合わせる。

「ああ、どうしよう、どうしたらいい?」トライトは言った。

ポクムは肩をすくめながら、必死な様子で部屋全体に隠し場所が無いか探す。

「出来るだけヤツを妨害しててくれ、すぐに戻ってくる」ポクムはそう言うと、すぐにバスルームへ向かった。

トライトは返事をしようと駆け寄ろうとしたところ、部屋の扉が物音を立てながら開き、そこに疲れ果てたスーツ姿の男が入ってきた。

「さて、部屋の点検の時間だ」と言った彼には、先程までのユーモアや気楽さが感じられない。

「ご用件は何でしょう、エージェント・フレドリクス?」と声の震えを隠しながら、ずんぐりとした来客者に質問する。

エージェントは、しばらく彼を睨み付けてから答えた。「君がサイトを訪れた後にSCP-1517-Aの卵が数個無くなった。今はそれを探しているところだ」

トライトは精一杯の本物を笑顔を見せようとした。しかし、上手く作れなかった。

「ええ、見付けられると良いですね」

エージェントは呻き声を上げながらベッドに近付き、全体を裏返した後に全てのシーツを査察している。トライトは親友の様子を見るためにバスルームに顔を向ける。卵をトイレに急いで投げ入れていた。ポクムはなるべく物音を立てずに出ようとしたが、閉めようとした扉の立て付けが軋む音でフレデリクスの注意を引いてしまった。

「おい、そこで何をやっている?」

「俺はただ、あー、何も……」ポクムは脳内でアリバイ内容を模索しようとして言葉を詰まらせてしまう。彼がその内容を思い付くより先に、エージェントは小さな部屋の中に押し入った。

「ここに来てからまだ一日しか経ってないのに、早くも……」二人は無言で立ち竦み、恐怖に怯えていると、室内から彼の独り言が聞こえてきた。その直後、叫び声や物が落ちる音、ガラスが割れる音と共に室内がガタガタと鳴り響く。飛び出してきたエージェントの腕には、色とりどりの虫が群がっていた。

彼の悲鳴は15秒ほどしか続かなかった。南極人たちは悲鳴を上げ続け、多くの人がやって来てエージェントに放水している間に、二人は廊下に押し出されてサイト管理官のオフィスに連行されていった。

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