収斂
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リリベス・オリオンは気だるげにブランコに座り、足を前に後ろに揺らしていた。季節は秋、木々は葉を落とし始めていた。枝から地面への優美な落葉は辺りの景色を赤と橙の陰影で塗り替え、季節の移り変わりを歓迎しているかのようだった。

彼女に遠い昔の、ここに来た当初ほどの元気は無かった。かつては正確に動いた両手も星座の観察結果を書き留める時には震えるようになった。SCP-2508で暮らすようになっても彼女の宇宙への関心(と天体物理学の学位)が変わることは無かった。

時々、夕食を作り始める前の静かな夕方に、リリベスは外に座り—彼女が今そうしたように—そして陽が沈むのを眺める。燃えるような色の渦が巨大な光球と共に下って行き、夜の涼やかなタッチに空を譲る。すべてのものが動きを止めて、すべてが静寂に包まれるまで、眠気を誘うような青と黒の暗い影が地平線に染み渡っていく。

だがしかし、今回は少し様子が違っていた。彼女は緊張を高めた。地面に開いた直径2メートルにも満たない小さな穴から音が漏れ出ているにも関わらず、地面の下で歯車がその回転を鎮めたのが以前よりもはっきり分かった。何ヶ月にも及ぶ苦しい掘削作業の果てに、彼女はついに何らかの構造体への道を開いたのだ。

まだ彼女はそこに入ったことはない。入るためには勇気を振り絞らなくてはならなかった。

おそらく、今がその時だ。


リリベスは滑車装置や仮拵えのエレベーターを造ることになるとは思ってもみなかったが、後に現場から土砂や岩を動かす段になってみると何かと便利なものだった。老科学者が暗闇に降りると、時計仕掛けの金属音はいっそう目立つようになった。

最終的におんぼろエレベーターは金網の床に衝突した。

フラッシュライトを固く握り締め、彼女はトンネルの中に踏み出した。ライトが内装を照らし出す。赤銅色の壁、錆びた金属パイプと配線。何かが金網床の下にあった事は明らかだが、彼女のフラッシュライトで下を見ることはできなかった。ここがどれほど降りた場所なのか確かめる手段は無い。だが、ノイズが大きくなってきた事だけは確かだった。リリベスが壁に手を当てると、ごく僅かな振動を感じとることができた。壁から離した手のひらは黒いグリスに覆われていた。

フラッシュライトがここでは唯一の光源だった。湿っぽくて汚い空気が頭上の通気孔から次々と吹き出している。彼女は地下道を辿り、分かれ道でノイズの方に曲がった。歯車が回るに従ってそこら中で壁が雑音を立て、足元で格子がざわめいた。催眠音波のようだった。

汚い欠けたタイル床を簡単に調査すると、地下道の中には6個の空き部屋があることが分かった。人の痕跡が僅かにあったが、どれも面白みのあるものではなかった。興味深かったのはとある廊下の突き当たりにあったものだ。そこにあった金属製の大きなドアは、壁のところの錆びついたクランクで開けられそうだった。扉は古びた表面に「塔」と書かれたラベルの残骸を誇らしげに張り付けていた。

ここがあらゆるノイズの発信源であることは疑いようもなかった。しかし、今は歯車ではない、別のノイズも響いていた。それは流れる水の音だった。ためらいがちにリリベスはクランクを回し、そして扉は開かれた。

球状の部屋の中で彼女は、自分が今や耳をつんざかんばかりの騒音となったノイズの発生源を見下ろす小さなキャットウォーク(階段が付いてはいた)に立っているのを見出した。件の機械は大きな歯車に小さな歯車、ブロンズ製に銀製、合わせておよそ50の歯車からできていた。連なる歯車は、何か分からない様々な機械類と配管に繋がっていた。装置は概ね2階ほどの高さがあり、暗闇の中、下へとさらに続いていた。リリベスは部屋の基礎への小さな階段に直行し、その強度と複雑さに畏敬の念を覚えた。歯車が得体の知れない小さな器具を動かすと、「FRout」とラベルが貼られたパイプが、内部で液体を攪拌している巨大な容器に繋がった。幾重にも重なった金属板が光線の周りを回り、本ほどの大きさもないリフトが天井の穴から床の穴へと円筒形の缶を運んでいく。いくつかの缶は彼女の頭の上の気送管を通って部屋中に運ばれていった。

老科学者は言葉を失い、目の前のものを見つめる事しかできなかった。引き返そうとしたまさにその時、彼女は部屋の角に隠れた狭い通路を発見した。そこは複合機械の他の部分と同じ赤銅色ではなく、丸石の壁に、壁自体や機械に繋がるパイプがずらりと並んでいた。

部屋に入った直後は、石の歩道と小さな橋に縁取られた川を、広々とした下水道と見紛うかもしれない。だがそこは下水道ではなかった。特有の臭いは無く、壁に均等に配置されたパイプから流れる水は澄み切っているようだった。遠く部屋の端で水は格子を越えて、きっと果てしない暗闇であろう場所へと落ちていく。

塩ビパイプは6本ごとに分けられていた。その全てからゆっくりと水が滴っていたが、木製の識別票でセットの6本が区切られていた。リリベスは歩道を歩きながら文字を読んでいった。「322」「アヴァロン計画」「91-XSM」「屠殺」「KPI-&4」「18504番」……

そして最後に「SCP-2508」

情報を飲み込むとともにリリベスの心臓は早鐘を打った。他にもあったのだ、と。

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