カウントダウン
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アンダーソン博士はかすんだ目をこすり、寝台で寝返りを打った。デジタル目覚まし時計の点滅する光を浴びて、彼は目を覚ました。なんで誰も起こしてくれなかったんだ。

「応答せよブラボー2。ブラボー2、聞こえるか?」

死んだような静寂が唯一の回答だった。彼は床に飛び降り、流れるような動きでコートを取ってドアを押し開いた。

「ブラボー2応答せよ、こちらブラボー3、感度確認。繰り返す、感度確認」アンダーソンは叫んだ。シベリアの風がうなる中、懸命に言葉を口に出す。

彼はサイト-3034に向かって雪の中を歩いていく。100メートルの旅路に何時間もかかったように思えた。扉を開けた途端、吐瀉物や尿の嫌な臭いが鼻孔を襲う。部屋を見渡してみると、なぜ誰も応答しなかったのかが分かった。家具や備品は床に横倒しで散乱しており、砕け散った木片や破損した電子機器がある。照明も何やら故障していて、ひとつの電球だけが点滅して残骸を照らしていた。部屋に視線を走らせた彼は、床のあちらこちらに横たわった体を見て息を呑んだ。一歩前に進み出ると、足下でガラスがバリバリと割れる感触があった。アンダーソンは、一番近くの動かない体をためらいがちにつついた。反応はなかった。彼はブラボー2のコールサインを持つ男を仰向けにした。

「ヴァスロフ! エージェント・ヴァスロフ、聞こえるか? 大丈夫か?」

エージェント・ヴァスロフは小さなうめき声を上げた。彼の額から血がしたたり落ちた。

「コントロール……出来なかった……」

「ヴァスロフ、聞かせてくれ! ミーシャ!」

「……アンダーソンか? すまない……我々は……打ち明けるべきだった……」

ヴァスロフはそう言うと、再びうめき声を上げ、意識を失った。アンダーソンは小さく悪態をついた。一体ここで何があった? 少なくとも彼は生きている。

一続きの電子音が彼の思考を遮った。

ああ、やめろ、やめてくれ。

Двести、と少女の声がした。にひゃく。

今はだめだ。お願いだから、今はやめてくれ。

сто девяносто девять. сто девяносто восемь. сто девяносто семь. ひゃく、きゅうじゅう、きゅう。ひゃく、きゅうじゅう、はち。ひゃく、きゅうじゅう、なな。

アンダーソンは部屋の中央、無線機器の置かれた場所へと走った。当の装置から煙と火花が出ているのを見て彼の気持ちは沈んだ。無線機に一体何をしやがった? こんな偶然があってたまるか。

彼はボタンを押してみたり、ダイヤルをいじったりし始めた。

「все хорошо. все хорошo」彼は必死になって声を張り上げながら繰り返した。

сто тридцать один. сто тридцать. сто двадцать девять. ひゃく、さんじゅう、いち。ひゃく、さんじゅう。ひゃく、にじゅう、きゅう。

なんてことだ。ああ、神様。「все хорошо!」彼はマイクに向かって叫んだ。

「все хорошо?」返事がした。アンダーソンは飛び上がり、ぐるりと振り返ると、ウォルター博士が千鳥足で自分の方へ向かってくるのが見えた。左右に揺れ、両腕を広げている。

「ジーザス、ウォルター! 一体何が起きてる? どうやって停止コードを送ればいい? 予備のシステムはどこだ?」

「все хорошо?」ウォルター博士は彼の方へよろよろと歩きながら言った。

「馬鹿野郎、ウォルター、停止コードだよ! все хорошо! 万事順調! все хорошо!」

девяносто пять. девяносто четыре. девяносто три. きゅうじゅう、ご。きゅうじゅう、よん。きゅうじゅう、さん。

「все хорошо. 万事順調。万事順調。万事順調」ウォルターがもごもごと言い、ぼんやりとしたその顔に理解が浮かび始めた。「万事順調!」彼は笑い、狂気じみた目をぎらつかせる。

「万事順調!」

「万事順調!」

「万事順調!」

アンダーソンは恐怖に駆られ部屋の中を見回した。地面にうつぶせになっていた人たちが息を吹き返して彼を見つめ、声を揃えてそのフレーズを繰り返している。

「万事順調!」皆が叫ぶ。その声は次第に狂ったような笑い声になっていった。彼らは足を引きずり、体を揺らしながらアンダーソンに向かって進み始めた。

「さ、下がれ!」アンダーソンは叫び、手探りで銃を抜こうとしたが、腰には何も見つけられなかった。どうして銃を宿舎に置いてきちまったんだ? 「俺に近寄るな!」

Тридцать. двадцать девять. двадцать восемь. さんじゅう。にじゅう、きゅう。にじゅう、はち。

放送は今や、アンダーソンが背景音の中の叫び声を十分に聞き分けられるほど大きく、最高潮に達しようとしていた。

「こちらはサイト-3034のアンダーソンだ!」彼はレシーバーに向かって叫んだ。「レベル1の緊急事態が発生! 3034の収容プロトコルが失敗した。繰り返す、サイト-3034は完全な収容に失敗している!」

答えたのは代わり映えしない雑音だけだった。彼は押し殺すように泣き声を上げながら無線機を地面に叩きつけた。無線機は砕け、残骸は瓦礫の中へ溶け込んだ。声はますます大きくなっていった。同僚の叫び声と少女の無線放送が交錯し、不協和音が生じる。彼は両手を耳に当てて床へと崩れ落ち、他の者たちが自分に向かって行進を続けるのを眺めていた。いよいよだ。3034はXKオブジェクトなのか? 俺が真っ先に知ることになるのだろう。

Три. Два. Один. さん。に。いち。

遠くでくぐもった銃声と爆発音が響き、それはとてつもない轟音にかき消されながら建物の基礎を揺さぶった。

с новым годом.

アンダーソン博士は気を失う前、ウォルター博士が自分に腕を回してきたのを感じた。そして吐息に混じったひどいアルコールの臭いが鼻を突いた。

「新年おめでとう、同志!」

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