名前: ブルンゴ
種族: Cynomys Rafinesque (プレーリードッグ)
主要世話役: 陸生チーム、マーサ・テイラー
食事: 栄養剤入りブドウ (栄養剤の配合はマーサに聞いてくれ)
居住区: 陸生地区 ウィルソンズ・ワイルドライフ・センター、2号囲い場
"ブルンゴ"について語る前に一つ説明しておかなければいけない事がある。私たちがお世話している動物たちは、外見からは予想もできない特徴を持っていることが多い。思いがけない被害が出る事だってある。そんな不幸な事故を減らすため、我々はスタッフや監督者と連携して情報交換しながら(実はウィルソンズの運営などの相談に乗って貰う事もあるんですよ!)お世話に当たっている。
さて、ブルンゴも一見すると可愛いプレーリードッグに見えるだろう。ブルンゴの正体は、何と……(ドラムロールのご用意を!)これを読んでいる君が予想も出来ないくらいハチャメチャに可愛いプレーリードッグなんだ!
プレーリードッグは家族の繋がりが深く、見張りをして犬のように鳴いて危険を知らせ合う動物だ。そして、家族同士でキスをしてスキンシップを取る習性を持っている。ブルンゴの場合はウィルソンズのスタッフたちを家族と思ってくれているんだろうね。スタッフを見るといつも情熱的なキスをしたがるんだ。
そして、ブルンゴのキスは可愛いだけじゃなくすごい能力を持っているんだ。例えばブルンゴが機械技士のマイケルと獣医のダニエルの2人にキスをしたとしよう(マイケルとダニエルがキスをする必要はないよ)。しばらくの間この2人はテレパスのようにお互いの考えている事が分かるようになるんだ!私たちは度々危険な作業をする事があるんだけど、そんな時にブルンゴがいれば完璧な連携を取れるって訳さ。監督者によるとブルンゴがその気になれば言葉の通じない人間と動物同士でも伝え合う事が出来るようになるらしい。まあ、ブルンゴはスタッフ以外にキスするのは乗り気じゃないみたいだから試したことは無いけどね。
ブルンゴは私たちが見つけた訳じゃなくて、監督者から引き取った子なんだ。元々はどこかの犯罪組織で飼育されていたらしいんだけど、それを監督者が見つけて確保したらしい。監督者はブルンゴは安全で、勝手に逃げ出したりしない子(つまりブルンゴはとても良い子って事だ!)と判断して、ボーリング協定によりウィルソンズに保護を任せる事になったんだ。監督者が言うには犯罪組織がブルンゴの事を何かに利用していたらしい。怖い犯罪者たちがブルンゴにキスしてもらおうと必死になっている姿を想像すると、ブルンゴにはとても申し訳ないんだけれけど笑ってしまうね(ごめんねブルンゴ)。
監督者の█████の話によると、これはブルンゴがここに来るずっと前、犯罪組織にいた頃から変わらず大事にしていたぬいぐるみだ。手放してからしばらくすると暴れだすし、ちょくちょくキスをしている事を考えると、これはブルンゴにとっての安心毛布と言うより大切な家族なんだろうね。最近はぬいぐるみがほつれて中身が出始めているから、主要世話役のマーサはぬいぐるみが完全にばらばらになってしまう前に修復しようと考えているよ。
ブルンゴはあまり食べる事にあまり興味が無いみたい。あまり体には良くない事なんだけど、比較的ブルンゴが好きなブドウに必要な栄養素を注入した物を食べさせているよ。
このかわい子ちゃんの食わず嫌いを治す方法を思いついたスタッフは連絡してもらえるかな。一番良いアイディアを出したスタッフには更衣室のロッカーを2つ使っていい権利をプレゼントするぞ!
日付: 2015/07/21
いつも通りマーサがブルンゴのお世話をしようと飼育スペースを覗くと、ブルンゴはすでに冷たくなっていた。前日まであれだけ元気に動いていたのに。人や動物が侵入した形跡はないが、体の色んな箇所に小さな噛み跡があった。何かただならない事態が発生したのは間違いない。亡くなった原因を調べなければ。
マーサによると、亡くなる前日は今のぬいぐるみを修復するために1晩だけ同じ形式のぬいぐるみと交換していたらしい。マーサは仕事が手に付かないほど落ち込んでいる。ブルンゴの遺体と、念のためぬいぐるみを調べてみようと思う。
日付: 2015/07/22
ブルンゴの死を監督者の█████に伝えた所、死因の調査を監督者側で行おうかと提案された。ボーリング協定でブルンゴに関する問題は私たちに一任されているが、もし調査が手詰まりになったら監督者を頼るのも良いかもしれない。
日付: 2015/07/23
獣医のダニエルの所見によると、体の噛み跡はブルンゴのストレスによる自傷行為で、死因は脊椎の骨折らしい。パニック状態になり高い所に登って落下したんじゃないかと言う話だ。原因として考えられるのはぬいぐるみを取り替えた事くらいしか思いつかない。私はこれっぽっちもマーサが悪いという気は無いが、この結果をマーサに伝えればマーサは自分を責めるだろう。一体どうしたらいいんだ。
日付: 2015/07/24
ブルンゴが大事にしていたぬいぐるみを調べた所、謎の機械が出てきたようだ。機械技士のマイケルによると、ぬいぐるみの口の部分にセンサーが付いていたらしい。よくよく考えてみると私たちはブルンゴがウィルソンズに来る前の事を全く知らない。ぬいぐるみは私たちが思っていた物と全く違う物だったのかもしれない。
日付: 2015/07/26
ウィルソンズの運営について█████に相談していた時、雑談の中でブルンゴの話題になった。調査が難航している事を伝えると、また監督者側で調査を行おうかと提案を受けたが丁重に断った。ブルンゴが亡くなった原因は私たちにある。死因の調査も出来る限り私たちが責任を負うべきだ。
機械技士のマイケルによるとどうやら謎の装置はブルンゴがキスをすると一定期間ごとに特定の波長の電波を発信する仕組みになっていたらしい。この電波がブルンゴに何か影響を与えていた可能性がある。獣医のダニエルにもっとブルンゴの体を詳しく調べてもらうように頼んでみた。
日付: 2015/07/28
獣医のダニエルによるとブルンゴの脳には電極が埋め込まれていて、ぬいぐるみの電波に反応して脳に刺激を与えるようになっていたようだ。ダニエルに理由を聞いてみると、胸糞の悪い話を聞く事が出来た。
脳には報酬系と言う場所があり、特定の場所に電極を埋め込んで刺激を与えると強い快感を得られるそうだ。その電極を埋め込まれたマウスの実験で、2つのレバーを用意し、1つは押すと食べ物が貰えて、もう1つは脳に刺激を与えられるようにしたらしい。すると、食べ物を貰える方は押さず、寝ずに餓死寸前まで脳に刺激を与えられるレバーを押し続けたようだ。マウスから尊厳を奪う悪魔の実験だ。ブルンゴも元いた犯罪組織から同じ事をされて、無理やりキスをさせられていたんだろう。
どうしてこんな酷い事が出来るんだ。
日付: 2015/07/30
ダニエルとマイケルから謝罪があった。マーサに問い詰められて事情を説明したらしい。隠し通せるものではないから仕方ないだろう。あれからマーサはウィルソンズの仕事を休んでいる。マーサが自分の事をあまり責めなければいいが。
日付: 2015/08/02
マイケルによると、ぬいぐるみの機械の残りの部分は情報を保存する装置と言う事が分かった。その中には私たちがウィルソンズの仕事で伝え合っていた内容が保存されているらしい。ブルンゴを飼育していた犯罪組織は私たちみたいに連携を取ろうとしていたのではなく、情報を抜き出したり相手が嘘を付いていないか確認するために利用していたんじゃないかと言う話だ。
日付: 2015/08/03
ブルンゴの事を考えると、もっと他にやりようがあったんじゃないかと考えてしまう。今更知りようもないが、監督者は私たちに引き渡す前にブルンゴやぬいぐるみの事をいくらか調べていたはずだ。本当にブルンゴのぬいぐるみの機能を知らなかったのだろうか?
あれだけの事があったのに、いつもの癖でこんな時にブルンゴがいればと考えてしまい、とても悲しい気持ちになった。
日付: 2015/08/06
マーサからウィルソンズを辞めたいと連絡があった。私は何としてもマーサを引き留めようと思っていたが、辞表を読んで頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けたよ。内容は以下の通りだ。
ブルンゴの死因の説明を受けた時、私は強い悲しみと後悔で押しつぶされそうになりました。それと同時に、自分でも良く分からないもやもやとした感情が生まれました。
その正体に気付いたのはブルンゴとの思い出の写真を見返した時の事です。必死に私にキスしようとしているブルンゴの姿が、ダニエルが見せてくれた、あの餓死するまでレバーを押し続けたマウスの姿と重なりました。あれだけ可愛がっていたブルンゴの姿が、動物の皮を被ったロボットのような、ひどく気味の悪い存在に見えてしまったのです。
ブルンゴは何も変わっていません。脳内麻薬の中毒でずっと苦しんでいたはずです。どれだけ心細かった事でしょう。私はそんなブルンゴの姿を可愛いとしか思わず、異変に気付く事もありませんでした。その上で、私は全て理解した上で気味が悪いと思ってしまったのです。私は自分の身勝手さが恐ろしくなりました。
今まで動物に対する愛は他の誰にも負けないつもりでこの仕事を続けてきました。ウィルソンズはとても良い職場で、とても良い仲間達に囲まれたと思っています。ブルンゴの件で私を責める人はだれ一人いないでしょう。だからこそ、これ以上この仕事を続けていく事に耐えられそうにありません。
どうか、お元気で。
私たちは一体、ブルンゴの何を見ていたんだろう。
私にマーサを引き留める権利はない。そして私もこの仕事を続けるべきではないのかもしれない。だが、ウィルソンズを潰してしまえばそれ以上に不幸な動物が出るのは間違いない。ウィルソンズについて迷った時、よく相談に乗ってくれていたのはマーサだった。ウィルソンズの設立時から支えてくれた心から信頼出来るスタッフだった。そのマーサはもういない。