魅力的な人
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東京へ向かう道中のことだった。俺たちが住んでるのは千葉の田舎も田舎、大多喜町。周りは畑くらいしかなく、なんだってこんなところに産まれてしまったのか後悔したくなるくらいだ。年寄りばかりで遊ぶとこもない。そんなこんなで俺は友人の伸一と二人で都会へ遊びに出掛けることに相成ったのだ。

高速を走るのも金がもったいないので下道を走っている途中、伸一のやつが急に声を張り上げた。

「おい!えらい別嬪さんがいるぞ!止めろ止めろ!」

こんなとこに女が歩いてるもんかよ。少なくとも人影は見当たらない。

「何言ってんだ。早く東京行くぞ」

出発しようとしたが、伸一は車を降りて走って行ってしまった。一体何だってんだ。
しばらく待つと伸一が何かを抱えて帰ってきた。これは、交通安全人形?片目が抉れてて気色が悪い。伸一はそいつを後部座席に押し込んでなんだか満足げだ。

「それが別嬪さんか?」

「ああ、可愛いだろ」

何言ってんだこいつ。

「それ持ってく気か?」

「おう、こいつ可愛くてさ」

なんらかの罪に抵触しそうだがなんだか怖くなって、そうかとだけ答えておいた。こんなもん抱えて遊びになんていけそうもない。俺は一旦引き返すことにした。
元来た道を戻っているにも関わらず、伸一は何も聞いてこなかった。時折後部座席の交通安全人形にブツブツ話しかけている。可愛いよとか似合ってるとか、まったくどうしようもない奴だ。さっさとこいつを帰らせて頭を冷やしてやらないといけない。あれこれ考えてるうちにすっかり田舎道へと突入し、近所の河川敷まで戻ってきた。

「なあ、それ持ち返ってどうすんだ?」

ふと振り返って交通安全人形を見た。
抉られた片目に何かがくっついているのが見える。何か呟きながら伸一が顔を上げた。片目がなくなっている。

「なん、なにやってんだ!」

「ああ、なんだか血が止まらなくてさ。車汚したらごめんな」

大きな音を上げて車が道を踏み外す。あまりの動転にハンドル操作を忘れていたようだ。そのまま河原まで真っ逆さまに車ごと転がっていった。


いつの間にか周囲は真っ暗になっていた。田舎道であり人通りがほとんどないため今まで発見されなかったようだ。
後部座席を見ると伸一が抉られてない方の片目を見開いて静止している。異常な方向に首が曲がっているのが確認できる。
俺は車から脱出すると伸一と交通安全人形を必死で後部座席から引っ張り出した。
この人形こんなパンツ履いてたっけか。さっきまでは見当たらなかったけど。
事故のショックで混乱してたのだろう。まじまじと交通安全人形を見つめてみる。伸一の目はどこかへ飛ばされたみたいだ。

もっとよく見る。

こんな顔してたっけか。

更に見る。

スタイルもいいんだな。

見入る。

あれ、伸一生きてたのかお前

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