D-6679
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死体と一緒にいる職場でナニカを見たことがあるかと俺は尋ねられた。正直言って、会っただなんて言えない。こういう類の話についての感覚を殆ど持っていないからだろう。

この話は俺が出会っちまったっていう話だ。その日に出会わなくとも、別の日に出会っていたことだろう。なんせあの恐ろしい場所じゃあ、いつも誰かしらが死んでいたからな。そいつらの殆どが受刑者だった。そしてそれは、俺が部門の先輩と夜遅くまで働いていた時に起こった。その日は3人の死体が運び込まれていて、それぞれ不気味な有様だった。俺は如何にして彼らがその傷を負ったか知らなかったし、知りたくもなかった。この部門で10年間勤務していたNathin博士は、詳しく解るまで分析していた。新しい死体は足首に小さなベルを付けられていて、Nathin博士は「これで立ち上がったら分かる」と言った。馬鹿げてる、そう思ったさ。口には出すのは控えたがね。

うっかり居眠りした俺が目覚めたのは深夜の2時で、Nathin博士は出て行ったのか俺は独りだった。顔を洗い目を覚ましてから用を足す。その時、トイレの入り口の前でベルの音がした。間違いなくNathin博士のイタズラだろう。入り口まで歩いて見回しても、誰も居なかった。ベルの音も消え、がらんとした通路が広がっていた。

幻聴に違いないと俺は思った。疲れのせいか、そのまま寝直す気分でもなかった。部屋に戻ってテレビを点けると、音量が多く静けさは去った。そして、テレビを視ていると、ベルの音が再び聴こえてきた。ソレは部屋の正面から右側を行き来し、俺が座っている奥側で立ち止まったんだ。誰かが奥に入ってきたように感じて鳥肌が立った。

俺は、ゆっくり振り返った。部屋の外、窓にかけられたカーテンの裏側に、汚い色褪せたオレンジ色のジャンプスーツを着た男がいるようだった。顔は見えなかったが、襟に赤色でD-6679のナンバーがプリントされているのが分かった。俺は急いで立ち上がり、部屋の表を見に行った。他の部屋や曲がり道は無い筈なのに、果たしてそこには誰も居なかった。俺はすぐにテレビを切って、コートを掴み取りエレベーター目指して走った。そして、交差点で俺はNathin博士とぶつかった。当然ながら、彼は俺にどうしたのかを訊かなきゃいけなかった。俺が帰りたい、いっそ辞めてしまいたいと言ったからだ。あんたは何を期待してるんだ?

それが最初の出来事だったが、俺はここで働いてる。

教えてやろう。死体に関わる仕事をしてる連中は何も怖がらない。あんたが幽霊だとか、ちょっと奇妙なナニカに遭遇したらこんな風に教えてくれたって良いんだぜ。

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