死にゆけぬ者に
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封鎖されたサイト内部は地獄絵図と化していた。
幾つもの死体とそれを貪り食う怪物。目の前の惨状から逃げようとする気力は既に消え失せていた。
周りの餌を食い終わった怪物の視線がこちらを向いた、新しい生きた餌を見つけた怪物は一目散にこちらへと向かってくる。
もう死ぬしかない、そんな考えが頭に浮かんだとき、誰かに体当たりされて吹き飛ばされた。
振り向くと、さっきまで自分がいた場所には小太りの男がニヤケながら怪物を待ち構えていた。
私は、自分を助けてくれた男が食われる様をただ見ていることしか出来なかった。

「そんなところで何をしているんですか、 大和博士
私を助けて死んだはずの男が血まみれになって廊下で倒れていた。
「見てわからないかね、死にかけているところだよ」
呆れ気味にため息を吐きながら、大和博士へと近寄る。
「また、減らず口を叩いたんですか?いい大人なんですから、ある程度の分別は付けてくださいよ…」
「残念ながら、癖のようなものでね。そう簡単に変えられる物でもないよ」
この人はいつもこうだった。余計な事を言い、周りを苛つかせ、そして…殺される。
それでもこの人は生きていた、原理は分からないが自分自身の死体を片付けていることさえあった。
「そんなところでボーっと突っ立っている暇があるなら、少々手助けをしてもらえないかね」
その物言いに苛ついて、蹴っ飛ばして通り過ぎようかと思ったが、なんとか堪える。
「医務室まで連れていきましょうか?それとも医療班でも連れてくれば…」
「いや、とどめを刺してくれ」
その言葉に動きが止まる。
「この傷では間違いなく死ぬだろうが、苦しみながら死ぬのは嫌でね」
すぐに生き返るとはいえ、少し気がひける。
深く息を吸い、護身用の拳銃を抜いた。
「その前に一つ質問してもいいですか」
「好きにしたまえ」
「SCP-███-JPが収容違反を起こした日、どうして私を助けてくれたんですか?」
大和博士はニヤリと笑った。
「簡単なことだよ、財団の貴重な人材に死んでもらうのは勿体無いのでね」
「それだけですか」
「ああ、それだけだ。それとも自分が特別だとでも勘違いしたのかね。」
その言い方に苦しむだけ苦しませて放置してやろうかという感情が出て来たが、同時に新しい疑問が出てきた。
「どうして、そんな事が出来るんです?これで最期かも知れないとは思わなかったんですか」
「何千回と試したが、結局死にきれなかったのでね。そんな考えはもう消え失せているよ」
『死にきれなかった』そう言われたとき、ある考えに至った。
この人は完全に死ぬためにこんなことを繰り返しているのではないか。
「早くしてくれないか、そろそろ痛みが酷くなってきた。」
息を止め、拳銃を大和博士の頭へと構える。
そして、これが大和博士の最期であるようにと祈りながら引き金を引いた。


しばらくの間、私は動かなくなった大和博士をただ見つめることしかできなかった。
足音に気が付き前を向くと、奥の廊下から生きた大和博士が黒いごみ袋を持ちながら歩いてくるのが見えた。
「すまないね」
大和博士はそれだけ言うと、自分の死体を黒いごみ袋に詰め込んで何処かへと去っていった。

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