みえてるか
「なんかさ、どっかからムショーに視線を感じることってあるだろ?」
その話を切り出したのは旧友の拓人。
拓人とは同級生だった。彼は私とは正反対にクラスの中心人物で、休み時間にはボールを脇に抱えて運動場に一番乗りでたどり着き、クラスメイトとサッカーをしていた。
そんな彼と私に接点があったのは、恐らく家が近かったことが大きかっただろう。拓人は陽気で面倒見も良かったので、私に積極的に関わってきた。そうして、小学生の頃はよく互いの家に入り浸って遊んだりしていたものだ。
しかし、小学校を卒業して、ぱたりと交流が途切れた。
そこから長い間、実に薄情な話だが、私は拓人のことを忘れていた。
しかし偶然、私と拓人は街中で再会。
拓人は私をカフェに誘い、この十数年で何があったか、それぞれの思い出話をすることになった。
そして「なんかさ、どっかからムショーに視線を感じることってあるだろ?」だ。
昔の拓人はテレビ番組を見ることもあまりなく、とにかく体を動かすことが好きだったので、彼がオカルトな話をするとは微塵も思っていなかった。
そのため多少驚いたが、視線を感じる、なんてことはよくある話だ。あまり気にかけずに彼の話に耳を傾ける。
「別に周り見ても誰かがこっち見てるわけではなくて、でもなんか見られてるような…ってこと」
「それが頻繁にあったんだよ」
ただの自意識過剰じゃないのか、と思ったが、そこに突っ込むのは私の役割ではないだろう。
黙って相槌を打つ。
「それでな、俺、色々ネットで調べたんだよ」
「そしたら分かったんだ」
拓人の声が段々と迫力を増していく。
「そいつらは、穴から覗いてるんだ」
いよいよ話が分からなくなってきた。拓人は正気なのだろうか。しかし彼の目は依然として吸い込まれそうな黒。嘘で曇っている様子はない。その真剣な顔がより一層不気味に見える。
拓人と目が合う。1秒、2秒、3秒…一向に目を逸らそうとしない。
このままではいよいよ呑まれてしまうと思い、慌てて目を逸らす。
すると彼はにっこりと笑った。
「なーんて、冗談だよ冗談。なーにビビっちゃってんの、相変わらず怖がりだなー。」
さっきまでのあの目は夢だったのかと錯覚するほどの腑抜けた顔でカフェオレを啜る拓人に、私は得体の知れない恐怖を感じていた。
定点監視カメラの映像(2019/07/27,██県 ███町)
23:36:06 黒いパーカーの男が坂道を登っている。周囲には誰もいない。
23:36:15 男が立ち止まり辺りを見回す。周囲には誰もいない。
23:36:19 男が民家のブロック塀に近寄る。周囲には誰もいない。
23:36:21 男が塀の穴を覗き込む。周囲には誰もいない。
23:36:27 男が塀の穴をスマートフォンで撮影する。周囲には誰もいない。
23:36:29 男のスマートフォンが落下する。周囲には誰もいない。
23:36:35 周囲には誰もいない。
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みえてるよな
男は駆け出しの作家として、或いは夢を諦めつつある惨めな人間としてデスクに座っていた。カップ麺の腐ったスープには蝿が集まりつつあったが男には洗い物をするほどの余裕などない。
持てる全ての語彙と表現を叩きつけてすっかりぐしゃぐしゃになった原稿用紙に何度も芯の詰まったシャープペンを押し当てる。ただひたすらにがりがりと音を立てる。カレンダーを最後に見たのはいつだったのか。
「僕の将来の夢は小説家になることです。」
男が幼い時に語っていた幻想を未だ信じている人は誰もいない。自分自身でさえ。
それでも男は書かねばならなかった。これを己れが伝えずして誰が伝えようか。男が初めて背負った責任だった。
高木は残業で帰りが遅くなっていた。いつもは原付で通勤していたのだが、その日は原付がパンクしたためやむを得ず徒歩であった。
己の不幸に悪態をつきながら足元のアルミ缶を蹴り飛ばす。カラーンカランと神経を逆撫でする音が暗闇に吸い込まれていく。舌打ちをしたあと、突然の寒風に身震いをした。
時刻が夜の10時を回った頃、高木は鴨縫神社の前を通りかかった。ちゃんと管理されているのかも分からない、雑草が伸びきった殺風景な神社である。
その前を通った時、柔らかな粘土を机に投げつけたような「ぺとん。」という音が聞こえた。
背筋がぞっとするような感覚に見舞われる。高木の足は悪寒で括り付けられたように動かなくなり、心臓は早鐘のようにドクンドクンと脈打つ。
昔から霊感は強い方だった。
小学4年生、二学期のことだった。廊下をまっすぐこちらへ向かってくる幽霊をハッキリとその目で見たことがある。アレが幽霊であるという確証は得られていないがもし幽霊でないとしたら、一体どうしてクラスメイトはアレの身体をするりと通り抜けたのだろうか。誰もそれが見えていなかった。彼以外。
その経験を皮切りに高木の身の回りでは「生きていないモノ」がその姿を現すようになった。何もせずにただこちらを見つめているモノ、落ちている何かを拾い集めるモノ、そして静かに誰かを連れ去るモノ。
それらは高木の日常に音もなく忍び寄り、彼の一部となった。
常日頃から接しているとある程度“分かる”ものだ。いる。感じる。
意を決して振り返る。しかし背後には何もおらず、ただまばらに街灯が立ち並ぶばかりであった。
高木はしばらく突っ立って夜闇に目を凝らしていたが、何もないことが分かるとほっとため息をついた。
と、
ぺとん。
再び音がした。背後から。バッと振り返る。
高木は考えなしに振り返ってしまったことを悔いた。
それはそこにいたのだ。
灰色で足の生えた寸銅のような形。高さは9尺ばかりであろうか。体の真ん中に付いた口は薄ら笑いを浮かべている。
そしてそれの足元ではひしゃげた鴉が己の臓物をさらけ出していた。
高木は「ひっ」と短く小さな悲鳴を上げる。
逃げようとしたが体が全く動かない。
それは高木へにじり寄り。
にたりと笑い。
ぺとん。
いや。違う。まだ足りない。
伝えるにはこれではいけないのだ。もっと、もっとリアリティを。はらわたが煮えくり返り、震えが止まらなくなるようなおぞましさを。
原稿用紙を丸め、机の脇に積み上げられた束から紙を引きずり出す。
しかし、腹が減った。視界の端にカップ麺の容器が映り込む。衝動的に手に取り、スープを一息に口に含んだ。味はしないが腹が膨れればそれでいい。奥歯で蝿をすり潰しながら両腕を組み、新しい文章を推敲する。
暫くして、男は再び文章を書き殴り始めた。
がりがりがりがり、がりがりがり、と。
しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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花火なう |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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くそ綺麗 |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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えちょっとまて |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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なんかめっちゃ視線感じる 逆ナンかな!?(゚∀゚ )www |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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なんか気持ち悪くなってきたな…… 一向に話しかけられる気配もないのに視線だけはずっと感じてる ひょっとして俺の自意識過剰だったりするかな |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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花火終わって周り見たら誰もおらへん みんな帰ったの???( '-' )www |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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まだ視線だけはバチバチに感じる マジでどこにおるんやろ |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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え?全然どこいるか分からんし帰ってええかな?www |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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うttっとp |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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ふざけんな |
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しがないサッカー男 @shiga_soccer1214 · 2019年7月27日
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ふざkっけn |
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うつってるよな
発見された日記(一部抜粋)
持ち主は20██/07/30に何らかの要因によって圧死した松本 葵氏(当時7歳)と推測されています。
4月15日
お友だちができた
のぞみちゃんはとってもかわいくて あたしとおなじふでばこをもってる
これからいっぱいあそべたらいいな
4月18日
のぞみちゃんといっしょにあそんだ
のぞみちゃんはからだ が よわいからあんまりおにごっこ できないけどたのしかった
またあそぼ
5月9日
のぞみちゃんが がっこうでおちゃをこぼした
せん生がおこったら のぞみちゃんがないた
のぞみちゃんがかわいそうだから あたしもそうじ手つだったらのぞみちゃんがありがとうって言ってくれた
うれしい
6月14日
のぞみちゃんはプールに入らない
しかも いつも長そでをきてる あつそう
なんで ?
6月24日
きょうはのぞみちゃんがあたしの家にきた
いっぱいあそんでたのしかった
のぞみちゃんの手におっきい青たん があったからころんだの?てきいたらうん て言ってた
あたしがころんだときは いっぱいちが出たのにのぞみちゃんは出ないの?てきいたら うん て言ってた へんなの
7月23日
あしたから夏やすみだけどしゅくだいおおい
けどのぞみちゃんと花火お見にいく たのしみ
7月26日
あしたは花火だからしゅくだいをいっぱいやった
ママにほめられた
のぞみちゃんとでんわしたら、あながって言ってた
けど忘れちゃった あしたたのしみ
7月29日
のぞみちゃんは花火の日にしんじゃった
けいさつの人になにがあったかってきかれたからのぞみちゃんが へんなのにつかまったって言った
のぞみちゃんははしるのがおそかったから
この日記に記述されている「のぞみちゃん」は20██/07/27に圧死した桜井 希氏(当時7歳)と思われます。
「妖怪」って、地域によって呼び名が変わったりするじゃないですか。
有名な例を挙げるとするなら、「ツチノコ」は地域によっては「ノヅチ」や「尺八蛇」って呼ばれてる……みたいな。
あれ、結構多くの人が勘違いしてるんですよね。名前のニュアンスが似てるからあれらは皆「同種」と思われてるんです。
ですが本当は違います。
分かりやすい例を挙げましょう。「べとべとさん」って知ってますか?
……ええ、そうですそうです。夜道を歩いてたら後ろから足音がするってやつ。
……そうそう、「振り返っても何もいない」ってのです。実は奈良県の「べとべとさん」は暗い小道で、静岡県の「べとべとさん」は夜の山で、みたいな違いもあるんですが、よく知られているのは奈良県の「べとべとさん」でしょう。
水木しげるで知ってる人が多そうですね。
まあその話は一旦置いておいて、「べとべとさん」は福井県に入ると呼び名が変わります。
「びしゃがつく」です。「びしゃがつく」は冬の夜に歩いていると「びしゃ、びしゃ」って足音を立てて着いてくるからそういう名前がついてるのですが、これもその姿は目に見えないんですよね。
……そう、そこなんです。「べとべとさん」とは性質も変わってるんですよね。
更に最近は「テケテケ」なんていうのもいますね。
あれも「べとべとさん」の仲間と言われてるのですが、完全なる別物ですよ。
「べとべとさん」や「びしゃがつく」とは違って、そのルーツも分かってるんです。「テケテケ」は電車に轢かれて下半身がちぎれ飛んだ女の子の霊ですから。その姿も見えてしまうんですよね。
「べとべとさん」や「びしゃがつく」は足音だけで姿は見えないのに。
しかも「テケテケ」は手を使って人間をすごい速さで追いかけてきて、あまつさえ殺してしまうと言いますから。ええ、ほら、あれには下半身がないですから。手を使ってしか移動できないんですよ。
……少し話が脱線してしまいましたね。要するに私が言いたかったのは「呼び名が変われば別のモノ」ということです。
決して、人間のニックネームのようなものではないのです。お忘れなきよう。
一体全体これは何の話なんだ、とお思いかもしれませんがこれは知っておいて損しませんよ。断言できます。
ルールですから。
参考資料
00691 | 畠健三郎(享年31) | 頭部が押し潰された状態で発見。左手首より先は切除されている。発見不可。現場には血文字で「しゅくふく」と書かれている。 |
04792 | 谷川拓人(享年24) | 全身が押し潰された状態で発見。左手首より先がない。発見不可。現場には血文字で「ばつ」と書かれている。 |
56371 | 松本葵(享年7) | 全身が押し潰された状態で発見。左手首より先がない。現場には血文字で「ばつ」と書かれている。 |
00001 | [No Data] | [No Data]「契約」これが はじまり |
ええ。少し長話になるかもなのでこたつに入りましょう。
その蜜柑、甘くて美味しいので是非食べてください。
5、6年前の話です。
その時はまだ家の前の道路もちゃんと舗装されてなかったんですが、そんなのお構い無しに子供は遊びます。
近所に住んでいた勘吉もそうでした。あいつはホントに根っからの悪ガキで、うちの鉢植えを何度も割られました。
そんな勘吉をですね、ある日を境にぱたり、と見なくなったんですよ。
まあ、あいつもそろそろ中学生だったんで、年相応に分別がつくようになってきたのかなって安心してました。
それからしばらく経って、勘吉が歩いてるところに出くわしたんです。それで気になって、話しかけました。軽い感じで、最近元気か?って。
そしたら勘吉は欠けた歯を覗かせて笑って言ったんです。
「うん!友達ができたんだ!」
それを聞いた時は嬉しかったですね。やっぱり子供は友達と遊んでるのが一番ですから。
お前にも友達ができたか、そうかそうかって坊主頭を撫でくりまわしました。
その時、勘吉がバッと顔を上げてですね、「友達だ!」って言ったんですよ。
でもね、周りには私と勘吉以外誰もいなかったんです。
それで「え、どこにいるんだい?」って聞きました。
そしたら勘吉は「足音がする」って言ったんです。
変な話ですよね。普通、足音だけで誰なんて分からないのに。しかも私にはその足音が聞こえていませんでした。
だから気になって、つい、聞いちゃったんですよね。多分、聞いちゃダメだったんですけど。
本当に、聞いちゃダメだったんですけど。
「どんな足音なの?」って。
本当に。聞かなきゃよかったです。
このごろ、寒いですね。
はい。確かに彼は「視線を感じた時、穴の中にいるんだ」って言ってました。
ええ、「何か」と言っていました。私はあまりそういう怪談のようなものは好かないので興味もなくて、それが何だったのかは詳しく聞きませんでしたけど。
ただ、すごく熱心に語ってましたね。こちらがだんだん怖くなってくるくらいには。なのに、そんなに必死にバケモノを喋っていたのに、彼はスピリチュアルなものとかは一切信じていませんでした。不思議ですよね。バケモノを信じて、まやかしを信じないなんて。なら、一体何を使ってバケモノを倒せばいいんだって話です。笑えますね。
他に何か言ってたか?
うーん……あっ、そういえば、姿が見えないって言ってましたね。見えてしまったらもう一巻の終わり、という風に。ええ。
……彼がそれについて言っていたのはこんなもんですかね。私もあまり興味がなかったので深くは聞いていませんでしたから。
で、彼が、拓人が行方不明なこととそれには一体なんの関係が?
ぺとぺとさん ぺとぺとさん
よみちをあるけば ぺとぺとり
よやみさまよえば ぺとぺとり
ふりかえったら ぺったんこ
ふりかえったら ぺったんこ
ぺとぺとさん ぺとぺとさん
なかまがほしくて ぺとぺとり
めとめがあったら ぺとぺとり
ふりかえったら ぺったんこ
ふりかえったら ぺったんこ

これで おしまい
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23:39:08 女が通りかかる。画面一部にノイズがかかっている。
23:39:14 女が立ち止まり、辺りを見回す。画面一部にノイズがかかっている。
23:39:20 女が動きをピタリと止める。女の視線の先に何かが映っている。
23:39:26 女は悲鳴をあげたと思われる。何かは女に近づいている。
23:39:30 女は突然走り出し、何かから逃げ去る。何かは女に近づいている。
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23:41:17 何かがこちらを見ている。
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██:██:██ こちらを見ている。
深夜の2時頃。外は大雨だった。
真っ暗な部屋の隅で右手に持ったシャーペンを投げ捨てる。
「畜生!なんで上手くいかねえクソが!」
男が納得できる文章は未だ完成していなかった。バリバリと頭を掻きむしる。フケと血が辺りに飛び散り、それが男の苛立ちをますます加速させた。
「ああクソ!クソ!クソ!」
机を殴り、紙の束を薙ぎ払う。腕がカップ麺の容器とぶつかり、虫が浮いているスープを撒き散らす。それを見た男は動くのをやめ、ただ呆然としていた。その時だった。
ぺとん。
男はゆっくりと振り返る。

──なんだよ、そう書けばよかったのか。クソが。
ぺとん。
お前には 何が聞こえた
聞けよ
From: █████████████████
To: あなた
件名: なし
ぺとぺとさ ん

诅咒应该传达给目标
**呪いってのは広がりさえすればいいってもんじゃない。結局狙った相手が呪われなければなんの意味もない。だから確実に、一人一人呪う相手をこの目で確認してるんだ。そうやって少しずつ確実に伝った呪い、いや、契約は大陸を渡り、海を越え、今ここに。