危ない生き物: トランコ!

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危ない生き物: トランコ!

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やあ、私はシロケナガクジラ (Megaptera capillus) 、通称は“トランコ”! アフリカの大西洋岸南部に生息していて、普通のクジラとはすぐに見分けられるはずだ! 私は白い毛皮に覆われていて、とっても長いゾウみたいな鼻があるからね!

私たちトランコは世界にほんの数十頭しかいない絶滅危惧種たちの仲間だ。私たちは幸い200頭くらい生き残っているけれど、私たちの身体に興味を持った人たちの違法捕鯨のせいで着実に減っている。

人間たちは私の毛皮、皮膚、脂身が生殖能力を高め、全身に血液をくまなく行き渡らせる有益な薬になると信じているらしい。この迷信は何世紀も前に始まったもので、私たちを苦しめてお金儲けをしようと企む人たちが広めているんだ。

もし世界の何処かの海で私を見かけたら、私の居場所を (503) 555-0125 に電話で伝えてほしい — 君たちがそうしてくれれば、私は密猟者や捕鯨船に捕まらなくて済むかもしれないから。

私についての注意事項と気になる事!

  • 毛皮には何百万もの藻やプランクトンが棲んでいて、通りすがりの魚たちがそれを食べるよ!
  • 私たちは専ら肉食で、獲物を鼻で掴んで口に押し込む! う~ん、美味しいねぇ!
  • ゾウと同じように、私たちも鼻呼吸ができる — もし白い毛の生えた柱が何本も海面から突き出しているのが見えたら、それはきっとトランコの群れだよ!
  • 私たちは100年以上生きることがある。33歳を迎えてようやく大人のトランコだ!
  • 私たちの鼻はとても力強いから、小さめのヨットを持ち上げて30フィート投げ飛ばせるぞ!
  • 私たちは元々南極海に棲んでいたけれど、気候変動のせいで、毛皮を脱ぎながら北に引越し始めてる!
  • 1924年に私たちの仲間が1頭目撃されたけれど、普通のクジラだと思われてしまった! おかしな話だろう?
  • たった1つの会社が私たちの生存にとって最大の脅威なんだ!

大事な注意!

トランコは超常動物学の界隈でも珍しい生き物です。俗に“グロブスター”と呼ばれる種の多くがそうですが、まるで私たちから自らの本質を隠そうとするかのように、トランコの身体は死後数秒で見わけもつかないほどに腐敗する傾向があります。身体から採取できそうな資源も、死と共に全て失われてしまう。それなのに、トランコの部位は世界中で伝統的な薬として販売されている。それは何故なのか?

資源が採取されている間、トランコは可能な限り長く生かされているからです — ある程度の時間が経過すると、採取された部位は死後の腐敗特性を失います。皮膚と体毛は切り取られるとほぼ即座に、胃の肉は約2日で、鼻の肉は1週間で、脂身と鯨油は最長3ヶ月で“グロブスター”効果から分離されます — 油と脂身は最も貴重な成分でもあります。

ええ、その通り。3ヶ月です。この生き物は、藪医者たちの懐に入る利益を損なわないためだけに、捕鯨船の上で3ヶ月以上にわたって肉を切り取られながら生かされ続けるのです。これがサイであれば、少なくとも角を切った後で殺してもらえるのでしょうが。

だからこそ、マナによる慈善財団の協力の下、私たちには懸賞金を出す用意があります。トランコを捕獲・収獲している捕鯨船の所在地を特定し、拿捕できるような信頼性の高い情報には10,000米ドルを提供します。これは私たちだけの手には負えません。どうかトランコを絶滅に追いやらないでください。

ジェイソン・ヘンドリックス博士
超常/未確認動物学者

さらに詳しい情報や告発は:
住所: オレゴン州、ポートランド、スーパーキュートペット救助シェルター
電話: (503)-555-0133
Eメール: jason.hendricks.2@.scipnet.net

送信者: ジェイソン・ヘンドリックス
受信者: フェオウィン・ウィルソン
日付: 2020/10/27

フェオウィン、

南極は最低さ、訊いてくれてありがとう。だが、遠征で価値ある結果が得られた — マーシャル・カーター&ダークの捕鯨船団の旗艦、アスモデウスを発見できたんだよ (捕鯨船団まで持っているとはね! まさか奴らは月も所有しているんじゃないか?) 。話を聞く限りでは、この海域に棲むトランコの群れを追跡していたようだ。

私は厳密には君たちが言うところの“監督者”の一員かもしれないが… 私の出身地では流儀が違う。これを読む頃には、君をポートランド国際空港に運ぶ車が走っている最中だろう。空港には私たち専用の航空路を飛んでカナダのニューファンドランド島へ向かう飛行機が待っている。

これはプロ意識に欠ける (ルビ: いかにもサイト-87で働いていた奴が言いそうな) 発言かもしれないが、奴らに後ろからグリーンピースをけしかけてやるのはどうだろう?

敬具、
ジェイソン・ヘンドリックス

送信者: フェオウィン・ウィルソン
受信者: ジェイソン・ヘンドリックス
日付: 2020/10/27

ジェイソン、

気でも狂ったのか?! …いや、今のは忘れてくれ。君はスロースピットから来た人だから仕方ないな。あの町の出身者はみんなネジが外れてる。

これまで債務災害nomohazardという言葉を聞いたことはあるかい? 認識災害に似ているけど、合法的に人を破滅させるんだ — うっかり接触すれば、最良のシナリオでもその週が終わる前に破産裁判所に行くことになる。

アスモデウスのタラップには最初の1歩だけでも十数種類の債務災害が潜んでる — 君たちが乗船を合法的に許可されていなければ、MC&Dの弁護士たちは訴訟の一環として内臓を差し押さえる手段を必ず見つけるだろうし、もしかしたら損害賠償と称して魂まで持っていくかもしれない。船の他の部分にも、ありとあらゆる型破りな仕掛けが満載だ — 臭いで人を殺せる船はあれしか思い当たらない。

アスモデウスが捕鯨船団の旗艦なのには理由があるんだ。私はあの船を追うつもりは無いし、言いにくいが君もそうすべきじゃない。さもないと… 君の葬式だ。

フェオウィン

P.S. ああ、MC&Dは月を所有しているよ。少なくとも3つ。

送信者: ジェイソン・ヘンドリックス
受信者: フェオウィン・ウィルソン
日付: 2020/10/27

フェオウィン、

すまなかった。ただ、ウェトル丸出しの態度でいるのはどうかと思ってね (分からなくても別にいい、内輪のジョークだ) 。

私は実際にトランコたちの助けになってやりたい、無力感に囚われたくない。だが… 私たちにもできる事があると思う。アスモデウスについて詳しく調べたが、あれが非常に効率的な捕鯨船である理由の1つは、意味論的識別子のようなナンチャラを使って船体を仲間のクジラだと誤認させているからだ (人間には効果が無いらしい、理由は分からない) 。もし、別な捕鯨船にアスモデウスを狩らせることが可能だとしたら?

関連ファイルを添付しておく、検閲があるのは目をつむってくれ。ファイルに記載されたオブジェクトは今、アスモデウスの予測航路から約50km西方にいる。何とかして奴の航路を変えさせれば… 後はどんな花火が打ち上がるかを見届けようじゃないか。

ジェイソン・ヘンドリックス


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送信者: フェオウィン・ウィルソン
受信者: ジェイソン・ヘンドリックス
日付: 2020/10/27

ジェイソン、

残念な知らせがある。さっきのメッセージを開く時にうっかり手が滑って、ドミノ倒し的に色々と不幸な事故が起きた結果、マナによる慈善財団の友人にそのメールを転送してしまった。本当にごめん、二度と無いように気を付けるよ!

私はこれっぽっちも君の計画には賛成できない。でもマナの友人とは何年も没交渉だったから、彼らがどう動くかは予想もつかない。もうこの問題は私の手からも、君の手からも離れてしまった。南極でも君に元気が湧いて来ることを願うよ — そっちでは巨大なクモガニが特に色鮮やかな時期らしいね。

フェオウィン

送信者: ジェイソン・ヘンドリックス
受信者: フェオウィン・ウィルソン
日付: 2020/10/27

フェオウィン、

舟唄の問い “酔いどれ鯨捕りをどうしよう?” への決定的な答えが出た。 “朝一番で乗組員をトランコの群れに喰わせろ”だ。

ジェイソン・ヘンドリックス


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