クレジット
タイトル: 闇寿司ファイルNo.1015 "漁師風パエリア"
原著者: Diogene_s及びUncle Nicoliniによる共著
オリジナル: Dark Sushi File No. 1015 "Paella Marinera"
翻訳者: DirStarFish
査読者: tansangas
作成年(EN): 2024年
参照リビジョン: rev.9
概論
漁師風パエリアは闇寿司競技において非正統的な品である。持ち前の大きさ、起源、調理法ゆえに傑出した位置にいる。パエリアの大きさは大抵の標準的な寿司の内でも最大のものさえ上回る。(殆どのスシブレード用形式の料理と異なり)典型的なバレンシア料理由来であり、真の漁師風パエリアの作成に必要な調理過程は長い時間と根気を要する。
この品の主要な材料はシャリそのものであり、パエリアの主要動力源として働く然るべき量の炒め物を染み込ませてある。されどメインディッシュは表面にちりばめられた多様な海産物である。なんとなれば、スシブレーダーの焦点として働き、大型サイズの皿の操作を可能にしているからである。
攻撃力
防御力
機動力
持久力
重量
操作性
スシブレード運用
パエリアの主たる存在意義はスシブレード対決における戦車の如き制止不可能な動きであろう。米と海産物の完璧な組み合わせによって、寿司は頑強な盾と化している。特にその強固な貝殻ゆえに茹でムール貝はいかなる攻撃に対しても総合的な回復力を発動する。その一方でエビの形が敵の攻撃を外部へと調節し、スシブレーダーを守ってくれる。
海産物パエリアの大きさは潰滅的な攻撃を繰り出せることを意味し、一度の攻撃で大半の格下の寿司を破壊してしまうのもしばしばである。しかしながら、この一手は浅はかである。海産物パエリアを使用者のより攻撃型の寿司の防衛役として使用する。注入されたサフランが途轍もない能力の極意なのだから!
他の活用法
バレンシア人との戦いを始めるならば、海産物パエリアは素晴らしき一手である。人々の愛してやまない料理の海賊版を厚かましくもその手に収めているという事実を明かそうものなら、バレンシア人からの怒りを買うだろう。それだけに留まらず、バレンシア人は"正統派"パエリアが10種の素材だけで作られるという事実を指摘し、相手の作り出した品を"混ぜご飯"、すなわち海産物パエリアを作り出す驚異的な技術への侮辱的な名前で呼ぶだろう。
文責: マタプラナ
エピソード
スシブレード界における辺境在住の有望な若者の主張が届いたゆえに、SUME-CI1の一員として、筆者は故郷の金沢からバレンシアへと呼ばれることになった。太陽が照りつく地中海沿岸地域への旅が過酷なものだったとはいえ、筆者は新参のスシブレーダーの実戦での技術を目にする時を首を長くして待っていた。予定の2日前に到着すると、地形を十分に探り、新鮮な寿司を一貫用意した。今回はこちら、同地域原産のイカを用いたイカ握りの巻き寿司である。
いわゆる問題の"天才"、マルティン・マタプラナという名の地元の料理人によって筆者はアルブレフェーラの水田へと招かれた。彼はこの地で、新技術の驚異を見せてくれるというのだ。待ち合わせ場所は四方を水に囲まれた小丘であり、年季の入った桟橋が唯一無二の出入り口となっていた。早朝だったとはいえ、天候は穏やかで大量の蚊が飛び交っていた。この水溜まりが点在する大地の至る所では、あらゆる姿形や大きさの水鳥が歩き回っていた。
筆者は徒歩で合流場所に到着した。寿司の鮮度を保つために保冷バッグを肩にかけて持参していた。マタプラナの待っている小島の方へと続く桟橋を歩いていくと、名高い新作の芳香が鼻孔に入り込んできた。この品こそ他に類を見ない異端的な調理法で生み出され、西欧人に深く愛される寿司の1つであると知ったのは、まさにその時だった。
たとえそうだとしても、道中で筆者は先入観に囚われてはなるまいとした。
「ようこそ、坂本先生サカモト・センセイ」
彼は興奮気味に挨拶してきた。互いに挨拶を交わした。
「ここまでの旅路は快適なものでしたか?。」
彼はそう言った。
「快適なものでしたよ、お心遣いありがとうございます。さて本題に入れると有難い限りですが。」
彼は無言で、孤島の中心へと来るよう手招きした。そこには携帯用コンロが置かれており、巨大なフライパンが鎮座していた。フライパンの中には、大量の米と海原で泡立った貝の炒め物が入っていた。マタプラナは笑みを浮かべて話し始めた。
「坂本先生サカモト・センセイ、これこそ我が最高傑作です。地元で育った米と地元の海から捕れた魚介類の完璧な組み合わせです。優雅な一品です。それに今に至るまでの最強の寿司になり得る可能性を秘めていると信じています。すぐに出来上がるでしょうが、パエリアはまだ完成しておりません。どうかお許しください。まず、"煮込み"と呼んでいるものを見ておかなければなりませんので。お手を煩わせてしまわなければ良いのですが。」
筆者は無言で、マタプラナが調理器具で懸命に働く光景を見て待っていた。胡椒を切り刻むのに最適なシャリの優れた準備法について、そして全体の酸味のバランスを崩さずにレモンジュースの滴をどれ程料理に加えれば良いか、彼は説明していた。筆者は十分に聞いていなかったが。
永遠の如き時間が流れた後で、彼は米粒を少々、木製のスプーンで掬すくい上げて味見した。すぐさま火を消して笑みを浮かべた。
「完璧です。このパエリアの真価味と実力を試したくありませんか?」
筆者は頷いた。
「我々が今一番興味があるのは回し始めることではありませんか?」
筆者はバッグを開けてイカ握りの巻き寿司を取り出した。マタプラナはとても興奮しているようだった。
「三、二、一、へいHEYらっしゃいRASSHAI!」
勝負はゆっくりと幕を開けた。パエリアの中身その全てを持ち上げようとする試みは大変な労力を要しているように見えた。たとえ米がその場から湧き上がっている中で彼を倒すのが容易だとしても、公平な戦いにしようと決めていた。
初めの内、パエリアは評判通りの出来だった。破損や欠損を起こさずに筆者が巻き寿司で繰り出した攻撃を受け流していた。だが寿司そのものは回転し続けるだけだった。他の動きは一切何もしてこなかった。
この戦況はかなり長い間続いた。マタプラナは寿司同士が掠める度に一層疲労感が溜まっていったが、パエリアは怯まなかった。パエリアに対する攻撃は全て効かなかった。パエリアの塊は回転しながら前進していたが、止まる兆しは一向に無かった。だがパエリアが無傷のままだったとしても、筆者の握りも同様に無傷のままである。だから筆者としては全く面白くなかった。従って、対戦相手の非戦ぶりを反映させて自分の寿司をサイドライン内で回転させておくままにすると決めた。
彼を一瞥した。彼は歯を見せて笑みを浮かべた。彼の額は汗にまみれ、両手は震えていた。それから彼は耳をつんざく叫びを発した。パエリアは束の間失速した。だがそこから突進してきた。通った後には一切何も残らない、制御不可能な米と海産物の進撃の如く。
そして入れ違いになった。
こちらの握りは回り続けていたが、対戦相手の寿司はその脇を擦り抜け、筆者の背後の茂みに衝突し、その衝撃で端微塵になった。
筆者は寿司を回すのを止めると、マタプラナはがっくりと膝を落とし、屈辱を味わっていた。
それでは同朋のスシブレーダーよ。大変残念な結果となってしまったが、漁師風パエリアの真の数値を報告書に記載しておく。以下に添付した図をご参照あれ。
文責: 坂本サカモト
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